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弟君の受難  作者: roon
14/30

14. 逃避

「(あれ?)」


 テミスリートは内心首を傾げた。自室の扉に触れようとしていた手が止まる。


「どうした?」

「いえ」


 イオナに声をかけられ、テミスリートは何でもないというように首を振り、軽く笑んだ。そのまま、イオナの方に向き直る。


「送ってくださり、ありがとうございました。」

「気にすることはない。それほど遠くもないのだし」


 深々と頭を下げるテミスリートに、イオナは苦笑した。


「では、失礼する」

「お休みなさいませ。・・・道中お気をつけて」


 少しばかり心配そうな色を滲ませて見上げてくる瞳の主にイオナは軽い笑いを漏らした。そっと片手をその頭の上に乗せ、軽く撫ぜる。そのまま、イオナは穏やかに微笑した。


「大丈夫だ。自分の身くらいは自分で守れる。・・・ではな」


 そのまま踵を返し、去っていくイオナの後ろ姿を、テミスリートは見送った。


「―――――― さて」


 イオナの姿が見えなくなると、テミスリートは扉の方を振り向いた。じっと扉を注視する。

 彼の部屋の扉には、招かれざる者には目視できないよう軽い術がかけられている。また、強引に部屋に入ろうとする場合には、侵入(予定)者を排除するようにもなっている。

 が、前者は機能しているのに、後者は今にも消えかかっているように見えた。


「(『何か』が、入ってきたってことだよね・・・)」


 術を破って入って来れそうなモノにはかなり心当たりがある。


「(・・・入りたくないなぁ・・・)」


 厄介事の気配しかしない。だからと言って、外で一夜を過ごすのは嫌である。夜中に外をうろついていて警備の者に不審者扱いされると困る。イオナに頼めば泊めてもらえたかもしれないが、それはそれで危険な気がする。そうでなくとも、女性の部屋に泊めてもらうのは流石に色々な意味で拙い。


「(・・・仕方ない、か)」


 ため息混じりに息をつき、テミスリートは意を決して扉を開けた。昼間、イオナと訪れた時と全く同じ状態の部屋が視界に入り、少しほっとする。


「(とりあえず、異常は無さそうかな)」


 安心するにはまだ早いが、そこまで危険は無さそうだと判断し、テミスリートは風呂場に移動した。

 側室の部屋の構造は大抵同じで、まず入ってすぐの場所に、応接室も兼ねたリビングが存在している。そこから風呂場、寝室に移動可能になっており、テミスリートの部屋には更に厨房がついている。


「(今日は湯浴み無しで良いかな)」


 ざっと水で絞った布で体を拭うと、さっと寝間着に着替える。風呂場を立ち去る前に脱衣所に掛けられた鏡に視線を向けると、小柄な"少女"がちらりとこちらを見返した。


「(ま、良いんだけどね)」


 母譲りの可憐な相貌と、長い間の病弱生活のせいでほとんど成長しなかった身体に、思わずため息が漏れる。この姿だからこそ後宮にいられるのだから、厭うつもりはないのだが、時折男として悲しくなる時はあるのだ。エルディックのようにとは言わないが、もう少し男らしくなりたいとは思う。


「(せめて、背は高くなりたいなあ)」


 正真正銘女性のイオナに頭一つ分も負けているというのは流石に悲しい。ナディアよりは高いが、それも微々たるものだ。


「(どうすれば伸びるのかな・・・)」


 半ば真剣に考えつつ、寝室の扉を開けたテミスリートは、目に映ったモノに思わず扉を閉めた。


「(・・・・・・いた)」


 何となく予想していたが、出来れば当たって欲しくなかった。寝室の扉の前で、テミスリートはしばし苦悩した。


「(どうしよう・・・)」


 あまり室内で事を起こしたくないし、相手の目的も分からない。相手に敵意や殺意があれば即座に判るし、こちらも正当防衛ということで不意を討てたのだが、その感じはしなかった。というか、寝台で満悦に寝転がっているようにしか見えなかったのだが。


「(・・・帰るまで、待つか)」


 部屋には入れたのだから、寝室を使わなければ良いのだ。別室で夜を明かしても問題はない。


「(何か温かい物淹れよう)」


 このまま、何事も無く帰ってくれるのを期待して、テミスリートは厨房へと移動した。

読んでくださり、ありがとうございます。

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