1. 溜息
「(いい加減にして頂けないかな・・・)」
テミスリートは本日幾度目かの溜息を漏らした。先程、異母兄であるエルディックが去っていったため、机には2人分のお茶の用意が置かれている。しかし、テミスリートの向かいのカップは手付かずのままであった。
「(ナディア様と結ばれて嬉しいのは分かるけど・・・)」
お茶の片づけをしながら、テミスリートは先程の会話を振り返る。会話と言っても、エルディックが一方的に話しているのを聞いているだけだ。しかも、その内容のほとんどが惚気である。数日前にナディアを正妃に迎えてから更に惚気が増えたエルディックに、テミスリートはほとほと困っていた。惚気るのは構わない。相思相愛なのはいい事だ。だが、毎日聞かされる方はたまったものではない。
「(・・・眠り薬でも処方しようかな)」
来なくても良いと何度も言っているのに、約束したからと言って押しかけてくるエルディックが嫌なわけではないのだが、たまにはのんびりしたいと思ってしまう。その原因は惚気だけではない。
「(『お前も彼女を作ったらどうだ?』とか言われてもね)」
ナディアとエルディックが結ばれてから毎日のように言われている言葉だ。後宮には正妃になれなかった側室達が今も存在している。エルディックは後宮を辞したいと望んだ側室達を実家へと帰したが、帰ることを拒んだ者についてはそのまま滞在を許しているためだ。
「(まあ、いざというときは作らないといけないのだけど・・・)」
エルディックはナディア以外と床を共にするつもりはないらしい。そのため、もしナディアとエルディックの間に子が望めない場合、テミスリートが側室を選んで子をなさねばならない。それはともかくとしても、エルディックがテミスリートと側室との間に出来た子に関しては自分の子として認めると約束してくれているため、テミスリートは後宮の側室から実質的な伴侶を選ぶことが可能であった。
が、興味はない。いくらエルディックが自分と同じように彼女を作って良いと認めてくれても、余計なお世話である。
「・・・とりあえず、今は我慢、かな」
数日後に、エルディックはナディアと新婚旅行に出る。少なくともひと月は戻ってこないだろう。その間はエルディックの惚気と彼女を作れ攻撃から開放されるから、少し気が楽になるはずだ。
「(我慢、我慢!)」
テミスリートは気合を入れると、茶器を片しに部屋を出た。
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