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依頼内容、追放されし偽聖女が盗み出した加護のブレスレットを奪回。偽聖女の生死は問わない。依頼主、聖女(偽聖女の姉)~ 異世界から戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~外伝②

作者: クワ
掲載日:2026/01/27

 ゴロゴロゴロ

 空に幾重にも覆いかぶさるように出来た黒い雲が時折ピカリと光ると、咆哮の前触れを見まがうような音を響かせる。

「まだ降ってきてはいないが……」

 信長は天を仰ぐ。周囲はまるで夜のように暗く、雨宿りできる場所を探しつつ歩く速度を速めた。

「あっ」

 同行している妖精のサニアが頬に手を当てる。

「降ってきた」

 信長の頭上にもポツリと水滴が当たった感覚を受けると、徐々にその感覚が頻繁になってゆき、次第には感覚さえ忘れるほどの降りに変わった。

「あ、あそこ雨宿りが出来そうだよ」

 雨脚が強くなってゆくにつれ、その音で声がかき消されて信長はサニアの指す大樹を見ることによって意味を理解できた。

 信長はサニアに視線を送ると、了解の合図を送り大樹の方へ小走りで駆け寄る。


「ふー、すごい雨だね」

 ゴロゴロと鳴る音と共に本降りになってゆく雨を見上げながらサニアが呟く。

 大樹には、商人らしき身なりの先客が三人ほど根元で腰かけており、ぽつぽつと世間話を繰り広げながら雨が止むのを待ちわびていた。

「すみません、おじゃまします」

「ごめんなさい」

 信長とサニアは先客たちに挨拶をし、空いている根元に座った。

「……」

 旅人たちは信長たちを一瞥して大丈夫だと感じたのか、止めた話を再び動かした。


「マードレーマ王国から追放されてリンガーマ王国へ逃げた自称聖女だけどな、なんでもリンガーマの第一王子をたぶらかして婚約し王妃の座を狙っているだけでなく、マードレーマ王国の正式な聖女様を恨んで呪いをかけているって話だぜ」

「本当かよ、まるで魔女のようなヤツだな」

「あり得る話だぜ。何でも魔女が人に化けるって話をさ、聞いたことあるしな」

「それで、リンガーマの第二王子や重臣たちが反発して一触即発だそうだ」

「マードレード王国はどうなんだい? 呪いをかけられてただでは済まないだろう?」

「ああ、それもマードレーマが報復を兼ねてリンガーマに軍事侵攻を企んでいるってウワサだ」

「ああ、嫌だ嫌だ、戦争になるとしばらく行き来が出来なくなっちまう」

「商売ってのは、そういう時こそ儲けるもんだろうが」

「まあそうなんだけどさ……」

「……」


 その後も商人たちの会話を小耳に挟みながらサニア共々黙っていた。

(下手に会話でもしてこちらの顔を覚えられると後々厄介だ)

 次第に空が明るく変化して、雲雲の合間から差し込まれた太陽光が水たまりを虹色にキラキラと照らす。

「雨、止んだな」

「うん、急ごう」

 信長たちは商人たちに会釈すると、次の目的地に向けて急いだ。

 目的地は、スノーマーク。先ほど商人たちが話していたリンガーマ王国の王都である。


 その日は少し行った町で宿を取り濡れた服を乾燥させて、翌日ピリピリと苛立つ国境の検問所を抜け、宿を取りつつ目的のスノーマークを目指す。

「この国、やっぱり妙な空気だよな」

 何が妙なのかと一言では言い表しにくいのだが、浮足立っているというのか地に足がついていないというのか、国全体がソワソワしており、その行く末を案じられた。


「そこ、通ってよし。くれぐれも変な気を起こすなよ」

 城門の衛兵に釘を刺されながら、へらへらと城内に入ると、小さいとはいえ国の王都、喧騒華やかな街並みが目に入る。

「とりあえず、宿を探すか」

 サニアと世間話をしながら空いてそうな宿を巡ると、値段とランクがちょうどお手頃なところが見つかった。

「お、ここなんてどうだ? 見通しがいいし」

「内装も悪くないね」

「お値段は……」

「まあ、悪くない」

「じゃあ決まり」

 この宿に逗留することに決め、店番の女将に声をかけた。


「しばらく厄介になる。とりあえず二週間分先払いだ」

「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」

 それなりの金額を見たせいか、女将がホクホク顔に変化した。


「本当に助かります。最近物騒なもので客足が遠のいてるんですよ」

「物騒?」

「隣の国が攻めて来るとか、後継者争いとか変な噂話が囁かれていますからね」

(ここでもこの話か。随分と噂になってるんだな)

「お兄さんも、傭兵として来たんじゃないの?」

「いや、俺たちはあてのない旅をしているだけですよ」

「そうそう、長いハネムーンってとこかな」

 女将は二人を見て軽く噴き出し言葉を続ける。

「たしかに、そんなカワイイお嬢さんを連れて傭兵は無いわよね」

「で、戦争ってあるんですか?」

 信長が素知らぬふうに話を振ると女将が話を続ける。

「噂だけどね……あなた達カップルなんでしょ」

「うん」

 サニアが顔を赤らめて恥ずかしそうに視線を伏せた。

「それなら、巻き込まれる前にこの国を去った方がいいわよ。私が言うのも何だけどね」

「いや、ありがとう、心配してくれて」

 サニアは感謝の言葉を口にした。


「ところで、泊まる部屋はどの部屋ですか?」

「空いてる部屋ならどこでもいいわよ。すぐそこの二部屋以外は空いているから」

 そうやら入り口に近い二部屋に宿泊客が逗留しているようだ。

「なら、二階にしない? 眺め良さそうだし」

「そうだな、サニアの好きな部屋にするといい」

 そういって賑やかに二階へ通じる階段を昇って行った。


 建物を軽く調べると王城から城門までの直線からみて斜めに立てられており、しかも高台のため門から城までの道がよく観察できる。

「この角部屋だな」

「そうね」

 ここからならすべて見渡せる。


 信長は荷物をタンスの上に置くとベッドへ身を投げた。

(まずは第一段階っと)

 目を閉じると色々と記憶が蘇ってくる。



 それは一月ほど前


 マードレーマ王国 王都ブルーアイ


 一人の女性が城のバルコニーに佇んでいる。

 まだまだ冷たい北からの風を浴びて一つ身震いをした。

「あなた方、転移者ですね? 私の言葉は分かりますか?」

「ああ、日本語だろ。最近よく聞くようになった」

「……そうですか」

 そう言って女性は振り返る。彼女は聖女と呼ばれていた。


「よかった、私も転移者です……正確に言うと私たち姉妹ですが……」

 信長は眼球を左右に転がす。

「妹さんはこの場にいないのか」

「あの子……知加子(ちかこ)は、問題を起こして追放されました」

 女性は目を伏せた。

「追放?」

 どこかで聞いた話だと信長は頭を回転させた。似たような事例があったかもしれない。

「追放される前に、あの子は私の大切なダイヤのブレスレットを盗みました。あのブレスレットは私がまだ日本にいた時に当時お付き合いしていた方からプレゼントされた物、なぜか魔力が宿っているようで私の力の源なのです」

「なくっちゃいけない物なのか?」

「はい、聖女カルナーデとして、あの方と共にこの国を導く必要があります」

「そう、陛下と共に……」

 女性は目を閉じ、顔を上げると、ゆっくりと目を開いた。


「それで、妹の追放先は」

「隣国のリンガーマ王国の王都スノーマークの王宮にいるそうです」

 信長の顔が歪んだ。王宮に入るのは困難を極める。

「それは、難し……」

 断ろうとした信長に聖女と呼ばれる女は、最後まで言葉を言わせないよう手を強く握ってきた。

「我が国は逆恨みする妹の持つ私のブレスレットの力で不幸を投げかけられています。このままではこの国は滅びます。陛下……あの方は軍を繰り出しブレスレットを奪還してくれる予定です」

「なら、なぜ、俺に依頼する」

「知加子の近くに転移者の勇者がいます!」

 女の言葉に力がこもった。


「わかった、戦争の合間をついて、勇者を倒して妹からブレスレットを取り返せばいいんだな」

 女は頷く。

「妹が意地でも渡さなかった場合は?」

「……その時は……妹の命を……」

「えっ」

 信長は驚いた、仮にも妹だ。

「この国の民を不幸にするわけにはいきません」

 力強い目で信長を捉える。


「わかった、やれるだけやってみよう」

「ありがとうございます」

 女の顔が破顔した。

「ところで、アンタの名は?」

「えっ」

「知加子さんだっけ、妹さんに会った時に必要だろう」

「……そうですね。かなで、石田 かなでと申します」



 リンガーマ 王都スノーマーク



 すでにマードレーマとリンガーマの第二王子や重臣たちと話がついているのだろう。

 聞いた予定では、マードレーマの軍が強襲すると同時に、第二王子とその郎党が門を開ける。そしてその後は同時に王宮になだれ込む算段だ。

(作戦の決行はおそらく夜だろう)

 作戦の発動はいつ行うかまでは聞かされてはいないが、すぐという訳ではないだろう。

(何せ俺らが着いたのが今日だ)

 色々手筈を整えている事から傭兵は信長たちだけではなく、他にも雇っているものと思われた。

 が、誰かが摘発されれば水泡に帰す。

「見つからないようにしねぇとな」

「たしかにね」

 信長とサニアは声をひそめ首をすくめた。


「女将さん、この国で見ておくべき場所はあるかい?」

「そう、目に焼き付けとかなくっちゃ」

「ああ、それなら……」

 しばらく観光客の振りをして色々見て回る。

「ノブ、あれなんだろう? 何かカワイイ」

「見ていこうよ」

「そうだな」


「狭い道だね」

「だが、いかにも人が住んでいるって感じがして俺は好きだな」

(この道なら行けそうだ)

「たしかにね」

「子供のころ、思いがけない所に繋がっている道を発見するのは小さな冒険みたいですごく好きだった事を思い出すな」

(奇襲はこっちのルートが安全か?)

「ノブの子供の頃ってどんな感じだったのかな?」

「どうだろうな」


「変わった形のお城だね」

「ホントだな、珍しいね」

(裏口はなさそうだな。あるとしたら抜け穴か)

「この噴水すごいね、どうやって水を上げているんだろう」

「水の魔法かな? 誰が唱えているんだろう」

(死角は三か所、かぎ爪で登れるか?)


「ねえノブ、今日は疲れたから帰ろうか」

「ああ、わかった。あっちはまた明日だな」

 残念ながらサニアとの約束は深夜に破られることとなった。


 深夜


 何とも言えない多数の人の気配を感じ身を起こす。

「ノブ!」

「ああ」

 どうやら決行は今日のようだ。

「サニア、着替えるぞ」

「そうね」

 首元手足すべて黒に包まれた闇に溶け込む服に着替える。


 信長は小道具の入った袋を肩にかけ、音もなく窓を開けた。

「……」

「月が無い……新月か!」

 どうりで今日決行する訳だ。

「サニア、窓から行くぞ」

 片方をベッドに括りつけたロープを垂らし、信長から降りてゆく。

 地面に着くと、サニアに合図を送る。

 サニアもロープを伝い、地面に到着する。

「よし、行くぞ」

「うん」


 表通りでは、剣戟のぶつかる音が激しく鳴り、激闘が繰り返されている事が分かる。

「ノブ、裏通りから行こう」

「ああ、そのつもりだ」

 路地裏を駆けると、城が見える噴水まで到着した。

「さて、ここからだ」


 並木道を音もなく進むと城の裏手に出る。

 表の方からは激しい怒声と鬨の声が入り混じった声が響き渡る。

 どうやらマードレーマとリンガーマの連合軍は城門まで押し寄せているようで、城の守備兵がそちらに釣られて裏手はがら空きとなっていた。

「……やるか。サニア下がっていてくれ」

 信長は道具袋からかぎ爪ロープを取り出す。日本で買った鉄製の艶消し黒塗りの便利な物だ。

 グルグルと遠心力を使い城の屋上にある鋸壁(きょへき)の出っ張り部分に向けて放つ。

 出っ張りにクルクルと巻き付くと、最後にかぎ爪がガッチリ噛み込んだ。


 グイグイ

「よし」

 信長は壁に足を付き、ロープを手繰り寄せながら壁を歩くように上ってゆく。

「……」

 屋上に到着すると、頭を少し出し様子を伺う。

「大丈夫だな」

 素早く体を回転させ屋上に転がり込んだ。

 下にいるサニアに手を上げ合図を送る。サニアは頷いてロープを掴み上り始めた。

 その間に信長は口笛を吹き、小太刀を取り出した。以前日本にいた時に魔法使いの石倉にかけてもらったもので、きわめて便利な奴だ。

 信長は身をかがめ、周囲に気を張り、城の中、城の上、サニアの後方の地面……抜け目なく見渡してゆく。

「おまたせ」

 小声でサニアが到着を知らせると、証拠隠滅と再利用のためかぎ爪を取り外し再び道具袋に入れる。


「よし、行くぞ」

「おう」

 小さく掛け声を上げると、階段を下りてゆく。

 眼下を望むと敵兵たちが城門に向けて槍を構えているのが見える。

 すぐ下の階に足を踏み入れると、一人の兵と目が合った。

「誰だ!」

「……」

 信長は無言で刀を振るう。兵は白目をむいて絶命した。


 近場のトビラを少し開け中を伺う。

「ここにはいねぇな」

 何分部屋が多い。

「苦労しそうだ」


 いくつ目のトビラを開けただろうか?

「何奴!?」

「曲者!」

 中は兵の詰所だった。

「チッ」

 サニアはトビラの合間にワンドを入れ魔法を詠唱した。

「ファイアー」

 猛火によりまともに受け止めた兵たちが火だるまになり絶叫を上げる。

「斬る!」

 信長はそれを見て中に躍り込みたちまち兵を数人切り伏せた。

「ライトニング」

 サニアの二発目の魔法により、最後の兵の灯が消えると、一瞬の静寂さに包まれる。

「ここにもいない」

「そうね」

 二人は部屋を出て駆けだした。


 階段を降り、目の前の部屋を開ける。

「ビンゴかも」

 部屋には白いローブをゆったりと着、頭と首にこれまた白いスカーフを巻いた若い女性が佇んでいた。

 素早く両方の手首を確認する。

(あれだな)

 ダイヤモンドが豆粒ほどのダイヤが数個ついたシルバーチェーンのブレスレットをはめている。

 信長は周囲を見回した。

(依頼主の話では異世界から来た勇者がいるって話だったが……まあいい)

石田 知加子(いしだ ちかこ)さん……ですね?」

 女性はビクッと無言で反応する。


「申し訳ないが、あなたの姉のかえでさんから盗まれたブレスレットを取り返して来て欲しいとの依頼を受けている」

 信長は日本語で出来るだけ柔和に語り掛けた。

「かえでさんはそれを返せば罪は問わないと言っていた」

 知加子は無言でこちらを見ている。その目は刺すような鋭さを持ち交渉の行く末を案じられた。

「なぜ、盗みなどをしたんですか」

「あなたは、姉が何をしたのかご存じないのですか?」

 知加子の口調が強さを帯びる。

「申し訳ないが」

「ふぅ」

「……」

 知加子はため息をつき黙り込む。しばしの沈黙が訪れる。

「この世界に飛ばされてきたのは、私たち姉妹だけではありません。姉の恋人である本山さんも一緒に飛ばされてきました」

「初めのうちは、三人で手を取り合い、日本への戻り方を探しながら暮らしていました」

「……」

「ある日、私たちの元へマードレーマ王国からの使者が訪れ、姉を聖女だと言って連れて行きました」

「それからです、姉が変わってしまったのは。私たちは王都へ姉を探しに行きました、そこで見たのは綺麗な服を着飾った姉の姿」

「私たちは姉に必死に声を掛けました……しかし姉は私たちを冷たい目で一瞥して付き人と一緒にその場を去りました」


「それは、あなたがそう感じただけかもしれないよ」

 サニアの言葉に静かに首を振り言葉を続ける。

「本山さんもそう言いました。それで、私たちは何度も接触を試みました……その結果」

「結果?」

「追放です!」

 知加子が血の気が失せるほどの力で唇をかむ。

「私は考えました。せめてブレスレットを姉の手から姉の昔の恋人……プレゼントをした本山さんに返してあげようと姉に手紙を出しました。姉の秘密をばらすと」

「姉は、私たち二人に合って手切れの口止め料とブレスレットを寄こし、兵隊に命じ追い出しました」

「盗んだんじゃないのか?」

「はい、要らないからと渡されました」

 信長は顎に手を当て頭を巡らす。

「それで、私たちはここリンガーマまで流れてきて二人で暮らし始めました」


「それで、今度はアンタがこの国の聖女になったわけか」

「!?」

 瞬時に知加子の動きが止まった。

「かなではこう言っていた。転移者の勇者が一緒にいると。でも、今いないだろう」

「それに、なんで本山ってやつのために取り返したブレスレットを今アンタがしているんだい?」

「そ、それは……」

「なんでも、第一王子と婚約しているんだろう」

「……」

 知加子は言葉に詰まった。

「大方こうだろう、二人で流れてきたこの国で、神託か何かでアンタが聖女だと出たので王国から使者が迎えに来た」

「それで、アンタは考えた、そのブレスレットに効力があるのではと。それ以外にかなでとの共通点が無いからな」

「そんなことは無い、これは、本山さんから貰ったもの……」

「じゃあ、その本山は? どこにいるんだい? 知らないんだろう?」

 知加子は再び言葉に詰まる。


「アンタはかなでを批判しながら同じことをやっているんだろ」

「そんなことは無い。姉とは違う! 私は追放したりしていない」

「王子さまにもわかっていただいてるからこそ一緒に国造りを頑張ろうとお声をかけて頂いたのだから」

 信長はため息をつき首を振る。

「そうやって言い訳をすれば自分の中での罪悪感を消せる、そうだろう?」

「ちがう!」

「私は嘘の噂話も流していないし人を傷つけていない! 町中の噂話、聞いたでしょう? あれは姉が流したもの。私は被害者なの!」

「……本山さんは? 本山さんは傷つけてないとでも!」

 サニアが毅然とした口調で言いきった。

「あなたに何が分かるっていうの? 姉の小さいころからの振舞いを知らないでしょう?」

「それでそのブレスレットを使い、姉とその国を呪ったのか?」

 信長はうんざりした口調で問いを発した。

「悪人と悪人に加担する者たちを呪って何が悪いんですか?」

「マードレーマの国民がみな悪人な訳では無いだろう」

「確かに違います。違いますが、姉とマードレーマは無実な我が国を侵略してきてるではありませんか」

「だからと言って関係ないヤツまで巻き込むのは……」

「やむを得ない事です。それにより悪人が滅び善人が生きやすくなるのなら尊い犠牲です」

「お前、本当に聖女か?」

「はい、悪には罰を善には徳を与えます」


 信長は一息置いた。そして静かに言った。

「侵略に関してはアンタが呪いを掛けたから起こった事ではないのか」

「いえ、姉はいずれブレスレットを取り返しに戦争を起こしていたでしょう」

「わかっていて、なぜ逃げない、渡さない、それによって双方の被害者が出ているんだぜ」

「あなたも姉の味方ですか? 依頼を受けたんでしたっけ、仕方ないですよね」

「アンタがただ王太子妃という地位に固執しているだけだろ。ブレスレットが無けりゃその地位を維持できない、だから渡さない、それを理屈を付けて正当化しているだけだろう」


「そうだからってなんなんです? 私が幸せになっちゃいけないんですか?」

「あくまでそれを保持していたいと?」

「あなた方に渡す義務はありません!」

「そうか」

 ズシャ

 床にポタポタと赤い雫が滴り、だんだんと血だまりへと変わってゆく。

「アンタの理論では、悪人の妹なら当然悪人の仲間だろ?」

 スカーフがふわふわと空を舞う。

「割り切れるから――こっちも善人を斬るのは心が痛くなるからな」

「――おうた、いし、さ、ま」

 知加子は右手を伸ばす。何か見えているのだろうか? 信長とサニアにはわからなかった。

 そのまま、前のめりに倒れ込み、周囲に自らの身から出した血をばら撒いた。


「アンタとアンタの姉貴は似た者同士だよ。いい人を演じているか誤魔化しているかの違いさ」

「悪人のくせに悪人とみられたくない、そんな偽善者だよ」

「自分だけが幸せになりたい。他人が傷つこうが一向にかまわない……まあ世の中そんな奴ばっかりだけどな」

「本当に優しい奴は全員に優しいもんさ」

 信長は知加子の亡骸からブレスレットを外すとスカーフに包みポケットにしまった。

「ノブ……」

「サニア、行こうか」

 外ではいまだ激しい戦闘の剣戟が響いていた。


 帰路にて


「このブレスレットのどこにそんな力があるんだか」

 信長はブレスレットを太陽に掲げた。それをサニアが仰ぎ見る。

「むこうのお店で十万しないで買えそうなものだよね」

「ブランドものかもしれねぇぞ」

「多分違うと思う」

 そんな二人の後ろから近付いて覗き見る人影に気付き、二人は振り返った。


「その、ブレスレットは?」

 リンガーマから逃げてきたであろう温和そうな勇者らしき者から声をかけられる。

「マードレーマの聖女から奪回の依頼があったものだ」

「そうか……かなでが聖女……」

「えっアンタ!?」

 信長は男を凝視した。

「あ、いや、何でもない」

 男は顔の前で手を振り苦笑いした。

「聞いたことは忘れてくれ」

 言い終わった後、しばらくブレスレットを眺めて自分の言葉に修正をかけた。

「そうだ、やっぱりこれだけは伝えてくれ。世の中思い通りには進まないものだと……ね」


 そう言って、信長たちとは別の道へと体を向ける。

「待ちな、これを持っていきな」

「これは?」

「金貨だ。城からちょいとばかし失敬してきたもんさ」

「しかし」

「気にするな、もうリンガーマは滅んだ。アンタのブレスレットの効力でな」

「気付いていたのか」

「コイツが詳しいもんでね」

 サニアに向け視線を向ける。


「ところで、本山さんだっけ? これ、装着すると不幸になるのかい? 土地を加護するみたいに聞いたが?」

「加護のブレスレット……ただ心が汚れると不幸を呼び寄せる……ただそれだけ……」

 そう言って本山は寂しそうに笑った。

「じゃあ、なおさらその金貨はアンタのもんだ。こっちがブレスレットの不幸に巻き込まれちまう」

「……そうか、なら有難くもらっておくよ」

「ああ、達者でな」

「あなたたちも」

 お互い手を振りながらそれぞれの道に進んでいった。


 マードレーマ王国 王都ブルーアイ


 かなではバルコニーから信長たちを見つけると、素早く降りてきて出迎えた。

「どうでした?」

「これで、あっているか?」

「――はい、これです」

 かなではブレスレットを胸に押し抱いて涙を流した。


「よくやってくれた」

 後ろから王冠を被った、金髪の美男子が現れた。

 信長とサニアは一歩下がると膝を付き頭を下げる。

「いや、必要ない。貴殿たちはこの国の英雄だ。こたびの戦でリンガーマを併合することができた」

「どうだ、我が国に残り余に仕えぬか?」

 満面の笑みで笑いかける国王に信長はかぶりを振った。

「私たちは、自由が好きなのです。これからも旅を続けようと思っております」


「そうか、残念だ」

「大臣、カルナーデが彼らに約束していた依頼料を」

 大臣から約束よりかなり多い金額を受け取る。

「お前は我が国の英雄だ。何かあったら寄るといい、歓迎するぞ」

 しばらく談笑すると、王たちは信長たちを残して去って行った。



「ねえ、ノブ」

「ん、なんだ?」

 マードレーマ王国から退去し、次の国へ向かう街道の最中、不意にサニアが声をかけてきた。

「あの姉、妹の事一切聞かなかったね」

「死んでんのは知ってるからだろ」

「でも、死に際とか気になんないのかな?」

「さあな」

 サニアは水筒の水を口にし喉を潤した。

「ノブ」

「なんだ、今度は?」

「結局、あの姉妹、どっちもどっちだったね」

「ああ、王妃に憧れて、昔の彼氏を切り捨てた姉」

「その身勝手な姉に怒り彼氏のためにブレスレットを取り返したまではいいけど、結局その効力の虜となり姉の元の彼氏を見捨て王太子と婚約し姉のように自分勝手に振舞った妹」

「結局、本山の話……伝えられなかったな」

「でも、あの言い分だと、伝えない方が幸せかも」

「フッ、確かにそうだな」

 日は天高く上り、信長たちをじりじりと焦がす。

 二人の背中は明るく照らされ、複雑な心内をすこしばかり癒してくれていた。

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