『矛盾』
〈洒脱さはまづ手袋に顯れる 涙次〉
(前回參照。)
ジョンの魂に捧ぐ。
【ⅰ】
「ニュー・タイプ【魔】」逹の魔界は、徹底した共和國制を敷いてゐた。議會の議長はゐるが、「國」としての魔界には特にトップと云ふ者を置かないラディカルさである。彼らは議題に「黑ミサの撤癈」を挙げ、多くの叛對があつたにも関はらず、強引に押し切つた。軍隊は持つてゐた。その將軍には、蘇生させられた* ドクター・フックが就任。この「知將」に軍事面の全てが委託された。
* 前シリーズ第178話參照。
【ⅱ】
その人事をカンテラ一味が知つたのは、舊「親ルシフェル派」の密告者を通じて、である。何しろ、カンテラ、ルシフェルの水晶玉に對して、「ニュー・タイプ【魔】」逹は煙幕を張つてゐたし、* 透明人間化した平涙坐を派遣しても、見破られてしまふ。で、フックは「魔界の思想家」でもあつたのだが、嘗て掲げた「叛・世界」では思想として余りに茫洋とし過ぎてゐる、として、今度はそれを「叛・日本」に狹めて繰り出して來た。さう、今では彼のターゲットは日本一國なのであつた。だが、髙市政権は統一教會問題、賃上げの公約不履行で躓き、議會解散まで持つかだうかゞ危ぶまれる始末。明日は見えない。フックが手を下す迄もないのだ。世は混沌とし、人間界も魔界と變はりがない。
* 當該シリーズ第17話參照。
【ⅲ】
カンテラ一味からは「番軍」が出動し、フック率いる魔界軍と激突した。その模様を、杵塚春多は丹念にキャメラで追つた。次回作は戰爭映画である。それには、杵塚なりの平和への祈りが込められてゐた。然し* 楳ノ谷汀に拠れば、「平和への貢献と云ふなら、もう一捻り慾しいわね」。其処で、杵塚は、フックの思想に肉薄した。「叛・日本」- 日本と云ふ枠、國と云ふ枠さへなければ... その時、杵塚の脳裏にはジョン・レノンの『イマジン』が流れてゐたと云ふ。
* 前シリーズ第6話參照。
【ⅳ】
杵塚は思つた。(人間より【魔】の方が、正論を云つてゐるなんて...)。が、カンテラは云ふのである。「杵、きみは『國賊』になりたいのか?」杵塚は思ひ悩んだ。その結果、杵塚の答へは、「藝術には『國賊』呼ばゝりされても、諦め切れない何か、があるのです。その事はカンさんもご存知でせう?」-「番軍」は魔界軍に手痛い一敗を喫した。
※※※※
〈甘さより苦さが勝るチヨコレエト冬の連休持て余すかな 平手みき〉
【ⅴ】
カンテラは、その實體は政府の出先機関に過ぎぬ「魔界健全育成プロジェクト」の體面をおもんぱかつて、杵塚を一時、一味メンバーから外した。カンテラ、「なに、一時的な措置に過ぎんさ」。杵塚には、カンテラの管理者としての苦衷が、痛い程分かつた。-で、その間、「番軍」の傷付いた兵士逹に、懇切丁寧なインタヴューを試みた。「僕らは、國民の、自由に生活出來ると云ふ権利の為、働いてゐるんだ」-それは美辞麗句に過ぎず、杵塚にしてみれば「際どい」ところだつた。が、彼にはその氣負ひが眩しかつた。カンテラ、「決して彼らを美化するなよ」。藝術の守護神を自認するカンテラならではの言葉である。杵塚、カンテラに感謝した。
【ⅵ】
結局、「番軍」と魔界軍は停戰。その責任を一身に負つて、フック、二度めの處刑を受け、死んだ。何もかも矛盾だらけの世。杵塚は、映画の題名に、『矛盾』と云ふ言葉を撰んだ。余計な死者を出さなかつた、と云ふ理由で、「プロジェクト」は一味に報奨金を下した。だが、それすらも「矛盾」の支配する世界の、一齣に過ぎぬ事、杵塚には身に沁みて分かつたのだつた。
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〈「成人」が意味するものは酒・酒・酒 涙次〉
【ⅶ】
程なくして杵塚は、一味メンバーに復帰した。それもこれも、イノセンスを喪ひ、藝術と云ふものを生活のたつきに撰んでしまつた者に付いて回り勝ちな、苦悩を脊負つた今の彼には、俗事に過ぎなかつたけれども。それは氣取りではない。本音なのだつた。擱筆。苦い。
PS: その事を知つた仲本堯佳は、「プロジェクト」の面々に「思想調査」を行つたさうである。彼らにしても、自民党政権の瓦解と共に、後がない、と云ふ思ひがあつたのだらうか。いづれにせよ、愚かしい話だ。




