表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貸出の檻  作者: メタル
序章 俺と美咲
4/40

第四節 夕食と眠り

// --------------------------------------------------------

// 第四節 夕食

// --------------------------------------------------------


夕食の時間。

テーブルの上には二人分の皿を並べた。

美咲の前にも料理を置くけれど、彼女がそれに手を伸ばすことはない。

ただ座っているだけ――けれど、それだけで「妻と食卓を囲んでいる」錯覚が、俺の胸を温めてくれる。


俺はひとりで箸を動かしながら、ときおり彼女に話しかける。

「今日は暑かったな」「あの番組、また続きやるみたいだぞ」

返事はない。

それでも声に出すことで、食卓は確かに二人のものになった気がした。


やがて片付けが終わると、避けては通れない作業に移る。

クローン用に市販されている栄養食と補給用の水。

俺はそれを計量カップに移し、漏斗を使って美咲の胃へと流し込む。


表情ひとつ変えずに受け入れる彼女。

けれど、その姿を目にするたび、胸の奥がひどく軋む。


――一緒に同じ食事を楽しみ、笑い合いながら味を語り合えたら。

そんな当たり前の光景を思い描くほどに、この現実が残酷に突きつけられる。


排泄の補助よりも、この「与える作業」の方が辛いのかもしれない。

それでも、やらなければ彼女は生きられない。

愛しているからこそ、俺は今日も漏斗を手に取る。


食後の食器を流しに運び終え、テーブルを片付ける。

美咲は食卓に残されたまま、相変わらず静かに座っていた。

「ごちそうさま、美咲」

声をかけても、もちろん返事はない。

それでも、そこに彼女がいるだけで、食卓は“二人の場所”に思えた。


リビングに戻り、テレビをつける。

ニュースが終わり、深夜番組が流れ出す頃には、部屋はすっかり夜の気配に包まれていた。

俺は美咲の肩を抱き寄せ、ソファに並んで座る。

彼女は何も語らず、ただ寄り添っているだけ。

けれどその無言のぬくもりが、俺にとっては何よりの安らぎだった。


やがて時計の針が日付を跨ごうとする頃、俺は美咲に向かって小さく声をかけた。

「……そろそろ寝ようか」


車いすに移し、寝室へと運ぶ。

ベッドの端に腰を下ろさせ、ゆっくりと体を横たえる。


ベッドに横たえた美咲の横顔を見つめていると、指先が自然と頬に触れてしまいそうになる。

柔らかな唇に口づけたい衝動も、胸の奥には確かにある。


……けれど、今はしない。

俺にとって美咲は、ただ“そういうために置いている”存在じゃないのだ。


明日は朝から仕事だ。

だから今は、彼女の隣で静かに眠ることを選ぶ。


「……おやすみ、美咲」

小さく囁いて布団に潜り込む。


隣には言葉を交わすことも、夢を語り合うこともない“妻”が眠っている。

けれど、この静かな時間こそが、俺にとっての救いであり、幸せだった。


小さな声でそう告げ、俺はそっと目を閉じた。


「おっと、美咲も寝ないとな」

おれは美咲の顔に手をやり目を閉じてやった

「……まるで本当に眠っているみたいだな」


明日になったら目を覚まさないだろうか?

朝飯の味噌汁を作っている後ろ姿を想像しながら眠りにおちる...



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ