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貸出の檻  作者: メタル
第九章 戦火の夢
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第三節 太陽の塔、沈黙の陣地

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// 第三節 太陽の塔、沈黙の陣地

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-大阪万博公園ーー太陽の塔


陸上自衛隊 特殊作戦陣地


 陸上自衛隊は、南北に戦力を分断し、本国防衛に全力を注いでいた。

なんとか本州への上陸は防いでいるものの、

敵艦艇から発射されるミサイルを撃ち漏らす事例は、

日を追うごとに増えつつあった。


 この陣地は、1970年に開催された万国博覧会の跡地に築かれている。

ランドマークである太陽の塔は、その異様な外観から、

――目からレーザーを放つ最終決戦兵器

――ロボットへと変形し戦う存在

といった都市伝説を、長年にわたって語られてきた。


だが、その地下に本当に兵器が眠っているなどと、

関係者以外が本気で信じることはないだろう。

 


実のところ、万博会場という場所は、基地の設置に極めて適している。

万博は国内各方面からのアクセスが良い地点で開催されるため、

物流の便に優れ、かつ都市部に近い。


それゆえ、

「そんな場所に重要施設があるはずがない」

という思い込みが、敵の認識にも生じやすい。


2025年に開催された二度目の大阪万博。

その象徴であった巨大なリング状構造物――大屋根リング。


その地下には、大型の粒子加速器が設置され、

各種先進兵器の研究開発に利用されていた。


この種の設備は、通常であれば真っ先に攻撃対象となる。

だが、元より同規模の構造体が存在していた都合で、

基礎工事や地下構造を流用できたことが、

皮肉にも、この施設を生き延びさせていた。


そのような事情があるため、

喧騒から遠く離れた万博跡地は、奇妙なほど静かだった。


太陽の塔の根元には、

「立ち入り禁止」

と書かれた簡素な標識が、ひっそりと立つだけ。


塔の内部で何が行われているのか――

それを知る者は、極限られた要員にしかいない。


巡察を終えた二人の隊員が、塔の影へと戻ってきた。

小隊長の大町おおまち一尉と、副官の岸田きしだ三曹である。


岸田は、塔を見上げたまま、ぽつりと呟いた。


「……大町一尉。

まさか、この“太陽の塔”を使う日が来るんでしょうか。」


大町は答えず、

塔の白い外壁に沈んでいく夕光を、しばらく眺めていた。

太陽の塔の巨大な“目”は、どこか冷たく見える。


岸田は、言葉を継いだ。


「昔から、いろいろ伝説はありましたけどね。

ロボットになるとか、目からビームが出るとか……。

まさか中に、本当に兵器が眠ってるなんて、

誰も思いませんよ。

俺たちですら、最近まで冗談だと思ってました。」


大町は、眉をひとつ上げただけだった。


「……任務だ。」


「ええ、分かってます。でも……」


岸田は、言いにくそうに、

黒光りするブーツへと視線を落とした。


「俺たち、ここで“見張る”だけじゃないですか。

“現場”では、仲間が死んでいくのに……

俺たちだけ、安全な場所にいるみたいで……

正直、胸が痛いんです。」

 


大町は、しばらく黙っていたが、

やがて静かな声で言った。


「岸田。“ここ”だって戦場だ。」


「……はい?」


「前に出る者だけが戦っているわけじゃない。

この塔を守る。

それが、今の我々の任務だ。」


大町は視線を逸らさず、続ける。


「もし、ここが破られれば――

本当に、日本は抵抗の手段を失う。

その責任を、我々が担っている。」


岸田は唇を噛んだ。


「分かってます。ですが……

民間の技師の方が、よほど働いてますよ。

俺たちに、できることなんて……」


大町は、静かに首を振った。


「いや。

あの人たちが、毎日命を削るように働けるのは、

我々がここを“死守する”と信じているからだ。

戦友を守るのも、立派な戦いだ。」


岸田の肩が、わずかに震えた。

目を伏せたまま、小さく息を吐く。


「……一尉。

俺たち、本当に……守りきれますかね。」


大町は、すぐには答えなかった。

代わりに、太陽の塔を見上げて言った。


「この塔が、沈黙を破る時――

その時が、日本の最後の一線だ。」


岸田は、静かに頷いた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

大阪万博公園――太陽の塔内部

陸上自衛隊 特殊作戦陣地・司令所


 外の戦況がどれほど激しくとも、この地下司令所には一切の音が届かない。

分厚い防護壁に守られたこの区画は、ただ冷却機器の低い唸りが一定のリズムで流れているだけ。

“戦場の音が一つもない戦場”と、隊員の誰かが冗談めかして言ったことがある。

その静寂の中当直の通信員が小さく眉を寄せた。

通信モニターに、滅多に見ることのない識別コードが点滅していた。


「……一尉。統合作戦司令部から……“特別連絡符号”です。」


 巡察を終えて戻ってきた大町一尉は、通信台へ歩み寄った。


「符号を開け。」


通信員が暗号解読機に入力すると、画面に短い文言が静かに展開された。


“コードAAA-04-βを実行せよ、ニイタカヤマノボレ”

 

 室内の空気がわずかに沈んだ。

岸田三曹が、半ば苦笑のように呟いた。


「……来ちまいましたか。」


大町は頷いた。


「ああ。近いうちに来るとは思っていたが……今日になったか。」


岸田が肩を落としながら言う。


「この場所、静かすぎて…… 戦場の音がしないぶん、命令の重さだけがストレートに刺さりますね。」


大町は淡々と返した。


「ここは、そういう場所だ、音がないから、迷いも紛れ込まない。」


通信員が続報を読み上げた。


「……司令部より、認証確認要請。

 本陣地の準備状況を至急報告せよ、とのことです。」


岸田は天井を見上げ、小さく息を吐いた。


「……つまり本当に“起動”するってことですね。

 できれば動かんでくれと祈っとったんですがね。」


「祈りとは関係なく、国は動く。」

大町は短く言った。


照明が警告色に変わるわけでもない。サイレンが鳴るわけでもない。

ただそこにいる全員が、“事態が新しい段階に入った”ことだけを理解した。


大町は通信台に手を置いた。


「司令部へ。太陽陣地、大町。

 ――コードAAA-04-βを受領。トラトラトラ。

 起動準備に入る。」


短い沈黙が司令所を包んだ。誰も大声を上げない。誰も騒がない。

淡々としているが、その静けさはいつもより一段深かった。


大町は区画全体を見渡し、

低く告げた。


「……各員、持ち場につけ。ここから先は、静かに。確実にやるぞ。」


太陽の塔は、何も語らない。

 ただその内部で、

長いあいだ眠り続けていた“ある仕組み”が、

ほんの僅かに、呼吸を始めていた。

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