第三節 赤の兆候(しるし)
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// 第三節 赤の兆候
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――彼女との生活にも少し慣れてきたなと思いだしたそんなある日。
帰宅後のルーティンとして女を脱がせると、いつもと違う異変に気づいた。
パンティが真っ赤に染まっていたのだ。
「……っ!」
血の気が引いた。
焦りで頭が真っ白になり、しばらく何が起こったのか理解できなかった。
だが、冷静になって考えれば答えはすぐに出た。
――月経。
この体は、生理を止める処理を受けていなかったのだ。
本来、フェミナやライセアの中古ボディは、返却・再流通前に必ず「月経停止処置」を施される。
妊娠を防ぐため――いや、もっと言えば、戸籍に存在しない子供が勝手に生まれるのを防ぐためだ。
もしそんなものが生まれれば、
親権、権利、責任所在……すべてが法のグレーどころか“真っ黒”になる。
国家レベルで大問題になるからこそ、月経機能は必ず封印される。
それがされていない、ということは――
この個体は正式な処理を経ていない“ヤバい代物”であるという動かぬ証拠だった。
幸い、購入してから妊娠に繋がるような行為はしていなかった。
だが、これからは注意が必要だと痛感した。
出血は待ってくれない。
俺は恥を忍んでコンビニへ走った。
さすがにいつもの店で買う勇気はなく、少し離れた店で生理用品を手に取った。
帰宅後、処置をしながらふと思った。
――この体は、数日前、あるいは数か月前までは確かに“普通の女”として生きていたのだ。
新しい体に乗り換えたのだろうが、それでも。
おっさんに下の世話、生理の世話までされるなんて、きっと屈辱だったに違いない。
やがて出血は収まり、周期は通常へと戻った。
つまり、この体は“子を産む準備ができている”ということに他ならない。
そう考えた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
なぜか今まで無意識に避けていた衝動が、一気にあふれ出してきた。
――抱きたい。
ただ、抱きしめたい。
そして、気づけば一線を越えていた。
相手は人形。
意識も返事もない。
本来なら、一方的な行為にすぎないはずだった。
それなのに。
抱きしめた瞬間、なぜか“お互いに求め合っている”ような錯覚にとらわれた。
その感覚に、俺は抗うことができなかった。
ただの生理的反応にすぎない――そう頭では分かっていた。
それでも、女の体のかすかな反応が、まるで俺を求めているかのように錯覚してしまう。
声を上げることもなく、焦点の合わない瞳はただ天井を映すばかり。
それでも、その奥底で自分を必要としてくれているのではないか――
そんな期待が、どうしようもなく膨らんでいった。
少なくとも、俺はこの女を愛していた。
それだけは確かだった。




