第二節 ジャンク街での出会い
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// 第二節 ジャンク街での出会い
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──政府公認 女性生活支援プログラム──
フェミナ・ライフサポート
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発足:戦後復興特別措置法に基づき設立(20XX年)
対象:未亡人・生活困窮女性
目的:生活基盤を喪失した女性への経済的支援
本プログラムは、東海地方を中心とした大震災および中露侵攻戦争の終結後、
生活基盤を失った女性の社会復帰を目的として政府により開始された。
女性本人の脳から人格データを一時的に政府管理サーバーへ移行。
その空となった肉体に、職業上必要な技能を備えた人格データを上書きし、
「レンタルボディ」として各種業務に従事させる仕組みである。
借主からの利用料金は、女性本人の収入として計上される。
これによって、女性は安全かつ持続的に生活資金を確保できる――
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……少なくとも、建前上はそういう話だった。
実際には“自由に使える娼婦”と大差ない扱いを受けることも珍しくなかった。
けれど、誰も大きく声を上げなかった。
本人には記憶が残らず、戦中に磨き上げられたクローン技術によって
体の消耗や病気も“リセット”されてしまうからだ。
だから問題は表面化せず、むしろ「眠っているだけで高額の報酬が得られる」理屈で
本人も納得している――そういうことにされていた。
美咲は、そんな社会の闇に弄ばれたなれの果てだった。
何らかの問題を抱え、やがて廃棄処分となる予定の“ドール”。
それを裏の業者が横流しし、さらに俺がたまたま購入した。
それだけのことだ。
俺が美咲と出会ったのは、かつて“大電気街”と呼ばれた大阪のジャンク街にある、
場末の中古販売店だった。
戦前のこの街は、所謂オタクの聖地としてにぎわっていた。
コンピュータは電子部品といったハイテク製品にとどまらす
フィギュア、カードゲーム、アイドルグッズといったオタク向け商品
休日ともなれば、お宝さがしの冒険者が闊歩していた。
そこには夢と好奇心が満ちていたのだ。
だが、戦争と震災を経て
――街の風景は変わり果てた。
看板は剥がれ落ち、ネオンは断続的に「カチッ……ジジジッ……」と音を立てるだけ。
漂うのは鉄錆と排水溝の酸っぱい臭気、そして古びた電線の焦げた匂い。
並ぶ商品は、割れた茶碗や片方だけの靴、軍の放出パーツに、分解されたクローンのボディ。
かつてお宝探しをしていた冒険者はネットの世界に流れていった。
アングラ界隈では「クローンの下半身だけを買って膝枕に使う」なんて流行まであると聞いた。
美咲は、そんなジャンク店の片隅――処分コーナーに置かれた保管ポッドの中にいた。
商品の状態を示すポップには、無造作な文字でこう書かれていた。
・質問不可、返品不可、現状渡し
・フ〇ミナ流出品?
・人格の書き込みなし。ジャンク品
まるでスクラップの冷蔵庫か何かを処分するみたいに。
気になって店主に声をかけると、彼は肩をすくめて笑った。
「お客さん、コレ気になります?
正直ねえ……おばさんのドールなんて誰も欲しがらなくて困ってるんですよ。
安くしますから、どうです?」
保管ポッドを開けて中を確認させてもらう。
中には――まぁ、お世辞にも美人とは言えない中年の女が横たわっていた。
ボディの状態に目立った損傷はない。だがポップの記載通り、人格は完全に消去されているようで、
瞼を押し上げてみても、焦点の定まらない瞳がただ虚空を映すばかりだった。
間違いなく“人形”だ。
けれど俺は、しばらくその顔を見つめていた。
キャバ嬢のように作り込まれたクローン女を部屋に置くより、こういうおばさんの方がしっくり来るんじゃないか――
そんな考えが頭をよぎった。
だが、それ以上に。
このおばさん人形を見た瞬間、胸の奥に“懐かしさ”のようなものが込み上げてきたのだ。
理由はわからない。
ただ、どうしても手元に置いておきたい――そんな感情が芽生えてしまった。
暫くの間、飯は保存食だけになるだろう。
それでも俺は、なけなしの金をかき集めて購入を決めてしまった。
正気を失っていたとしか思えない。
だが、不思議と後悔はなかった。
こうして ――俺と“おばさん”との共同生活が始まったのである。




