第四節 妄想と虚無
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// 第四節 妄想と虚無
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うちの保管庫には、この腕以外にもいくつかのパーツが眠っている。
足も一対あって、定期的に毛を処理し、気まぐれにペディキュアを塗り替えてやる。
オシャレなパンプスを履かせ、鞄に隠し持てば──ほんのひととき“お出かけ気分”に浸れるのだ。
そして、これらのパーツは人形とは違う。
元は本物の女の体だから、そこに確かな痕跡が残っている。
パンプスの中に長く押し込めておけば蒸れて、足の匂いがほんのりと染み出す。
その生温い臭気を嗅ぐたびに、俺は女の存在を感じてしまう。
自分でも、さすがに変態じみていると分かっている。
けれど──それでもこの匂いがあるからこそ、パーツは“彼女”になれるのだ。
それぞれのパーツには、勝手に名前をつけて呼んでいる。
アヤは気の強い娘、ミナは控えめで優しい娘……。
そんなイメージを押し付けながら呼ぶのは、自分でも狂っていると分かっている。
だが、そうでもしなければ、この暮らしには耐えられない。
フェミナを借りる金はなく、クローン女すら滅多に手の届かない俺にとって──
このパーツたちは、十分すぎるほどの満足を与えてくれる“彼女”なのだ。
……もし胴体さえ手に入れば、俺は一体の女を組み上げられるかもしれない。
ジャンクのクローン女の廃棄ボディに、この手足を結合して──。
想像しただけで、胸が高鳴る。
まるでガラクタの寄せ集めだとしても、俺にとっては“彼女”になるのだ。
いや、胴体がなくても構わない。
マネキンの胴体に手足だけを換装し、自作のドールを作るのもいい。
白い肌の無機質な人形が、女の痕跡を宿したパーツで補われていく──。
そんな歪な姿さえ、俺には愛おしく思える。
……まぁ、こんな妄想ができるだけ俺は幸せなのかもしれない。
同年代の連中は、ディストピア飯を流し込み、栄養失調寸前で不貞寝している。
薄い壁の向こうから聞こえてくるのは、家賃を滞納した隣人の罵声だけだ。
それに比べれば、俺は勝ち組だ。
だが勝ち組なんてのは、所詮──地獄の中の座布団一枚。
座り心地が少しマシなだけで、焼け爛れることに変わりはない。
コンビニ弁当の油で胃を荒らし、安酒で意識をぼやかし、VRで女を抱く真似をしても──
最後に待っているのは、翌朝の空虚な目覚めだけだ。
そしてその枕元には、いつもと変わらず“彼女の腕”が置かれている。




