第一節 俺と美咲
血肉なき存在に、確かな命を見いだした人たちへ。
「肉は何の益ももたらさない。霊こそが命を与える。」
― ヨハネによる福音書 6章63節
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// 第一節 俺と美咲
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晴天の太陽の下、潮風が頬を撫でる。
気持ちのいい風に吹かれながら、俺は隣にいる美咲へと声をかけた。
「今日はいい天気だな、美咲。」
水面に反射する光がきらきらと眩しく、思わず目を細める。
「潮風、気持ちいいだろ?」
キャナルパークの遊歩道は静かで、休日のざわめきもここまでは届かない。
美咲はからの返事はない。けれど俺は気にせず言葉を続ける。
「ほら、花壇の花も咲いてる。もうすぐ夏だな……」
やがて石畳が滑らかに続く遊歩道に差しかかる。
俺の手のひらには、車いすを押しているハンドルの感触があった。
静かに回るタイヤの音が、規則正しく耳に届く。
横顔を見やる。
陽射しに照らされた頬は透きとおるように白く、美しい。
けれど、その瞳に景色が映ることはない。
ベンチに腰を下ろし、隣に座らせ、花壇の前で「きれいだな」と呟く。
「……さあ、そろそろ家に帰ろうか。」




