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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

カインとニュー(BL)

作者: 恋瀬 東吾

父が亡くなって3ヶ月が過ぎてからやっとコイツは現れた。

父が病いで余命僅かと診断されてから初めて弟がいる事を知った。

父が会いたいと言うので再三再四連絡しフランスまで行ったのにコイツはとうとう最期まで会いに来なかった。今更現れたことに怒りが込み上げたが父と母からは宜しく頼むと言われていたので文句も嫌味も飲み込んだ。


写真では見知っていたが、初めて会う腹違いの弟は客観的に見て自分とは似ても似つかない違う人種のようだ。芸術家とはこんな不思議な雰囲気を持つものなのか?

成人男子なのに少年の様な瞳で、線が細い手足や白過ぎる肌は何とも中性的だ。身内として違和感を感じた。まあ初めて会ったのだから身内とは思えないのは当たり前か?と独りごちた。


家からの電話で弟が突然訪ねて来たと聞いて急いで帰ると、リビングですっかり寛いだ様子で妻のナディーと談笑していた。

向こうも自分の顔を見知っていたようで気付くと片手を上げ「やあ!兄さん」といつも呼んでいるかの様に挨拶された。

カインも近づき「初めまして、カインです」と言って手を出し握手した。ニューの手は冷たくて思ったより小さかった。一瞬身体がゾワっとして粟が出るかのように感じたが、直ぐに引いた。


カインが腰を下ろすとナディーはお茶を入れに行き、二人きりになるのを待ってから

「父さんには何故会いに来なかったのかな?別に責めてる訳じゃ無いけど残念だったから」と極力冷静にカインは言った。

ニューは曖昧に笑いながら「いろいろ忙しくて…すみませんでした」と答えたので、内心イラッとしたが顔には出さず「突然訪ねて来たのは父の墓参りの為?」と聞いたら「そう言う訳では無いんだけど、こっちでやりたい事があって暫く兄さんにお世話になろうかと思って…」と言ってこちらを見て笑った。


その顔を見て怒りが込み上げた。

何なんだコイツは!父さんの最期に間に合わなかったのも、墓参りも、コイツにとってはどうでも良い事なのか?父さんは最期までコイツを待っていた。口には出さなかったけど、俺がコイツに連絡したり会いに行ったりした事を報告すると嬉しそうに笑って、最後に「申し訳ない、アイツをよろしく」と寂しそうに微笑むんだ。


父さんの愛情はずっと俺一人のモノだったけど 死を悟った父さんは積を外したようにコイツを求めたんだ。少し寂しくもあったが父の最期の願いを叶えてあげたい一心でフランス迄行ったのにコイツは制作活動だと言い、身を隠していて会う事も出来なかった。

友人にも散々お願いしたが音沙汰も無かった。父の最期にそのことを謝ると「良いんだ、アイツなりの考えがあるのだろう。お前がアイツの面倒を見てやってくれ。不器用な子だから」と言った。


父が亡くなって、それまで会社のCEOとしてバリバリ仕事をしていた母が体調を崩した。

結局自分が母の代わりにCEOになり、母を会長にした。その母からも腹違いの弟の事を頼まれた。息子から見て母と父は本当に愛し合っていたと思う。

なので父が外で愛人に子供を生していた事や母がそれを了承している事に心底驚いた。


いろいろと思考を巡らせながら怒りを治めていると、お茶を運んで来たナディーとニューがまた楽しそうに談笑し始めた。呆れて見ていると急にニューが目線を合わせて来て含みの有る笑いをして来た。何か胸がざわつく。

耐えられずカインが目線を外すと、同時に廊下からバタバタと足音がしてドアが勢いよく開き、娘のモモが走って来た。

「やっぱりパパだー!何でいるの?」と言いながらカインに抱きついて来た。

平日は仕事で遅くなり起きてるモモには会う事が無いので、モモはカインの膝に乗ってはしゃいだ。カインがモモを抱きしめて頬にキスをすると、モモはやっと落ち着いてニューが居る事に気付いた。


「パパ、この人誰?パパのお客さま?」と聞くとカインが「パパの弟だよ、モモの叔父さんだな」と答えると「じゃあキース叔父さんと一緒?」とナディーの弟の名前を言った。

「そうだね」とカインが答えると「じゃあ叔父さんって呼んで良い?」とモモが聞いたら、すかさずニューが「ダメー!ニューはニューだからニューって呼んで!」と言うと、その言い方が面白かったのかキャッキャッと笑いながら「ニュー?」と呼んだ。ニューは満面の笑みで返すと「モモよろしく。僕と友達になって」と言った。


それからニューはこの家の客間に住む事になった。朝が早く帰宅が遅いカインはこの2週間ニューに会う事は無かった。

ナディーの話でニューがモモとは仲良しになりニューが居ないとモモが寂しがってしょうがないことなどはわかった。ちょっと気になってナディーに「ニューは普段何をしているのかな?」と聞くとナディーは「日によって出掛ける時間も違うし、行く場所も違うみたい…」と答えたので「なんで場所が違うって分かるの?」と聞くとナディーが笑って「ニューさん凄いのよ!ファッションが日によって全然違くて、まるで別人なの!」と言いながら同じ場所に行くとは思えないと繰り返した。


カインがいつも通り運転手が待つ車に乗ろうと外に出るとバイクに乗って帰って来たニューと鉢合わせした。

バイクで直ぐ傍まで近づいてきて、轢かれるかと思って避けると、ニューは笑いながらヘルメットを外し「ビビった?」とからかう。うっすら化粧をしたニューがヘルメットで潰れた髪を掻き上げると何だか直視出来ない。

「からかうなよ!退いてくれ」と言いながら車に向かうと「仕事頑張って兄さん」と言って来た。カインが振り返って「お前も安全運転しろよ」と言うと舌を出してから笑った。舌のピンク色に何故かドキッとした。


カインは会社に着きPCを開いたが、ふと側に居る秘書に「悪いが調べて欲しい事がある。

家の事だけどお前以外に頼めない」と言うと彼の秘書のブルーが「弟さんの事ですか?」と直ぐ様返した。「どこで何をしてるか調べてくれ」と言うと何も言わず、頷いて出て行った。


カインは夕方から会議の後、その流れで政財界のパーティーに出席する。相変わらずこういった場所は苦手だ。以前は母の秘書という立場だったからそれ程でも無かったが、母の代わりにCEOになってからというもの、誰も彼もが挨拶に来る。若干人酔いしながら、一応失礼の無いよう笑顔で返すが、それ以上話し掛けられない様に今は彼の秘書が横でサポートしてくれる。


カインは普通にしていても目立つ。身長も高いし顔が整っていてスーツが似合う。清潔感の中に色気が漂っている。

この様な場所に来ると大概の女性が視線を向けて来る。勿論、既婚者だと知っていても、だ。

カインにその気が無くても、せめて少しだけでも近づきたい気持ちが女性達の視線となり彼を刺す。

カインはいつも通りお茶の入ったグラスを片手に極力目立たぬよう窓際に立ち、緊張を漂わせいる。こうしていれば無駄に話しかけては来ないからだ。

そうしていると急に会場の雰囲気が変わった。


ある大手企業の会長が入って来た。

左側に誰かをエスコートしている。

華やかなその人は、にこやかに笑顔を振りまいている。会場中が二人に集中して行くのが分かる。その様を見てカインは固まった。

会長の脇には見た事のないニューがいた。

会長より背が高くすらっとしていて、女性なのか男性なのか分からない魅力がありとても綺麗だった。

余りに驚いて固まっているカインにニューが気付いた。会長の腕を解きこちらに向かってくる。

途中でニューがシャンパングラスを手に取るとそのまま真っ直ぐカインへと進んだ。


カインはお茶の入ったグラスを秘書に渡すとニューからシャンパングラスを受け取った。

会場中が二人に注目している。

軽く乾杯してから一口飲んで「カインも来てたんだね」と名前で呼ばれた。

それからニューはカインの肩に手を置き口を耳元に近づけると「兄弟だってことは秘密にして、大変な事になるからね」と囁いた。

カインはまた体が粟立つ感覚に固まった。拒絶なのかどうか分からない。自分ではどうしようも無い初めての感覚だった。

ニューはそんなカインをイタズラっぽく笑って見ている。


ニューは近くで見ても綺麗だった。

涼し気な目元はアイカラーでキラキラしていて、ぽってりした唇も見た事がないくらいセクシーに彩られている。スーツの上着から覗く胸元は薄いレースの下に艶やかな白い肌が見え、胸元の白いパールが相乗効果で肌を引き立てていた。

「凄いな…驚いたよ」とカインが思わず洩らした。「僕、綺麗?」とカインを覗き込みながらニューが聞いて来た。カインがゆっくり頷くとニューは赤い唇から白い歯を覗かせて笑ってからシャンパンを一気に飲んだ。

カインはニューの白い喉仏が上下に動くのをただただ見つめていた。

「じゃあ失礼」と言ってニューはさっきの会長のもとへと戻って行った。

その後ろ姿をぼんやり見送ってから、カインはシャンパンを飲み干した。


帰宅してからも何だか寝付けずバルコニーでウィスキーのロックを片手に夜空を眺めた。

左が半分欠けた月が右側の空に浮かぶ。大小さまざまな星を見渡しながら気持ちが静んで行くのが分かる。

まるで自分は月の様だと思う。

母の光で照らされて浮かぶ月…。

ふとさっきのニューを思い出して何だか笑ってしまった。ニューはまるで真夏の太陽の様だと思う。強烈な光と熱を放つ。近くにいると危険なようで、でも近寄りたくなる。近づけば火傷するかもしれないのに…。

あんな凄いヤツが弟なのか…やっぱり自分とは似ても似つかない。


音がして見ると、門の前で車が停まり、運転手がドアを開けニューが降り立った。

後部座席に手を振り車を見送ると門を開けて玄関に近づいて来た。カインは静かに佇んでいたが、ニューが急に顔を上げてカインを見た。暗闇で分からないがカインを見つめたまま止まっている。

夜も遅いので何も言わずグラスを持ち上げる、ニューも面倒くさそうに片手をあげてから家に入った。


2日ほど経った午後、秘書のブルーが「社長、お時間よろしいでしょうか?」と聞いて来た。

時間管理はブルーがやっているので、良いも悪いも無いが一応頷くと「ニューさんの件をご報告します」と言い黒い表紙のファイルを開けた。

「社長宅においでで無い時は、よく、ある場所に出かけています。有名人がよく集まると言うJ&KCと言うクラブに行き、そこのオーナーの家や別荘に行っています。二人は小学校の同級生です。ニューさんがフランスに居た時もこの方が時折フランスに行っています。こちらがそのオーナーです」と写真を出したので見ると、パンクロックの格好をしポーズを取る長い黒髪が印象的な美人だった。


「彼女の家は芸能プロダクションを経営しており、美術商や文化財団なども手掛ける大手企業です。彼女自身もアパレル関連の企業を持ち、ニューさんをモデルとして起用し、ニューさんの作品も紹介しています。この事から二人が恋人同士だと噂されております」と言い「ニューさん自身もフランスで美術賞を取りフランスの飲料企業と契約し、関連会社や支社などとコラボ、またはプロデュースをしています。その為関わりのある企業の役員などと知り合っております。ただ普段の昼間は社長宅でモモさんの送り迎えや遊び相手をしています」と報告した。


カインは「ありがとう」と言ってブルーを下がらせるとファイルの他の資料を眺めた。

ニューと彼女の小さい頃の写真やフランスで撮った仲睦まじい写真、ニューが賞を取った作品やコラボした商品などを見る。自分とは違う世界が広がっている。エネルギーや不動産関連の企業を経営する自分とは、まるで関わりの無い世界だ。

ますます今更何故ニューがうちに関わるのかが理解出来ない。疑問が残るが何も思いつかないので資料を閉じて引き出しにしまった。


普段は案内が来ても参加しないが、あるフランスの有名ブランドの発表会とレセプションパーティに出席するとカインが伝えるとブルーが驚いて慌てて出て行った。

出席の連絡をして買い揃えたスーツを用意して戻って来たブルーはちょっと怒っていた。

「社長、出席するならもうちょっと早くに言って下さらないと!向こうが了承して下さったから良かったものの、普通は失礼ですので」と、はっきり言ってくれる。

「ごめん、悪かった」とカインが素直に謝るとブルーは「まあ社長の性格を考えたら、ファイルを見たら容易に想像出来たので、準備をしておかなかった私が悪いのですが…」と言った。


本当にこの男には頭が上がらない。

母の秘書をしていた時から自分の右腕として支えてくれた。小さい時に父が自分の友人兼護衛として連れてきて家で一緒に育った。喧嘩も沢山し、またお互いの恋も応援した仲だ。カインが唯一心を許せる存在になっている。

「兎に角早く着替えて下さい。30分後に出発します」と言うと社長室から出て行った。

今日行くブランドのスーツを着ると普段とは違い随分派手な気がして落ち着かない。車に乗ってからその事をブルーに言うと「これでも地味目な物を選んだんです。ギリギリ大丈夫です」と余計気になることを言う。今更どうにも出来ないので渋々黙った。


会場に着くとブランドの支社長がカインを手厚くもてなす。商業ビル開発などは関連会社に委託してるが適当に話を合わす。カインを接待用の席に案内する。

そうこうしているうちにニューと彼女が現れた。

ニューはこの前とは全く違い、皮のパンツにスタッズが散りばめられたジャケット、首には沢山のチェーンネックレスに黒系のメイクをし、ロック歌手のような出立ちで現れた。

彼女もニューに合わせたスタイルで似合っている。会場中の人が二人に注目した。ニューの方からはカインには気付かないだろう。

彼女が余程有名なのか沢山の人が声をかける。彼女はその度にニューを紹介している。

暫くするとさらに客が増えていく。

ふと奥から見知った人が歩いて来る。有名な女優だった。ニュー達と彼女がすれ違った。

それを見てカインは驚いた。この女優こそニューの実の母親だ。二人とも完全に目も合わさなかった。


カインはニューの存在を知った時にニューの母親を知った。父が母とは似ても似つかない、この女優と浮気した事が意外でならなかった。

でも今日実際に二人を見てやはり似てると思った。ニューの切長な奥二重の目元も、男性には珍しい上唇勝ちなふっくらした唇も母親に似ている。周りが気付かないかとヒヤヒヤするが、さっきの様子だと気付く人は少ないだろう。

母親が行ってもニューは全く変わらなかった。

暫くして彼女がニューの耳元で何か囁いている。

流石に彼女はニューの母親を知っているのだろう。ニューが一瞬キツイ顔をして何かを言うと彼女はそれ以上は何も言わなかった。

ショーが始まると席には居られずメイン舞台近くまで案内されると、カインが来ている事にニューも気付いた。だが前回のように近づいてくるどころかカインの事を固い表情で見ている。

何だか自分は何をしに来たのか分からなくなり、カインはショーが終わると早々に引き上げた。


一旦会社に戻り雑務をして帰る。社長室を出るとドアの前で運転手が待っていた。

ブルーは会場にカインを送った後すぐ様帰って行った。

「今日は妻の誕生日なので失礼します」と言い、今日行ったブランドの袋を抱えて去る後ろ姿を見て笑った。ブルーの妻もカインの学校の同級生だ。二人を結び付けたのは自分だとカインは思っている。ブルーが頼んだのだろう、護衛の為にここで待っていてくれた運転手に礼を言い帰路に着いた。


大分遅くなって家に帰ったがやっぱり寝付けそうに無い。最近すっかり睡眠不足だ。

またウィスキーを片手にバルコニーに出ると何か音がする。水の音だ。

反対側のバルコニーに移ると庭のプールで誰か泳いでいた。近くの弱い街灯と月明かりだけの暗い水面に時折、白い肌がチラチラと見える。

ニューだろう。

何故こんな時間に泳いでるのか少し心配になり見守っていると、プールサイドに上がった。タオルを取り拭きながら顔をあげるとバルコニーの方を見てカインに気付いた。

顔は見えないがじっとカインを見ている。

カインもじっとニューを見る。

暫くそのままでいると、いきなりニューがそのまま後ろ向きにプールに落ちた。

カインはビックリして目を凝らしたが、ニューが浮かび上がる気配が無いので慌ててプールへと走り出した。


カインはプールに飛び込むとニューの名前を呼んだ。返事が無いので暗い水面を掻き分けながら名前を叫ぶ。すると左側に白い背中が見えた。

急いで近づきニューを抱き上げると、そのままプールサイドへ引っ張って行きプールの端から持ち上げようとカインが必死になっていると、急にニューが笑い出した。

余りの事にビックリしてカインが固まるとニューはカインの肩を叩いて大笑いしている。

流石に頭に来たカインが「ふざけるな!」と一喝すると笑うのをやめた。


カインは呆れてため息を着くとプールから出た。

ワイシャツとズボンが濡れて張り付く。

プールの中からニューが「ごめん、兄さん…」と弱々しく言うので振り返ると泣きそうな顔をしていた。そのままにして家に戻る気にもなれないのでプールサイドに座ってプールに足を入れバタバタとしているとニューも上がってタオルで身体を拭いてから隣に座った。


何も言わずにそのまま水面を照らす弱い月明かりを見ていると「何で助けたの?」とニューがポツリと言った。

「当たり前だろ!」とカインが言うとニューが

「だって俺のこと嫌いだろ?」と弱々しく言う。

カインは考えてからゆっくりと「最初聞いた時は驚いたけど、しばらくして弟がいる事が何だか嬉しくて…未だ慣れないけど、別に嫌いじゃないよ」と言うとニューがちょっと照れたように笑った。


「俺はカインの事知ってた…昔から」とニューが言ったのでカインは驚いた。ニューが続ける。

「カインは知らないだろうけど、カインのお母さん、おばさんには凄くよくして貰ったんだ。俺は母方のじいちゃんばあちゃんに育てられたんだけど母は俺の子育てを完全に放棄してたからさ、父さんを頼るしか無くて、でも父さんは会いに来なかった…代わりにおばさんがいつも来てくれた。

誕生日も運動会も授業参観も、ばあちゃん達だけじゃ寂しいからって、本当の母親みたいだった。ってか本当の母親なら良いのにって本気で思ってた。じいちゃんばあちゃんの事も経済的に支えてくれて、俺の進路だって、いち早く俺の才能を認めてくれて、海外留学までさせてくれた。父さんが病気で危ないって聞いた時も、父さんより、おばさんの事が心配だったよ」と言って小さく笑った。


カインは「だからと言って父さんに会いに来なかったのはダメじゃ無いか」とずっと言えなかった事を言うとニューは固い表情で水面を見つめながら「おばさんがどんなに良くしてくれても両親に捨てられた事が辛くて俺はめちゃくちゃをするようになったんだ。じいちゃんばあちゃんには知られないようにしながら結構酷いことを沢山してた。そんな時、喧嘩して俺も怪我したけど相手はもっと酷くて入院しちゃって、直ぐにおばさんが駆けつけて来て、俺を殴って怒ったんだ…。いつのまにか俺もおばさんも泣いてて、俺泣きながら謝って、そしたらおばさん最後俺を抱きしめてさ、抱きしめながら言ったんだ。俺は一人じゃ無い、俺を愛してる人が居るんだから絶対に投げてはダメだと…甘ったれずに生きなさいって」いつのまにかニューは鼻声になっていた。「その後二人でご飯食べて、相手の家族に謝罪に行って治療費もおばさんが出してくれた」そう言ってからカインを見て「やっぱりアンタが羨ましいよ」と白い歯を見せて笑った。カインは何とも言えず、ニューのタオルが掛かった肩を軽く叩いた。

そこまで話すとニューは立ち上がりカインに手を差し出した。カインが手を借りてプールから出るとニューが「やっぱりアンタはおばさんに似てるな。顔も中身も」と言って家に入って行った。


それから暫くは、またニューとは会わない日が続いた。カインは相変わらず眠れない夜はバルコニーでウィスキーを飲んでから寝付く日々を送っていたが、帰ってくるニューを見かける事は無かった。

そんな時、会社に居るカインにニューから電話があった。何事だろうか?と出ると慌てた声でニューが「兄さん、モモが、モモが」と繰り返す。カインが「ニュー、落ち着いて!モモがどうした?」と返すと同時に社長室のドアが開きブルーが血相を変えて入ってきた。

「社長、モモさんが事故に遭い病院に運ばれました」と早口で言う。

カインは電話口のニューに「モモが病院に運ばれたんだな?」と確認するとニューが「早く来て!」と叫んだ。


救急治療室前に駆け込むとニューが立ったまま待っていた。ナディーは未だ着いていなかった。カインは看護師さんに呼ばれて中に入った。


病院に着くまでにブルーからあらかたの内容は聞いた。

モモは塾をサボり友達と秘密基地ならぬ、廃工場跡で遊んでいて、鉄製の階段から落ちた。

下にあった折れてさびたパイプに脇腹が刺さったが貫通はしておらず、そのままの状態で運ばれた。刺さったのが細いパイプでその部分からかなりの出血があり危険な状況だと言う事、またモモを発見して救急車を呼び運んだのがニューだったことを聞いた。


医師から、午前中に近くでバスを含む多重事故があり輸血が足らない事、叔父のニューは血液型が合わなかったのでカインの検査が終わり輸血の準備が出来次第直ぐに手術になること、それら全ての承諾書にサインするよう言われた。

母親のナディーは血液型が違う事を説明し検査を受ける。すぐに検査が終わりカインは輸血室で採血を受けた。途中、血が足らなくなったらもっと取って下さいとお願いしたら、手配した追加の輸血が後で来るので大丈夫だと言われた。


採血室を出て手術室前に行くとナディーが泣きながら座っていた。カインを見て駆け寄って来た。肩を抱きしめ落ち着かせる。

ニューは近くの椅子に座り呆然としていた。

カインはナディーを落ち着かせるとニューの隣に座った。ニューがカインを見て「大丈夫だよね?モモ…」と不安気な顔で聞いて来た。

カインは「きっと大丈夫、モモは運の強い子だから」と自分に言い聞かせるかのように答えた。


手術室のドアが開き医師が出て来た。

「かなり出血はありましたが輸血も間に合い無事に済みました。臓器の無事も確認出来たので、傷が治り次第退院になります。詳しい事はこの後、病棟責任者より説明があります。もう少しするとモモちゃん出て来ますが、麻酔が切れたばかりですので余り話しかけないで下さい。ではお疲れ様でした」と言って去って行った。

ホッとしたようにナディーが泣き崩れる。

カインが支えてやるとニューが厳しい顔で見ていた。

モモを個室に入れるとナディーが付き添いに残った。手続きをブルーに頼んでニューと病院のラウンジで話をする。


「モモのこと助けてくれてありがとう」と改めてカインが礼を言うと、首を振りながら「当然の事をしただけだよ」とニューが言った。

カインは謎に思ったことを聞いた。「モモが秘密基地だと言って遊んでた場所をニューは知ってたのかな?」と聞くと、ニューが「場所は知らなかったけど友達と秘密基地を作ったと言ってたから、何処?って聞いたら今度連れて行ってあげるって言われたんだ。で、今日は家に帰る途中でモモを見かけて…普通はナディーさんと一緒に歩いているはずなのに一人で、しかも塾の時間なのに、おかしいと思って追いかけたんだ。でも途中で見失ってしまって…どうしようか考えていたら、同じ制服を来た男の子が泣きながら道の真ん中で助けて!って叫んでた。慌ててどうしたのか聞いたらモモが怪我したって言うから助けに行ったんだけど…」とそこまで話して、辛そうに顔を歪めた。


カインがアイスコーヒーを差し出すと震える手で持ち一気に半分程飲んでからまた話し出した。

「鉄のドアが細く開いてて中に入ると暗くて、少し進んだ先が屋根から陽が差してて明るかったんだけど、そこにモモが倒れてたんだ…モモの下に赤い血が広がってて、震えながらモモに話しかけると、小さく「痛い…助けて…」って言ったんだ。どうしていいか分からなくて、兎に角救急車呼んで、救急車来たら警察も直ぐに来たけど、叔父だと言ったら先に救急車優先で病院まで来て、でも俺の血は使えないし、俺役立たずだよな…モモに何もしてあげられなかった」と言って涙を流した。

カインは震えていたニューの手に自分の手を重ねて握ると「そんな事はない。ニューがいなければモモは助からなかったかもしれない。よくやった。ありがとう」と言った。


後からカインとニューで警察に行き、あった事を説明すると、一緒にいた男の子も両親と来て話した内容と合っていたので事件性が無いと判断され、直ぐに帰された。


帰りに病院に行くとナディーがモモは痛み止めでずっと寝ていると説明し、自分はこのまま付き添って泊まると言ったので二人で家に帰った。

家に帰るとお手伝いさんがモモの荷物を持って病院に行って不在だったので、ニューが夕飯を作ると言った。カインは普段全くキッチンにも入らないがニューが作るので手伝うつもりだったが、カインの様子をみたニューに早々に追い出された。皿やフォークを並べていると凄い良い匂いがする。たまらずキッチンに行くと味見だと言ってニューから出来立ての料理を一口食べさせて貰った。余りに美味しかったので感想を言うと嬉しそうにニューが笑った。

モモが助かったのが嬉しくてカインはとっておきのワインを開けた。


ニューが作った夕飯はどれも美味しかった。

カインは週末は家で食べるが、お手伝いさんが作る安定の味なので美味しいは美味しいが、ニューの料理は容赦なく辛いし、全体的に味にパンチがあってワインが進んだ。

二人とも酒が回り、母の話しや学生時代の話や、ブルーの事など、たわいの無い話しで笑った。カインはこんなに笑うのは久しぶりだと思いながら楽しくてしょうがなかった。

兄弟って良いなって思いながら「そう言えばニューの血液型は何だったの?」と聞いた。


ニューは「俺は珍しいAB型なんだ。だからモモに血をあげられなかったんだ」と言った。

それを聞いてカインの胸がチクッとする。

自分のO型とは兄弟になり得ないのではないか?と疑問が頭を駆け巡る。

でも死んだ父から弟の話をされた時にDNA鑑定書も見たので、ニューが父の息子なのは間違いがない。どう言う事なのか?と考えていると、ニューが目の前で手をヒラヒラさせて「兄さん酔った?」と聞いて来た。笑いながらカインの顔を覗き込む。カインの胸がドキンとなった。

カインは平静な顔をして「うん、ちょっと酔ったな。先に休むよ」と言ってその場から逃げ去った。


次の日に早速その事をブルーに伝えるといつも冷静なブルーも考え込んだ。

ブルーを連れて来たのも父だ。

ブルーが「私もニューさんを調べた時にあの叔父さんが浮気をした事があるのが、何だか納得いかなくて違和感を感じたんです。調べてみます」と言って出て行った。


モモは子供ながらの回復力で順調に良くなった。

来週にも退院できるようだ。

カインは2〜3日毎に会いに行ったがニューは毎日会いに来ているとナディーから聞いた。

カインは何と無く冷静に会えない気がしてニューを無意識に避けていた。

そんな時、やはり外せない会合とパーティがあり、いつも通りの様子で出席していると何故かニューがナディーを伴って現れた。

前回同様、ニューは会場中の視線を浴びている。

隣のナディーは殆ど公の場に出ないが、目を引く美人の同伴に周りも何者かと噂している。


二人が寄り添って楽しそうに話をしているのを見てカインの胸がまた騒ついた。何かチクチクして苦しい…。二人がヒソヒソと近づいて話をしているのが気に入らない。

カインはそんな思いに自分で気付いて、これは嫉妬か?と自問自答する。

ただ、果たしてどちらに嫉妬しているのか、もはや分からない。ナディーに馴れ馴れしくするニューになのか?それとも…

 

気付かずに厳しい表情をしていたようだ。ナディーがカインに気付いて近づいて来て直ぐに謝る。「貴方すみません。勝手にこんな場所に来てしまって…ニューさんに誘われて仕方なく来たのですが、まさか貴方がいるなんて…申し訳ございません」と言ったので、カインが「別に君がパーティとかに来るのは全然構わないよ、参加したいパーティがあるなら俺も出来る限り付き合おう」と言うと、ナディーは「別に好きでは無いんです。今回だけニューさんに頼まれて…」と弱々しく笑った。

カインは何故ニューがナディーを連れて来たのかさっぱり分からなかった。

ナディーが化粧室に行ってカインが一人になるとニューが近づいて来た。

やはり華やいだニューは男性か女性か分からないような不思議な魅力でとても綺麗だった。


「カインも来てたんだね」と言うニューに「知ってて来たんだろ?」と返すと「バレた?」と舌を出してから笑う。やはり舌のピンク色にドキッとなる。

「どう言う目的?」とカインが聞くと全く別の事を言う「なんか僕のこと避けて無い?」と聞いて来たので何も答えられず目を避けてしまった。胸が苦しい…。

唐突に「僕、もうカインの家を出て行くよ」とニューが言ったので「なんで急にそんな事言うんだ?」とニューの腕を取ってカインがキツく言うと、ニューが顔を歪めている。

つい強く握ってしまった手を緩めて「すまない…」とカインが謝ったところでナディーが戻って来た。

「すみません、私やっぱり先に帰ります」と言うので秘書のブルーに目配せして送るように指示する。帰って行くナディーの背中を何故かニューが厳しい顔で見ている。


ニューが誘って人が少ないバルコニーに出ると「言うか悩んだけどやっぱり言うよ、ナディーさんには男がいる」とニューが言うのでカインが「知ってるよ、モモの絵の先生だろ?」と答えると今度はニューが驚いてカインを見た。

カインが「良いんだ、ナディーは妻としても母親としても良くやってくれているから」と言うと、ニューが怒って「何だよ!それ!カインはそれで良いのかよ!」と言った。


カインは「俺達は家同士が決めた相手でお見合い結婚だったんだ。でもナディーは俺のことを気に入ってくれて上手くやって来た。でもモモが生まれてモモに対する俺の愛情がナディーを傷つけてしまった。俺がナディーを愛して無いと散々なじられた。でも家同士の約束もあってナディーは我慢してくれた。そのうち夫婦と言うよりは相棒みたいな関係になって行ったんだ。だからナディーからは他に好きな人が出来た事は聞いてたし、でもモモが成人する迄はお互いこの生活を続けて行こうって話し合ったんだ」と言った。


ニューが唖然として「あんたはそれで良いのかよ!好きだったんだろ?」と聞くので、少し考えてから「俺は誰も好きになったことは無いのかなぁー?」と言うとますます呆れた様子で「はぁ?」とニューが目を見開く。

その顔が可笑しくてカインが笑ったらニューが「真面目に話ししてんのに!なんだよ!」と怒った。「ごめん、ごめん。でも本当に分からないんだ。初めて付き合ったのもナディーだったし」とカインが言うと、ニューが「今まで誰かにドキドキしたり苦しくなったりした事あるだろ?」と言ったので思わずニューを見つめてしまった。

見つめながら、違うこれは違う、と自分に言い聞かせる。いつの間にか首を振っていたカインを見て、ニューは「あんた人を好きになったこと無いのか…はぁー、つまんない奴」とため息混じりに言った。「あのおばさんの息子なのに…俺が今まで出会った中で1番つまんない生き方してるよ!あんた」と言い捨て去って行った。


秘書のブルーから報告を受けた。

病死した父は俺の実の父親では無かった。

病院に手を回し、父の血液型を偽ってまで俺に秘密にしていた理由が分からない。

父の実の息子はニューだけなのに、何で会いに行かなかったのか?俺に向けてくれた愛情は何だったのか?考えれば考えるほど分からない。

そんなカインの様子を見てブルーが「社長、その状態では仕事は無理ですので、一度お母様に会いに行かれてはどうでしょうか?」と提案した。

確かに母に話を聞くのが1番だろうと思い、母のいるイギリスに行く事にした。

母に連絡すると予想していたのか、来るならニューを一緒に連れて来いと言われたのでニューに言うと了承した。


飛行機やホテルなどは全てブルーが手配してくれた。カインはニューと一緒に運転手に空港まで送ってもらう。ニューはずっと黙っていた。

飛行機のファーストクラスに乗っても余り話さないニューが気になっていたがカインも余裕が無くてなかなか話せなかった。

ロンドンに着いた日はそのままホテルに泊まり明日母のいる郊外へ車で向かう。


ウィスキーを頼み、飲みながらバルコニーに出ると隣りの部屋のニューがやはりバルコニーに出ていた。ニューがカインに「話があるからそっち行って良い?」と言うので頷くと「俺もウィスキー飲みたい」と言った。

部屋にウィスキーが届くのを待ち二人でバルコニーに行く。

少し肌寒い。細く鋭い上弦の月が空の端に光っていた。

軽く乾杯をすると「乾杯、兄さん…もう違うけど」とニューが言った。

カインは驚いてニューを見たが、何と無くニューも気付いてる予感があったので納得し「ニューはいつ知ったの?」と聞くと「モモの病院の後」と答えた。


「俺の血が輸血出来ないと知って、直ぐにナディーさんに何度も電話したんだけどナディーさん繋がらなくて、そしたら兄さん…カインがナディーさんは違う血液型だからと言って自分が輸血してたから、ちょっと疑問に思ってさ。

おばさんの血液型は知ってたから、カインと俺の血液型で兄弟ってどうなのかと思って…悪いけど知り合いに頼んで無断でDNA鑑定したら兄弟じゃなかった」とニューが軽い感じで言った。

カインが言葉を迷っているとニューがまた話始めた。


「俺、こっちに帰って来たのはカインの家族をメチャクチャにする為だったんだ」と言った。

カインが驚いてニューを見るとニューは真っ直ぐ前を向いたまま続けた。

「正直、俺は父を恨んでた。そんな父が大切にしたアンタの事も」と言う。

「俺の母親を知ってるんだろ?」とニューが聞くのでカインが頷くと「あの人は昔から男にだらしなくて、俺を居ないものの様に放置してた。

父親だけは俺を認めてくれるんじゃ無いかと思ってたんだけど違ってた」と言って悲しそうに笑った。

「ある日おばさんが俺を引き取りたいとじいちゃんに言ってたのを偶然聞いてさ、俺凄い嬉しかったんだ。大好きなおばさんと父とお兄ちゃんと一緒に暮らせると思って、じいちゃんやばあちゃんと暮らすのも良かったけど何か物足りなくて…だから家族として3人と一緒に暮らすのを楽しみにしてたんだ!だけど…」そこまで言って黙る。


カインはこの後ニューが言おうとしていることが分かり、居た堪れずニューの背中を撫でた。

ニューがウィスキーを一口飲んでから「じいちゃんに父から電話があった。一緒に暮らすのを反対したようだった。おばさんが良いって言ってるのに何で?って思ったよ。それで分かったんだ。父にとってあの母との間に出来た俺は居ない方が良かったんだって…」と言った瞬間ニューの目から涙が溢れた。

「俺もあの女が大嫌いだったから、父の気持ちは分かった。でも同時に父の事も大嫌いになった。俺は捨てられたんじゃない、俺から捨ててやるって決めた。で、いつか仕返ししようと思った」と言ってニューは涙を拭いた。


ニューがカインを見た。カインの目を見つめたまま「だから父の病気を聞いても会わなかったんだ。でもそれが父への仕返しになったかどうか分からなかった…だから父が大切にしたアンタをぐちゃぐちゃににしようって思ったんだ」と言った。

「でも、あんた底抜けにお人好しで、おばさんとそっくりだし、アンタの家族も非の打ち所がなくて…そしたらナディーさんが浮気してるのを知ってさ、俺浮気する奴が大嫌いだからナディーさん使ってカインの家族をバラバラにしようと思ったらアンタ知ってたし…何だよ!浮気されたのに怒んないのかよ!って逆にムカついてさ、アンタは俺の敵なのにさ」と言った。

それからニューはもう一口ウィスキーを飲んでから「カインはやっぱり変わってるよ」と言って小さく笑った。


カインは何だかニューがとてつもなく愛おしくなって背中に置いた手を回してニューの肩を抱いた。ニューは振り解いたりせずに、そのまま夜空を見上げた。

大分寒くなってきたせいかニューの鼻が赤くなっている。カインもニューの体温を感じてからウィスキーを飲んだ。


次の日早々に出発したが母の居る郊外は思ったより遠くて昼を大分過ぎてから着いた。

母の住む家は大通りから外れた住宅街にある。

着くと直ぐに母は、まずはご飯だと言って3人で食事をとった。母は以前から身の回りの世話をしてくれているサリーを連れて来ていた。サリーが作ったイギリス料理はカインやニューに合わせてアレンジされていてとても美味しかった。母は二人が沢山食べるのを嬉しそうに見ていた。カインは父が亡くなってからこんな風に笑う母を久しぶりに見た気がした。


食事が終わりお茶を飲み終わった後、母とニューと3人でソファに移動した。たわいもない話をしていたが、母がそろそろ本題に入りましょうか?と言って口火を切った。

母が「二人とも兄弟じゃないって知ってるのよね?」と言った後、「じゃあ、あの人の嘘も気付いたって事でいい?」と言ったのでカインが「なんで病気の時に血液型を偽ってまで俺に隠したのかが分からないんだけど…」と言うと母が「あの人は貴方の本当の父親になりたかったから…」と寂しそうに言った。


父は母の教育係兼護衛として母が小さい頃から側に居た。イギリス留学にも付いて来ていたがそこでお互い好き合っている気持ちを確認して帰国するも、母の父、カインの祖父の反対に遭い、母は政治家一家の跡取りと結婚、カインを授かったがその相手が酷過ぎて別れる事になった。

「父は跡取りのカインが生まれた事や政治家だった夫が不正で失脚した事でやっと離婚を承諾してくれたんだけど…私が会社を継ぐ事になって、私が見れないうちに父がカインに対し酷い教育をしていたの、でも忙しくて何も出来なくて、カインを救う為にあの人に連絡をしたのよ」と母が言った。

「あの人はずっと一人で居たけれど、私の片腕として戻るのに父が条件を出したの、それがニューのママの女優との結婚だった」と続けた。

「父はあの人を良く理解していたから結婚したら浮気はしない事や、ましてや子供が出来たら絶対別れないことを知っていて条件を出したのよ」と言って母は辛そうに遠くを見た。


ニューの母の女優には当時、政財界の大物のバックが付いていた。でも父に好意を寄せたニューの母を父と一緒にしたかった意図があり、カインの祖父がそれを手助けする形で条件にしたのだと母は言った。

「あの人はそれを承諾したわ…私にはカインが1番だったし、あの人との仲より、とにかくあの人に側に居て私とカインを助けて欲しかった…酷いわよね。自分の都合しか考えなくて…」と言って言葉を詰まらせた。


「あの人は条件通り結婚してニューが生まれた。そして私達の元へ来てくれるようになったんだけど…」とそこまで言ってから母はニューとカインを交互に見て、二人の手を取った。

「ニューのお母さんが勝手に離婚届に印をして出て行ってしまったの、丁度私の父も亡くなって私達にも大変な問題が起こっていて、あの人はどっち付かずのまま何日も悩みながら限界までニューの面倒と私達の面倒を見ていたわ、そんな時にカインが誘拐される事件が起きたの」

初めて聞く母の話にカインは驚いた。

小さかったし記憶に無い。ニューも顔を強張らせている。

「結局会社の実権を握りたかった親戚が関与した事件だったけど早々に解決して無事にカインは戻って来たわ、でも幼い頃に私の父…、カインが祖父に受けた虐待を思い出して病気になってしまった。私は会社もあるし見てあげられ無い中、あの人は決断をした、カインの父親になると…」母は泣きながらニューの手を強く握って「ごめんなさい。ニュー…貴方からお父さんを奪ってしまって」と言った。

ニューの瞳から涙が溢れた。


「それからあの人はニューをお祖父さんとお祖母さんに預けて一切関わらないようにしたわ。会えば自分の子がかわいくなってしまうかもしれないと言って、何を言っても頑として会いに行かなかった。代わりに私があの人が出来なかった事をニューにしたのよ」と言ってニューに微笑んだ。

「以前ニューに貴方を愛してる人が居るって言ったわよね?あれは私もだけど、あの人の事を言ったの」と母が言うとニューはたまらず泣き出した。


「あの人は貴方のこと本当に愛してた。だから貴方に会わずにカインを愛情たっぷりに育てたのだと思うの…いつか必ず私やカインから貴方に伝わるはずだと信じて…」と言った後、泣いて震えたニューを抱きしめた。「でも貴方から大切なお父さんを奪った事にかわりはないわね、本当にごめんなさい。ごめんねニュー…」と言いながら母は泣いた。泣きながらカインを引き寄せ3人で抱き合ったまま「カイン、カインはその事を絶対に忘れないで、ニューを大切にして、例え血が繋がって無くても、あの人の分までニューを愛して、お願い」と言うので、カインも「分かった。ごめんニュー、俺達を許して」と言うと母とカインに抱きしめられながらニューが頷いた。いつのまにかカインの頬も濡れていた。


ひとしきり泣いた後は3人でいろんな話をした。

カインが忘れていた誘拐事件の事や、父さんとのイギリスでの事など、ニューがやった悪い事を母が語る際にニューが母の口を塞ぎにかかるのを制して話す様はまるで本当の親子だ。カインは改めて母の凄さを知った。

きっと父の愛情はこの母を通してニューの優しさを培ったのだろう。ニューは親を恨んでいると言いながらも、モモや母に対する態度に優しさが滲み出ている。とても愛情が深いのだろう。何も知らずに普通に生きて来た自分よりずっと優れた人だと思う。母とニューを見ていると、とても幸せな気持ちになるとカインは思った。あっと言う間に時間は過ぎた。


母が今日は帰らずに泊まれとしきりに言うのでカインもニューも逆らわずに頷いた。

サリーがタイ料理の材料を買い込んで来たのを見てニューが料理を手伝いに立つ。

相変わらずカインは邪魔になるので母と待っていると、不意に母が「二人が仲良さそうでホッとしたわ」と言い笑った。

「貴方はなかなか心を開かないのに、やっぱりニューはあの人の子供ね、凄いわ」と言った。


夕飯はサリーさんの絶品料理にニューのスパイスやソースが効いて美味し過ぎた。ワインも進み3人とも大分酔って母はさっさと寝室に行ってしまった。

サリーさんがカインとニューを寝室に案内してくれた。案内されてカインもニューも固まった。

「エッ!二人同じ部屋なの?」とニューがサリーさんに思わず言うと「はい、客間は一部屋しか無くて、奥様に聞くとお二人一緒で良いと言う事だったので」と返した。

見たところ、まあまあ広さはあるが、なんと言ってもベッドが一つしか無い。ニューがリビングで寝ると言い出したのでカインは「俺は良いよ!ベッドも広いし二人寝られるだろう?」と言うと何故かニューが不機嫌になった。


パジャマに着替えてベッドへ向かうとニューが背中を向けて寝ていた。

カインはなんとなく余り見てはいけないような気がして静かにベッドに入り、電気を消そうとするとニューが寝返りをしてこちらを向いた。

長い睫毛に柔らかそうな頬、ふっくらした唇が少し開いていて寝息が聞こえた。

カインの胸が急にドキドキした。見てはいけないと思いつつ弱い灯りに照らされたニューの寝顔に見入ってしまう。

つい触りたくなってニューの頬を右手で包んでしまった。そのまま唇に触れると余りの柔らかさにまた体が粟だった。ニューが唇をゆがめたので慌てて手を引いた。

カインはニューの出ていた片側の腕を取り布団の中に入れると、電気を消して反対側を向いて寝た。


浅い眠りを何回か繰り返し明るくなって来た窓の光を見てカインは起きた。背中に体温を感じる。ニューの腕がカインの胴体に乗ったまま振り向くと振動でニューが起きる気配がした。

カインはとっさに寝たふりをする。

ニューの腕が退いたのを感じながら目を瞑り続けていると、不意に唇に温かい柔らかな物が当たった。それが何か分かるか分からないかの瞬間カインの身体に電流が走った。動けないまま身体は硬直している。

ニューが小さな声で「大好きだよカイン」と言った後、そっとベッドを出て行く。部屋のドアが小さく閉まる音がしてからカインは目を開けた。


カインは目を開けたまま起きれずに居た。

唇に当たったわずかな感触とニューの高いけどハスキーな囁き声を心に留めようとしているかのようにずっと頭の中で反芻していた。

硬直していた体が解けて行く代わりに胸が苦しくなる。苦しさを通り越して痛いぐらいだ。

カインは暫く胸を押さえていた手をギュッと握り、とうとう身体を起こした。

窓の外はすっかり明るくなっていた。


帰りの車中ではなんとなく二人とも黙ったままで、カインは昨日、泣いた後にお酒を飲み酔った上、寝不足がたたり深く眠ってしまった。

途中気付くとニューもカインの肩に頭を持たれて寝ている。その重みにホッとしながらまた寝入った。


ホテルに戻りブルーに連絡する。

母と会ったお陰で落ち着いた事や会社の事を話し、明日午後の便で戻ることにして、ニューにそのことを伝えると一緒の便では帰らないと言われた。

カインは一抹のさみしさを感じたが、直ぐに会えるからと自分を宥めた。

ニューは今夜一緒に食事しよう、と言って行きたかった店の予約を頼んで来た。

人気店だったが知り合いづてにオーナーに直接頼むとなんとか席を用意してくれた。


約束の時間になってニューの部屋をノックすると直ぐにニューが出て来た。

ドレス姿のニューを見てカインは唾を飲み込んだ。

綺麗だった。

初めてパーティで会った時よりも更に数段綺麗だった。

口を開け固まっているカインを見てニューが「これが本当の俺なの。驚いた?」と聞いたので「イヤ、あんまり綺麗だから驚いただけ」とカインが素直な感想を言うと「ありがとう」と言ってニューが最高の笑顔で答えた。


レストランでは、そろそろメインが来る頃になってもカインの胸は落ち着かなかった。

何かフワフワしているかの様に、話が頭に入って来ない。代わりに絵を見ているみたいに、ニューの姿と周りの視線ばかりに目が止まってしまう。

明らかにニューに好意の目線を送ってくる奴もいて、その度に相手を睨みつけてしまう。

そんなカインを見てニューは柔らかな笑みを浮かべて「カイン、俺を見て!これ美味しいよ」と言ってなだめられた。


なんとか食事を終えレストランを出ると、ニューがカインの腕を取り川沿いの歩道に連れて行く。少し暗いが街灯がニューの姿を妖精の様に輝かせていた。

カインは二人きりになってやっと落ち着いて来た。

ニューに「美味しかった?」と聞くとニューは頷きながら「カインは?落ち着かなかったよね?俺と居ると悪目立ちするから」と言った。

カインは「仕方ないよ、ニューが綺麗だから…」と素直に言うと、またニューが最高の笑顔を返して来た。胸が痛い…。


「俺の姿に驚かないの?」とニューが言うので「以前パーティで見たしな、でも男の格好も今日みたいなドレス姿もどっちも何だかニューらしいな」とカインが言うと、真面目な顔で「俺は女とは付き合えないんだ」とニューが言う。カインは幼馴染の彼女の名前を出して「付き合ってたんじゃ無いの?」と聞いた。

ニューは頷いてから「以前一度付き合ったけど、お互い違う事が分かったんだ。アイツも俺を理解してくれてからはずっと親友だよ」と言った。


二人で川面を見ながら立っているとニューがこちらを見ずに言った。

「カイン、俺がカインに会いに行ったのは、カインに復讐するつもりだったと言ったけど、本当はちょっと違う…俺はカインに憧れてたんだ」と、カインはニューを振りかぶって見た。

ニューはちょっとだけカインを見て直ぐにまた川面を見ながら続けた。

「大好きなおばさんの子供で、俺の腹違いの兄、小さい時から興味あったけどおばさんは絶対に俺の前ではカインの事を褒めないし、そもそもあんまり話さなかった。俺がどんな奴か聞いても普通の子だと、とりわけ出来る子でも無いって言ってたのに一度だけカインを褒めた事があるんだ」と言うのでカインは気になり「どんな事?」とニューに聞くとニューが留学していたフランスに母が来た時の事を話し始めた。


「カインは大学を卒業して直ぐにおばさんの仕事を手伝ってたよね?それ以外にも幾つかの関連会社を任された。その一つを元に今の次世代エネルギーの会社を立ち上げた事を経済紙で読んだんだ。それを見せて兄さん凄いね、と言ったらおばさん初めて頷いてさ、私では出来なかった事をカインがしたって言ってたよ」とニューが言った。

カインは今のエネルギー会社創立時、宣伝の為沢山の取材を受けてた事を思い出した。

それを見ていてくれたのかと嬉しくなった。


「おばさん、俺の好きな自然や文化を守るのに必要な事業を始めたカインはすごい、あの子の仕事で1番の功績になるって言って初めて褒めたんだ」とニューが言ってカインを見た。

カインはニューの視線を笑顔で受け止めると「ありがとう、嬉しいよ」と言うとニューが眩しそうに目を細めて「やっぱりアンタはずるいよ、アンタを嫌いになれなかった…悔しいな…」と言ってため息を吐いた。


それからおもむろに「俺カインが活躍するのが嬉しかった。自慢の…兄だったよ」と寂しそうに言ってから「でも兄弟じゃなかった、知った時はショックだったけど、どこかでホッとしてる自分も居て…」と言って言葉を詰まらせる。

「俺、あんたを好きになってたみたい。兄弟としてじゃなく…呆れるだろ?俺みたいな弟が出来ただけでもびっくりなのに、復讐するだとか、好きだとか、迷惑以外なにものでもないよな、笑える…」と言って自嘲気味に笑った。


泣きそうな顔をしたニューを見ながらカインは今ニューが言った事を反芻する。

驚いたカインがニューに「ニュー、俺のこと好きなのか?兄弟としてじゃなく?」と聞いてしまう。

ニューは目を合わさずに頷いてから「ごめん、忘れて、俺消えるから」と言って背を向けた。

ビックリしたカインがニューを後ろから抱きしめた。ニューは一瞬ビクッとなった後、固まっている。

カインはニューが今にも消えそうだと思いながら腕に力を込めたまま「何処にも行くな!ニュー」と言った。

「同情とか、そんな類の優しさなら要らないよ。俺は大丈夫だから」と腕の中で弱々しく言うニューをカインはますます強く抱きしめた。


「俺は今まで誰も愛したことないのかもしれない。ニューが言ったように気になって苦しくてでも会いたいのはニュー、お前だけだ」とカインが言うと、ニューが「それは弟だと思ったからだよ」と言うので「違う!俺も気付いてた…ニューを弟としてじゃなく好きになってた事、でも初めての感覚で、分かる迄に時間がかかった。

ニュー、好きだよ」とカインは言った。


カインは腕の中で震えているニューを振り返らせた。ニューの頬が濡れている。

堪らず涙を唇と手で拭い取るとニューがカインの瞳を覗き込みながら「本当に?」と聞いたので、その口をカインの口がふさいだ。


軽いキスをしてから「好きだ、ニュー」ともう一度言うと、今度はニューがカインの口をふさぐかの様にキスをして来た。カインは離さないようにニューの頭を手で押さえてから深いキスをした。

ニューがカインを受け入れ応えてくれる。

ニューの温かくて滑らかな舌の感触に頭が痺れた。

あの桃色の舌が自分の口に入って来た瞬間、強く吸い取る。絡めて確かめる。堪らない喜びが身体中に走る。暫くそうしてからやっとキスをやめた。

ニューの濡れた瞳が愛しい。もっと、もっとと何度かキスをしてからニューを強く抱きしめた。


二人でホテルに戻ったが離れたくなくて、とりあえずシャワーを浴びてからカインの部屋で飲み直す事にした。

二人ともパジャマに着替えリラックスした状態になると何だか恥ずかしい。

カインはウィスキーの入ったグラスを片手に持ちもう片方の手でニューを連れてベッドに行った。ベッドに座ってニューを抱きしめる。

抱きしめながら「俺あんまり経験が無いからどうしてあげたら良いか分からないんだ」と正直に言った。

そんなカインの背中を撫でながらニューは「カイン、無理しなくて良いよ。俺はカインとこうやって抱き合っているだけで良いんだ」と言ってカインの頬にキスをした。


灯りを落とした中でニューが「ずっとこうしたかった」と呟いた。

カインはニューの頬を手で包み確かめるように優しく撫でてからニューの唇を触った。

「昨日の夜、寝てるニューの顔を今みたいに触ったんだ」と告白した。

ニューが起き上がって「なんだよー!俺、カインが一緒に寝るのを何とも思って無かったから頭きてたのに!意識してるの俺だけ?って」と言って笑いながらカインのお腹を叩く。

その手を押さえて「ごめん、ごめん」と言うと

、今度はニューが「俺も今朝寝てるカインにキスしちゃった」と照れながら言うので「知ってる」とカインが言うと、ニューがビックリした顔で「なんだよー!寝たふりしてたのかよ」と言ってまた叩いた。

カインは笑いながらそれを交わして「ごめん、許して、俺嬉しすぎて直ぐには分からなかったんだ、夢かと思って…」と言うと、ニューは朝と同じく「大好きだよ、カイン」と言ってキスをした。


カインはニューを後ろから抱きしめたまま横になった。ニューの柔らかな髪からいい匂いがする。ニューの首にキスをすると、ニューの身体が僅かに震えた。もう少し、あと少しとニューの身体にキスをするとニューが甘い声を上げた。

その反応がカインを大胆にさせる。

押さえられない衝動のままニューを求める。

カインはもう何も考えられなかった。

こんなに何かを求めたことは無かった。

ニューもそんなカインを優しく受け止めてくれる。もう何も怖く無かった。どんな姿を晒しても良いと自分を解放する。

ニューが目の前に居る。俺に愛を注いでくれている。それだけで全てが満たされて行く。

ニューの声や温もりに集中する。

ニューの名前を夢中で呼んだ。

今まで味わったことのない悦びに満たされたまま果てた。

カインは泣いていた。ニューを強く抱きしめキスをした。胸が熱い。ニューがカインの涙を唇で拭った。


カインは少し落ち着くと抱きしめたニューの体を見る。ニューの汗ばんだ肌が光る。

少し赤らんだ肌が堪らなく色っぽい。

カインがニューの身体のラインを舌でなぞるとニューがしなやかに反応した。

ニューの身体はまるで白いカサブランカだ、大輪のその花の甘い香りと蜜に吸い寄せられる様に魅了される。

カインは蜜をたっぷり蓄えた雌蕊に口を寄せた。ニューの声がまたカインを刺激する。

ニューの声を聞きたくて執拗に求めた。

分からないうちにニューと一つになっていた。ニューは最初辛そうに顔を歪めた。

カインはそんなニューを優しくキスして抱きしめた。

ニューの目に涙が光る。

辛いのか気持ち良いのか分からない。

でもカインは止めることが出来なかった。

ニューがカインの名を呼ぶ。カインもニューの名を呼んだ。

もう無いぐらいに達した時、ニューは「愛してるよカイン」と言って泣き声で喘いだ。

カインはニューの首筋を吸ったまま果てた。

ニューの花から蜜が溢れ出ていた。

激しく呼吸しながら上下に揺れるニューの身体にカインも合わせて上下する。

そのまま落ち着くのを待ってから「あいしてるよ、ニュー」と言ってキスをした。


久しぶりにぐっすり寝たとカインは思った。

起きて直ぐ昨日抱きしめて寝たはずのニューを探す。ベッドに居ないので起き上がり、部屋着を来て探す。カインの部屋には居ない。

自分の部屋に戻ってシャワーでも浴びて居るのかと思ってニューの部屋に行く。

カインはニューの部屋で声を掛けながら探したが居ない…よく見るとニューの荷物が無くなっていた。

直ぐにフロントに聞くと今朝早くにチェックアウトしていた。

慌てて自分の部屋に戻り着替えて追いかけようとしてベッド脇に置いてある封筒に気が付いた。

ニューの手紙だった。


カインへ

カイン今までありがとう。

カインに会って、カインを好きになって、カインを愛して本当に良かった。

昨日初めて、生きて来て良かったと思えたよ。

本当に幸せだった。


だからもう行きます。

カインには家族がいるから、僕はモモが大好きだから僕みたいな思いをしてほしく無いんだ。

カインが愛してる人に傷付いて欲しく無い。


カインと会わなかった間、ずっとどこかでカインを意識してた。会ってからも、いつでもカインを探してたし、カインがどう思っているのか気にしてた。

結局僕はカインに捉われてた。

カイン、僕はずっと貴方に夢中だったんだ。

だから離れても大丈夫、今までもこれからもきっと僕はカインに夢中だよ。だからずっと愛してる。さよならカイン。

ニューより


カインは声をあげて泣いていた。

ニューが居なくなる?会えないなんて耐えられない。

いつの間にニューの存在がこんなに大きくなってたのか分からない、辛い、苦しい。


会ってからずっと、いや存在を知ってからずっとニューを気にしていたのは自分だった。初めて会った時から魅了されていたのは俺の方だった。いつも目で探して、気にして寝不足になるぐらいニューに夢中だった。ニューの虜だった。

笑った顔も、声も、雰囲気も全てが自分とは違い、自由で眩しかった。


知らなかった。

こんなに誰かを求める事があるなんて、家族以外にこんなに深く愛する人が出来るなんて、その事がこんなに幸せで辛いなんて…。

カインはニューの名前を呼びながら泣いていた。


昨日のキスの暖かい温もりや肌の滑らかな感触は?

カインを挑発する眼差しやモモに向ける柔らかな微笑みは?

涙で濡れた黒目がちの瞳、艶やかな頬、ふっくらした唇、寂しげな肩、料理する細い指、目が無くなるぐらい笑う顔…どれも、どれも魅力的なニューの全てが消える。

胸が痛い…痛くてたまらない。


こんなに泣いたことは無いぐらい…胸が苦しくて痛くて、ニューが愛おしくて寂しくて涙が溢れる。カインは子供の様に声を上げて泣いていた。


暫く泣き続けてボーっとしていると窓から風が入って来た。窓辺のカサブランカの香りが漂ってきた。

ふとニューが心配になった。

自分がこんなに辛いのだから、ニューもきっと泣いているだろう。ニューの涙を拭いてあげたい。抱きしめ背中をさすってあげたいと思いながらも、決心し旅立ったニューを凄いと思った。


ニューが決めたなら、ニューが我慢するなら自分もそうするしか無いのだと、改めて思った。

愛してるニュー、ずっと変わらない。

ニューの存在があるだけで幸せなのだと、自分に言い聞かせた。

カインは涙を拭いて空港に向かう準備を始めた。


あれから一年が経とうとしていた。

あの後、帰国してニューが居なくなった事を言うとモモは荒れた。

それまで余り手のかかる子じゃ無かったのに、わがままをし放題し、ニューは何処だ、ニューに会いたいと言って暴れた。

暫くその状態が続いたが、落ち着くに連れてご飯を食べなくなり、全力でニューが居なくなった事に抗議しているかのようだった。

ナディーも困り果てていた。

カインはそれまでとは違い、仕事をセーブし、モモとの時間を増やし、モモと出来る限り一緒にいるようにした。

栄養失調になりそうになったモモを病院に連れて行き、点滴をして貰いながら2人で話をした。


カインがモモに「ニューの事、どうしてそんなに好きなの?」と聞くと痩せたモモが「だってモモを1番大切にしてくれたのニューだもん」と言った。

カインは「パパもママもモモが大好きだし、大切だよ」と言うとモモが急に泣き出した。

泣きながら「だってモモの事好きだけど他にも好きな人とかいるじゃん、モモが1番じゃないもん」と言った。

カインが「なんでそう思うの?」って聞くと「モモ知ってるもん、ママはモモより先生が好きだし、パパはお仕事の方が大事だもん」と泣きながら言った。

カインはモモの涙を拭きながら「モモは勘違いしてるよ、ママはモモが1番だと思っているし、パパも仕事よりモモの方が大切だよ」と言うと首を横に振りながら涙が溢れている。


カインはモモの頭を撫でながら「モモも、もう少し大きくなったら分かると思うけど、ママがモモの事を好きで愛してるのとは違う好きがあるんだ。モモが大切だし1番大事なのは本当だけど、違う種類の好きもあるんだよ、それはママが優しくて愛情深い人だからかもしれない。ママはモモが思ってるよりずっとモモが好きなんだよ」と言うとモモが「好きに種類があるの?」と聞くので「モモだってパパやママの事好きなのと、秘密基地の子を好きなのとは違うだろう?」とカインが言ってみるとモモが「違うもん、好きじゃないもん!」と言うので「じゃあニューの事好きなのはどう?」と言ってみると少し考えてから「みんな同じぐらい好きだから分かんない」と言った。


モモはカインに言い訳するように「ニューはモモの友達だからモモの話を沢山聞いてくれるし、一緒にいたい時は一緒にいてくれるし、モモの事助けてくれたもん。モモ秘密基地で怪我した時ニューが来てくれたからすっごく嬉しかった!ニュー大好き!」と言って涙の跡がある顔でニッコリ笑った。

カインは「パパもニューの事大好きだよ。モモを愛してるのとは違う種類で愛してる」と言うとモモは「モモの方がニューを好きだもん!」と言って頬を膨らました。

この日を境にモモは落ち着いた。


それからモモには定期的にニューから絵葉書やプレゼントが届いていたがカインにはひとつも来なかった。ニューの決意の表れなのだろうとカインも連絡などは一切しなかった。

ニューの存在を思い出すような場所には行かないようにしたので、あれ以来どんな場合でもパーティのような公の場には行っていない。

もともと苦手だったので、ある意味好都合だった。


そんなある日ナディーが家の事で相談があると言うのでモモの事かと思い、一旦昼に家に戻る事にした。

家に帰宅するとモモは学校に行っており、お手伝いさんも買い物で留守だった。

ナディー1人では無く恋人のモモの絵の先生も一緒にカインを待っていた。

2人が一緒なのを見て、流石に冷静なカインも何事か?と固い表情をしてソファに座るとナディーが「貴方、すみませんが私と離婚して下さい」と唐突に言った。


ビックリして目を見開くカインに、今度は先生が「すみません。ナディーさんと結婚したいんです。実は二人の子供が彼女のお腹の中に居ます。その子の為にも家族に成りたいんです」と言った。

想像していなかった事実にカインは憤った。

カインには珍しく声を荒げて「何をしてるんだ!モモの為に協力してやって行くと約束したじゃ無いか!ふざけるな!」と言い放つと、ナディーが「ごめんなさい。すみません貴方…」と泣いて謝った。カインは握り締めた拳をテーブルに叩きつける。余りの展開に今度は先生が抗議した。


「貴方はナディーさんを散々放って置いて、今更何を怒る権利があるのですか?私達の事を知っても放置していたのは貴方じゃないですか!

貴方はナディーさんの本当の気持ちを知らない。

彼女はずっと貴方を、貴方とモモちゃんを愛していた。ずっと大切にして来たのに報われない気持ちが貴方に分かりますか?」とカインを責める先生をナディーが必死に抑える。

カインはテーブルに置いた手を何とか戻すと段々冷静さを取り戻した。

「すみません、考えてもいなかった事態で、しかもやっと、モモが落ち着いて来た所ですので取り乱してしまいました。確かにナディーを責める権利は無いのかもしれませんが、今後の事を考えるとどうとも言えなくて…」とカインは言ってから「ナディー、すまない。とりあえずモモの事もあるから今後の事については少し考えさせて欲しい」と言った。

先生が何か言いかけたがナディーが止める。

カインは「二人の気持ちは分かりました。時間に猶予が無い事も分かっていますので、とりあえずお帰りください」と先生に向けて言った。


ナディーが見送りに出て直ぐに戻って来た。

カインがもう一度ナディーに向けて謝るとナディーが「貴方、変わりましたね。以前ならどんな事があったとしても取り乱す事は無かったのに…初めて貴方と本気で向かいあった気がします。人間らしくて親しみが湧くわ。貴方が変わったのはニューさんの影響かしら?」と言って少し笑った。

それから「モモの事は私も1番に考えています。

モモには本当に申し訳ない事をしてしまいました。でもこの子も同じぐらい大切なんです。どうしたらいいかしら?貴方…」と辛そうに言った。カインはそんなナディーの肩を手で握ると「大丈夫。何とかなるよ」と勇気付ける様に笑った。


ナディーがモモを学校に迎えに行き塾に送ると言うので、車で待っていたブルーに言って午後の予定を空けてもらいプールで頭を冷やす事にした。

ニューが居た時はモモと一緒に遊んでいたが、ここのところはカインが週末にモモに泳ぎを教えている。

何往復か泳いでからゆっくり上体を起こした。

少し落ち着いたら、ふとあの夜を思い出した。一気に胸が苦しくなる。

自分を捨てた母親と会った夜、ニューはここで、どんな思いで、このプールで泳いでいたのかを考えると自分の事のように胸が痛んだ。

ニューが願ったモモの幸せを守れなかった事にカインは傷付いていた。

あんな思いをしてまで、守ろうとした家族が壊れて行く…どうしようもない怒りが湧いた。

それはナディーや先生では無くカイン自身に対してだ。カインはモモを守る事もニューを幸せにする事も出来ない自分に腹を立てていた。


その後ナディーや先生と話し合った結果、全てを包み隠さずにモモに話して、理解させてから、モモに今後を決めさせようと話が決まった。

いきなり言うのも良く無いと思い、塾が無い日曜日の午後に話があると言うとモモは途端に不安気な表情になった。「何?何?教えて!」としきりに言ったがその度に「内緒ー!」と楽しげに言って誤魔化した。

日曜日の昼を過ぎてナディーと2人でモモの部屋に行くと何かを予感したのか、モモが「話すの待って!話すならその前にニューと電話で話したい!」と久しぶりにわがままを言った。


カインはニューの名前が出て胸がざわついたがモモの望みを叶える為「じゃあママの携帯で電話して貰おう」と言ってナディーにお願いすると直ぐに電話を繋いでくれた。

それから暫くモモは部屋から出て来なかった。


そろそろおやつの時間になりかけた頃、やっとモモが部屋から出て来た。

待っていたナディーとカインに「モモ、パパとママの話聞く」と大分落ち着いた感じで言った。

カインはそれを見てモモがちょっとだけ大人びた様に感じた。

まずナディーがモモに話しをした。

モモが大好きだしパパの事が嫌いになった訳じゃ無いけど先生の事もパパぐらい大切になったと言い、その結果モモと同じ様にお腹に新しい命を授かった事を説明すると、モモが顔をこわばらせたまま固まった。


それを見てカインが「モモ、パパはそれをママから聞いてママを嫌いになったりはしなかったよ、むしろ大好きなママを応援するとママに言ったんだ、モモはママを応援しないの?」と言ってみたがモモは変わらず固まっている。

「パパとママのモモへの気持ちは何も変わらないよ、ただモモには弟か妹が出来るんだ、モモの兄妹の為にママは先生と暮らすのが良いと思う。モモも一緒に居たいならそれでも良いよ」とカインが言うと「パパ、モモの事嫌いになったの?」と言った。

カインは笑って「違うよ、パパはモモを愛してるし、ママも大切だから一緒に居なくても変わらないよ、いつでも会えるしモモが好きな様にして良いんだよ」と言うと、モモはしばらく考えてから「モモ、ママを応援する!でもモモはパパとニューと一緒に居たい」と言った。


それを聞いてカインがモモに言いかけようとするのをナディーが止めて「モモ、モモはそうしたいの?ママと先生と赤ちゃんと一緒に居たく無い?」とナディーが聞くとモモは「パパ1人になっちゃう」と言った。カインはモモの優しさが嬉しかったが「パパの事は気にしなくて良いよ、モモが1番したい様にして良いんだよ」と言うとモモの頭を撫でた。

モモはちょっと元気になって「でもモモはパパと居たい、だけどパパ忙しいからニューが居てくれたらモモは大丈夫!」と言った。


それを聞いてナディーが「モモは本当にそうしたいの?」と念を推して聞くとモモは大きく頷いた。カインがまた何か言おうとするとまたナディーが制した。

「貴方、モモは本気でそう言ってるのよ、私はモモのしたい様にしてあげたい、今はひとまずモモの希望を聞いて、後から考えましょう」と言った。

それからナディーはモモに「でもねモモ、モモはいつでもママのところに来て良いのよ、先生もモモが大好きだし、弟か妹もモモに会いたいだろうから、分かった?」と言うとモモが嬉しそうに笑った。

そんな中カイン1人が焦っていた。

ニューとあんな風に別れた事はナディーにも言っていない。ナディーからニューにモモの希望が伝わればニューは何と思うだろうか…俺に失望してモモと離れる事になったらモモに言い訳がたたない。でも、もしも受け入れてくれたなら俺は…


そこまで思考を進めているとナディーが「ママ、モモが一緒に来てくれないのはちょっと寂しいけど、パパを心配してるモモに感動したわ、モモ…パパをよろしくね」と涙ぐんだ。

それを聞いてカインも胸が熱くなる。いつの間にこんなに成長したのだろうか、子供の成長はあっという間なのかもしれない。カインはモモとナディーを抱きしめながら「モモありがとう、ナディーこれからも味方だ。頑張ってママ」と言った。


それからは怒涛の日々だった。

離婚の手続きはブルーが一通りやってくれたが、ナディーの実家への報告や先生の家への引越しの手伝いはナディーが身重なのでモモとカイン2人で頑張ったがモモは直ぐに遊ぶからあてにならずほぼカイン1人でやった。

ナディーも先生の家と半々で生活を慣らして行く。ニューの事は気掛かりではあったがナディーが私に任せて欲しいと言ったので、その後どうなっているのか全然分からなかった。


ナディーが先生の家に引越す日が来た。

カインはモモとナディーを見送る。新しい先生の家へは何度かモモを連れて来ていた。

今日は初めてモモも先生の家に泊まる事になっている。先生の家の前に着いた。

最後にナディーと抱き合う。

「貴方、いろいろありがとうございました。やっぱり貴方と結婚してモモを授かり良かったです。貴方も幸せになって…」とナディーが言った。カインも「今までありがとう。そしてごめん。君の幸せを願っている」と言った。そんな2人を見てモモが「モモも入れてー!」と言うので最後は3人で抱きしめあった。


2人と別れ1人で帰る…なんとも言えず寂しかった。自分はナディーとモモに救われていたのだと改めて思った。それと同時にニューを愛してからナディーに申し訳ない気持ちで一杯だった。カインを愛してくれたナディーに対して酷いことをしていたのだと初めて分かった。

幸せになって欲しいと心から願った。


玄関を入ると夕飯のいい匂いがしている。

お手伝いさんは今日は来ない日なのに、と訝しげに居間のドアを開けて進む、キッチンを見てカインは固まった。

信じられない…キッチンにニューが居る。

後ろ姿だけで分かったが声が出て来ない…

恐る恐る近づく。やっぱりニューだった。

ニューが途中でカインに気付き「お帰り」と普通に言った。カインは首だけ振り返ったニューを後ろから抱きしめた。


「何でいるの…」と言いながらカインは泣いている。ニューが手を拭き抱きしめたカインの腕を握る。そのままの状態で「ナディーさんから今日僕が帰る事聞いて無かった?」と言って笑った。カインは言葉にならなくてそのまま泣き続ける。ニューがカインの腕を解き振り向いて、カインの濡れた目を覗き込みながら「ただいまカイン」と言って抱きしめた。

カインも夢中でニューを抱きしめる。


涙が止まらなかった。途中でニューが「会いたかったカイン」と鼻声で言うので今度はカインがニューを覗き込むとニューの目も濡れている。

たまらずニューにキスをした。

キスをしながらニューを確かめる。確かにニューだ、夢では無かった。

そのまま激しくキスをしてると「待ってカイン、料理が焦げる」とニューが言ってカインを押さえる。仕方なくニューを離すとニューは料理を続けようとするので、そんなニューを後ろから抱きしめた。

ニューが笑いながら「カイン、これじゃ料理出来ないよ!」と言うがカインは離さなかった。

仕方なくカインを背負ったまま料理を続けたが、途中で皿を出して、とかグラスを出してとか言われて渋々従った。


料理が出来たので2人でテーブルに着きワインで乾杯する。未だ信じられないカインが「ニュー、何で帰って来たの?また何処かへ行ったりしない?」と言うと「カイン、ナディーさんに仕返しされたね」と言って笑った。


ニューはナディーに一部始終を聞いていた。

モモともあの後何度も話しをしたが、本当にカインの元に戻る迄はカインには言わないように約束したと言った。

ナディーはカインとニューの事を何となく分かっていたとニューが言った。

ニューが全てを告白しても、モモの希望だから構わないと言ってくれたらしい。

それでニューはカインの元に帰るのを決心したが、帰る日はナディーが指定したと言った。

確かにまんまとナディーにしてやられた。


カインは「君達にしてやられたよ、知らなかったのは俺1人か…」と言うと、ニューが「モモは僕が一緒に住む事は知ってるけど日にちは知らないから明日驚くよね!」と言って陽気に笑った。相変わらず男性か女性か分からないけど魅力的なニューの笑顔を見てカインは胸が熱くなった。ナディーにしろ、モモにしろ、ニューにしろ、俺の周りは俺が敵わない人達ばかりだ。カインは自分の幸せを噛み締めた。


相変わらずニューの料理は美味かった。

カインはニューが戻って来た場合を考え「ニュー、ニューが仕事するなら家事はしなくて良いよ」と言うとニューが「大丈夫、無理はしないよ、もともとばあちゃんとやってたけど1人になってからは自分でやってたから苦じゃ無いけど平日はカインの言う通りにするよ。僕の料理じゃモモが食べれないし」と言ってから「ありがとうカイン」と言うのでカインはニューの手を取りキスをした。


食事の片付けはカインも手伝い直ぐに終えた。

ニューは元居た客間に荷物を運んでいた。

カインはニューに「一緒に寝てくれる?」と聞くと何も言わずカインの頬にキスをして頷いた。


カインはイギリスの夜が夢だった様に思っていたので「ニュー、愛してると言って」「俺の名を呼んで」と何度も何度も返事を求める。

そんなカインにニューは必ず応えてくれた。

ニューの身体も声も全てが愛おしかった。

カインはニューの身体を離さずに眠りについた。

カインは翌日朝早くに目が覚めた。横で寝入っているニューを見て安心する。別れの朝を思いだすと未だ胸が痛い。

ニューが腕の中にいる事がこんなに幸せだなんて…また新しい感情を知る事が出来たことに感謝する。いつの間にか強く抱きしめていたらしくニューが眠そうに目を開けた。

「おはようニュー」と言って頬にキスをすると同じように「おはようカイン」と言って頬にキスをしてくれた。


朝食をとってからモモを迎えに行く事にした。

遅めの朝食を食べながらカインはニューに気になっていた事を聞いた。

「モモがニューに電話しただろう。あの時どんな話しをしたの?」とカインが聞くと「モモと2人の秘密だから教えてあげない」とニューが意地悪そうな顔で言ってから笑った。

カインは「あの後モモがちょっと大人びた感じがしたから何を話したのか気になってたんだ」と言ってもう一度お願いしてみると、ニューは困ったな〜と言いながら「モモは大体の展開を予想していたから乗り越えるコツを教えただけ、それと何があってもニューはモモの1番の味方だと伝えたんだ。後は秘密!いつかモモが話してくれるよ」と言うと昨日の逆でニューがカインの手を取りキスをした。


外は澄み切った青空だった。

庭のプールがキラキラと輝いている。

モモを迎えに行った後、せっかくだから帰りに3人で遊んで帰るつもりでバス停に向かう。

帰りは間にモモが入るであろう2人の手はしっかり繋がっていた。


---終---






















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