③妹の身代わりになりました。
「本日はお招き頂きありがとうございます。 『マリアンヌ・スターダスト』こと、ジュディ・ガードランドでございます……」
「アシスタントを務めております! 妹のクラリスです!!」
この日の為に新調した(※クラリスに買わせた)、理知的に見えるデイドレスを纏い、私達は元・公爵令嬢で現・騎士団長夫人であらせられるジュリアナ・ボウエン様のお茶会に赴いている。
クラリスは人に役目を押し付けておきながら、何故かノリノリ。
曰く、「考えてみればオイシイわ!! ネタの宝庫よ~!」だそう。
なら一人で行けばいいじゃない、という私の提案は黙殺された。
「マリアンヌ先生! ようこそいらっしゃいました!! も~、処女作である『下克上聖女に跪け!~追放された聖女は伝説の竜騎士になる~』から大ファンですのよ!」
「まぁ……畏れ多いですわ」
「ありがとうございます!! でもあれは諸々の問題から、発行部数が限りなく少なかった筈……」
「うふふ、流石アシスタント様。 初版本をGETしておりますのよ♡ フィクションにガタガタ抜かすなって話ですわよね~」
うわぁ、元・公爵令嬢様とは思えぬこの発言。これはガチのファンである……不安感が物凄い。
「私実は、書いたものをあまり覚えておりませんの……アシスタントの妹の方が詳しいくらいですわ!」
逃げの一手を最初に打っておくことにした。
ボロが出てからよりいい……筈!
──しかし
「そうそう、先生は新作に取り掛かってらっしゃるとか! 是非どんな話かお聞きしたいわ~♡」
話題は一番悪い方向に!!
騎士団長の奥様に、旦那様を対象とした不埒な妄想ストーリーをお聞かせするワケにはいかない。
ここはなんとか誤魔化さなければ!
「ンンッ……! それはそのぅ……ちょっと大人向けで……」
「まぁッ!! もしかして『絶倫騎士団長に溺愛される』みたいなやつですの?!」
「あ、その~ふ、風評被害とか大丈夫でしょうか?!」
強引に話を変えた。
まさか『絶倫騎士団長に溺愛される』に助けられるとは思わなかったけれど。
「あら、風評被害だなんて……騎士団長をあんな素敵に書いてくださったのだもの。 強いて言うなら旦那様ったらフィクションなのに対抗心を燃やしてしまって、ちょっぴり大変だったくらいで……あら、嫌だわ。 おほほ♡♡」
頬を薔薇色に染めつつお上品に笑って誤魔化したが、ドン引きな発言である。
『7回はフィクションだ』というサイラスの言葉が過ぎるが、フィクションじゃないのだろうか……恐るべし、騎士団長。
「あとはそうねぇ……『君は羽根のように軽い』という台詞が騎士団の妻の中で流行ってしまって、ミラベル卿は夫人に無理矢理横抱きを強要されて、腰を痛めたくらいかしら?」
「それは大変に申し訳ございません……」
ミラベル夫人は控え目にいって……ぽっちゃり(※控え目表現)なさった方。
そりゃ鍛えていても『羽根のように軽い』は無理があるってものだが、とりあえず謝っておいた。
……それより、布教されているのが気になる。
「あの……ボウエン夫人?」
「まあ、ジュリアナとお呼びしてくださいませ♡ 先生」
「例えば……なんですけれど。 騎士団長様が……その、役どころ的に…………損? な役回りだったりしたら、どう思われます?」
「お姉ちゃ……様! 損ではないわ、アレはネコ或いは受」
「シッ! アンタは黙ってなさい!!」
このままいくと、マリアンヌ・スターダストの新作『もう君しか見えない~騎士団長は新人騎士に囚われる~(仮題)』も、この私が作者ということになってしまう。
布教されているし、人の口に戸は立てられない……サイラスはホイッスラー伯爵家の嫡男である。
嫁いだらご婦人方との社交は必須。
伯爵家とはいえ強い家ではないから、悪目立ちしないようにコソコソお付き合いのある方々と過ごせばいいやと思っていたが、社交界の華であるジュリアナ様に面が割れてしまった以上、要らぬ不興は買いたくない。
クラリスには悪いけど、身代わりになったのだから、最悪の場合差し止めさせてもらうわ!
──パンッ!
小気味よい音を発し、ジュリアナ様は扇を開いた。
「──マリアンヌ先生?」
「はっ、はい!!」
「……アシスタント様から聞き捨てならないお言葉が発せられた気がするのですけれど?」
扇でご尊顔の半分をお隠しになられたジュリアナ様は、鋭い眼光をこちらに向ける。
ああああクラリスの馬鹿ァァァァ!!
人を身代わりにしたなら、フォローは無理でもせめて黙ってなさいよ!!