後日談
アポステル大国の王都転覆から数ヶ月。
終焉の天使はすっかり戒めの詩となり、全世界へ伝わった。
「あー……休みが欲しい……」
「わかる……旅行とか、スタバ、フラペチーノ飲みたい」
「もうアイスでもいい」
終焉の天使とは異なり、人を信じ、守ったふたりの天使。つまり、水戸部とマリアは、現存する天使として、教会の聖女として、毎日忙しくしていた。
マリアは依然と同じように、大聖女として人々を癒し、臨時に作られた王都を守る結界を守護していた。
水戸部は一晩にして王都に水路を通し、王都転覆の際の水の御業として、天使の奇跡としてマリア共々祀り上げられた。
「というか、他の転移者がいることをバレないようにって、異世界の知識を全部私たち通すって、安請け合いするものじゃなかったですね」
「まぁ、そりゃわかってたけど……オルドルさんに口で勝てる?」
「無理……てか、ハミルトンさんにもアレックスさんにも勝てる気しない」
もうひとつ、彼女たちに課せられた仕事は、異世界の知識を持ち込む際の窓口だった。
転移者の中には、様々な職種が存在し、この世界に存在しない技術を持っているものもおり、オルドルを中心にその技術を取り込みたがっている人々がいた。
その際に、異世界人が他にもいることがバレないように、ふたりを窓口として、天からの知識として情報提供を行っていた。
「――というわけで、ふたりがアイス……”ふらぺちーの”とやらを飲みたい、そうなんですが」
新たな王都の随分と小さくなった城の中で、サナは天使たちの報告ついでに、そんな小さな要求も報告する。
主に、その視線は、偶然いた黒い襟巻をした日下部に向いていた。
「絶対無理。前にチョコレートすらできなかったのに、できるわけないだろバーカ。って、伝えておいて」
「ご主人チョコ派? ストロベリー、チーズ、キャラメル系もあるわよ」
「やめろ。代替できそうなのだと、絶対飛んでくる」
既に、オルドルとアレックスの目が、日下部を捕らえていた。あとで、フラペチーノについて聞かれることは確実だ。
水戸部とマリアが窓口になった事で、大きく変わった事にまず異世界の技術はある。作り出せないものもあるが、その技術や視点はまた新しい存在を作り出すきっかけとなり、アポステルにとってその技術は、大きな資源となり始めていた。
特に大きな特産品となったのは、キャラメルだった。元々、自然豊かな大きな国土であったことや異世界人にたまたま製菓会社の関係者がいたことなどが大きい。
「だいたい、砂糖めっちゃ使うし」
「砂糖の精製技術は、他国で開発が進んでいると聞きましたし、問題ないのでは?」
「……クーちゃん。カフェで働いてた人。他、スタバ・フラペチーノわかる。10~40位の女中心」
逃げられないと悟った瞬間から、他人へ放り投げる方向に変えた日下部に、クレアも苦笑いを零す。
「売った神器の回収に加えて、そんな知らない仕事まで請け負えるか! 餅は餅屋だ」
王都転覆後に、魔王を含め、リカルドたちが気にしたのは、まず神器の存在だった。
ひとつでも、戦争の火種になりかねない神器は、その全てを徹底した管理の元に置きたかった。それは、どの国も同意見だった。
だが、神器は、シャルルの持っている物を除いて、回収はされなかった。
『終焉の天使が回収した』
本人が、当たり前のように言った言葉を、そのまま各国へ伝えることとなり、神器のほとんどは終焉の天使と共に姿を消すことになったのだが、問題はこの後だった。
アポステル大国は、戦争を続ける中、資金を手に入れるため、いくつかの神器を個人へ売っていた。
もちろん、回収しないわけにはいかず、その回収者として白羽の矢が立ったのが、日下部だった。
「神器の回収については、本当に申し訳ないと思っている。魔王軍も協力してくれているんだろう?」
「ルーチェとルーチェママがね」
リカルドもこの話題で何度目か頭を下げられたが、実際、魔王の作戦をあれだけ盛大に壊した結果、正直ルーチェとルーチェの母親の擁護が無ければ、大分危なかった。
「クルップさんもなにか情報を手に入れたら、知らせてくれることになってますよ」
「正直、今のところ、一番有力情報送ってきてくれてるのが、さすがだよねぇ……」
武器職人であるからか、神器の情報が一番入って来る上、実際それのおかげで回収できた案件もある。
放っておいたところで、長くて数十年で消失するものではあるが、無いに越したことはない。
「まぁ、とりあえず、さっきの情報は調べに行くかぁ……」
「そうっすね」
日下部が城にいる時の用事のほとんどは、神器に関してだ。
今回も、神器の可能性がある噂が入ったという情報だった。
「とりあえず、僕はさっきの該当者ピックアップするから、ちょっと待っててね」
「はいはい。じゃあ、カイニス行こ」
ほとんどは外れだが、異世界観光のようなもの。
楽しまなければ損だ。




