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【完結】チート武器だけあればいいので、異世界人は地下迷宮に捨てておきます  作者: 廿楽 亜久
6章

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65話 あぁ、負けた。

 一世一代のほら吹き。

 逸る気持ちを抑えて、冷徹でしかし冷酷に怒りを震わせる。


「もはや、貴様らに贖罪など求めぬ」


 目を白黒させているリカルドは日下部を見ては、魔王に目をやり、シャルルは周囲の騎士たちへ目をやった。


「これは我らの罪。故に、この地の浄化こそ我が贖罪」


 魔王は、ただこちらの意図を組んだように、睨みつけていた。

 ドクリドクリと早鐘を打つ心臓に、自然と口端は持ちあがる。


「戦いを、血を求める者ども! 貴様らが穢せし地は、貴様らの臓物を持って濯げ!!」


 棍棒を大きく振りかぶれば、地面が回転を始め、建物が、人が滑り落ちていく。

 その斜面は90度を越し、どれだけ頑張ったところで、足が地面から離れる。


「夢忘れるな。我は貴様らを許さぬ!」


 そのまま、浮き上がらせた地下迷宮を空に打ち上げる。

 落ちていく人たちも、その現実離れした様子に何が起きているのか理解できた人間はいない。


 ただ理解できないまま、また強い勢いに体を掴まれたと思えば、加速するように地面が近づいてく。


「うわぁぁぁああああっ!!!」


 ノイズのように騒がしい音が、周囲に響いていたが、それすらも気にならないほどに、誰もが状況を理解できなかった。

 ようやく理解したのは、揺れていない地面に辿り着き、騎士に声をかけられた時だった。


「聖女、様……?」

「ここは危険です。早く移動を」

「でも、逃げ場なんて……!」

「それでも、生きるために立ってください」


 立ち上がらせられた男は、瓦礫から人々を守るふたりの天使を見つめながら、騎士に導かれるまま歩き始める。

 空を見上げ続ける水戸部とマリアは、豆粒にも満たない無数のそれらに、声もなく悲鳴を上げそうになっていた。

 数が多すぎる。その上、乱雑に落とされた人々は、建物にぶつかって、下りてきた時には既に瀕死であったり、動けない状態であったり、想定されていたはずだが、目の前に広がる惨状に、とにかく自分の役割とひとつひとつこなしていく以外の方法はなかった。


「あの人落ちてきても助けたくないんだけど!?」

「見分け付かないので、諦めてください!!」

「あーもう! なんで……!!」


 文句が零れるが、手を緩めれば、それこそ数百人の命が消える。

 どうして、異世界の人間の自分がここまで必死にならないといけないのか。

 悪態くらい垂れても許してほしいと、ため息をついた時だ。

 子供の泣き声が耳についた。


「――」


 親と逸れたのだろう。

 変わらない。どちらの世界でも、いや、この世界はもっと多いかもしれない。

 戦いは終わらず、何度だって繰り返し続ける。


「大丈夫。大丈夫だから。私が、守るから」


 その全てを終わらせると言った彼らと、この場だけは助けられるかもしれない自分。

 気が付けば、子供の前に座り、宥めていた。


「だから、私を信じて」


 自分に言い聞かせるように、子供に言い聞かせれば、子供は涙を堪えて、頷いた。


 魔王は、ただ一人空に浮き、落ちていく黒い衣を身に纏う終末の天使を見下ろす。

 その表情は、今までになく怒りを表していた。

 ほんの数日だ。何年とかけて進めてきた計画が、ようやく実を結んだというのに、最後の最後に全てを小さな人間一人に壊された。


 神の加護がなんだ。力を持った人間ならば、それをどうして平和のために使わない。

 己が欲望だけを貫く存在は、いずれ不和を起こす。必ずだ。


「ざまーみろっっ!!!」


 決められたセリフではない言葉と共に、自分に向けられている巨大な魔力に腹の底から笑った。


「他人なんか巻き込むからこうなるんだよ!」


 空への指を指し、勝負に勝ったことを示してやれば、魔王は本当に悔しそうに憎らし気に表情を歪める。

 そして、向けられていた魔力の矛先は、地上へ落ちる人間ではなく、空へと向けられた。


 誰もが恐れるその魔力が、咆哮を上げ、落下してくる地下迷宮を打ち砕いた。


「ははっ……すっご……」


 迷宮の壁は、砕けにくいと聞いていたが、見事に粉々だ。

 あれなら直撃にでも当たらなければ、怪我もしない。


「――――」


 結局、魔王が選んだのは、個人的な怒りではなく、人ということ。

 最後の最後まで、王としての責務を果たしていた。


*****

 

 いやに静かだった。

 目の前に広がるのは、嫌というほど澄み切った青空。

 そして、視界に入ってきたカイニス。


「生きてます?」

「うん」

「気が済みました?」

「うん」

「ならよかった」


 どこかふわふわと浮足立った言葉を返す日下部に、カイニスも隣に座り、空を見上げた。

 どこまでも広がる青空を見上げたのは、いつ以来だろうか。


「ねぇ、カイニス。すごくない? 本当にやりきっちゃったよ」


 いつものように褒めてと、寝転びながら要求する日下部に、カイニスは膝に頬杖をつく。


「すごいっすね。やればできる子って奴っす」

「あれ? 褒められてない?」

「褒めてる褒めてる。ちょー褒めてるって」


 全く信用していないという目でこちらを見上げる日下部に、カイニスは小さく噴き出した。


 不思議と、最初から疑ってはいなかった。

 きっと、日下部はやり遂げてしまうのだろうと、そう思っていた。


「さっ、帰りましょう?」


 カイニスは、遠くに見える聖女の結界の位置へ目をやると、手を差し出す。


「あー帰りたくなーい」

「じゃあ、逃げちゃいます?」


 大変なのはこれからだ。

 日下部の選んだ道というのは、そういう道なのだから。


「…………」


 少しだけ不満そうな表情をした後、日下部はカイニスの手を取った。

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