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聖女と結婚するから婚約破棄ですか?よろしい。ならば全力で叩きのめしてみせましょう!!~婚約破棄した王子と婚約破棄された令嬢の物語~

「メリーゼ・ラル・ファンティウム婚約破棄だ!!」


 王城の一番広いホールにて、神官や国の貴族や王族たちが一堂に会す中。

 私は彼女に婚約破棄をつげた。

 私の婚約者、金髪の美しい少女、メリーゼ・ラル・ファンティウムはただ下を向く。

 

「ライゼル様」


 黒髪の美しい聖女アリカが嬉しそうに私に寄り添った。

 この大陸で逆らえる者のないデルジア教に保護されし異世界の聖女。

 彼女が私との結婚を望んだため、私は彼女――メリーゼと別れるしかなかった。


 このような公衆の面前で彼女を容赦なく振ることを望んだのも聖女アリカの意思。

 

 ごめん。メリーゼ。私にはこうすることでしか君を守れない。

 もしこのまま私と君が婚約をとりやめることを拒否した場合、聖女と教団は君と君の領地を社会的になきモノにするだろう。世界に実りをもたらす「祈り」を使えるがゆえに、その恩恵にあやからねば作物が育たぬ現在。この大陸でデルジア教に敵う者はいない。

 それだけ教団は魔獣を倒した私の力を欲している。

 私のような小国の王子如きが教団に逆らえるわけがない。


 君は聡明だから、もしかしたら私の意図に気づくかもしれない。


 だからどうか、このまま婚約破棄を受け入れて欲しい。

 聖女に言い寄られ、長年連れ添ってくれた女を捨てた弱小国の王子など忘れ、君は君の幸せを――。


 私がそう願いながら言い渡すと、彼女――メリーゼは微笑んだ。


◇◇◇


 ライゼルの婚約者は小さい時から不思議な子だった。


「貴方と婚約するのが私の使命らしいです。

 ですのでよろしくお願いします」


 14歳の時。彼女の家――ファンティウム公爵家のバラの咲き乱れる庭園ではじめて二人だけになった時の会話がそれだった。

 

「うん。ごめんね。私みたいなのと婚約させられてしまって」


 まだ14歳と幼い金髪の利発そうな顔立ちの青年、ライゼルが俯いて微笑むと、メリーゼは不思議そうな顔をする。


「? 何を言っているのですか?

 貴族の仕事なのだから当然の義務であり責務です」


「でも、いくら王族とはいえ私みたいな庶子と結婚しないといけないなんて……」


 ライゼルはそう言ってぎゅっと手を握り締めた。

 現国王が戯れで手をだした踊り子の子。

 それがライゼルだった。

 それが故、ライゼルはいつも正妻の子達から嫌がらせをうけていた。

 王位継承権のずっと低い、庶子と由緒正しき公爵家の娘。

 ライゼル本人から見ても、不釣り合いとしか言いようがない。


 ライゼルの答えにメリーゼはふむと考えるポーズをした。


「貴方が謝るのは理解できません。

元々貴族に選択肢などないのでしょう?

大人が家の事情で決めた婚約相手と結婚し、なんとなく「まぁ、嫌ですわ奥様、オホホホ」と笑ってすごすのが貴族の吟味と聞きました」


 よくわからない事を言い出すメリーゼにライゼルはぽかんとした。


「嫌ですわオホホ?」


「ああ、お気になさらないでください。私の勝手なイメージです」


 ふっと目を細めて言うメリーゼに、ライゼルは困った風に腕を組んだ。


「……君よく変わってるって言われる?」


「よくわかりましたね。貴方はきっと頭脳明晰なのでしょう」


 と、メリーゼ。


「だいたい人間の貴族の結婚相手というものは、その地位や品格に見合う相手を親が選ぶと聞き及びます。

つまり貴方が自分を卑下するたびに、貴方の婚約者たる私も貶めていることになるのです。ですので胸をはってください。

貴方は神の中の神をも凌ぐ存在。闇の寵児であるメリーゼ・ラル・ファンティウムの夫となるのですから」


 そう言って胸をはるメリーゼにライゼルは目を細めた。

 慰め方はおかしいけれど、きっと彼女は慰めてくれているつもりなのだろう。


「……そうだね、ありがとう」

 

その後、ライゼルは庶子という事で、王城に居場所もなかったため、メリーゼのいる公爵家で過ごす事になる。


 彼女と婚約したその日。


「君は天使だ!!是非うちの娘を頼む!!!」


 冷血公爵と呼ばれた金髪の端正な顔立ちの中年男性、フランツ・メル・ファントリウムになぜか涙ながらに感謝され、


「君のような天使が弟で嬉しいよ」


 見た目の麗しい金髪の青年騎士メリーゼの兄アルフェンに大歓迎された。


 のちに何故このような大歓迎を受けたのか。

 なんとなくわかるようになる。


 メリーゼはとても変わっていた。


 貴族としてのマナーや教養を学び、実践はするがどこがずれているのだ。


「貴族だから、そうするのが当然なのでしょう。

 それ以外に何があるというのです?」


 と、行事をそつなくこなしてはいるのだが


「社交界のダンスというのは何の益があるのでしょう?

 あのように男女で踊ることに意味をみいだせません」


 と、真剣に悩んでいたかと思えば


「コルセットというものは無意味です!

 その時代時代で変わる美的感覚にあわせて、身体に痛みを伴う行為をするのはばかげているとしえません。人間はもっと魂の根幹。本質をみるべきなのです」


 などと変わった感想を漏らしていた。


「君は本当に変わっているね」


 ライゼルがニコニコと微笑むとメリーゼは真顔で


「貴方も変わっています」


 と、顔を近づけてくる。


「えっ!?」


 14歳の美少女の顔が近いという事実にライゼルは赤面した。


「私の話を嫌がらず、最後まで聞いてくれて、みな適当に流すのに、真面目に意見をくれるのは貴方がはじめてです」


 そう言って、彼女は微笑んだ。

 今まで無表情で、どんなことにも表情を変えたことなく淡々と話すメリーゼの笑顔にライゼルは顔を耳まで赤くしてしまう。


 この時すでにライゼルはたぶん彼女に恋をしていた。

 


 それでも時は残酷だった。

 年齢が上がるほどライゼルは自分が庶子であり、自ら管理できる財産すらないことに焦りを覚える。

 どうにかメリーゼに見合うだけの地位と富を手に入れたい。


 公爵家の客人として扱われている現状に不満があるわけではない。


 それでも自分で築いたもので彼女を妻に迎えいれたいと願ってしまった。


 だからデルジア教の『魔獣討伐隊』に志願をした。

 ここで厄災の魔獣を倒し、名声をあげることができたなら、デルジア教から土地と名誉を与えらえる。庶子故、王位につくことができなくても、メリーゼの隣にたっても恥ずかしくないだけの名誉が手に入るのだ。


「反対だ!そのような場所に君が行く必要はない!君は魔獣などよりもっと目の前にある脅威に目をむけるべきだ」


 討伐隊に志願した報告をすると、メリーゼの父に猛反対された。


「脅威……?もうしわけありませんその意味はわかりかねますが、もう決めた事です。

 メリーゼ様を妻に迎えるだけのふさわしい地位を手に入れたいのです」


「それは男の意地というものでしょうか?」


 ライゼルの言葉に今まで黙っていたメリーゼが口を開く。


「そうかもしれない。

 私は君に見合うだけの男になりたい」


 真剣にメリーゼに答えると、メリーゼはぎゅっと外していた手袋を握り締めた。


「私には地位も名誉も必要なものだと思いません。

 そのようなものがなくても、私は貴方を誇りに思います。

 けれど、貴方がそれを望むのならば貴方には意味がある事なのでしょう。

 それを否定するつもりはありません。

 私の価値観は私の価値観でしかなく、貴方が満たされないというのならそれを補おうとする行為はとても意味があることでしょう。

 ですから……お気をつけて」


 そう言ってメリーゼはライゼルにペンダントを差し出した。


「……これは?」


「貴方を守るお守りです。かならず帰ってきてくださいね」


 そう言うメリーゼの目は少し涙ぐんでいて、ライゼルは思わず抱きしめる。


「私の我がままを聞いてくれてありがとう」


 ぎゅっとライゼルを掴むメリーゼの手は震えていて。

 ライゼルは必ず、彼女に見合うだけの地位を手に入れる事を心に誓う。



 だが現実は残酷だった。


 神殿の募る討伐隊に入り、西の森で魔獣を倒し、武勲をあげたまではライゼルの計算通りだった。


 だが、彼は目立ちすぎた。銀髪で見た目も美しく、武勲も誉れ高いライゼルにデルジア教の聖女に目をつけたのだ。


 日本という世界から召喚されたデルジア教の聖女アリカはライゼルを夫にと欲しがった。

 そして神殿の力で無理やりライゼルを第一王位継承者にすると、アリカと結婚するように迫ってきたのである。


 聖女はこの世界に実りをもたらすもの。


 年に一度 祈りを捧げ、その祈りがない国はその年は不作になってしまう。


 それゆえ誰も聖女には逆らえない。

 それはライゼルの祖国もまた同じだった。



「聖女様がお望みです。もちろん別れてくれますよね?」


 にこやかに女性の大神官に告げられた。

 選択肢もなく、命令口調で。

 逆らえない、逆らえば国ごと潰される。

 教団は国だけではなく、一番守りたかったメリーゼの領地事潰してしまうだろう。

 彼らは聖女だけではなく、光の天使ラデゥラバルまで所持している。

 ラデゥラバルは神殿の命令を忠実に聞く殺戮兵器。

 光属性の攻撃を吸い込んでしまう魔獣との相性が悪いがゆえ、戦闘には参加しなかったが人間相手ならば平気で国一つ滅ぼすだろう。


 だからこそライゼルはメリーゼに婚約破棄を告げる。

 どうか――彼女が幸せに暮らせていけますようにと願いながら。



 ◇◇◇


「メリーゼ・ラル・ファンティウム婚約破棄だ!!」


 王城の一番広いホールにて、神官や国の貴族や王族たちが一堂に会す中。

 ライゼル王子は公爵家の長女メリーゼに婚約破棄をつげた。

 

 そこでメリーゼの父、フランツは青ざめる。

 ライゼル王子が神殿に拉致され、帰って来ない事でこうなることは大体予想はついた。

 むしろこうなる可能性が高い事はわかっていた。


 それでも心のどこかで聖女がライゼル王子に飽きて事なき事になることを切望していた。

 けれどそれははかない夢だったらしい。


 フランツが娘メリーゼに視線を向けると、娘は笑った。

 世界が凍り付くほどの妖艶な笑みで。


(あ、これ世界は終わった)


 そこに存在するのは既に人間の娘メリーゼではない。


 闇の女神が人間を知るためなどという戯れで人間に転生した存在、それがメリーゼだ。

 

 彼女は生まれた時から不思議な子だった。

 彼女の周りであまりにも不可解な出来事が連続したため5歳の時に森に住む大賢者に鑑定をお願いしたのである。

 鑑定後、大賢者は「あ、これやばいですわ。まじやばいですわ。世界滅ぶかも」と告げ、半笑いを浮かべ去って行った。よくわからない鑑定結果にメリーゼを問い詰めた所、「実は人間がよくわからいので人間になってみた闇の女神だけどよろしく★人間観察するために人間になってみた♪」と闇の女神を背負いながら告げられる。


 それ以後彼女の望むがまま、普通の公爵令嬢を体験させ、政争にあまりかかわりなさそうなそれでいて公爵家でもまぁまぁつりあう血筋の王家で庶子の婚約者をあてがったはずだったのに。


 穏便に公爵領で彼女の人間としての生を終わらせる予定だったのに。


 どうしてこうなった。


 闇のオーラを全身から放つメリーゼを見てフランツは想う。


 世界終わった\(^o^)/


◇◇◇


「さぁ、王子もこうおっしゃっているのだ!!

 さっさと出て行ってもらおう!!」


 フランツの心配など知らぬ神官がメリーゼに威圧的に言い放った。

 聖女にいたっては憎たらしい顔でニマニマとメリーゼを見つめている。


「まったく想定範囲内の行動で。貴方らしいですね」


 メリーゼが婚約破棄したライゼル王子相手につぶやいた。

 そう自らを貶めてまでメリーゼを守る。

 ライゼル王子とはそういう男だ。


 だからこそメリーゼは彼に心を許した、人間として。


「何をしているのです!!さっさと出て行きなさい!」


 神殿の女神官がメリーゼに言い放つが、メリーゼから帰ってきたのは冷笑だった。


「婚約破棄?それすなわち盟約の破棄。宣戦布告したも当然!!

 これは人間の世界でも心置きなく徹底的に潰すのはOKという意味ですよねお父様!」


 瞳をキラキラして隣で顔を青くしている父フランツに尋ねるメリーゼ。


「いや、たぶん言っていることは何一つ間違っていないがそれは困る。

 とてつもなく困るので、やめていただけると」


 フランツが死んだ目で答えるとメリーゼはにっこり微笑んだ。


「お父様の了承は得ました。

 一度王国事潰して、法をなくし今回破棄された婚約自体を無効化、新たな国を樹立した上で法制度をつくりその上でふたたび婚約すればいいだけの話!

 さぁ、狩りの時間です!!!」


 手を広げ恍惚な表情を浮かべるメリーゼ。

 フランツが「ちょ!?力業すぎるっ!!それに了承してないっ!!了承してないから!!」とスカートにしがみついて泣きはじめる。


「貴族令嬢として生を受けたなら、それ相応の生活を送っていればいいとおもっていましたが、私の愛を阻むというのなら、よろしい。全力で叩きのめしてみせましょう!!」


 メリーゼがそう言った途端。


 ぶわっ!!


 王宮の床が一気に闇に染まり、異形の物が聖女達を呑みこみはじめた。


「え!? ちょっと聞いていないどうなってるの!?」


 アリカが悲鳴を上げるが闇は容赦なく神官達と聖女を呑みこみ始める。

 床から湧き上がるどす黒い物体がにょろにょろと、広場にいた神殿の者たちだけを呑みこんでいるのだ。


「いやぁぁぁどうなってるのぉぉぉ!?」

「たすけてぇぇぇぇ!!」


 と悲鳴を上げる神官達に、巻き込まれぬようにと我先にと逃げ惑う、会場にいた貴族達。


「メリーゼ!もう叩き潰すのは仕方ないとして、出来れば少し穏便に」


 会場の惨状に父フランツが悲鳴に近い声をあげるが


「否!!私の力なら生き返らせることも出来るのです!!

 一度全員殺したあと、従いそうなやつを魂の審判で精査したあと生き返らせればいいだけの話!」


「メリーゼ!?それ魔王の発想です!!

 誰が敵か味方かわからぬのですよ!?」


 会場に同席していたメリーゼの兄が突っ込みを入れる。


「だからこそです。いちいち判別するなど面倒。一度完膚亡きまでに叩きつぶし遺恨のない状態で新たに国を作り直せばいい話!!」


「いや、それやばいから!発想がやばいから!!」


 父が突っ込むが


「安心してください。私にも慈悲はあります。

 死んだときのトラウマが残らぬように、生き返らせたときの記憶は抹消しておきましょう。あ、ついでですから記憶を塗り替えて私に従う人形に!!」


 メリーゼは恍惚な表情で自分の言いたい事だけを言っている。


「駄目だ!!ライゼル王子がいないとこうだから!!

 誰だよ!?王子に手を出した奴!!」


 メリーゼの兄が頭を抱えて絶叫をあげた。


「メリーゼっ!!」


 事態の惨状についてきけず呆然としていたライゼルがメリーゼの兄の言葉で我にかえり慌ててメリーゼに駆け寄ると


「待っていてくださいね。愛しのライゼル。

 邪魔するものは全て徹底的に叩き潰します!

 貴方が名誉や地位、金銭を欲するのなら私が手に入れてさしあげましょう!

 貴方のために新たな国を!!」


 そう言って彼女は微笑んで、ライゼルの手をとった。


 うん。違う欲しいのはそういう意味じゃなくて、メリーゼの隣に立てるだけの資格が欲しかったのだけれど、と答えようとしたライゼルは言葉を呑みこむ。


 微笑む彼女は本当に嬉しそうで、


「だからもう、絶対離しません。嫌です、他の人と結婚なんて。

 だからずっと一緒にいてください」

 

 上目遣いで顔を赤らめて言う、彼女の言葉に赤面する。


 ああ、そうだ。いつだってこの子は受け取り方が明後日の方向で間違ってはいるけれど、常に一生懸命で、これもまた彼女なりの愛情表現なのだろう。

 そしてその愛情表現がわかってあげられるのはたぶん自分だけ。


 それ以外に何を欲する必要があったのだろう。


「うん。ありがとうメリーゼ。

 ごめん君の気持を考えず勝手なことをして」


「いえ、とても貴方らしいです」


 そう言って二人は抱き合った。


 後ろではメリーゼが召喚した闇の異形のものに呑みこまれ、「たすけてぇぇぇぇ」と悲鳴をあげている聖女や神官の姿があるが二人は気にした様子もなく愛を確かめ合う。


「好きですよ。ライゼル」


「私もだ。愛してるよメリーゼ」


 そう言って二人は唇を重ねた。



 その様子を見ていたメリーゼの父と兄は心から思う。


 何故この状況でいちゃつけるのだ--と。



 ~おわり~



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