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極悪非道の物々交換バトル

「こいつが海賊団のやり方だ」


 極悪非道の物々交換バトル、髭面の海賊は大きな包丁を取り出した。

 え、さっそく脅しとかそういうの!? なんて不安は杞憂に終わる。

 海賊団のやり方はそんなに生易しいものではなかったのだ。


「こいつは、西の海の小さな孤島にしか生息しない子ヤギの肉だ」

「お、おお! ……なんで?」


 骨付きの大きなお肉を取り出すと、砂浜に火をおこし、くぐらせる。

 その上から、塩と胡椒、それに何か美味しそうなソースを惜しげもなく垂らす。

 香ばしいお肉の香りだ。無人島に来てから一度も食べてない、お肉の――


「へっへっへ、これで終わると思うなよ」


 食べづらかったお肉をナイフで一口大に切り、おしゃれな皿に盛りつける。

 そして、あろうことかヤギから出た油を、持ってきた甘酸っぱいタレに混ぜる。

 ほのかに酸味が混じった香りが立ち込め、わたしの食欲を刺激する。

 これは、絶対に美味しいやつだ。


「ふっふっふ、彼はハロハロ海賊団髄一の料理の腕を誇るコックなのだ」

「家庭的なんですね、ポイント高いです」


 すごい。ちゃんと薪を用意して砂浜が汚れないようにしている。

 ヤギから出た油をソースに混ぜて無駄にしない配慮も大したものだ。

 あれ、これってそういう勝負だったっけ?


「子ヤギのソテー~甘酢ソースと潮風を添えて~だ」

「お、おお……!」


 無人島の健康的な日差しに、琥珀色の透き通ったソースがキラキラ輝く。

 お肉は少し赤みが残る絶妙な焼き加減で大皿いっぱいに盛りつけられている。

 大輪の花びらのようなお肉を前に、わたしは――


「……、これは、いただけないです……。うぅ」

「どうしてだ! ウチのコックの飯が食えないというのか!?」

「いえ、とってもおいしそうなんですけど、その……」


 山盛りのお肉、ああ、身体がこれを欲している。

 食べたい。すごく食べたい。多分、今なら食べられる。食べられてしまう。

 だからこそ、これを受け取るわけにはいかない。


「そ、その……、最近、少しお腹のお肉が……」


 油断していたのだ。

 無人島だから平気だと思っていた。野菜と果物なら安全だと驕っていた。

 しかし、マイホームを手に入れ、かめのすけさんの施しを受けていたら――


「うぅ、ごめんなさい……」

「いや、いいんだ。深刻な問題だよな。アタシも経験はあるのだ」

「みなさんで召し上がってください」


 髭面のおじさんが、悲しそうな顔で食器を下げる。

 ああ、でも、ちょっとだけなら――いやいや、そんな油断が命取りだ。しかし!


「あぅ……」

「……嬢ちゃん」

「はっ! ダメです! ダメですダメです! でも……」


 コックさんと見つめ合う数秒が永遠にも感じられる。

 誘惑がすごい。でもダメだ。これはナイスボディになるための試練で――


「オ、オレの負けだ」

「え? なんのことで――はむっ?」


 口の中にお肉を入れられた。

 しっかりと味のついた甘酸っぱいお肉が口の中でとろけていく。

 ――って、なんで食べてんだ!?


「そんな目で見られちゃ、コックとしてほどこさねぇワケにはいかねぇよ」

「おい、何してんだよ!?」

「キャプテン、見てくださいよ嬢ちゃんの顔、こんな幸せそうなんですよ」

「え、えへへ、そ、そんなことないですぅ……」


 ああ、もう一口だけ食べたい。

 でも、わたしお代も払ってないし、それに、お肉だし……


「お代はいらねぇ。その顔だけで十分だ」

「で、でも、これはその、受け取れません……」

「安心しな嬢ちゃん。そいつは食べても太らねぇ。前にキャプテンの体重が――」

「アタシは納得しないぞ裏切り者がぁ!!」


 ハロハロさんが見事な跳び蹴りを披露する。

 コックさんはわたしに「全部食べてくれよ」と告げると、海へと落ちていく。

 本当にいいのかな……


「ふん、役立たずが。まあいい、それを食べたら第二試合の始まりだ!」

「全部食べてもいいんです?」

「あいつがそう言ったからな。それに、食べ物を残すのはよくない!」

「えへへ、優しいんですね」

「や、優しくなんてないぞ! いいから食べろ! 残さず食べろ!」

「さー、きゃぷてん」


 ムキ―となるハロハロさんの横で、ぺろりと感触。

 久しぶりのお肉、ごちそうさまでした。


「次なる刺客、やって来い!」

「へい、あっしですね。ハロハロ海賊団の力、見せてやりヤスぜ!」

「ああ、死なない程度にやってやれ!」


 クックックと笑うは少し背が低い細身の男性。

 怪しげな手つきで宝箱を漁り、取り出したるはブルーのジュエルの首飾り。

 銀色の派手な装飾品は高級感があふれ出ていて、思わず声が漏れてしまう。


「き、きれいです……」

「そうでしょうそうでしょう。こいつは遥か昔に支えていたらしい国の、王女さんがつけていた首飾り何スよ。どうです、お嬢サンにも似合うと思いますが」

「わ、わたしですか。わたしはちょっと……」


 うーん、確かにきれいだけど、わたしには合わない気がする。

 大人だなーとか、そういう憧れはあるけど、今似合うかと言われると……


「そういうのは、もう少し大人になってからかなーと思います」

「えっ? でも、こいつは相当根が張りまスぜ? それこそ、持っていくところに持っていけば、100万ペロは堅い。どうでス、いい取引でしょ?」

「ひゃ、ひゃくまん!?」


 破格すぎて逆に怖くなってくるよ!

 トマトが何個あっても足りやしない。それに、売る前提で物をもらうのは失礼。

 せっかく用意してもらったけれど、この取引には応じられないかな。


「うーん、今回はナシでお願いします」

「そ、そんな!? 考え直してくだせェ! 100ペロっスよ!?」

「そんなにいただけませんよ!」


 それに、やっぱりこの首飾りはわたしには素敵すぎるかな。

 今貰っても宝の持ち腐れにしかならない。

 こういうのは、手が届かないからこそ価値があるのかもしれない。

 だから――


「これが似合う素敵な人になったら、また考えさせてください」


 社交辞令じゃなく、そう思う。

 わたしも、この首飾りが似合うように頑張ろう。

 だから、今回はごめんなさいだ。――と、思ったけど。


「うぉぉおおん!! ロ、ロロナ嬢サン! こいつはアンタにふさわしいっス!」

「え? や、だからいらないですって!?」

「お代は結構ス! こいつぁ、アンタみてェな純粋な少女に持っててほしい!」


 わたしに首飾りを押し付けて、泣いて帰って行ってしまう。

 え、どうするの、この首飾り。こんな高いもの貰っても困るんだけど?


「あいつの気持ちだ。もらってやってくれ」

「えぇっ!?」


 ハロハロさんも許可しちゃったよ。

 うーん、あんまり高価すぎるものは困るな。

 あとで、トマトを箱であげておこう。全然足りないけど、ないよりはね?


「まったく、どいつもこいつもだらしない! 次だ、次!」

「サー! キャプテン! お嬢さん、こいつはどうだい。たけぇ酒だ」

「子供に酒を勧めるんじゃない!」

「サー! キャプテン!」


 あはは、答える前に蹴り飛ばされちゃったけど、うん、その通りだ。

 かくして、どこか趣旨がずれ始めてきた物々交換バトルは進んでいく。

 しかし、何一つとしてわたしの心を射止めるものは出てこない。

 おつまみにくるくる渦巻いた謎サーベル、海賊旗なんてものもあった。

 グダグダもとい、泥沼化するバトルの中、ついにこの子が前に出る。


「ここはキャプテンのアタシが出る。お前ら、アタシの雄姿を見届けろ!」

「サー! キャプテン!」


 キャプテン・ハロハロのお出ましだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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