海賊船、来たる!
ハロハロ海賊団。
世界中の海域の行商を牛耳っており、どんな小さなお金の動きも見逃さない。
武器の密売、違法薬物の取り扱いには特に厳しく、見つけ次第即成敗。
暴力、強奪、なんでもありの極悪非道、最凶、最悪の海賊団ここにあり。
――と、自己紹介しながら降りてきてくれた。
まさしく海の男といった面々が砂浜に並び、気持ち気温が上がった気がする。
どうしよう。なんだか無視するのも心苦しいけど、商売に向かわなくては……
「そして、その海賊団を束ねる真の悪党こそがこのアタシだ!」
整列した男の人たちがバッとラッパを取り出し一斉に吹く。
愉快な音色と共に、わたしと同じぐらいの女の子が船から降りてくる。
なんなんだろう、この集団。
「やあやあ、アタシたちはハロハロ海賊団! 世界中の海域の商売を――」
「キャプテン、それ、アッシらが言いました」
「んえ? ああ、そうか。……アタシ、なんて言えばいいの?」
「えぇ!? アッシに聞かれても困りヤスよ! 確か――」
……もう、商売に行ってもいいのかな。
急ににぎやかになった砂浜、わたしはじりじりと後ろに下がる。
その様子を見た女の子はビシィっとこちらに指を向ける。
「アタシは海賊団のキャプテン、ハロハロ・セルビングだ!」
「……ど、どうも、ロロナと申します。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼むぞ、ロロナ」
ガシッと握手。
ぶんぶんと手を振るハロハロさん、その勢いがどんどん強くなっていく。痛い。
「――って、違う! アタシはお前を成敗しに来たのだ、この悪党が!」
「悪党……? でも、ハロハロさんも真の悪党ってさっき……」
「ん? ああ、本当だ。うん、だとするとおかしいぞ?」
自信なさげに、黄色から赤のグラデーションが綺麗なポニーテールをいじる。
ガッチリしているけどブカブカな海賊衣装の威厳も段々と薄れてきた気がする。
わたしは意を決して、ハロハロさんに声をかける。
「あの、ごめんなさい。わたし、トマトを売りに行きますので……」
少し失礼だけど仕方ない。
ごめんなさいとハロハロさんの脇を通り過ぎようとすると、肩を掴まれる。
どうやら通してはくれないみたい。
「そのトマト、ただのトマトじゃないだろう」
「……へ?」
「貴様の悪事はお見通しだ。そのトマト、違法な薬物の一種だろう!」
「ち、ちがいますよ!?」
「いや、ここ最近の売れ行きの伸び、ハッキリ言って異常だ! 観念するのだ!」
うーん、たしかに異常だけど、そんなに売れてるのかな……
でも、がんばって育てたトマトを違法なものなんて言われて少しムカッとする。
ハロハロさんの手を振りほどくと、今度は箱のトマトを取り上げられる。
「な、何するんですか!」
「このトマトは強奪する。本当にただのトマトか、調べればわかることだ!」
「うぅ、ダメです。これは売り物のトマトなんです!」
トマトを取り返す。
流石にちょっと失礼だったかなとも思ったけど、向こうも向こうで失礼だ。
それに、このトマトを待ってくれているお客さんもたくさんいる。
どうしてもというのなら、他にやり方はあるはずだ。
「ほしいなら、50ペロで買ってください!」
トマトを箱に戻してハロハロさんに伝える。
しかし、相手は暴力、強奪何でもありだと言っていた。
海賊団なんて言ってるし、そんな理屈が通じるわけ――
「それもそうだな。確かに。悪かった」
「えぇっ!?」
いいんだ。
暴力とか強奪とかされないんだ。
そう思ったけど、言って本当にそうされたらイヤなので黙っておく。
ハロハロさんはポケットから財布を取り出すと、お代をわたしにくれる。
「ほら、50ペコだ。受け取れ、そして震えるのだ!」
「え、ペコ? ペロじゃないんですか……?」
「あれ、ここペコじゃなかったっけ。すまない。少し待っているのだ!」
どうやら他の国の通貨だったらしく、わたしの見たことのない紙幣だった。
ハロハロさんは海賊団に、ペロを貸りようと聞いて回る。
しかし、誰も持っていないようで、大きな瞳に涙を浮かべて帰還。
「……待たせてすまない。誰一人ペロを持っていなかった」
「あぁ……、えっと、それならいいですよ。これ、差し上げます」
「いや、我々ハロハロ海賊団に情けは無用なのだ!」
意地っ張りさんだ。
なんだか可哀そうだし、一つぐらいならあげてもいい気分なんだけどな……
それに、元々奪い取ろうとしていた気もする。
「こうなったら物々交換だ。海の上ではよくあることだ。それでいいか?」
「えぇ、まあ、はい」
「感謝する。おい、お前たち! とびきりいいものを船から持ってこい!」
「サー! キャプテン!」
「それと、ロロナが座る椅子、日差し避けのパラソルだ!」
「サーッ! キャプテン!!」
海賊団が船の中に入ってくる。
正直トマトを置いて逃げ出したいけど、何をくれるのかも少し気になった。
それに、多分今からマーケットに行っても人少ないだろうし……
「ささ、この椅子に座ってください」
「あ、どうもありがとうございます」
「おい! ロロナは短いスカートだぞ、こんな椅子ではお尻が痛くなるだろ!」
「サー! キャプテン!」
「クッションを持ってこい! アタシの愛用しているやつでいい!」
「サー! キャプテン!」
わたしの倍はあるだろう背丈の男の人が船へと戻っていく。
少しおかしな人だけど、ハロハロさんって何者なんだろう。
見れば一緒に簡易式のパラソルの組み立てを手伝ったりもしてる。不器用だ。
「これでいいだろう。どうだ、ロロナ。気になるところはあるか?」
「えっと、……かわいいクッションですね。トラさんです?」
「なっ! かわいくなどない! 凶暴なネコさんなのだぞ!」
ショッキングピンクの眼帯付きネコさん、趣味が合いそうだ。
とにもかくにも、砂浜で海賊に囲まれたわたしは、何故か接待されていた。
不思議な状況の中、ハロハロさんに指名された髭面の人が前に出る。
「さあ、物々交換の始まりだ。お前から、持ってきたものをロロナに差し出せ!」
「サー! キャプテン」
「ロロナは、こいつらが出すものが欲しければ、好きな数のトマトを差し出せ!」
「さー! きゃぷてん!」
「アタシはお前のキャプテンではない!!」
怒られてしまった。
みんな言っているから、言いたくなってしまった。
海賊団が見守る中、わたしの目の前に髭面の大男が立つ。
ここまでの経緯がなければ、多分怖かった。
「さあ、極悪非道の物々交換バトルの始まりだ! 恐れろ!」
――こういうのがなければ、多分怖かった。
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