ロロナのマジカルマイホーム大作戦
「かめのすけさんの上に家を建てたいです」
「――?」
首を傾げられてしまう。
まあ、そうだよね。そりゃその反応だよね.
納得はするけれど、わたしも引き返すわけにはいかない。
「お肌が日に焼けて仕方ないんです。それに、満足にお風呂にも入れません」
かめのすけさん生活三日目、無人島らしいことにわたしは悩んでいた。
初日のオバケ騒動で、わたしは様々な魔法を手に入れた。
壁を出したり、水を操れたり、あと、話し相手になってくれないナビだったり。
しかし、結局は無人島、生活面ではまだまだ不憫でいっぱいだ。
「せめて、遮蔽物が欲しいのです。その、水浴びがしたいので……」
「――?」
再び首を傾げられてしまう。女心はわかってもらえないらしい。
当然だけど、この島には人工的な遮蔽物は存在しない。
水を操る魔法のおかげで水浴びはできるようになったけれど、考えてみれば、水浴びのためには服を脱ぐ必要があった。そりゃ、人はいないけど、だからって、こんな開放的なところで全てを脱ぎ捨てるほど、わたしは島に馴染めていない。
魔法少女衣装のおかげで身体の清潔は保てているけど、そういう問題でもない。
何日もまともに身体を洗えていないということが一番の問題だ。
「……だめですか?」
「――?」
乙女的ピンチはわかっていただけていない様子。
それならばと、わたしは魔法少女へと変身する。
惜しげもなく外で変身や変身解除をしている辺り、わたしも段々馴染んでいるのかもしれない。王国にいた時はしなかった。実質着替えだもん、これ。
「ぴかぴかミラクル! ちょこっとペンシル!!」
この間オバケから入手した魔法で一番のお気に入りを使う。
指がキラキラ輝いて、宙をなぞるとそのまま線が浮き出るのだ。
空中でも水中でも、あおれに色や太さも意のままだから地味だけどいい魔法。
なんでオバケがこれを覚えていたのかは謎だけど、お絵かきオバケなのだろう。
「こんな感じです!」
「――!」
かめのすけさんの上に家が建っているイメージ図を見せたらにっこり笑う。
なるほどこうやってコミュニケーションを取ればいいんだな。
「それで、建築許可をいただけますでしょうか?」
「――♪」
うん、多分大丈夫だ。そういうことにしよう。
許可をいただいたわたしは、よしと袖を捲り上げる。魔法少女の衣装に袖はない。パフスリーブをちょこんと指で押しただけ。つまりは気分。
こんな衣装で家を建てるだなんて、本職の大工さんが聞いたらトンカチ辺りでえいやーされそうだけど、これほど適した服もない。
腕力強化や足場生成、壁設置の魔法が使えるほか、変身しなおせば汚してしまっても元通り。スカート丈が心もとないのと、あとハデハデなのが玉に瑕だけど、そこは無人島だし、ノーカンだ。
「できれば、かめのすけさんの近くがいいですね」
「――♪」
完全に同意、という感じで頷く。
しかし、近くといっても、そもそもここはこの子の背中の上だ。
砂浜、森、あと頭の上、どこにでも建てられるからこそ少し迷う。
むむむと首をひねっていると、突然地面が揺れる。
「お!? おおお!!!?」
「――!」
かめのすけさんが揺れているのだ。
珍しいなと思いつつ、激しい揺れにバランスを崩すと、島にも変化があった。
首の付け根辺りの地面が揺れて崩れていく。
そうしてできた少し深い穴は、お家を建てるのにぴったりだ。
「ここに建てろと?」
「――♪」
「そうですね。では、ご近所さんとしてよろしくお願いします」
かくして、ご希望どおり、建築場所が決まる。
毎日治療の魔法を使うことも考えると、やっぱり近いに越したことはない。
それにしても、と、かめのすけさんが空けた穴を除く。
「あなた、やっぱりすごい亀さんですよね?」
「――?」
なんですかそれ、といったような顔だ。
うーん、動物とのコミュニケーションは難しい。
そういえば、オバケからもらった魔法の中に小動物と会話できるものもあった。
かめのすけさんに試してみたけれど、対象外らしい。
まあ、島サイズの生き物を小動物というのは無理があるよね。
「それでは、大豪邸を目指してがんばりますよ。おー!」
♪ ♪ ♪
実は、ひっそり練っていた建築計画がある。
頭の中に思い描いていた理想のマイホーム、それを地面に描いていく。
リビングと寝室は別。あと、狭い書斎も憧れだ――本はないけれど。
「えっへへー、ここがお風呂でー、ここが寝るお部屋ですー」
楽しい。
すぐに間取りが描き終わり、わたしの建築計画一段階目終了。
しゅう……りょう。
「……次、何すればいいんだろう」
建築計画が終わってしまった。
完成したのは空き地に描いた理想図のみ。これなら子供のころにも描いた。
しかし、ここからどうすればいいのかは知る由もない。
だって、家なんて建てたことないし……
「こ、こうなったら! ナビさん、お家の建て方を教えていただきたいです」
『――。』
返事がない。
うーん、肝心なことはいつも教えてくれない。
魔法関係のことなら教えてくれるのかな。うーん、魔法、魔法。
「お家を建てられる魔法ってあります?」
『イエス。ロロナ様ノ所持魔法デ、解決ガ可能デス』
こう聞けばいいんだな。なんか、心が通じた感覚だ。
壁を作り、軟化の魔法でドロドロに、穴に流し込んで地盤を固める。
あとは、壁を細長く切って柱を作り、そこに会うようにまた壁。
そうしていけば、わたしの所有している魔法でも家が建てられる。
少し自信はないけど、きっと大丈夫だろう。
「では、まず、カチカチウォール!」
オバケさんから手に入れた壁を出す魔法だ。
力を入れれば、どんどん壁が出てくる。出てくる。止まらなくなる。
「うわっ!? ど、どうして!?」
延々と出てくる壁、砂浜にとてつもない大きさの山を形成し、ようやく止まる。
かめのすけさんもビックリ。わたしはがくんと肩を落とし、魔法を解除。
まだ、国一つ分の魔法は使いこなせていない。
「うーん、魔力がたくさんあるのも困りものです」
集中力を高めれば、一人分の魔力で魔法を使うこともできる。
しかし、それは針の穴に糸を通すような作業。
こと家を作るなんて工程の多い作業、最後までもつ自信はなかった。
そこで一つ疑問に思う。
「全部一気にやっちゃえばいいのではないのでしょうか」
普通に生きていたら考えもしないことを思いついた。
要は、たくさんの魔法を頭の中で組み立て、一気に家を出現させる。
普通なら魔力切れを起こして魔法が失敗するが、わたしに限ってそれはない。
むしろ、国一つ分魔力があるのなら、そっちの方がふさわしいくらいだ。
「集中、集中……」
瞳を閉じ、魔力を練りこんでいく。
複雑な魔法の術式を頭の中に思い浮かべ、それを一つ、二つ、増やしていく。
新しい術式を覚えるたびに、古いものから意識が逸れる。しかし、集中。
魔力は事足りている。あとはわたし自身の問題だ。
大好きな魔法たちを抱きしめるように捕まえ、一つ一つの術式を解く。
何秒経ったかわからなくなった辺りで、わたしは目を見開く。
「――これっ!!」
壁を作る【カチカチウォール】
物体を軟化させる【にゃふてぃー・そふてぃー】
養分を高め木を生やす【ポンポンフラワー】
材料を適切に切り刻む【マジガール・カッター】
家の強度を上げる結界【マジガール・ガード】
中の床を少し柔らかくする【もっふん・こっとん】
他にも複数の魔法を同時に展開、家にする。
大体がオバケさんから吸収した魔法だったけれど、何とか術式を理解する。
結果として、建設予定地には一発で家が建つ。
「ふぅっ、こんな感じかな」
流石に、少しだけ魔力を消費した感覚があった。
まあ、すぐに戻ってしまったんだろうけど。
魔法の同時展開、そんな、人がいたらおそらく褒めてくれる偉業も、無人島では反応なし。強いていうなら、かめのすけさんが少し驚いていた。ふふん。
「――と、まあ、一瞬で建ててみましたけど、これでは味気ないですね」
かめのすけさんの頭に建ち、ちょこっとペンシルの魔法を使う。
三角屋根の二階建て、しかし味気ない真っ白な家。
わたしはあえて、最後の工程を残して家を建てたのだ。
「かめのすけさん、色を塗るのを手伝ってくださいな」
「――♪」
「とびきりかわいく仕上げますよ」
♪ ♪ ♪
「あいっ……たたたた……」
新築のお風呂はやはりいい。
水を操る魔法と浄化の魔法の恩恵で、うまいことお湯が沸く。
ただし、外で芸術家魂を爆発させたわたしの肌はひりつく。
日焼けができない体質ゆえに、一日中外にいたりすると、こうなってしまう。
赤い屋根にピンクの壁の理想のお家、しかし痛くて今にも泣きそう。
「それにしても、随分遠くに来ちゃったなぁ」
いまさらの実感である。
家が建って、より一層ここに住んでいるという実感が湧いたからだろう。
魔力管理室という、このお風呂場ぐらいの広さの部屋とはまるで違う。
ここにはかめのすけさん以外何もない。
いいものも、悪いものも、全部ひっくるめて何もないのだ。
「なんかこう、……身体に悪そうなものが食べたい」
ぶくぶくと湯船に顔を沈めながらそんなことを考える。
やがて、外から鼻歌が聞こえてきたので、合わせるように歌ってみる。
かめのすけさん、何の曲を歌ってるんだろう。
不思議な歌だ。世界のどこにも似ている曲がないと言い切れる、不思議な曲調。
つかみどころのない鼻歌を聞きながら、夜は更けていく。
「ふふ、悪くないかも」
いつしかわたしもここに慣れていけるのだろうか。
それはわからないけれど、きっとここを好きだと思う日はそう遠くはない。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
広告の下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援お願いします!