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怪奇! 魔法少女VS怨霊ズ

「ああ、今度こそ星がきれい……」


 かめのすけさん生活初日。

 夕暮れから眠ってしまっていたわたしが目を覚ましたのは静かな夜だった。

 嵐の後ということもあり夜空は雲一つなく、たくさんの星が輝いていた。

 砂浜、涼やかな夜風を感じながら砂を払う。


「これ、かめのすけさんがやってくれたのかな」


 見れば、わたしの周りには身に覚えのないヤシの木が生えていた。

 生えているというよりは埋められたような跡、わたしの近くで眠るかめのすけの仕業だろう。


「アナタが優しい亀さんでよかったです」静かに眠る島サイズの巨体に語り掛けるも返事はない。すっかり目が覚めてしまったわたしは、潮風に身を任せ、ふらふらと砂浜を歩き出す。

 やることはない。これからのことも決まってはいない。

 しかし、明日の寝床は屋根があるといい、なんて考えながら砂浜を踏む。

 シャリシャリという感覚が少し楽しくなってきた頃、茂みの方でぼんやりとした光を見つける。


「もしかして、誰かいる?」


 無人島ならぬ無人亀だと思っていたけど、誰かがいるのかな。

 そうだとしたら、ここでの暮らしも楽になるかも。

 なんて希望を胸に、わたしは茂みの方に駆け寄る。

 結論から言うと、光の正体は希望なんかではなかった――


「こんにち……わわわわわわわわっ!!」


 ――ぼんやりと光る半透明の絶望がそこにはいた。

 ていうか、オバケだった。鎧を付けた女の人の霊がこちらをじっと見つめる。

 いやいや、そんなはずない。きっとあれだ。半透明なだけのただの人だ。脚がないからなんだ。別に不思議でもなんでもない。血まみれに見えるけど、あれだってきっと転んだだけのはず……


「うぐぐ……うがぁあ……」

「そ、そうですよね。こんにちはじゃないですよね。ここ、こんばんはですよね」

「うぅ……、あぁぁ……」


 言葉が通じていない。

 きっとあれだ。野生児だ。ここで育ったから言葉がわからないに違いない。

 すごく睨まれてるけど、それも当然だよね。こんな夜中に起こしちゃったら、それは怒られて当然だよね。うん、その通りだ。

 よし、逃げよう。


「ご……、ごめんなさ――うひゃぁぁああぁぁああ!!!?」


 わたしの背後、同じく半透明の方々が大勢いらっしゃった。

 同じように立派な鎧に身を包んだ方々。みんな血まみれ、全員もれなく半透明。

 自分をだますのも大分キツくなってきた。


「違いますよね。あ、そうだ。ケガの手当てをしますね」


 逃げられないと悟った。

 ああ、これはもう終わりなんだなと実感した。

 オバケはオバケを呼び、静かだった森の中は呻き声に満ちていた。

 にぎやかになってよかったね。でも、まずはお手当をしないと。


「へ、変身!」


 救いを求めるように叫ぶ。

 光魔法で出来たベールがわたしを包み込み、変身が始まる。

 グローブ、ブーツ、ドレス、スカートの順番でコスチュームが生成され、最後に真っ黒だった髪の毛が鮮やかな桜色へと変わる。ハートのブローチが胸にくっつき、同時に花が咲くようにドレス全体にリボンが結ばれる。

 最後に、ベールをリボンに変え、髪の毛をツインテールに結ぶと変身完了。


「あ、あはは、この格好のことはあまり気にしないでください……ね?」

「ぐぁぁぁぁああああ!!!!」


 やっぱり恥ずかしいな、なんて思っていたら、半透明たちが悲鳴を上げる。

 ちょっと失礼じゃないかなと思ったときには、半分がいなくなっていた。


 余談だけど、魔法少女衣装の表面は光魔法による透明なベールに覆われている。

 攻撃を弾いたり、魔法を使う時には魔力の代わりとなったりしてくれる優れもの。

 あとは、悪霊とかの類を浄化する働きも持っている。

 ただの自慢だよ?

 半透明さんは悪霊じゃないから、浄化なんてそんな――


「まったく、冗談はやめてくださいよね?」

「ぎゃぁぁぁああぁああ!!」


 わたしが近づくと、半透明さんが消える。

 人型だった姿が、きらきらした煙に変わり、わたしのブローチに吸収される。


 余談だけど、このブローチは他人の魔力を吸収することができる。

 悪霊というのは大体が死人の魔力に怨念が宿ったもので、浄化された後吸収できたということは、やっぱり半透明さんはオバケってことになるね。

 うん、オバケ。わたしの周りにいるやつら、全員――


「いぃやぁあああああああああ!!!!」

「ぎゃぁぁぁあああああ!!!!」


 走る。

 身体能力強化の魔法を脚にかける。パワーマックス一国分!

 今ならドラゴンも真っ青の速度、足場を作れなくても海を渡れる。

 そんな規格外の身体能力を手に入れ、わたしはひたすら島の外周を回る。

 しかし、途中で気付いてしまう。

 向こうは実体がないのだから、普通に追いついてくるんじゃない?


「ぐぅぅあぁ!!」

「おぉぉばぁぁぁぁけぇぇぇえぇえええ!!!!」


 いくら大きな声をあげても苦情が来ないのは無人島のいいところかもしれない。

 だからといって、オバケは怖い。

 何度だって言う。魔法少女だろうと、怖いものは怖いのだ。


「ひっぐ……うぐっ……ごわいよぉ……」


 16歳とは思えない衣装を着て、16歳とは思えない泣き顔を晒す。

 逃げて追いかけられることの方が怖かった。

 なぜ追いかけてくる。わたしに近づいたら成仏されるというのに……

 そういえば、悪霊の類は成仏したくて光魔法によってくる性質を持つらしい。

 つまり、変身している限りは永遠に追ってくる……?


「リ、リリー――」


 リリースしようとして気づく。

 でも、追いかけられないとして、変身を解除してどう立ち向かうんだ。

 いるものはいる。それもいっぱい。

 ここに住んで生きていく以上は、何とかしなくてはいけないんじゃないか!?


「で、でもぉ……」

「ウォォォオン!! ギィヤァァアアア!!」

「もういやぁぁあぁぁあ!!」


 脅かしに来て、勝手に消える。

 もう服だけ置いておくから勝手に集まって成仏しておくれ。

 ――まあ、出来ないんだけど。


「どうなってるのぉ……」

『解析、シマス』

「ひぃぇぇえええん!!」


 ついにはわたしのブローチがなんか喋り出した。

 オバケいっぱい吸収しちゃったから、ブローチまでオバケになっちゃったのかな。

 でも、だとしたらわたしはこれからずっとオバケを胸につけて生きていくってこと……?


『ノー。コレハ、解析案内用魔法。魔法コード【ぎらぎらミラクル ロロナナビ】』

「そんなの知らないよぉ……」

『イエス。魔力生命体ノ魂カラ、五秒前二習得シマシタ』


 一体何がどうなっているのか、ブローチは全部答えてくれた。

 オバケを吸収すると、魔力が記憶している魔法が使えるようになるらしい。

 吸収しているのだから、わからなくもないけど――


「とにかく、この状況をどうにかしないと、どこか隠れられる場所とか魔法とかありますか!?」

『七分前習得魔法デ壁ヲ作レマス。魔法コード【ぴかぴかミラクルカチカチウォール】』

「壁? うぅ、そんなの意味あるのかな。まあ、いいや!」


 呪文を詠唱すると、本当に岩の壁が出た。

 全く身に覚えのない魔法だ。でも、使うことはできる。

 しかし、まだ安心するには早い。


「あの、ナビさん、何度もすみません。オバケの位置ってわかりますか?」

『視覚イメージ、共有。赤ノエリア二、魔力生命体反応』

「おお。すごいです! ありがとうございます!」


 頭の中に地図が思い描かれた。

 この島を真上から見た地図、見ると、本当に亀さんなんだなと思う。

 でも、おかしい。この島、なんでか真っ赤だぞ……?


「うぅぅ……ぎゃあああああああ!!」

「で、ですよね!! やっぱりすり抜けますよね!! ごめんなさぁぁい!!」


 すり抜けてくるオバケ、逃げ場がないという絶望だけわかった。わからされた。

 島一周マラソン再開、泣きながら走る。

 やって来ては、消えていくオバケの群れ。

 ナビを頼るまでもない。この島はオバケだらけなんだ。


『魔力生命体吸収。習得魔法コード【きらきらミラクルぼんぼんダイナマイト】』

「ひぅぅ、そういうの、大丈夫ですから楽しい歌でも歌ってくださいぃぃ!」

『――。』

「なんで黙るんですかぁぁ!!!?」


 歌は苦手なのかな。

 とにもかくにも、わたしは走り続ける。

 習得する魔法の呪文が可愛らしいことだけが救いだ。

 実は唱えるのけっこう勇気いるけど、今だけはありがたい。


『魔力生命体吸収。習得魔法コード【きらきらミラクルマジガール・カッター】』


 ――しかし。

 ふと、気になってしまう。

 さっきからわたしが習得している魔法、けっこう強いものが多い。

 騎士や魔導士ならまだしも、一般人が使う魔法ではなさそうだ。

 大体、なんでこの島はこんなにオバケがいるんだろう。

 なにか、あったのかな――


「うぐぅぅわぁぁぁぁああああ!!!!」

「ぎぃぃぃゃぁぁぁああぁあああ!!!!」


 ――なんて考えこんでいる場合ではない。

 島中のオバケから狙われているんだ。

 追いかけられるのは怖い。無視もできない。

 それでも、本能が逃げろとわたしを駆り立てる。


「もうやぁだぁぁぁぁ!!!!」


 ロロナナビ、今日の消費カロリーとか教えてくれないかな。

 思って聞いてみたけど、歌同様に教えてくれないみたいだ。

 結局、わたしの島一周無限マラソンは夜通し行われた。


 ♪ ♪ ♪


『――魔力生命体吸収。残リ、反応ゼロ』

「ぜぇ……、ひゅぅ……、勝利ぃ……!!」


 夜が明け、島中のオバケを吸収したわたし(最強)は拳を突き上げる。

 もう怖くない。オバケなんていない。だからもう平気。

 昇る朝日を見つめながら、安堵と少しの達成感を噛みしめる。

 もう、明日からは怯えて暮らさなくて済むのだ。わたしは勝利した。


「……こんなところかな」


 昨晩から今朝にかけて習得した魔法を平らな石にメモしてそのまま倒れる。

 ナビに聞けば教えてくれそうだけど、話しかけるのは苦手だ。

 ちなみに、この指で文字を書くという魔法も、彼らから吸収したものだ。

 これがあれば、無人島生活も豊かになるはず。

 ありがとう、オバケさん。でも、怖いからもう来ないでね。


「さて、と……」


 習得した魔法で壁を作り、組み合わせて簡易的な家を作る。

 水を操る魔法で海水を引き寄せ、自前の浄化魔法を使い、お湯にする。

 雑だけど、即席のお風呂が完成。

 一日走った汗を流して、湯船につかり、ふと考える。


「それにしても、なんでこんなに魔法が使える人が多かったんだろ……」


 考えるけど答えは出ない。

 習得した魔法も、結局最後までレベルの高いものが多かった。

 もしかして今のわたし、国一つ分の魔力と、複数の上級魔法を覚えてる?


「……まあ、いいや」

 しばらく考えていたら、頭がもじゃもじゃしてきた。

 徹夜で走り回った後に考えられるわけもなく、わたしはゆっくり湯船につかる。


 習得魔法をメモしていた平らな石。

 その裏の『魔導兵器レポナ』という文字に気づくのは、ずっと先の事。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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ここから下はおまけです。

今回手に入れた魔法の一覧表です。

ロロナは石碑の裏にこんな感じでメモしていました。

読まなくても、今後読み進めるうえでの支障はございませんので、

お好みの方はぜひ!


『ロロナメモ』

 使えるようになった魔法

 上に書いたものほどロロナの評価は高いらしい。

 彼女の評価基準は、かわいいかどうかと、生活に使えるかどうか。


 自分がいる場所の鳥観図が見られる魔法【くりくりっとアイ】

 指で文字をかける魔法【ちょこっとペンシル】

 壁を作る魔法【カチカチウォール】

 身に付けている服の修繕をする魔法【クリーン・クリーン】

 楽器の音を口から出せる呪文【アイアム・オーケストラ】

 触れたものをふわふわにする魔法【もっふん・こっとん】

 触れたものを柔らかくする魔法【にゃふてぃー・そふてぃー】

 食べ物を甘くする魔法【ハッピースイーツ】

 食べ物を辛くする魔法【ハッピースパイシー】

 指定した温度に変換する魔法【シンクロ・ウォームド】

 雨除けの魔法【ミラクル・パラソル】 

 小動物の言葉がわかる魔法【ぴょこっとコミュニケーション】

 ナビゲート魔法【ロロナナビ】


 火を操る魔法【めらめらメラケーノ】

 水を操る魔法【じゃぶじゃぶジャブエリアス】

 魔力を刃に変換する魔法【マジガール・カッター】

 魔力を矢として射出する魔法【マジガール・アロー】

 指定範囲を爆撃する魔法【ぼんぼんダイナマイト】

 広範囲に雷撃を落とす魔法【バリバリバリキテル】

 ――他にもいっぱい。

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