魔法少女漂流記~こんな力は知りませんけど!?~
目が覚めた瞬間、目が覚めたことを後悔した。
右も左も、下手をすれば上も下もわからない真っ黒な海。
雷鳴轟く嵐の中、わたしはボロ舟に括り付けられていた。
イヤな記憶がよみがえる。
魔力管理室で働いていた折、突如現れた王妃候補によって日常が崩壊する。
国の魔力を管理している天球はあろうことか粉々になり、国中の魔力を取り込んだわたしは意識不明、見事に国を追放され、そして島流し――
「せめて島まで流してよー!!」
そこではない。そこではないのだ。
しかし、わたしは叫ぶ。この荒れ果てた海に、空に。出来ることはそれくらい。
息を切らし、荒ぶる船の感覚に少し気持ち悪くなる。
せめて、手足が使えればと、ご丁寧に結ばれた鎖を見る。
「ぐっ……、腕力強化の魔法でいけるかな」
苦手な魔法だった。
腕力なんて、ビンの蓋を開けられれば十分だとわたしは思う。
それに、わたしはこの魔法を使ってもビンなんて開けられないほど力がない。
こんな太い鎖、千切れるわけがなかった。
「……ぴかぴかマジカル、ほわほわパワー」
ダメで元々、呪文を唱える。
通常とは違う、魔法少女オリジナルの詠唱をすると、グローブの装飾が光る。
ただ、望みは薄い。
腕力向上の魔法は結局自身の腕力を倍増させるもの。
風の日はドアも開けられないわたしが二人いても、非力なままである。
だから、こんな魔法を使っても――
「え……、なんで?」
――砕けるわけはなかったのだ。
なかったのだけど、何故か鎖は粉々になってしまった。
え、そんな、ゴリラでもこんなことにはならないよ?
「むむむ、錆びてたから……?」
だと思う。
そうでもなければ説明がつかない。
せめて、わたしが数万人いれば話は違うのかもしれない。
でも、例えば大体トレンダ王国の人口ぐらいのわたしがいたらの話だ。
魔法少女とはいえ、まだまだ半人前なわたしが一回魔法を使ったぐらいでそこまで力は上がらない。やっぱり、鎖側の問題だよ。うん、間違いない。
「――って、やってる場合じゃない! わたし、泳げないんだった!!」
手足が自由になったらなんて思っていたけど、自由になっても状況は変わらず。
わたしが泳げないということに変わりはなかった。
荒れ狂う波を前に、今度は脚に魔法をかけていく。
「ぴ、ぴかぴかマジカル! すいすいウォーク!!」
ブーツの裏にピンク色の魔法陣が展開される。
足場を作る魔法で、これが展開されている間は陸海空を自由に歩ける。
弱点は、魔法陣が少し可愛すぎること――それと持続時間が極めて短いこと。
「ふんぬぬぬぬぬぬ!!」
一つ足場を出したら、大体消えるまでの時間は数秒。
消える前に脚を前に、次の足場を出さねば大惨事。
しかし、この荒れた海の上、風に押さえつけられ一向に身体が前に進まない。
早く、早く次の足場を出さねば――
「ぬぬぬぬぬぬぬ……ぬぬ?」
――落ちる、はずだった。
どれだけ経っても足場が消えない。
なんでだ。この魔法の魔力の消耗はかなりのもののはずなのに。
こんなに長く空中歩行出来たら、月にだって行けちゃうよ?
「わたし、おかしくなっちゃったか?」
簡単に千切れた鎖、永久に出続ける足場。
いやいや、こんなんじゃなかっただろ、わたし。
どこかで、膨大な魔力でも取り込んじゃったか?
「……取り込んじゃったな」
早めに忘れようとしていた記憶を呼び覚ます。
ああ、わたしそういえば、トレンダ王国の魔力を全部取り込んだんだ。
つまり、腕力強化も足場形成も一人じゃなくて、国一つ分かけちゃったってこと……?
「いやいやいやない! そんなことあるはずないから!」
慌ててぶんぶん手を振る。合わせて強風の軌道が変わる。
まるで、一国分の腕力強化の魔法でもかけられているようだ。
ううん、違う。きっと風の気分が変わったんだ。
気候まで変える力なんて持ってるはずない!
「あり得ない! あり得ないですよね!?」
「グゥゥゥオォォォォォッ!!」
突如海から飛び出してきた巨大クジラ! ワンパン!
いやいやそんなはずない。
あんな島みたいな化物クジラ、わたしの細腕でどうこうできるはずない。
そう、あれはきっと急用を思い出して帰ったんだ。そうだ。そうに違いない。
「偶然ですよ! 偶然! そうですよね!? そうですよ!!」
「キィィィィィイエェェェェエエエ!!」
嵐の中から現れし怪鳥! またまたワンパン!
いやいや、だからあり得ないから。
あんな戦艦みたいな鳥、わたしのへなちょこパンチなんて気にも留めない。
そう、アレはきっと急なターンの練習をしていたに違いない。
「そうだ、お花! ここここういう時は、心を落ち着けるに限ります!!」
腕力強化とか、物騒で困る。
わたしが得意な魔法は、もっと可愛らしくて魔法少女らしいやつだ。
こんな嵐の中でも、お花が一輪あれば和めるはず。
「もふもふミラクル! ポンポンフラワー!!」
わたしの脚元に、大輪の花が咲き誇る小島が出来ていた。
想定では、心安らぐ一輪の花を出すつもりだった。思ってたのと違う。
まさかこれも、一国分のお花!?
いや、そんなにない。せめて百輪あるかどうか。それにしても多いけど。
しかし、そもそもの話、嵐の中、こんな海のど真ん中に花なんて咲かないんだ。
それが、小さな島まで出来ている。さすが一国分、理屈とか捻じ曲げてる。
「う……うぅ、お花が……」
混乱の最中、海風に花が揺れる。
ごめんね、こんな時に咲かせてしまったばかりに……
わたしがしっかり守るからね。
「きらきらミラクル! マジガール・ガード!!」
魔法陣型の防御結界を小島に展開する。
本当は小さな盾を出すつもりが、わたしを覆うドームが展開される。
例によって想定外だけど、これで、雨風の脅威はしのげるはず。
しかしな、と島に座って空を見上げる。これはもう認めざるを得ない。
わたしの中には、本当に国一つ分の魔力が入っている。
「うぅ、……そんなの実感わかないよ」
現実感がない。
でも、この強化魔法や足場の形成、島を生み出し、それを守る結界も張る。
あきらかに、わたしには出来るはずのない魔法のオンパレード。
わたしは一体どうなってしまったのか――
「どう思います?」
「グモモモモォ……?」
ロロナアイランド(今名付けた)を覗き込んできたイカの化物さんに尋ねてみる。
目をぎょろぎょろさせ、ぬるぬると脚を動かすだけで返事はない。
ただ、その姿を見ていると、不思議と背筋がなぞられるような不快感があった。
唐突だけど、――わたしはイカが大の苦手である。
「い……いやぁぁぁああああっ!!」
「グモォォォォォオオオオオッ!!!!」
立ち上がり、慌てふためく。
どれだけ魔力があろうと、怖いものは怖い。
さっきみたいにパンチでやっつける? いや、それには奴に触れる必要がある。
ならば逃げるか。いいや、ロロナアイランドを見捨てるわけにはいかん!
答えはただ一つ、決まっていた。
「きらきらミラクル!! プリティ☆プリティカルゥッ!!!!」
両手でハートマークを作り、それを奴へと向ける。
いくつかの魔法が重なり、必殺ビームが奴を討つ――はずだった。
今のわたしが保有する魔力のおかげか、いつも以上の魔法が重なっていくのを肌で実感する。
組み合わさる魔法がそれぞれ、信じられない数ずつ発動し、常識では考えられない威力に膨れ上がり、わたしの手から放出される。
「あ、あぶなぁぁぁあああいっ!!!!」
「グモッ!?」
いくら嫌いだからと、殺生したり、国から追い出してはいけない。
それを学んでいたわたし(えらい)はすんでのところで標準を真上に向ける。
荒れる夜空に放たれるはきらきらエフェクト付きのビーム。
あろうことか雲を貫き、嵐を穿ち、そして夜空に静寂を取り戻させる。
「――ああ、星、きれいぃぃぃいいいいいい!!!?」
しかし、わたしの方は和んでなんていられない。
必殺ビームの反作用で、ロロナアイランドは超特急で海上を滑り出した。
十本の触手をうねうねさせるイカに手を振る間もなく、後方へと飛ばされる。
こんなときでも崩れないわたしの防御結界は、やはり国一つ分の魔法なのだろう。
力を持ちすぎるのも考え物だな。
贅沢すぎる教訓と共に、ロロナアイランドごと吹っ飛ぶわたし。
こうして、人生初の座礁を経験する羽目となるのだった。
できることなら、これで最後にしたいものだ――
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