仲間として再スタート
またも使い捨てテントを使い宿屋代を節約しつつ、モンスターを気にしなくても良いのは助かっている。
そして断ったのに報酬をしっかりと渡す3人の行動がランダウにこのパーティーでやっていこうと心に決めた出来事だ。
アリーが好きとはいえ人恋しいのは違いなかった。
テントの中で魔空虚の作り方をランダウなりに説明してみたけどいまいち芳しくない。
魔法袋が実際にあるのだからそれをイメージすれば簡単かと思いきや全然駄目。
「その2次元と3次元はなんとなく分かるのよ。その後の箱の中に入った物を開けずに取り出すとか、時を次元に数えるとか4次元とか全くなのよ〜」
「僕的には初めからさっぱりかな!」
(正直説明してる時の顔がカッコよくて頭に入ってないとか言えない)
ランダウは試しにゲーム内では使い道が特にない、買う専用のアイテムを仕入れて大学ノートとボールペンを取り出してみた。
(うはっ。これもオーバーテクノロジーだよな……。NPCのプレゼント用にも使えない道具が用意されてるのもマジカルファームの魅力。一部ネットでは叩かれてるけど)
紙に書いて点と線と立体を描くとロザリンドも流石にそこまで理解した。
問題はその後の次元や空間、異世界をイメージ出来てない。
「えーとさ、5歳の頃とか目に見えてない所ってどうなってるんだろう?存在してないとか変な空間に繋がってるとか考えたことない?」
「僕的には今でもあるかな!」
(それはそれでどうなんだろう……)
そこまで聞いて早速魔力を使いイメージしてるので邪魔しないでおく。
「僕的には出来たかな!」
「う、嘘なのよ〜。ロザリーがこんな難しいこと理解するなんて負けたのよ」
「ちょっと私にも分かる説明して欲しい!」
いざやると一発成功させランダウ以外にも出来ることが分かり2人にも熱が入った。
次の説明は透明な机が常に自分の近くにある想像をしてもらい、その引き出しを引っ張るとその中は魔法袋というめちゃくちゃな説明だ。
「そんなので出来たら皆とっくにやってる筈なのよ……」
「でも誰も知らないからやってないってことかもよ?」
「へぇ、このジュース飲んだ後に指輪着けて同じ事すればいいのかな?」
((絶対にランダウに指輪着けて貰う)のよ!)
その後も執念と努力により魔空虚を習得する事に成功した。
どうやって借金を返すかと相談してる中1つの案が出る。
それはニリンソウとスモールウルフの肉を駆け出し亭のベルズさんに卸してみるというのだ。
「スモールウルフの肉なんて取り扱う店はないし、タダで渡す代わりに売れた分マージンを取ろうって作戦か!頭いいねバーバラさん」
「これが私の本気なのよ!私にさんはいらないし頭を撫でてもいいのよ?」
「後は定番のマヨネーズとか唐揚げだけど、ラムドだと油って高価なんだよなぁ」
(ザンギの方が個人的にいいんだけど、醤油がなぁ。マジカルファームには醤油あるし、売らずに自分で消費すればいっか)
10:1を出来るようになってからゲーム内のアイテムを売ることも考えたこともあった。
けれど総合ギルド入りたての子供が大量に売るのは盗品を疑われるかもしれないし、何より手入れがいらないとか地球でもヤバすぎる物をロウフリアに流通させるのはやめとこうと頓挫した。
そもそも10:1の変換効率だとゲームして物を出して、それを売っての一日になりそうで楽しくないと判断して生活苦に陥った時の最終手段に取っておくことに。
自分だけだと行き詰まってしまうのでどんな料理か実際に作ってみせてみる。
好評だし見たことない料理らしいのでお金になりそうだ。
食べ過ぎると太る事を教えたらピタッと動きが止まったのを見て微笑む。
「こんなに美味しいの我慢するの辛い……」
(週1くらいでは作るからそんな悲しい顔しないで)
「僕的にはその油って動物の脂じゃ駄目なのかな?」
「魔空虚といい今日のロザリーは変なのよ!」
「私って役立たず?」
「それじゃあ今日も宿屋より豪華なテントで寝るのよ〜」
「僕的にもそろそろ寝ようかな!」
「ちょっとは否定してよぉ!」
美少女に囲まれてすぐに寝れるわけもなく、アリーに浮気してないよの意味も込めてゲームへと勤しんだ。
今回はしっかりと交代制の見張り。
次のメインストーリーを進めるのは皆の借金を返し終わってからにしよう。
以前は落ち着いたらという漠然とした目標だったけどゴールが見えてる方が頑張れるのかランダウに気合が入った。
が、メインストーリーを進めるにはゲーム内の借金を返す必要があるのには気がついていない。
次の日早速スモールウルフを中心に狙いを定める。
解体の手間は増えるけどDEXアップのグローブ効果が出て思いの外早く終わらせれた。
ベルズさんが裏切って利益を独占したらどうするとバーバラに聞かれたけどことも無さげに答える。
「何もしないよ」
「なんでかな?」
「スモールウルフの肉って集めてる人いる?」
「いないわね。毛皮だって傷付いて減額、手間賃考えるとマイナスって人も多いわ」
「それじゃあ肉やニリンソウを集めるのはこの4人しか出来ないんだ。しかもニリンソウは毒草に似ている。ってことは独占したいのに裏切ったら商品を出したいのに出せなくなる」
「なかなかえげつないのよ」
今日は白々しい芝居もなく最初から狩り全開のモードでしているので前よりもかなりハイペースで集めることが出来ている。
このままだと数日で借金を返し追終われそうだけど、念の為最低限の資金は確保しておきたいので目標は貯金20万ガロだ。
(そうだ。今度実家に帰ったら野菜の種をあげよう。めちゃくちゃ美味しいの出来るかも)
「いやー、ランダウ君いるとこんな違うなんて私の目に狂いは無かったね」
「それはこっちも同じだよ。あとランダウでいいよ、こっちもタメ口だしさ。家族は俺のことダウって呼んでるよ」
「今はダウに頼り過ぎだけどそのうち対等なパーティー目指すのよ」
「僕的にはダウが冒険者に絞って稼いでるのが不思議かな」
あっ、それか。確かに最初は商業ギルドの依頼とか受けてたけど最近は冒険者一本だなと顎に手をやるランダウ。
ポーション作りは薬品ギルドの担当だが、薬草採取は冒険者にポイント入る。
(やっぱり異世界って言ったら冒険者だからってのも説明し辛いし……)
そこまで考えて嘘にならないよう脚色しつつ本音を話した。
「今までって家の周りしか知らなかったし、折角だから色んな景色を見て回りたいのと、純粋に冒険者に憧れたって言うかカッコいいじゃん。困ってる人を助けるなんてさって皆の理由も教えてよ」
「子供の頃、こっそりと外で遊んでたらベテラン冒険者に助けられたの。そんな困ってる人を助けられる大人になりたいねって。戦い方の手解きもその時にしてもらったの」
「他の男子みたいにドラゴンとかグリフォン倒してとかじゃないのは嬉しいな」
(それはなんでだ?)
「僕的にはそっちの方がわかりやすいかな」
「承認、顕示、優越欲求じゃないのがダウらしいのよ〜」
(前世はのんびりとした大学生だったしな。1流企業とか夢のまた夢だったし)
こうして距離を縮めながら仲良くなっていく4人。
意気揚々と総合ギルドに行ったとき事件は起きた。
絡まれたのだ。ランダウではなくミスリルの誓いがだ。
「おいドロシー!俺と組むの断っておいてなんで駄目冒険者なんかと一緒にいるんだよ!」
「僕的にはダウが駄目なら僕達含めてここにいる皆ダメダメかな」
(ナチュラルに煽ってくなぁ。周りの空気がピリッとしたぞ)
ロザリンドの煽りはバーバラが考えた台本だ。自分達も嫌われ者になってランダウと一緒にいやすいようにと。
この状況もそのうち来るだろうと予想していたのだ。まさか本格的に組んだ初日からとは思ってもみなかったが。
「えっと、4人で報酬11万4千ガロです。本当に1日でやったんですか?」
「勿論♪8万は借金返済に当てて下さいね」
「ダウの計算通りなのよ〜」
「僕的には腕っぷしだけじゃなく頭も良いとか反則かな」
やっかみや質問を適当にいなしつつ駆け出し亭へと戻る4人。
厨房へ入るとベルズさんといつものウェイトレスの他に身なりのいい初老の男性がいた。
「私はシュートだ。君がこのスープを考えたのかい?我々料理ギルドが、いや。私個人がレシピを買取ろうと思うが10万ガロでどうだ?」
(確かにこれで残り半分位の借金は返せるけどベルズさんの表情を見るにもう少し欲張ってもいいか)
「子供の思い付きに破格ですね。飲食は3割利益と言っても素材が安ければどうとでも出来ると……。それは獣臭い肉全般に使えます。羊肉なんて薄く切って焼いても美味しいですけど、それを使えばもっとです。だから20万ガロでどうですか?」
シュートは何食わぬ顔をして考える。この少年は思ったより侮れないなと。
ただ言い値を払うのも、ケチを付けて値切るのも面白くないなと行き着いた。
少し試すか。そう決めてニヤリと悪人風に笑いふっかける。
「それは聞かなくても分かっていたし羊はラムドではあまり見ない。つまり旨味は無い訳だ」
そう来るか、けど嫌な気はしない。つまりこれは圧力やがめついんじゃなく、交渉しようと誘ってると気が付いたランダウは方向を考える。
ここで大人顔負けの舌戦をしたら後々面倒になるかもしれない。
(それでミスリルの誓いと接するのに悪影響が出るのはイヤだ)
「そっかぁ。やっぱり大人は凄いですね!それなら20万は無理か。あ、ベルズさん、シュートさんが帰ったら新しい料理あるんですけどいいですか?僕みたいな駆け出しの子供だけじゃなくて、お酒のツマミになるからアピール次第で一般客も食堂で賑わいますよ」