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アンメットライフ  作者: ¥$終
〜アンメットエッジュケイションー〜教え教えられ編
53/54

罠に嵌める

突然の来訪に驚く面々であったが、すぐにランダウが動いた。

部屋に入れるのは憚れるし、かといって顛末は気になる。

後でタエコに見せてもらうかと目配せ。


『分かったでやがります』


「ロバートさん、すみません。すぐに行きますから」


「もしかして彼女さん達とお取り込み中!?」


「違いますって!」


「ちょい待った!」


部屋を出ていこうとするランダウを引き止め、その声に振り返り反応を伺うが5秒の沈黙の後。


「いやー、ほら。俺達が、押しかけといて、アンタを、部屋から、追い出すのはアレだ。だから」


「リーダーどうしたんすか?急に声を張り上げて?」


「その声は!?」


ドアが開け入ってきたロバートは部屋を見渡す。すぐ目の前のランダウには気にもかけず、今しがた聞いた声を探した。

すぐに見つける事が出来たのだが何を言っていいのか分からずに止まったままだ。

この状態をいち早く察したのはドロシーである。ニヤッとして肘でクイクイとランダウをつついて話を催促させた。


「ロバートさん。もしかしてお仕事の話ですか?」


―「いいっスか!女性には目一杯頼られろ!おっぱいには精一杯甘えろ!これがおっぱい道の基本であり奥義っス」―


(頼られる男にならなきゃ!)

「あっ、はい。先日あの魔道具をモキンの領主様に売ることが決まって、で、その領主にモキンで商売してみないかって誘われて、僕とうとうマルケンさんから独立の許しが出たんです!」


「凄いじゃないロバート。前から頑張ってた成果だね!もしかして愛がそうさせたの?」


(ん。ドロシーとリーダーの反応的にそういう事。仲間に裏切られたと思ってたら自分にも気になる人が出来てとうしていいか判んなくてってこと……)


「ん。リーダー、良かったらうちと友達になってほしい。友達はリーダーなんて呼ばない」


「俺のこと恨んでないのか?皆は俺のこと嫌になったんじゃ……」


「そんなわけないです!いっつもリーダー自分よりも私達を優先してくれてたじゃないですか!感謝しかないです」


「アカネだ。もしこんな俺で良かったらこれからも頼む。真っ当に生きてくよ」


「それなら私いい働き場所を知ってるのよ〜」


「どこだ?手柄をペラペラ喋るような男のいる所じゃなきゃお願いしたいんだが」


その言葉を聞いて肩をガックシと落とすロバート。しかし他の人は素直じゃない奴めと心を1つにした。

少なくとも今の言葉で彼を意識しているのもこちらの意図を理解していることが分かる。


この2人に何があったかは知らないが、少なくともお互い意識している上にロバートだとわかった上で招き入れるようにしたのは他ならぬアカネ自身だ。


(おっと、この人サバサバしてそうな見た目の割に面倒くさいぞ)


「まあまあ、そんな急がなくても。ここなら食べ物も部屋もいっぱいあるし、レンゲの友達なら遠慮しないで下さい」


「ん。さすがビーグ」


ナッチ以外の人がどうにかこの2人をくっつけようと画策してる時、家の外には3つの人陰があった。

リャーギンとレーヴィー、そしてヤマナである。


「手引有難うっス。これからアカネが幸せになれるかは本人にかかってるっスから」


「弟達が世話になってるしお安い御用さ。でもいいのかい?本当はまだ好きなんだろ?」


「なんのことッスか?こんな騒ぎになるまで気が付かず何も知らないで、ガキだったとはいえ助けたくてもどうしていいか分かんなかった俺が今更っス」


「本当に男って意地っ張りなんだから。それにしても私達に共通の敵がいるなんてね」


「アイツは子供が好きなんスよ」


ラムドの領主はかつてアカネを騙した貴族でもある。その罪は上手いこと子飼いの冒険者に擦り付ける事に成功した。

そしてほとぼりが冷めた頃に目を付けたのは孤児院である。

援助を少なくし、増やして欲しいなら女児を自分の屋敷の給仕に寄こせと命令してきた。


それに反発し、どうにかやりくりしていたがにっちもさっちも行かなくなった時リャーギンと出会う。

孤児院はこれで問題なく活動出来るようになったのだが、そして今その嫌がらせはドミドルやリャーギンへと向かっている。


直接的な攻撃は総合ギルドの若者を雇っている事などが奏して本格的には困ってはいない。

だが奇妙としか言いようのない野菜や果物、それらを使ったお酒に小麦粉等々は他の農家からしたら面白くない。

そういった不満を持つ者たちを扇動して悪評をばら撒いたりしている。

そのことはランダウは知らないし、気が付かれないように家族内で協力した。


「それでヤマナはどうするんだい?」


「マルケンさんとロバートがモキンで上手いこと領主に取り入れたみたいっスから、それを利用してアカネをあんな目に合わせた奴に仕返しっス」


「大丈夫なのそれ?」


「結局はダウ君の作った商品に頼るんスけど……。どうにかなるっスよ!ただ一応冒険者に店や自分の警護はしてもらう予定っスけどヒデ達最近見なくて……」


「あー。実力がヒデ君以上となると金額が高いし、それ以下だと不安があるってことね」


ヒデ達3人はここで依頼をこなすだけだとランダウに追いつくのは無理だと他国へと武者修行へと出ている。

顔見知りでもあるベルズへ頼むことも視野に入れてはいるが、本業でもある珍味屋が賑わっていて声をかけ辛いのと、ランクの高さから金額が高くなるので二の足を踏んでいる。

そうして3人が話に夢中になっている所に1人会話に加わった者がいた。


「あーら♡そういう事ならワタシにお・ま・か・せ☆何しろラムドの冒険者なら全員把握してるわ!」


ルソーである。ヤマナは突然の登場に驚いているが、リャーギンとレーヴィーはその出で立ちに引いている。

リャーギンが一歩前に出て勇気を振り絞り訪ねてみた。


「ごめんなさいワタシったら。ヤマナのイイ人(になる予定なの)よ!」


「えっ?!ちがっ」「オシアワセニー」「ヨカッタワネヤマナサン」


2人の脳の処理が限界を迎え、生贄を捧げることでどうにかこの場をやり過ごす。

ランダウが見ていたなら脳内にドナドナが流れるであろう光景を手を振りながら見送った。


それから1ヶ月が過ぎ秋も終わって冬へと差し掛かる時期。

ようやくミスリルの誓いは移動手段を完成させた。

今日はそのお披露目会。

アカネ達はランダウ達の家に住みながら仕事をしていて、結婚詐欺やデート商法紛いな事をせずに働くのは久し振りで四苦八苦しながらも真面目に働いている。


「まずは2種類の乗り物を完成させたんですけど、まずは空気の力で動くこのホバークラフトを試したいので皆さん乗ってください。馬車と同程度か少し早い位のスピードが出ます」


まずはと言う単語にランダウの家族が突っ込みそうになるが、その前にリアクションを取るアカネ。


「おいちょっと待て!あんたらと俺達合わせて10人以上も乗って馬車と同じくらい?嘘だろおい!」


「しかもでっかぁ……」


日本の道路だと規制で6mという限界があるのだが、当然こちらにはそんなものはない。

全長は倍の12mで横幅は7mという大型だ。

車体にはほぼミスリルを使っており、軽量化に加えて耐久性の底上げにも一役買っている。


エネルギーは勿論魔力で、ミスリルとキンテのダンジョンの壁を混ぜたりと貯蓄が可能でドロシーやロザリンドの魔力でも運用が出来るようにしてある。

問題は振動や騒音で、マジカルファーム内だと分かりにくいと判断して違う思惑を含みつつ試運転に彼女達を巻き込んだ。


『それでは早速……』


「全速前進だ!!」


「いえーい♪」×3


走ること1時間。カーブやブレーキの具合を確かめつつ車上に設置した弩をオーバーキルであろうゴブリンに打ち込んだりもした。

この弩はドロシーが弦を引いてロザリンドが狙うという2人がかりでないと使えない代物。

身体強化したランダウなら使えなくもないが、前世で車の免許を持っていたせいか4人の中で一番運転が上手いランダウが使うことは少なそうだ。


「やっぱり振動が凄いのよ〜」


「僕にはちょっと煩いかな……」


「いや確かにそうだけど、昔の馬車の振動を知ってる俺からしたら十分すげぇよ」


サスペンションの開発は既にシュタイン皇子が行っておりランダウ達の世代は揺れにくい馬車が当たり前なのだが、少し上の世代からは馬車とはお尻の痛みと引き換えに早く移動出来るという認識であった。

音の方も色々と対策はしているが大型トラックが高スピードで走り抜けていく位の音は出ている。


ちなみにマジカルファーム産の椅子やソファーも取り付けられていて、それらに座っている時は振動はほとんど感じない。


馬車と違いトップスピードを維持したまま休憩も必要ないホバークラフトはあっと言う間にモキンへと到着した。


「よいしょーっと。改良すべき所はあるけど十分及第点!」


「ちょっと降りたらフラフラするのよ〜」


「ほらナッチさん。私に捕まって」


「悪いね、正直2度と乗りたくない位怖かった」


「さっさと部屋に入れば良かっただろ。そしたら楽だったのに」


「まあ暫く乗ることはないから安心かな!」


ロザリンドの言ってる意味が分からずに首を傾げるアカネとナッチ。

その他はニヤリと笑っている。


「ほら、これから僕達ミスリルの誓は隣国目指すんで」


「ミラさん達がいつまでも世話になってられないってね」


「これは私達が贔屓にしてる雑貨屋さんなのよ〜。ここで働くといいのよ〜」


メモのやり取りをしている様子で予め口裏を合わせていたなと頭に血が上る。


「別にラムドでも世話にならないで働けるだろ!!俺は歩いてでも戻るぞ!」


そんな突っ込みを入れた途端にメンバーが口々に足が痛いだのお腹の調子がと不調を訴え出る。

付き合いの長いメンバーだけにリーダーがどんな反応するか予想を立てていたのだ。

見え見えの嘘だろうと仲間の不調を無視できる人ではないことも。


「それではお元気で!!」


「ちょっ!!待てよ!って早ぁ」


何かを考える時間を与えずにさっさとその場から立ち去るミスリルの誓を呆然と見送った後に、仲間達をキッと睨んでみるがまぁまぁと宥められる。

メモの住所へと仕方無しに歩く一行だが先程訴えていた不調は見られない。

恐らく言ったところで無駄だろうと思いつつ、雑貨屋にらあの少年がいるんだろうと自然と頬が緩んでいる事に気がついていない。

店の前まで来ると人集りはあるものの店内は混み合って無さそうという不思議な現象が起きていた。

耳を澄ますと女性というには少し若い声が響いている。


「そろそろロバートちゃんはわたくしのモノになる準備は出来たのかしら?」


「その、カーマリン様。あのですね」


「あのクソガキ!!リーダーに色目使って他の女にも手を出してたのか!?」


言うが早いかナッチは憤怒の表情でドアを開けた。

眼前に広がる光景は金髪縦ロールでドレスという出で立ちは貴族か、少なくとも富裕層であることは見て取れる。そんな女性がロバートに迫り首輪を着けさせようとしてる瞬間であった。


自分達が過去に受けた被害と同じだ。そう瞬時に感じたアカネはロバートに近寄り抱き寄せて女性を睨んで叫んだ。


「俺は男も嫌いだけどお前みたいな貴族が一番嫌いだ!」


「ロバートちゃん。この下品な山猿は恋人?でもわたくしは気にしませんことよ」


「いいかロバート。アイツに連れて行かれるのが嫌なら俺から離れるなよ」


一触即発の空気の中、1人の40手前の男性が店内に入り大きく2度手を叩く。

すると屈強な男性が数人でカーマリンと呼ばれた人物を連れて行った。

傍から見ると誘拐なのだが……。


「昨日も来たよな?」


「この騒ぎになって30分くらいだろ?。お嬢様が来る期間も連れて行かれる時間、どちらも最速だ」


「抜け出すのも気が付くのもお互い慣れてきたのねー」


野次馬達の話から分かる通り、ロバートがモキンで働いてから今のような騒動は初めてではない。

モキンの領主にランダウが作った物を献上する際、少し気弱そうで見たことのないグッズを持ち込んだ彼を大層気に入った娘カーマリンは、あの手この手で独り占めしようと画策している。

勿論それは父親であるオンネスに阻まれているのだが。


「ほっほっほ。高飛車な娘がいつも済まんね」


「いえいえ。子爵様に頭を下げて貰う程のことは」

(タカビシャって何?)


「おい。この男は見た目と話し方違くねーか?」ヒソヒソ


「初めからこんな感じでした」ヒソヒソ


不器用なだけだから出来ればカーマリンを嫌わないでやってほしい。そう伝えて彼は去っていく。

ずっと抱きしめた状態に気が付いたアカネはしがみついているロバートを引き剥がそうとするも中々離れない。


「あの女もいないんだしもういいだろ?!は・な・れ・ろ!」


「嫌です!カーマリン様がどうじゃなくてアカネさんから離れたくありません!!」

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