旅行と準備
自分の中にある負い目を話し終わり、不機嫌であるドロシーに対して正座をしているランダウ。
他2人も不機嫌とまでではないが、疑念の目を向けられている。
ラムドには正座の文化は無いが、なんとなくこうなっいた。
「ちょっとヒデーでやがります。ダーリンは断腸の思いで」
「まずそれ!どうしてタエコさんが結婚したみたいになってるの?」
僕はそこ気にならないかな〜。と横槍を入れるロザリンド。
「ヒントあげるのよ〜。私達はダウが秘密がある事はなんとなく知っていたのよ」
「うん、早く言ってくれないかなーって思ってたけど、これならすぐ言えないのも分かるわ」
3人はシュタイン覚醒の話をフローレンス達から聞いてから、多分ランダウもそれに準ずる何かがあるに違いないと踏んでいた。
故に言いたくても言い出せないのは理解している。
「もしかして、タエコに身体があって秘密にしてたこと?」
「そうよ!それにここの場所ならずーーっと長く一緒なんてズルい!」
「僕が気にしてるのはなんだかあのベッドから、ダウとタエコさんの匂いが混じってするのは僕の気の所為なのかな!!」
ロザリンドの嗅覚による質問によって窮地に立たされたランダウ。
まだ何も致して無いことを信じてもらい、ようやく正座から解き放たれた。
今後寝るときは全員こちらに来て順番に寝ることとなったのだが、勢いで決まってしまいドロシーだけは数日の間、自分の番が来たらどうしようかと悩むこととなる。
「ここって私達は来たいって思ったら来れるの?」
「今の所俺と一緒じゃないと無理だよ。あと、魔法の熟練度も説明したけど、ここは向こうと比べて100倍位遅いっぽい」
「時間の流れとダウの変換効率から考えたら仕方がないのよ〜。それにその他の恩恵が凄すぎなのよ〜」
『細かい説明はまた今度にして、1度元のテントに戻って欲しいでやがります』
タエコの催促に戻ると3人は目をパチクリさせては手で擦ったりしている。
いの一番に疑問を投げかけたのはロザリンド。
「なんか僕タエコさんが見えるかな!」
「嘘!どういうこと?」
「私だけじゃなかったのね」
『あっちに行った人には私が見えるようになりやがったんです』
「と言うことは、ダウにはもしかして普段から見えてたのよ?」
浮気ではないが、まるでそれがバレたかのような雰囲気にまた謝るランダウ。
こういうことでの隠し事は今後しないと約束をして、再びダンジョンへと向かう。
目的はマジカルファームの魔法ゴホムの使用である。
「これを使えばいつでも家に帰れるとか凄いかな!」
「実は火傷を治す料理をレンゲさんにこっそり食べさせたけど効果なかったり、マジカルファームでも魔石と魔道具も作れるんだけど、タエコは魔道具は作れなかったりするんだ」
『そこで1番使いたい状況。モンスターに襲われている、ダンジョンの中の2つでやがると』
「私達全員が覚えたのはなんで?」
「もし魔法がダウとタエコさんにしか効果なかったら私達置いてけぼりなのよ〜」
3人は魔法を覚えた時点で拠点を設定出来、結果としてモンスターが近くにいると使えない事が分かる。
そして少なくともランダウが使ったゴホムはミスリルの誓い全員を家まで運んだ。
使用した場所はダンジョンの奥深くで、そこは特に問題はなかったのだが、空気も魔法で産み出すタイプのライフル銃の実験をするのを忘れていたのに気が付くことはなかった。
それからは日中は仕事2日に孤児院の手伝いを1日。夜はマジカルファームで過ごすといった生活を2週間過ごした。
傍目には休みなく働いてるように見えるが、休暇もしっかりマジカルファームで取っている。
2週間の間にマルケンへ改良版シャワーヘッドの魔道具や、トランプを作ったので文字が読めなくとも分かるようにドロシーの絵で書いた説明書を売りに行ったり、フローレンス達のお店で食事をしていたがヤマナとは会うことは一度もなかった。
そしてマジカルファームの中では魔道具等の作り物や修行だけでなく、デートをしたりと満喫している。
ドロシー達は見たことのない世界をただ散策するだけでもプチ旅行となって大いに楽しんだのだが、女性の住人に好意を寄せられていたりと修羅場も何度か迎えた。
「そうそう、実はこっちにもミスリルがあるから装備一新しない?そのさ、ミスリルで統一したいなって」
「それは良いわね!ミスリルの防具なんて嬉しい♪」
「武器は無理せず今のままで良いのよ〜。ダンジョンの壁の武器もまだ作ってないからそんなにいらないのよ〜」
『そもそも武器に限らず、矢鱈とアイテムを作ってはコレクションしやがるのはどうかでやがります』
「それにミスリルは軽いらしいからダウとドロシーの武器には合わないかな!」
ランダウ達や上位冒険者の魔法で底上げした身体能力では3kgだろうと300gだろうと武器の振るうスピードはさほど変わらない。ならば重たい方が威力があるのだ。
『確かにこれだと鉄の約1/10の比重でやがりますね』
倉庫から取り出し手に持ってそう判断したタエコ。
比重とは水を1としての重さであり、鉄は7.85だ。
その1/10だと樹皮より軽く、水に浮くレベルの軽さであると言えば想像しやすいであろう。
防具の他には売るのではなく、魔道具の素材として使うかとランダウは考えた。
「あ!アクセサリーなんかいい気がするわ!」
「そうなのよ〜」
「僕も僕も!!」
そう言い出すと急にバーバラが足首を擦り始めるのを見た他のメンバーも同様の行動をし始めた。
ランダウはパーティを組んだ時の事を思い出す。
(父さんと母さんはお揃いの指輪をしていたから、結婚の贈り物はこっちでも同じだと考えてあの時は躊躇した……)
2回目に実家に帰った時、こっそりと母に指輪の事を確認してみると思いがけない言葉が返ってきたのだ。
「あらあら、ダウってば、もうそういうのを気にするの?あのね、」
こちらロウフリアでは指輪と言うよりも送るリング全般に意味がある。
着ける場所やリングに書いてある文字によって変わるのだ。
無地で自分が着けるのはオシャレなのだが、送った場合は性別関わらず親愛で仲良くなりたい。ランダウが魔空庫の練習時にアクセサリーとしてロザリンドへ指輪を渡した際に、ドロシーとバーバラがやる気を出したのはこのためである。
チョーカーに送った人の名前がある場合は主従関係。奴隷の場合は借金や犯罪等の理由付きで、貴族が使用人に着けさせるのもしばしば。
お互いの名前が書いてあるリングは一緒に生きていこう。指輪の場合は手を取り合ってと言うニュアンス等等色々とある。
(確か足首に名前付きで送るのは何時も足が触れ合う位一緒にいたいだったかな……。ってタエコもしてるし)
「文字は」
「ダウのだけで!」
『私もでやがります!』
「ダウと私のをなのよ〜!」
「僕もダウの名前だけでいいかな!」
チョーカーの例にあったように、送り主の名前だけを書いてある場合は自分の物だと誇示していることになる。
アンクレットだと俺の彼女だと言い触らしてるような物であり、それを複数に着けさせるというのは中々に勇気がいる行為。
「ダウのは私達の名前書いてるのをだよ?」
『いえバーバラ。そこは私達4人でダーリンに贈りましょう』
「あっ!自分の名前は自分で書きたいかな♪」
う
「早速ミスリルを集めるのよ〜」
こうして5人がバラバラにミスリルを集めるための行動を開始した。
まだ来たばかりの3人は発掘スキルが低いこともあり容易ではなかったのだが、戦闘能力や装備はそのままなのでダンジョンの奥深くまで潜る事が出来たので、最初は少量であったが着実に集まってきた。
ロウフリアで更に4日が過ぎた頃、また能力が開放されたのである。
マジカルファームへと変換する前に一時保管場所として使える転送、そしてそこからの変換これが5人魔空庫で共有出来るようになった。
そしてタエコがミスリルの誓いとその持ち物であるなら触れる事が出来るのと、メンバーの誰かの近くにいるならランダウの側にいなくともロウフリアにいることが出来る。
最後の1つはドロシーが発見したもので、魔空庫に入れる際に、部位を指定すれば馬鈴薯の皮のみを収納するというテクニックを覚えた。
ただし、自分の魔力ではどうすることも出来ない程硬い物質には不可能な点と、生き物はそもそも収納出来ないのでこれを使っての討伐は無理である。
「えっと、これからも宜しくお願いします」
自分の名を刻んだアンクレットを皆に手渡すランダウに、4人からも渡された。ランダウの色は4色が混じったデザインである。
気恥ずかしい気持ちもあるが、それよりも喜びが打ち勝ち名前の所を指でなぞって微笑む。
「それじゃあ今度は余ったミスリルで自動馬車作るのよ〜」
「おー!楽しみかな!」
「私達の乗り物なんだから全員で作りましょ♪」
『私の能力を使えばバーバラの補助が出来やがります』
空中にウィンドウが表示され動画が映し出された。
内容はランダウの前世関浩二がラジコンを作っている様子や自動車学校の教科書を読んでいる所だった。
(あれって神様とのやり取りだけじゃなかったんだ……)
「この男性誰かな!?」
「きっとダウの記憶……、前世ってやつよね?」
タエコの能力によって大きく前進したのだが、問題点も浮き彫りとなった。
「動力とタイヤとワイパーが難しいし、サスペンションもハンドルも難ありか」
「少しだけしか動かしてないのに急に曲がった時はびっくりしたわ……」
「ギアチェンジとか無理なのよぉ」
『一つ一つの品質は悪くねーですけど、組立やその悪くねー品質のバラツキでバランスが悪くなってやがるかも』
「お尻が痛いしダウに撫でて欲しいかな!!」
気分転換に家へと戻り散策をしに行こうとしたらビーグとレンゲも街に出掛けるところだった。
「ん。折角だし皆で行こ」
「そうだな。弟が急にソレ着けてることだし、冒険者仲間からどんな風にイジられるか見物でもするか」
一緒に歩いてる最中、ビーグの手とレンゲの首元の火傷痕が、治りきって無いことに気が付いたロザリンドは質問する。
「ん。辞めた人にリンチはうちもしたことあるし、リーダーの気持ち分かるから残しとく。でも笑いながらやってたナッチは許さない」
「レンゲがそう言うんだから俺だってそうするさ。で、だ。皆で街にってデートじゃなさそうだけど」
また何かやらかすのか?そんなビーグの質問は喧騒によって掻き消された。




