魔力の使い方
「ねぇ、それ何に使うの?」
食事とお風呂を済ませた4人は部屋に入りランダウの思い付きに付き合っている、
用意されているのは皿にビニールをピンっと張りそこに砂を乗せている。
「ちょっとこれに向かって声を出してみて」
「はい!僕やりたいかな!」
ヴァァァァと変な声を出すロザリンドがピタッと止まりドロシーが感嘆の声を上げた。
「なにこれ?砂が動いて綺麗!!」
「えへへぇ」
「ロザリーには言ってないのよ〜」
「簡単に言うと、この砂の形が声の形なんだ。それぞれ皆違う形になるんだよ」
その説明にドロシーとバーバラも試し、実際に違う形になるのを目の当たりにして感動している。
「で、これが試したいことなのかな?」
「今度はこれを魔法じゃなく魔力を流して欲しいんだ」
「もしかして魔力も人それぞれ違うってこと?」
「その可能性があるんじゃないかと睨んでるんだ」
ドロシーに解説を取られてちょっと不機嫌なバーバラ。
けれど機嫌とは別に好奇心が先立ち我先にと魔力を流し始める。
そうすると麻の葉模様みたくなっていく。
次に魔力を流したのはドロシー。彼女のは籠目模様であった。
この時点でランダウの説は立証されたのである。ロザリンドのは七宝模様。
「なんか私のだけ可愛くない……」
「シンプルでドロシーらしいよ」
「これが分かったらどうなるのかな?」
「自分から魔力の球体を徐々に広げながら、当たった物を意識しようかなって。これで目に頼らず知り合いとかモンスターを判別出来たら凄くない?」
ランダウは自分を中心に半径2mの球体をイメージして魔力を放出した。
目的はソナーや魚群探知機である。グロージャーに後ろを取られた時足音で分かったが、これがもし手練であったら自分はやられていた。
今後簡単に負けないための対策だ。だったが……。
「う!うえええ。吐きそう……」
「大丈夫?どうしたのいきなり!」
「情報が思ったより過多でさ、例えるなら大きな石の下にいる虫たちの特徴を見分けながら名前を付けながら4人同時相手に5連並べしてる感じ?」
『正直分かりづれーです。誰もそんなことしたことねーですから』
(勿論俺もそんなことしたことないよ?んじゃ車の運転中に前方の他にサイドミラー2つとルームミラーを同時に見ながらスマホを操作してるみたいな?)
『まず間違いなく事故りやがりますね』
「ちょっと皆もやってみればわかるよ。色んな情報が一気に流れ込んで来るし、複数の海外の文字と言葉を同時に見せられたり聞かされて無理矢理翻訳させられてるって言うか……」
「僕は今の言葉で満足かな!」
「誰も他国の言葉を覚えるなんて言ってないのよ〜」
バーバラとドロシーが同時にやってみるが、一瞬で酷い頭痛に襲われて断念。
感覚的に動くロザリンドならと思い、どうにか説得して試したけど彼女でも無理であった。
「球体は諦めるか……。多分慣れとかそんなレベルじゃない気がする。一応これからも練習はしてみるけど」
「まだ試すのよ?」
「無理はしないでね」
いきなり身の回り全てを把握するのは不可能と考え、今度は格子状をイメージして1㎥の正方形まで広げた。
さっきとは違い吐き気まではいかないが、通常の視認と脳内の送られてくる情報の処理が上手くいかず今回も失敗。
その後も扇状や蜘蛛の巣状と、次々に範囲や形状を変えたりして試してみた結果……。
「目を瞑った状態で80cm位ならどうにか後方や横に扇状ならまぁどうにか認識出来る……」
「平原とかなら振り返ったりして直接見た方が早いし、森とかならこの部屋よりも色んな物があるからもっと狭くなるかもしれないわね」
「ダンジョンなんかの曲がり角にモンスターがいないかロザリーの索敵と合わせれば使えなくはないのよ」
「任せて欲しいかな!」
『そもそも後ろを取られて本当に危険なら私が口出すに決まってやがります』
今回の実験は半分は失敗という形に終わり、話し合いの結果明日からキンテのダンジョンへと行くことに決まった。
無抵抗の壁。それは分かってはいるが、ランダウが用意した武器を初めて全力で使うことが出来るとウキウキな3人。
バーバラは鞭はほとんど使うことはなかったが、だからといって好きな人から貰った物を使いたくない訳ではない。
それに魔法もランダウが召喚した魔物相手ですら地形を壊したらいけないとセーブしていたのだ。
そして次の日キンテのダンジョンへと辿り着いたミスリルの誓い。
黒い岩で出来た洞窟がそこにはあった。周りを見渡すと人はいないが長閑な街の作りそのものである。
「もしかしたらここのダンジョンにも人が溢れてるかもって思ってたけど全然いないね」
「元々定期的にモンスターを駆除する以外近寄らないもの仕方ないと思うわ」
「中に人がいなさそうか確かめるのよ〜」
「わかったかな!」
少なくとも入口近辺には人はいないことが確認出来たので早速力試しを兼ねた壁破壊を試みる。
中に入らず外側を壊すことに。
ロザリンドの弓は深く刺さり、何本も打ち込みボーリング大の岩を取りだし魔空庫へとしまった。
「次は私ね!えい!!」
勢いよく駆け出し、身体強化を使った石付き側での打突の狙いは先程ロザリンドが空けた穴だ。
まるでトラックがぶつかったかの様な衝撃音の後に破片が飛び散り寸胴鍋程の岩が崩れ落ちる。
彼女もまた自分が壊した壁を魔空庫へと即座に入れニヤニヤとしている。
「負けてられないのよ〜」
手慣れていない鞭を振るってはみたが、表面が軽く弾けるだけでさほど壊れはしなかった。
バーバラの魔力に得意不得意は無い。それでも本人の性に合っているのが水属性である。ランダウから水から氷になるための仕組みを聞いたときにいたく感動し、それ以来氷が1番使う魔法だ。
直径2mはあるだろう氷球を作り出し上から落とすとピキピキと音を立て、続いて2発目の魔法を放ったらあっさりと壊れた。
次はランダウの出番であったが……。
「くっ!」「この!!」「うぉぉぉりゃああ!!」
剣先が1cm入ったかどうか。まな板のキズ跡より少し深い程度でしかなかった。
「くっ!今度こそ!!」
(ヤバい。男の俺が出来ないなんて恥ずかしいとこ見せたくない)
『ダーリン!あのでやがりま』
「こうなったら!」
彼女達を下がらせ剣を魔空庫に入れたら深呼吸して精神集中し始める。魔力を高めて最大威力になるまで8秒、それから全身からそれを放出しきるまで更に4秒の合計12秒で完成する。
「これがベルズさんの時にも見せなかった奥の手だぁ!」
見せなかったと言うよりも、そもそもそんな余裕が無かったが正しい。
27個の火球を作り出し壁に向かって放つランダウ。既にダンジョンは復元しており、先程の破壊跡はない。
「これでも壊れないのはまだ予想圏内……」
クリープ破壊。物質を高温下で荷重を加えると変形する現象である。普通の火であれば質量は無きに等しいのだが、魔法によって作られた火は何故か衝撃等がある。
「ダウー!変な音してるしもう少しー!!」
「その魔法のやり方後で教えて欲しいのよ〜」
「なんか分かんないけど凄いかな!」
「もう一個共振!」
個体振動数を合わせた超音波を当てると疲労破壊が起こりやすくなる。ランダウにはそれを聞き分ける耳の良さは無いが、壁の近くまで歩み、先日覚えたばかりのソナーの応用で頭痛と吐き気に耐えながら、どうにか読み取り無属性の魔法で共振させている。
カッコ悪い所を見せられない。そんな思いが無茶をさせ、タエコが一所懸命叫んでいるのにも気が付かない。
「これでダメ押しだぁ!」
更にライフル空気銃を取り出して変形部分が激しい所にこれでもかと打ち込みまくった。
ズドドドドド。雪崩のような、否。実際に岩の雪崩であろう。
入口の片側半分が崩落し出入り出来なくなってしまったのを見て喜び彼女達の方を振り返る。
(どうだった?って、あれなんか喋れない……。なんで世界がこんなに揺れて)
『ダーリン!無茶しすぎでやがります!!共振を起こそうとした時には鼻血が出てやがりましたよ!』
遂に立っていられなくなったランダウはその場にへたり込み、それを見た3人がすぐさま駆け寄り看病をした。
(ああ、また無茶しちゃって人に心配かけたかぁ。マジカルファームのことや前世のこと、話してないことが一杯あるから、せめてこういう場面ではカッコいい彼氏でいたかったのに……)
(『私の声がドロシー達に届いてたらダーリンがこんな目に合わなかったでやがります……』)
その時マジカルファームのシステム音が脳内に鳴り、確認すると久しぶりに能力が開放された。
ランダウは体調が回復してからダンジョンから離れるように促して、タエコと会話をする。
(ねぇ、多分タエコは嫌がると思うんだけど……)
『構わねーです。本音を言えば嫌ですけど、もっと大事な事がありやがるんで』
「皆に話したいことと見せたい物があるんだけど、いいかな?きっと凄く驚くし、俺の事を幻滅するかもしれない」
使い捨てテントを久しぶりに取り出し中へと入る。ランダウは緊張で喉がカラカラだ。
少しでも平静を保とうと自分が壊した壁の話をしたりと時間をかける。
「よし。覚悟を決めた!皆目を閉じてて」
言われた通りにした3人がランダウに促され、次に目を開けたら見知らぬ風景が広がっていた。
そこには家屋以外は馴染みがない物ばかり。
「混乱してるのは分かるけど、まずは俺の話を聞いて」
そしてランダウは自分が前世の記憶があること。
この不思議な力があることと、見たことない道具の数々はここから持ち出したこと。
神に会ったこと以外は洗いざらい話した。
途中タエコも話に混じり、ここでなら実体があることと生活していることも全てである。




