表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンメットライフ  作者: ¥$終
〜アンメットエッジュケイションー〜教え教えられ編
44/54

お金の価値

「あはは。思ったより人が集まって何より何より」


(まるで東京ドーム地下6階に来たみたいだなぁ……)


数百名を軽く越した人数の喧騒に囲まれながらベルズとランダウは決闘場にて対峙している。

勿論これはランダウがお願いした特訓なのだが、こうなった訳は8日前に遡る。


「冒険者ギルドが保有する決闘場を使わせて欲しいんだけどいいかい?」


ベルズ1人で冒険者ギルドへと赴き交渉している。

ランダウには都合がいい時で構わないとの事で少し準備をすることに。


「はい。今は予約も入っていませんし現在も使われていません。料金さえ払って貰えれば」

「日付は8日後で、決闘ではなく場所の提供」


「それだと金額が結構かかりますが宜しいですか?」


怪訝そうな顔をする受付嬢に悪戯を思いついた小学生のような表情をするベルズ。

話を聞いていくうちに怪訝さは深まり、そして驚きと疑念に変わっていった。


「これだとうちのギルドは確かに得しかしませんが、内容によっては各方面から恨まれますよ?」


「いいのいいの。僕は根っからの料理人でね。新しい料理を作るには既存の料理を疑えって底意地の悪い師匠に昔から言われててさ。最近その既存とか在り方その物をぶち壊したくなったんだよ。それじゃあ広報宜しく!あっ!くれぐれも料理ギルドには広まらないように」


「わ、分かりました」


そもそも決闘場は戦いが起こる度にギルドが賭けを仕切り、儲けを出すため決闘場の貸出料は安く済む。

だがベルズがギルドに提案したのは、どちらも7級以上とは言え賭けにならない大人と子供の特訓だ。

それをわざわざ見学料を取って見たい人を集めようと言うのだ。


今回決闘場の貸出料は40万ガロ。賭けがある場合の十倍以上だ。

40万ガロは高すぎるが、そうでもしないと物見遊山の人達が代わる代わる占拠して、いざ決闘となっても使用出来ないことが過去に多数あって揉めたのでこうなった。


ベルズが頼んだのは最近7級に上がった冒険者や総合ギルドで冒険者ポイントを貯めている子供達メインに先輩冒険者の特訓の仕方や、他の人が秘密にしている情報を戦いを見せながら教えるというものだ。

価格は1人1万ガロ。もし40万ガロいかなければベルズが不足分払うし、もし金額を越したらギルドとベルズの折半。


冒険者と料理人両方を高いランクまでいったベルズの戦いを見てみたい者。

最近有名なミスリルの誓いランダウの戦いぶりが気になる者。

ランダウに対してライバル心や嫉妬心がありつつも、払った額がちっぽけに思えるという触れ込みが気になり来た者。

ミスリルの誓いの家族や関係者、レーヴィーと孤児院の子供達は、自慢の弟の勇姿を見せるためリャーギンが支払った。そしてベルズ個人が何をするか気にしている者と理由は様々だが大勢集まった。


「始める前に教えておこうランダウ君。僕は半年ほど4人のパーティと組んだ時以外は常にソロだった。魔力の判定は土がcプラス、無がDマイナスでそれ以外はGかH」


その言葉に1番驚いたのはベテラン冒険者達。攻撃魔法として2番目に外れの属性と見なされていた。

そんな驚きをさらなる驚きで掻き消した。取り出すは大きな斧。それを何もない空間から取り出す。

ざわめきを切り裂く大きな声でベルズはランダウを指差した。


「これは魔空庫と彼が名付けた、魔法袋を本当に魔法で再現した物」


魔空庫は当初はヒデ達に対抗するためにミスリルの誓いだけの秘密でもあった。

ただ3人と付き合ってから実家に顔を出した際、バーバラの4次元の説明の下りで家族も使えるようになっている。

ランダウの家族は魔力が高くないのでちょっとした私物を入れたりするのに重宝しており、父ドミトリはビールをこっそり溜めて一気に飲もうとしたが気が抜けたぬるい麦酒となってしょんぼりしたことも。

今となってはランダウの知り合いは皆使え、孤児院の中にはかなりの大きさを作れる将来有望な子すらいる。


「まぁ話してばかりの説明はつまらないだろうか、ら!」


魔空庫の作り方やメリットデメリットや魔法袋の違いを語ったベルズの内容はミスリルの誓いも知らないことがあった。

その内の1つに時間経過の操作。遅くするのには限度があり、当然早くするのにもある。

が、早くする方は遅くするのに比べて倍の差が出る事が分かった。


話終わりに膝を少し沈め、その力で走り出し距離を詰め斧を振り下ろしたベルズに身体強化の魔法をかけ、この日のためにマジカルファームで作った、切れ味を犠牲にした頑丈な鉄の片手剣で受ける。

体重差に加えて武器の重さに走り出したスピードが加えられ、ランダウは数m後ろに飛ばされる。


「今の反応速度は悪くないよ。ただ受けるのは関心しない、避けるか捌こう」


「これがぎりぎりだったんです」


着地に成功して剣を構えるランダウにベルズはまた語りだす。


「魔空庫で時間を早めたら干物や燻製なんかすぐに出来上がる。この時間を変えるのを思い付いたのは人使いが荒くて底意地の悪い僕の師匠でね」


野太い声の笑い声から伝播して笑いに包まれる。

それに気分を良くしたベルズは今日の教えはこれで行こうと決心した。

「ベェズもがほが」「料理とかどうでもいいから金貨分の情報はまだかぁ!」「そうだそうだ!」


「魔空庫だけでも相当するとおもうんだけどなぁ……。料理も十分関係あるさ!今のランダウ君は攻撃されてからの反応じゃないよね?」


「僕の可愛い可愛い彼女にみっちり鍛えてもらったんです。予備動作なく動かないから魔力や身体を見ろって」


勿論それだけではなくランダウは前世で格闘技をやっていたこともあり、対人戦の心得自体は持っている。

中でも格闘技経験者である父と叔父に教えられたのは、攻撃する時は相手の目を見るな。防御の時は相手の目を見ろである。


「そっから教えようと思ったのに優秀なのも考えものだね。まだ子供なのに随分としっかり鍛えてるんだね君の彼女達。あえてここに宣言しよう!生き物の身体について詳しいのは料理人が至高であると!君達は考えたことがあるかい?どこの皮が硬くて肉はどんな風になってる、血の出る血管の太さにある場所、関節はどこまで動いてと熟知してなければいけな、い!」


「失礼かな!!おっぱいだけ育ってるけど身長は低いしまだアレ来てなくて子供産めないお子様なのはびゃーばらばらば!」


「ロザリー、何大勢の前で叫んでるのよ……。バーバラが怒るのも無理ないわ」


ランダウとロザリー以外のミスリルの誓いはルンシバへ行った時の事を思い出す。フローレンスはモンスター討伐などしたことがないと言っていたのにオークを捌くのが上手だったことを。

ランダウはベルズの攻撃を受けるのに精一杯で思考を他に巡らす余裕がないし、ロザリーはバーバラから怒りの電気を受けて痺れている。


「はは!上手上手!上手く捌いてるじゃないか」


「手、加減の、おかげ、ですよ」


ランダウの身の丈はあろうかという斧を小学生が帰り道木の枝を振り回すような感覚で攻撃するベルズ。

避けれるものは避け、無理なのは片手剣を両手で持ち捌いているが、一撃一撃が重く腕が痺れてくる。


「ランダウ君、君から攻撃したっていいんだよ?」


「そ、それ、じゃあえ んりょな、く!」


どうにか大振りな攻撃を避け、剣を片手に持ち替え空いた方の手を握った。


「紅く熱く!五指炎連弾!!」


握った手を開きながら"呪文"を唱えるランダウ。イメージは叔父の家にあった好きなゲームのオリジナルコミカライズであったやつ。


この世界では魔法は戦闘では無詠唱が常である。

何か言わなくても発動出来るなら態々言う必要はない。

ランダウがビーグの火傷を治した時の様に、説明だけでなく、イメージを強くする必要がある時や、何かに祈らずにはいられない時に言うくらいだ。


勿論全力では撃っていないが、怯ませること位は出来るだろうと撃ち終わりに回復魔法で腕の痺れを取る。

これはタエコとの腕枕で痺れた時に開発した魔法だ。


「やぁっ!」


ベルズの一声と一振りで5つの炎は消え去った。

この呪文は隠しておこうと思った切り札の1つでもあったのだが効果はゼロ。


「全く、身体強化と攻撃魔法を同時に使える事を教えようとしたら更にその先のビックリ魔法を使うなんて……。でも丸わかりの予備動作と詠唱だけはいただけないよ」


見たことない魔法の5つ同時発射。そしてそれを初見で事も無さげに受け切るという偉業。

観客は大いに湧いた。そして今のを説明するためにベルズは歓声を鎮める。


「ランダウ君のビックリ魔法の前に僕のから説明しよう。これは僕の教え子から教えてもらったんだけど、攻撃魔法最下位とブービーは闇と土、みんなこの認識?」


観客席から頷きの声や当たり前との声が聞こえる。


「そう、ただ暗くするだけの闇。土を出そうとしても魔力をかなり込めないと砂になる土属性。まぁ戦闘では外れと言われる訳だ。闇は敵の視界を暗闇にするならまだしも、使用者以外仲間も暗闇なんて使い物にならない。だけど闇とは光を遮るものと気が付いた教え子は研鑽を重ねて1つの希望の光に辿り着いた」


いや、光じゃなくて闇かなと言い直したが無反応である。

あまりの反応の無さに教え子と言っても彼女達は僕の2つ下だけどと関係ないことも披露した。


「闇は魔法だけでなく、ありとあらゆる物を遮る力を秘めている。モンスターや敵対者の突進だけでなく、剣で斬られるのを遮り致命傷を避け、ダンジョンの落とし穴さえも落ちるのを遮り床を作る。攻撃に使えないことなんて気にならないほど恐ろしく便利だ」


今度はどよめきが広がった。ベテラン冒険者ですら知らなかった情報。


「ヒデさん!俺やっと役に立てます!外れなんかじゃ」

「バカヤロー!組んで3年ノーグを外れとか思ったことねーよこのバカ!」

「闇特化に冒険者は無理って言ってた先輩達をこれから見返そうぜ!」


(なんだよ。オールDの俺はダメ魔法使いとか言ってた癖に……、ホント気にかけたら面倒見はいいんだな)


「それじゃあ今度は闇が最低ランクの僕がDであるランダウ君の魔法を防げた訳はわかるかい?」


観客なのかランダウに向けたものなのか分からない質問と同時にベルズはまた斧を振るう。

即席で結界魔法や某アニメの心の壁を意識した闇魔法を早速使って猛攻を耐えしのぐ。

魔法だけに頼らずフットワークや剣捌きや違う魔法による威嚇も忘れない。


「紅く熱く!五指炎連弾ッ!!」


「よっと!」


またも一振りで掻き消される5つの炎。今度は闇魔法で斧の軌道を遮ったにも関わらず雲散霧消する。


「魔法の対処と属性の相性はわかるかい?」


「火には水、水には土、こんな感じで弱点属性をぶつけることで魔力消費が少なく消せます」


「そう、勿論相手の魔力に相応した威力じゃないといけないけどね。それを更に手間を加えたのがこの斧さ。これは隣国カダーポのダンジョンで壁を壊した破片で作った斧」


破片ではとても作れそうに無い大きさの斧を自慢するベルズ。

どれでもいいから魔法を撃ってご覧と催促する。

今度は金属性。ランダウは鉄相当の魔力を込めて野球ボール大の鉄球を放った。

それは予想通りに粉々に砕かれる。


「ダンジョンの壁から作った武器や、何故かある宝箱に入ってる武器、そして魔核を組み込んである武器には共通点がある。それは魔力を通せることだ」


ダンジョンの宝箱から手に入る物で浅い階層から出てくる武具は二束三文にしかならない。

それはキチンと手入れしている中古の物より質が悪いことが多いからだ。

それ自体は嘘ではないのだが、ロウフリアの武器屋はほぼ全て魔力を通せる事を知っている。それを隠して安く買い叩き、必要とする上位の冒険者へと売る。


「つまり土属性の魔力で真正面からねじ伏せたってことですか?」


「それだと普通に魔法を撃つのと変わらないじゃないか。武器に魔力を通して振るうと魔力の強さ以外に物理の強さも上乗せされる。僕の土属性の魔力に身体強化と臂力を加えたら相性をなんて物ともせず打ち消せる」


これは上位の冒険者であれば常識の内容であり、強いモンスターの魔法を先の安く買ったダンジョン武器を使い捨てにして本命の武器を温存させる戦法だ。


「それに浅い階層から手に入るのを掻き集めて、魔力を乗せた攻撃を加えれば低難易度の壁ならどうにか出来ると思うよ。浅いとこの武器は質良くないから、1つだとすぐ武器が駄目になるだろうけど」


この事を今知った冒険者は過去の自分と武器屋に憤慨した。

もっと早く知っていれば今頃は……。そして騙しやがってと。

そして知っていた冒険者ほ余計な事を思っているが、それを口に出すと隠していたのがバレるので黙っている。

ランダウは次にマジカルファームで魔核入の武器と防具を新調しよう。チタン以上ミスリル未満の素材でと思案する。


「思ったより人もお金も集まったから教えるも大奮発だ!ランダウ君の凄い魔法も見れたしね!よくもルンシバでランダウ君の発明の瞬間を見るの邪魔してくれた師匠への意趣返しも済んだことだし、今までのを踏まえて手合わせしよう!」


ランダウは試しに鉄の剣に魔力を流してみたが変化した感じはない。

意識を切り替えて今度はこっちからと地面を踏み込み攻勢に出ようとしたら違和感が。


「相手の足場を砂に変えたのさ。どうだい?」


迫りくるベルズに電気魔法を放つ。これは本来光属性であるが、氷と風を意識した水と無属性の組み合わせで起こした物である。

手順が複雑で魔力消費が多い欠点はあるが、その分威力は高い。


光の速さなら反応出来ないと考えた事であったが、魔法を使うと思った瞬間にベルズは打ち消す準備に入ってるので魔法その物のスピードは意味を成さない。


それからというものは一方的であった。

ベルズの師匠であるシュートの悪口を交えつつ、気を付ける場所を指摘しながら吹き飛ばされる。


『自分の力で戦いたいって言いやがるから黙ってたけど我慢にも限度がありやがります!折角修行した必殺技を使わねーでどうするでやがりますか!』


(それじゃダメなんだ。ワンパターンの戦い方だとすぐ打止めなる。もっと基礎を固めないと。と言ってももう少ししたら1つ修行の成果を見せるよ!)


『それじゃあ黙って見てろって言いやがりますか?!』


(まさか、むしろ今まで何も言ってくれなくて寂しかったくらい)


手加減付とは言えベルズの攻撃にも慣れてきたランダウは心の中でタエコと会話しながら戦う。

そしてタエコに1つの方向を見るように言った。


「ダウー!しっかり!!」「まだいけるのよ〜」「僕をもっと好きにさせてくれないかな!」「オラ!魔法を5つ撃てるだけか!まだお前からは金貨分の事は何も教えて貰ってないぞ!」


(ほら、ヒデですら応援してくれてるのに今日のタエコは冷たくない?)


『ダーリン!頑張って!!』


「頑張る!!」


大きくバックステップをして下がるランダウ。それに合わせて逃がすまいと距離を詰めるベルズ。

ランダウは闇魔法を自分に使い、バックステップを遮り距離感を見誤らさせた。

そしてバックステップの際に片足の底を後ろに向けて蹴る準備をしていた。

闇魔法の壁を蹴り斧を振るうのが難しい懐まで入る。


「なに!」

「紅く熱く!五指炎連弾」


左手の指先5つから"氷"の球が飛び出した。

それを斧の持ち手側で難なく砕くも、氷の破片が目眩ましになる。その隙きを逃すまいと両手で剣を握って振るうも斧と噛み合い鍔迫り合いの形で拮抗した。

だがそれもランダウの足場が砂になり、踏ん張りが効かなく徐々に押されていく。


ランダウは剣を握った際にベルズの方を向いてる指関節4つ、両手合わせて8つに魔力を集中させ木属性を発動し尖った枝をベルズに向かって放つ。


「何!?」


魔法の同時発動は別に動作も詠唱も使わずに出来る。1度奇襲に失敗したら常に警戒されると予想したランダウは未完成の魔法の様に振る舞い戦った。

そして斧を振るう事が出来ない状態で土属性の相克属性木で攻撃。

急いで土壁を作るも魔力を込めるのが遅く間に合わずベルズの腹を貫いた。

の様にみえたが実際は脇を掠めただけである。


「ははっ。あの予備動作から既に作戦は始まっていたのか。僕も勉強になったよ。そしてその魔力と魔力量は産まれ持ってじゃないね?最後にいいなよ。君なら絶対知ってると思ったんだ。上がらないとされる魔力の上げ方をさ。これも上位なら大抵知ってて黙ってるのさ」


ランダウの逆転勝利に見えたこの戦い。実はベルズの防具にもダンジョンの壁が使われており、寸での所で魔力を込めていて、弱点属性にも関わらずベルズにダメージを与えるには至っていない。


「実は魔力はスライムの核や魔核持ちのモンスターを生きたまま核を壊すか、倒してからすぐに壊すと魔力や身体能力が上がる事があります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ