念願のたこパ
「ちょっとごうさん!打ち合わせと全然違いましたよ!あんなんじゃそりゃ仲間にならないですって」
「アドリブだよアドリブ。集めてた情報と実際に見た感じだと、ランダウは自由にやらせた方が面白い。というか周りを巻き込んで成長させる力がある」
「後なんすか七つの大罪の部署って、そんなのないのに……」
「ファストノベルあるあるだ。本当はそういう中ボスでも出てきて欲しいもんだけど、七つの大罪って概念そのものがなかった」
〜〜〜
今日で祝賀祭3日目。ランダウは当然デートである。
昨日までと違うのはバーバラとロザリンド2人と同時であること。
ロウフリアには両手に花という諺はないが、リア充爆発しろという似た思いは異世界でも共通である。
3人でデートすることとなったその訳というのは。
「僕ダウと2人っきりがよかったかなー」
「私だって同じなのよ〜。でもロザリーと2人にさせたら何するか分からないのよ〜」
これである。ロザリンドの信用問題だった。
あえて自分だけ丈の短いミニスカ浴衣にして露骨にアピールしている。
「文句言いたいけど、秋も終わり頃で寒くて鳥肌立ってるのに素肌晒してるのは認めざる得ないのよ」
「自分に言い寄ってくる男は胸しか見てないって文句言ってたバーバラだって少し胸元出してないかな?」
「き、気の所為なのよぉ〜」
軽口を叩きつつ歩いていると型抜きを見つけたロザリンドがやりたいと言い出した。
ランダウを挟む形で3人が並んで座る。
ロザリンドは傍から見ると適当に刺しているように感じるが、あれよあれよという間に外枠が外れていく。
バーバラは既に3枚目に突入して、今度こそはと言いながら端から細かく削っている。
「これどうかな?」
そう言って飛行機の型抜きを的屋のオジサンに渡すロザリンド。
ロウフリアでは存在しない物体ではあるがなんの疑問ももたない。
「ほれ!景品はコレだ!」
渡されたのはスーパーボールである。しかも日本に売られているのと遜色ないクオリティで。
ロザリンドは初の感触に楽しげに遊んでいる。
「オジサン!俺も出来た!!」
「悪かねーけどこの嬢ちゃんの後じゃなあ」
「えー!俺もそれ欲しいのに!」
「ははっ!冗談冗談。それは2個だな」
「私が完成させてプレゼントするのよ〜」
そう言ったバーバラは5枚目を針の一突きで丁度半分に割った。
店主が逆にこれ凄くねぇかと笑ってる。
「ふふん!ダウには僕のあげるかな!」
「むぅー。私だってそういうのしたいのよ〜」
結果10回やってもバーバラは完成させることが出来なかったが、おまけで1個貰えた。
残念賞だねと励ますランダウの言葉を聞いて、型抜きの店主は5回やれば最低ランクの景品1個を付ける商売を思い付く。
それはハズレくじ無しのくじ引きが生まれる切っ掛けの先駆け的存在となる。
結果ロザリンドは7つ、ランダウは4つのスーパーボールを手に入れた。
「のよ〜♪のよ〜♪」
「なんかわかんないけどコレ楽しいかな!」
今2人が遊んでいるのは水風船。ボヨンボヨンと夢中になっている。
が、そこよりも気になるのがランダウにはあった。
手の動きに合わせてバーバラの大きな水風船もボヨンボヨンと弾んでいる。
元々同世代よりも大きかったソレは、成長期なのかレベルアップなのかは不明だが、13歳の体躯に似合わないモノとなった。
「ほら!バーバラが嫌いな胸に注目してるかな!」
ランダウの視線を独り占めしてることに嫉妬したロザリンドは即刻チクる。
僕はダウにならいくら見られても構わないと付け足すのも忘れない。
「ダウにならいいのよ〜。人の胸を見ながら好きですとか言う男子が嫌いなのよ〜」
こうしてドロシーやタエコと違い特別なことはなくとも普段とは違う距離感で接してデートを出来た。
3人仲良く手を繋いでコテージに戻るとそこにはチーム金銀財宝がいた。
ディコスはこちらを見るなり走り寄って挨拶を交わす。
「本当は自国に戻る前に1言話をしたかったんだけど、どうしても残りの仲間にいち早く報告がしたくてね」
「こんなワイでもまたパーティを組めるとは思わなかった。君達のおかげだ」
チーム金銀財宝はモキン復活がミスリルの誓いが関係してるのを嗅ぎつけ、仲間と知り合いを誘って祝賀祭まで来たのだ。
「それでドロシーちゃんに君達の次の目標はキンテだと聞いてまた驚いたよ。本当にフィーネの貴族にでもなる気かい?」
キンテが目的なのは間違いないが、ランダウの目的はダンジョンそのものだったりする。
そんな事よりも大事な事が1つ。やっと念願だったたこパが出来るのだ。
「実はこれからお世話になった人や僕の家族を呼んで軽い宴会をしようと思うんです。良かったら皆さんどうですか?」
チーム金銀財宝はかなりの人数がいたが、建前ではなく本気で言ってるのを感じ取ったリーダーがお言葉に甘えてと参加が決定した。
ガスは準備出来ないのでIH式でのたこ焼き器だ。
出力は潤沢な魔力量と科学知識を活かして高火力のIHが完成させることが出来た。
高火力IH。ここまで行き着くのにバーバラの圧倒的魔力で雷を再現して磁石を作ったり、タービンを作って電気を魔法無しで産み出したりしていた。
更にそこからパンデグラフやテスラコイルを再現しようとして感電したり、折角作ってもらったたこ焼き器の導線が焼き切れたとか色々あったが今ではいい思い出だとしみじみ思うランダウ。
「で、これはこうして、このくらいになったらこれでひっくり返すっと」
前世では友達と何度もやったたこ焼き。今では家族と兄達の彼女に仕事で知り合った人達に先輩冒険者達。
そして何より可愛い彼女4人と楽しくたこ焼きを作りながら食べている幸せ。
「リーダー!このビールってのめちゃ美味!ワイこんな酒初めて飲んだわ!」「うちがビーグに食べさせる。ほら、あーん」「ベェズさんあーいあとりしゃっす」「ラン兄ちゃんもっと食べたい!」「ほらロバート、あんな風に彼女欲しかったらおっぱい道を極めるっス!」
ベルズ、シュート、フローレンスの3人はたこ焼きの作り方と、火で扱えるタイプのたこ焼き器を欲している。早速練習がてら仕込みからやってみたり実際に焼いたりとして新しい料理に取り掛かる。
多めに用意したつもりだったがこの大人数。流石にタコが切れてきた。
「兄さん。タコの代わりにチーズ入れたいんだけど大丈夫?」
「ああ、最近シュートさんからの注文多いからな。牛だけじゃなくヤギのミルクでも作ったのあるぞ」
(そっか、牛乳じゃなくてもミルクならなんでもいいのか……)
『ダーリンそれはダメでやがりまふ!その、母乳は子供に、将来ダーリンとの間に出来た大事な子供にあげやがるんですから!それにダーリンはまだ10歳でやがります!まだ早ぇーです!』
(そんな事しないって……。羊とか馬だよ考えてたの)
「リャーギン、レーヴィーさん。父さん達は子供達を隣のコテージに連れて行って寝かしに入るよ」
「あの、ドミトリさん。それは私が、」
「いいのいいの。それよりもリャーギンと一緒にいなさい」
すみません。と頭を下げるレーヴィー。だがドミトリとフェイは20歳を越して連れてきた初めての嫁候補を逃すまいと必死である。
ビーグの方は軽くせっついたら2人きりの時間が大切だから待ってくれと言われたので焦らず見守っている。
よく見ると金銀財宝はそのほとんどがカップルで構成されており、付き合っていなくとも時間の問題であろう男女もいる。その中にディコスもいるのをドロシーは見逃さなかった。
そうして楽しいたこ焼きパーティーは深夜3時まで続いた。
次の日目が覚めると日は高く昇っており、祝賀祭もほぼ終わっていて撤収の準備作業に入っている。
ロバートはヤマナと固形石鹸を作るために必要な苛性ソーダを海水から作るために電気分解をしていた。
当然劇物なので取り扱いには気をつけているが、おっぱい道について語りながらしてる様子は不安を掻き立てる。
「僕も帰るよ。たまには宿の方にも顔をだしてね」
「はい!」×ミスリルの誓い
「あっ!ベルズさんにお願いがあるんです。依頼としてもいいんで僕の修行というか、手合わせとダンジョンについて教えてくれませんか?」
ベルズは考えた。そのお願い自体は1回2回ならお金をなんていらないし、時間さえこちらに合わせてもらえば困ることはない。
だが冒険者に一区切りつけて料理の道に進もうと決めた時、モンスター珍味屋と自分のような若者が現れないかと副業で宿屋で働きながら、子供たちにお節介を焼いていた。
自立へと不安や借金の返済。そんな中で宿屋の料理人の話を聞くのは少数であった。
いつしかベルズは夢を追い掛ける子供達を見ているだけで満足するようになった。
「僕は人を鍛えたことは一組しかいないけどそれでもいいかい?」
「勿論です!シュートさんからベルズさんは冒険者としても優れていると聞いてます」
こうして同じ馬車に揺られながらラムドへと向かいながらもベルズは考える。
ただランダウを鍛えるだけでは物足りない。ランダウに問題がある訳ではなく、むしろ今の現状に問題があるように思えた。
「ねえバーバラ」
「勿論ロザリーには見せないのよ。むしろベルズさんに惚れたりするのよ?」
「ちょ!2人とも勘違いしてるかな!僕は強ければ良いとか思ってないかな!」
「違うの?」
「僕は子供の頃見た演劇みたいに、強くて頼れる騎士に守られたいだけかな!」
賑やかなのはいいが、思考が纏まらないなと苦笑いするベルズ。
ランダウは疲れ切ったのかうたた寝中である。




