ライバル?
ランダウがタエコに告白をしていた頃、ラムドの町外れで複数の女性が古びた小屋で集まっていた。
「しっかしリーダーもおっかないことしますね」
「何がだ?」
「熱い油を頭からかけるとか、髪も抜けて顔も爛れてたじゃないですか」
「ここは油が安かったからな。地元に来たことでテンション上がってよ、俺なりの優しさだ」
「あれが優しいとかマジ凄え」
「俺達は人より目立つ顔立ちをして裏切られて損してきた。だから人を騙してもいい、けど俺達を裏切るなら脱退リンチを受けて貰う。アイツはそれを悲鳴の1つも上げずに乗り切った。ここを抜ける際には顔で損しないようにって最後の手向けだよ。ほら、ここのルールを言ってみろ」
「「「はい!」」」
「騙されるな騙せ!」「狙うは男!」「身体は売るな触らせるな!」「仲間は絶対に裏切らない」
「よし、まぁ確かに回復魔法使わないのは俺も誤算だったからあそこまでになるとは思わなかったけどな」
「流石に熱くてビグビグ言ってましたね」
〜〜〜
話し合った結果恋人としてタエコの事は受け入れて貰い、ランダウの実家へと向かう。ゲームが突然開いたがタエコは反応がない。
3人で相談した最初はドロシーとバーバラがタエコに拒否感。ロザリンドは気にしていないで割れていたが、ランダウ"の"ことが好きならまだしも、ランダウ"が"好きならどうしようもないと落ち着く。
玄関を開けるとウキウキなビーグが外出するところであった。
首元には大きなブローチ。明らかに兄の趣味ではないそれを見て、もしかしたら彼女からの贈り物かもしれない。
それならばヤマナが言っていた詐欺グループの仲間じゃない可能性が高いと考えた。しかし狐獣人はアクセサリーを売っていると聞いてたので油断ならない。
ランダウは頭に指を曲げた両手を乗せ、ケモノ耳を模したそれをぴょこぴょこ動かす。
「兄さん♪それって彼女とお揃い?」
「お前どこで見てたんだよぉ♪サリゥがな、昨日、これをうちだと想ってって。手作りでしかもこれ魔核入ってるんだぜ?」
よし、ビーグが買ったものではない。そう心の中で喜んだ。
「いつからさ?」
「ほら、ダウが独り立ちして初めて帰ってきた時あるだろ?父さんとギルド行ってる時に知り合ってさ」
駆け足気味に足踏みしてる兄を引き止めるのも良くないと、今度紹介してねとお願いして見送った。
「ただいまぁ!」
「お兄さん2人共彼女出来たのね♪」
「ドロシーはすぐ恋愛話で盛り上がろうとするかな」
「そういうロザリーだって恋愛物の演劇好きなのよ〜」
家の中に入りながら楽しくリビングに向かうと声が聞こえる。
どうやらヤマナは既に来ていて両親と商談をしているようだった。
「で、このケースでおすすめしたいのは自分と同期の子っス。一期で多額の借金を背負いながらも後輩達の借金を優先してたせいで未だに総合ギルドにいるっス」
こそっと覗くとそこにいたのはヒデ達であった。
「あっ!」
「おっ!ダウ君じゃないっスか!」
ヤマナはラムドに帰ってきてからすぐに考えた。この少年が他人にほいほいと凄いのを見せるのは、もしかして家族にはもっと凄いのを渡してるのではないだろうかと。
それは見事的中した。この人数の家族だけではとても管理出来ないであろう畑の広さに収穫物の量と品質。
そして餃子作りの時をヒントに、一作業全てを任せるから出来る出来ないが発生するのではないか。
ポーション作りの魔核壊しのように作業を細分化して、大事な所は職人が行えば能率も上がると。
「という訳なんスよ。草むしりとかで出た雑草はうちの店長マルケンが引き取るっス」
この男なの強かである。新しい人材派遣のサービスで仲介手数料を取りつつ、これから主力商品になるであろう膨らまし粉を集める手筈を整えていた。
「もしかしなくてもダウ、このヒデ君達と面識があるのか?」
父の問にうん、とだけ答えて二の句が継げずにいる。
先程のヤマナの説明が本当なら、ずっと燻っているのではなく仲間を助ける為に頑張っている。
初日から邪魔をしてきたのではなく、借金が無いやつよりあるやつ優先で依頼を達成させるため。
(だから良いやつとかは思わないけど、生活苦しかったから前世の家族のことを思う暇なく忙しかったんだよな)
「先輩でライバルだったんだよ。最近は商業ギルドとかの依頼受けてたから鉢合わせにならなかっただけで」
まあこんなもんか。そう1人で納得したランダウは耳を疑う。
「違います。俺達はランダウに嫌がらせをしてました。借金の無いボンボンだと思って。だからヤマナ、この仕事俺は抜けるわ。嫌がらせしてたの俺だけだし」
「ヒデさん?!」「いや、俺達もランダウを目の敵にしてました!」
ヤマナはまじかよといった表情で困っている。
ランダウは必死に昔のことだしと被害者が弁明し続けた。
「あ〜、ヤマナさん、貴方はしっかりしてて信用出来る。だからこのヒデ君達の言うことも本当なのかもしれない。息子に嫌がらせするなんてとてもじゃないが親として許せる事じゃない」
「すいませんっス。こちらの不手際でした」
「けど親バカと言われても私は誰より息子を信頼しているんです。だから嫌がらせがどうとか半信半疑です。だから彼等の働きを見て決めようと思います。ヒデ君、言ってるのを信じて欲しかったら真面目に働きなさい。ダウのライバルだと言うなら出てってもいいがヤマナさんの紹介でダウのライバルを雇おうと思う」
「父さん♪」
「広い心遣い感謝します」
深く頭を下げたヤマナに習ってヒデ達も頭を下げた。お礼と謝罪の言葉も添えて。
商談が決まった事をギルドに報告する為にヒデ達も連れて帰っていった。
その時に借りは絶対返すし、ライバルどころか追い抜いてやるからな!そう凄まれた後に、ありがとうとと小さく呟いた。
「ありがとう!父さん大好き!」
記憶に目覚めてから甘えるのがなんとなく恥ずかしかったが、先日のシュートに怒られた1件で甘えれるうちに甘えようと思ったランダウ。
がしかし、抱きついた父の違和感に気がついた。
「父さん、もしかして太った?」
「そうなのよ、この人ったらビールの飲み過ぎで。完成しても小麦を入れたら3日は出せなくなるからそうやって調整してるの」
「ああ、実はビールを将来的にゲリラ的に売ってほしくてタルをまた用意したんだけど母さんに全部管理任せるね」
ショボーンとした父を横目に家の裏にある物置小屋へとタルとチーザーを2つずつ取り出した。
そして簡易収納箱も10個ほど置いておく。豊作だからお金がいっぱいという訳ではない。
世の中には需要と供給のバランスがあり、豊作貧乏なんて言葉もあるのだ。
それをこの収納箱を使えば腐らせずに出荷量を調整出来る。
「魔法袋は無理だったけど、これも魔空庫に入らないのよ?」
「あー、試してないなぁ。けど今さら収納が増えても旨味がぁ。まぁ、成功するに越したことないか」
試してみるとあっさりと成功。これで魔法袋は見せかけのためだけで、時間停止が必要な物を大漁に簡易収納箱へと入れることとなった。
『ダァー……マス、あのでやがります』
「ちょっと皆待っててタエコからなにかあるって」
(なんで業界用語っぽい呼び方?)
『ゲーム内のマスターでのスキルレベルの半分まで私のスキルレベルが底上げされやがりました』
(おお!じゃ色々と作れるね。物作り系なら22〜28位か)
『醸しダルをチラッと見たとき99/100の表記がありやがりましたので、ビールの入れ物用意した方がいいかもしれねーです』
「タエコさんどうしたの?」
採れ過ぎた小麦を醸しダルに入れれるだけ入れたであろう事に気が付いたので、ちょっと入れ物を作る必要があることを伝える。
ついでにこっそり表面は木で出来た真空断熱タンブラーを作れるかチャレンジしてほしい事をタエコに頼んでみる。
『私とペアの作って乾杯してくれやがるなら頑張れます』
(むしろお願いしたい。タエコとのペアグラスならゲーム内のクリガラとか使ってよ)
「あのね、実は今日宿屋に向かう前に3人で話したんだけどね」
「ちょっと私達の活動についてなのよ〜」
女の勘によっていい雰囲気になってるのに気が付いた2人は自分達に注意を向けさせる。
家族やフローレンスさんに心配をかけずに、お金稼ぎつつ人助けが出来る冒険者になりたいと。
「で、何するんだっけ?」
「朝の話し合い何を聞いてたのよぉ……」
犯罪履歴を調べる魔道具がない街未満の町や村は荒くれ者が多くなりやすくく、冒険者も報酬を少しでも上げるため、強いモンスターは常駐依頼でもあえて倒さず討伐依頼が来るまで放置するのが普通であると。
「ダウが教えてくれたじゃない?動物のアレを焼いたのとか血や肉を肥料に出来るって」
アレとは糞であるが、ドロシーは言えなかった。
母が料理を作る際に出てきた廃棄食料を土を被せて肥料へと変えていた。
「それってゴブリンとかで出来たりしないかなってね?」
「臭い対策もある程度考えてるのよ」
シュタイン覚醒がもたらしたのは何もモキンの悲劇だけではない。
腐葉土や輪作と言った定番とも言える改革にも当然手を付けている。
それでも現代の化学肥料の無い世界では土壌の栄養はそれだけで賄える者ではなかった。
それを前世でも田舎育ちであり、祖母や叔父の趣味。そして農家として育ったランダウの知識と経験で多少カバー出来る。
「臭い対策はどうするの?」
ゴブリンは繁殖力と臭い事で有名なモンスターである。
その臭いは肥料に出来ると言っても無視は出来る物ではない。
「それはこうするのよ〜」
あえて町から離れた場所に肥料用の場所を何個も作り、水捌けや臭いの行き場所を誘導出来るように土魔法で型を作る。
そしてランダウに教わった炭の消臭力に期待して、臭いの行き先に煙突を作って木炭と竹炭を置いて軽減しようというものだ。
「ま、実際に出来るか分からないとか、臭いの距離的に遠すぎたら町の人が行き来出来ない可能性もあるのよ」
「いやいや、十分過ぎるよ。試してみようよ!皆で考えたの?凄いや!」
「どれもダウからの知識だけどね」
「そんなことないって!知ってることと考える事は別なんだ。これは皆の努力だよ」
ミスリルの誓いが新たな出発をする前にタエコが作ったビール樽に移し変える作業や真空断熱タンブラーを家族や仲間にプレゼントした。
醸しダルの容量はどうなのかというと……。
(これって4斗樽だよね?)
『2個半で98に減ったってことはバレル計算でやがりますか……』
1バレル約159L程である。それを100まで貯められるとしたら16t弱のビールを1つの樽で収められている。
これはこれで異常ではあるが、この短期間でそれ程までの小麦を収穫出来たことの方が看過出来ない。
「ねえ父さん、母さん。最近農作業してて変わったことない?」
「お前に種を貰ってから生活が一変したから変わりすぎててなぁ。農作業に限るなら疲れなくなったことと、仕事終わりのビールが美味いこと、収穫すればする程増えてく種や野菜達。なんで1つ取ろうとしたら手には2つも3つもあるんだろうな?それと旬が過ぎてるのにどんどん美味しくなるわ、ダウから貰った種以外の物もやたらと成長早いわで」
「あっ、もう大丈夫。うん、諦めついたから」
「ねね、ドロシーの料理が増えるのなんて可愛いものだったかな?」ヒソヒソ
「そもそも前に来たときよりもずっと広がってる畑に誰も何も言わないのが不思議なのよ〜」ヒソヒソ
農家1筋のスキルレベルは半端ない状態であった。
この家で作られるトウモロコシの芯は本来煮込んでスープにしないと食べられないが、焼いただけで実と一緒に食べられるようになっている。ちなみにランダウは茹でる派だ。




