仲間外れ
ランダウが今いる部屋は食事無し、お風呂は勿論シャワーも無く、食事は一食毎に有料の一泊4千ガロの宿屋満腹亭、通称駆け出し亭を拠点とすることに決めた。
両親には10日分の支払いしてもらった上に金貨10枚。10万ガロまで貰い自立することとなった。
まずは分厚い小冊子を読まなければ!
そう意気込んだのだが数時間後。
(まぁ、当たり前のことばっかりだしスマホの料金プランよりかは分かりやすい。今まで見たことないけど奴隷も存在するのか。ギルドに借金して返す見込み無しになったら他人事じゃないから気を付けないと)
既に夕方になり、今から仕事をするのは諦めて食事をしてインベントリ制作してからゲームをしようと決めたランダウ。
魔力を使い切り部屋で裸になって虚空へと畳んだ服を押し付けると消えていった。
まずは半分成功と小さくガッツポーズ。そして取り出せるかの実験をする。
農場ギルドで魔法袋の購入(ギルドに借金して)を勧められたが、この魔法が失敗してからでいいと思い断っていた。
(これで失敗したら母さんが明日来るまで裸だ……)
下着は脱ぐ必要ないのでは?そう思いつつもゲームをやりたいという思いが馳せる。
時間停止の効果があるかも確かめるためにとそのまま全裸で出来る時間潰し。マジカルファーム4を早速やることに。
暗転画面の中央に文字が書かれている。
『キャラクターの1人が好感度一定以上になったので操作方法が解禁されます』
(キター!!ヨシッ!やるっきゃないっしょ!!)
ベッドの上に全裸で座り脳内+コントローラーへと設定を変えてプレイをし始める。
目はいつもより疲れるが、手ぶらで出来るし動作のラグがほとんどない。
昨日はイベントに集中したのでスキルアップと金策を重点的にやろうと決めた。
ランダウはRPGをする時は一点集中で鍛えるより全体的に平均的に鍛える傾向があった。
勿論火力重視やスピード重視のゲームならそっちを優先するが、共通してパーティーメンバー全員店売り最強装備を整えないと嫌なタイプである。
(釣りは今作は連打ゲーだし簡単になったな。アイテム倉庫に結構溜まってきたし。溢れてる物はっと)
そしてアイテムも必要以上にコレクションっぽいこともする。初期装備も決して売りきらないし、大事そうなら尚手放さない。
3時間が経ち寒くなってきてようやく全裸であることとインベントリ作成のことを思い出した。
念じると目の前から畳んだままの衣服がファサっと落ち、手に取ると温もりはあまり無いように感じる。
「時間停止は無理そうだ。後は容量を調べないとなぁ。それとインベントリに名前を付けるか……」
(ちょっと独り言増えた気がする。気をつけよっと。あと少しだけレベル上げたら寝よう)
インベントリの名前を考えながらゲームをしていたらいつの間にか眠ってしまった。
画面に10:1が開放されましたのメッセージが出たのに飛ばしたことすら気が付かないまま。
朝日で目を覚ましゲームで時間を確認するとまだ総合ギルドへ行くのは早い時間。
このままゲームをしたいけど仕事に行くのを忘れそうだと思い我慢をした。
折角ラムドの中央部に来たのだし、街並みを見ながら時間を潰そうと服を着替えて、少ない荷物を魔空虚(寝落ち前に考えたインベントリの名前)へと入れた。
出店の準備やランニングをしている人と様々な人を見ながらランダウはふと疑問に思う。
小冊子には獣人やドワーフと言ったファンタジー種族もいて、文化の違いがあるので諍いは起こさないようにと書かれていた。
けどここにはいないのかドワーフ以外は未だ見ていない。
(そろそろ行くか)
丁度いい時間になり総合ギルドへと向かったランダウ。
ドアを開けると視線が自分へと集中したので身構えた。
けれど数秒後には何事も無かったかのように各々が動き出す。
総合ギルドの仕事はそれぞれ10級から8級と定められた初心者用の仕事があり、初めは皆10級スタート。
こなす仕事によって冒険者ランク等の対応したギルドのランクが上がる仕組みになっている。
ランクは1つ上の仕事まで選べて下限は無い。冒険者ランク5級の人が10級をやるのも許される。
そして各々が得意分野を見つけて自分にあったギルドの7級へと目指す。
常駐依頼を見てみると報酬が高くても冒険者ギルドからは2000ガルから3000ガル程度。
やってみないと分からないにせよ高いものは出来て2つが限界のような物ばかり。
(宿に泊まって1日2回食事をしたら銅貨数枚……。数百ガルしか残らないぞこれ)
「君見ない顔だけと新人?これはパーティーを組んで達成して宿屋も1つの部屋を共有するのを前提さ」
ランダウに声をかけたのは4人組の若者達でリーダーっぽい男だ。
絡まれるイベントや、優しい顔をして利用してやるのパターンが頭に浮かび、身構えながらも大事な情報だと耳を傾ける。
(確かにスモールウルフやゴブリンといった魔物も武器が無ければ倒せないし、消耗したら買い替えないといけない。囲まれたら逃げられずに死ぬ可能性もあるな。家族相手だと普通に出来たけど他人とはこれが初めてだし子供らしく振る舞わないと……)
「ありがとうございます!自立するのを知ったのも昨日が初めてで困ってたんです」
「わかるわかる、まさか俺がって感じでさ。って1日であの紙の内容覚えたの?すげえじゃん。俺ヒデって言うんだけど一緒に組まね?」
「そうそう、借金持ち同士力を合わせて頑張ろうぜ!」
ヒデと名乗る少年に倣ってパーティーメンバーであろうもう1人の少年も笑顔で話しかけてきた。
しかし、ランダウはとある単語に引っ掛かり復唱してしまった。
その一言でこれからのギルド活動を大きく変えることになろうとは思わなかっただろう。
「借金?」
「ああ、魔物討伐するのに武器や防具だっている。魔法袋だってかっただろ?登録料も高いしな」
「それに商業ギルドが出した依頼は商業ギルドに加入してないと受けれないんだよ」
「何個か加入したけど結局全部含めた総合ギルドカードが1番安上がりだったんだ」
そこまで話して自分達が……。いや、自分が注目を悪い意味で集めてることに気が付いた。
それから泊まってる宿の話(1人で部屋を使ってる)や、支度金を親から貰ってることがバレる。
(この目は知ってるぞ。大学の講義で一緒だった奴が、親の仕送り無い奴の方がある奴より人間的に上だとか言ってたのと同じ目だ!)
「お前魔力は?」
「Dだけど」
「最高は?」
「全部Dだよ」
ヒデはそれを聞いて周りを巻き込み馬鹿にしてきた。
自立する上での最低ラインのD判定ということは、この中での最低魔力はランダウだということ。
勿論属性によってはDマイナス以下の判定がいたりするけど、何か1つD以上ならD判定となる。
(そうだ。俺はつまり誰かの代わりにしかならないってことか)
皆にフルボッコ状態のランダウを見かねたのか受付の綺麗なお姉さんがフォローした。
1人でオールマイティにこなせるのは貴重だよと。
それは農業ギルドでも言われなかった一言。けれどランダウは諸手をあげて喜べはしない。
(ありがとう!綺麗なお姉さん。でもそれを言ったら……)
ランダウはペコリとお辞儀をして感謝を伝えたが、それは火に油を注ぐようなものだった。
親から甘やかされた少年が綺麗なお姉さんに好かれている。
決してそのようなことはない。けれど年端も行かぬ子供たちにはそう映った。
それは先程まで中立派だった者や、同世代の女の子からも嫌われてしまう要因だ。
それは本人も把握している。傍目からは落ち込んでる様に見えて内心は違う。
中身は大学生なのだ。子供の嫌がらせを笑い飛ばしはしないけど、そんなことで悲しんでいられない。
(今に見ていろよ。俺1人でも稼いでやる!!)