トライアンドエラー
「「ダメ!」なのよ!」
唇が触れる寸前にドロシーとバーバラによって引き剥がされる。
別に2人共ロザリンドがキスをするのが嫌なわけではない。
ドロシーは照れとまだ早いという気持ちが、バーバラは1番先に好きになった親友への遠慮があった。
それを友達感覚、妥協で結婚しても良いかなと言ってた親友がファーストキスを奪うのは許せない。
「ロザリー!どうしたの?今なにしようとしてたか分かる?」
「ダウ、強い、しゅき、かっこいい、しゅき」
「ロザリーがとうとう本物のバカになってしまったのよ……」
酷い言い草ではあるが、普段の彼女を知る人が聞いたら仕方なしと思うだろう。
ロザリンドがランダウに抱いていた感情に恋愛はなかった。
親友2人に好かれてる好青年(少年)
実家に挨拶に行った際に否定もしなかったのは、日本でいう私達30歳まで相手いなかったら結婚しよっか?
に毛が生えたものだ。
そもそも彼女の好みのタイプは、マッチョのオラオラ系とまではいかないが、強くて頼れる男なのだ。
これはロウフリアでは普通であり、誠実さや、頭の良さを求める2人が少数派とまではいかないが、一歩外を歩けばモンスターが闊歩しているような命の危険がある所で求めるのは身の安全そのもの。
最近は戦闘に関して弱気な発言も多くマイナスイメージがあったので、余計に異性の友人枠として接していた。
それを突然人殺しにも慣れた先輩冒険者と、ベテラン野盗を何かする訳でもない風に、何もさせず倒すどころか殺すより難しい生け捕りをこともなさげにした。
その前に自分達を後ろに下がらせ俺に任せろ的な態度も高ポイント。
極めつけはあのセリフ。昔から憧れていて、冒険者ギルドに初めて来た時勝手に脳内補完した俺の女に手を出すな。
鬼の形相で未知の強さを見せつけてそんなことを言われたロザリンドは頭のネジが吹っ飛んだ。
ランダウと結ばれる事しか頭にない。
「あれ?なんで僕ってば羽交い締めされてるのかな?」
「何してたか覚えてるのよ?」
「えーと、ダウが僕達を襲おうとした連中を簡単に倒して、僕をギュッと抱きしめながら俺のモンだから手を出すなって宣言して、これから愛の証拠を刻みつけてやるって宿屋まで連れ込んで僕を急に押し倒してきたから僕は頷いた所までかな。ああ、ダウしゅき。んー」
「前半しか合ってないじゃない」
「ロザリーの頭が本当に心配なってきたのよ……」
どうにかロザリンドを正気に戻して(最終的な決め手は冷たい水を頭からかけた)これからの事を話す。
モキンの話ではなく、将来についてだ。
「結婚するつもりなのは知ってたけど、本当にダウのこと好きってこと?」
「うん!むしろ今の僕からしたら自分の理想ばっかり押し付けるドロシーこそどうなのかな?」
「理想どころか妄想にとらわれて顔まで押し付けた人の言葉だとは思えないのよ……」
「好きだもん!ただちょっと気が早いかなって……。ダウはキスとかしたいの?」
正直したい。けどそれはただすれば良いという訳じゃない。
さっきは押しに負けそうであったが、童貞には童貞なりの……、童貞だからこその理想はあるのだ。
「うん。凄くしたいよ」
そっか。と、残念そうに肩を落とすドロシーに構わず続ける。
「好きな彼女とお互いがしたいって思った時が来たらキスしたいな」
「そうよね!お互いの気持ちが1番よね!」
「じゃあダウ。んー」
「ねえロザリー、気持ちは凄く嬉しいよ。でも幼馴染の親友と拗れてまで俺としたいの?」
「うぐっ。それを言われると辛い……、でもそんな強気なのも好きかな♪」
「私も我慢してるんだからロザリーも我慢するのよ」
「了解かな!」
お互いこれ以上は藪蛇になると理解して無言の休戦協定をした。
それでも昨日までとは明らかに違う雰囲気をそれぞれが纏っている。
まずは歩くときの距離だ。デートの時でさえ、ランダウの両隣にドロシーとバーバラが少し距離を空けて歩き、ロザリンドはその後ろか、2人の横を歩いていた。
それが今はというと。
「ちょっ、それじゃ皆歩きにくくない?モンスターに襲われたら大変だよ」
まるでペットが飼い主に構ってほしいかのごとく纏わりついている。
言葉では言ってるものの引き剥がしたりする様子はなく、むしろ嬉しそうだ。
「そしたら強いダウが僕のこと守ってくれるかな」
「それよりもドロシーはそんなに引っ付いて大丈夫なのよ〜?私がドロシーの分まで引っ付くのよ」
「さっきのでダウの気持ちが分かったから大丈夫だもん。あの人達は馴れ馴れしく身体を触ろうとする男に気を付けろって言われてたけどダウは違うの」
『へっ!素晴らしいハーレムマスター様でいやがりますこと。さっきの怒りは何処へいったんですかねー。心配して損したでやがります』
1人だけ怒り心頭である。そんなタエコに対応していて、困った顔をしたランダウに気が付いたバーバラは2人と違った行動へ出た。
なんと離れて単眼鏡を取り出しのだ。
「離れるのは寂しいけど、本来の目的を忘れたらダウに迷惑がかかるのよ〜」
ここに来てようやく正気に戻ったバーバラ。
実際にはこれを期にドロシーの潔癖を改善して、自分が普段からランダウとイチャイチャするための作戦であった。
当のドロシーはというと、気を使ってくれてるバーバラに甘えていたところへ強敵が出現したことの焦りで対抗しているだけである。
「そうね。こんなことしてたらダウに甘えっぱなしなのは変わんないじゃない」
「僕的にはまだ名残り惜しいかな〜」
ロザリンドはそうは言いつつもモンスターの動きを止める第一歩は自分であり、ランダウにアピール出来ると踏んで行動を開始した。
動物を見つけては片脚を射抜いて服毒させる。死ぬ。
毒を変えては同じことをする。動物は死ぬ。
量を減らして試しても結果は変わらない。
毒を使う→相手は死ぬ。それをただ繰り返した。
それから数時間が経つ頃、4人に精神的な疲労が見える。
人がいない所だと何故か強いモンスターが現れやすい。
なので安全確保のため、モキン方向には特にめぼしい物は無いのだが、数日前に行われたモンスター掃討依頼のせいで野生動物ばかりである。
「ダウのそれ初めて見た時食べるのかと思ったの」
「ああ、これは自己満足だけど命に対してのお礼だから似たようなものだよ」
「埋めたり焼いたりしないのは何故なのよ?」
「身体に毒が回ってるから汚染しないようにね」
魔空庫に入れる振りをしつつ共有ゴミ箱へと処分する。
ロウフリア全般では、いただきます。そう言葉にする文化はないが、フィーネでは両手を合わせてから食べるのが一般的。
面倒臭がりな人達はしないが、食に携わる人や命の危険が多職種より高い人ほどしてる傾向がある。
「これだけやってもすぐ死ぬならどうするのよ?」
「まずは体内に毒が入ったら単眼鏡で分かるってのだけでも収穫なんだけど、一応後遺症が薬で治るかも調べたいんだ。粉の量をまだ減らすか、水で溶かして薄めるか、身体の大きいのを狙うしかないかなぁ……。でも犬猫はしたくない」
『マスター。ちょっと原因不明で不機嫌になってて気が付くのが遅れやがったんですけど、もしかしてスキルレベルが上がってて毒の強さに補正がかかってたりしてねーですかね?』
申し訳無さそうに告げるタエコの言葉に、何故自分も気がつけなかったのかと呆れるランダウ。
ゲームなら攻撃力100,防御力100といった風にステータスが表示される。
けれど現実ではステータスの数値どころか、項目すら不明なのだ。
ただ分かるのは、今のカスタムなら何かの数値を3減らしたら1増やせるとのこと。
ドロシーが作った焼鳥のように数が増えれば一目でわかるのだが……。
(えっと、あんときは怒ってたしどんな風にやってたか実感がないんだよなぁ。取り敢えずは……。普通になぁれ。普通になぁれ!)
(『どこぞの喫茶店みてーでやがります。今度マスターに何か作るときそれしたら……。しねーでやりますけどね!別に3人に対抗心とかねーですから!!』)
今度こそはとモンスターを探していると現れたハイゴブリン。瞳の色は青で最弱だ。上手いこと掃討を逃れたのだろう。
ゴブリンの上位種で普通のオークより少し強い。
この位のモンスターからは魔核が高確率で入っているのでバーバラのテンションがあがった。
「コイツなら耐えれそうかな!」
「うん!」
トリカブトの葉っぱ1枚で約1g。人であれば十分な致死量である。
ゴブリンよりは大きくとも、成人男性よりも小柄なハイゴブリンにはその四分一の量を服毒させた。
植物界最強とも言われるその毒は即効性があり、早くて10分で効果が見られ、死因は心臓麻痺である。
その毒を食らったハイゴブリンは苦しそうにもがいているが死ぬ様子はない。
その間にゲームを起動してクリガラを変換して手に持ったランダウはできる限りの魔力を込めて注射器を作り出した。
「それなに?」
「注射器って言ってね、毒消し薬をこの中に入れてからこの先っちょで皮膚に刺してから注入しよっかなって」
30分経っても死なずに嘔吐をしているのを見て、飲ますのは無理だと判断。
本当に残酷ではあるが、トリカブトで死なない場合、痙攣や麻痺が後遺症となるのでは、もしそれが薬を飲んでも出る場合は、モキンに入った際は自覚症状が出る前に薬をのまなければいけなくなる。
結果としてハイゴブリンは毒により死にかけたが、薬を注入したら問題なく動けていた。
「ハイゴブリンって6級指定?」
「コイツは7級なのよ〜」
モンスターにはランク分けされており、6級からは討伐部位だけだと報酬が減額される。
強いモンスターの身体は利用方法があり、1番はなるべく傷を付けず全身をもってくること。
なので容量の大きい魔法袋は値段が跳ね上がり、それを買うにはモンスターをいっぱい狩らないと、という堂々巡りになる。
フラフラのハイゴブリンをしっかりと殺して討伐部位を切り、魔核を取り出した。
その後もイヌサフラン等色々と試したが、後遺症が治ってるのか、そもそも後遺症が出てるのかが分からない問題が出てきた。
(カエンタケとかあればなぁ。後遺症は植物よりキノコだけど、キノコの見分け方とか無理だって叔父さん言ってたし。生椎茸すら似てても危ないから野生のキノコは食うなって言ってた……)
『マスター、戻って生きてたらでやがりますけど、アレに飲ませたらどうでやがりすか?または毒性をいじらずに、発症時間を伸ばして後遺症に割り振るとか』
(うーん。正直アイツらの顔見たくないなぁ。カスタムを変に使うと普通とは違うことなりそうだけど、タエコが言うなら使いながらやってみるよ)
普段のタエコならすぐに気が付くのであったが、今日初めて使った能力であり、毒の知識もそんなに持っていなかった上、毒を全身に回らせてる間にそれよりも大事な事があると、ちょっとマジカルファームをしていたのだ。
実はランダウは無意識のうちにカスタムを使っており、手作りした毒消し薬を使用する際、後遺症が治れば安心してモキンに行けるなぁと考えていたので後遺症が出るはずもなかった。




