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アンメットライフ  作者: ¥$終
〜アンメットフェスティバル〜お祭り騒ぎ編
26/54

屋台最終日

前日に来たお客には今日でラムドに戻ることを伝えていたので、朝一から怒涛の勢いを見せ過去最高の売上を叩き出した。

用意していた料理はほぼ完売し、マルケン達がラムドで仕入れていた商品も底を尽きそうである。


「終わったぁ」「お疲れ様」「夜はジャンさんの所で打ち上げでもするっスか?」


口々に今までの事を労いながら片付けをしているが、なんと今の時間は午後2時である。

昼食は誰も済ましておらず、なんとも微妙な時間なため、各自自由行動にとなりそうな時シュートが1つ提案をした。


「これから私が考えた……、って程じゃないな。アレンジを加えた物を食べてほしい」


こうして人目を偲んで出してきたのはランダウにとっては馴染みのある料理だ。

日本の伝統料理であり、家庭料理でもあるそれ。


「唐揚げともフライとも違う料理だね」


「名前はまだ付けていないが、一口サイズに切ったものと、纏めて揚げたものの2種類用意した」


天ぷらとかき揚げである。各々が手を伸ばし美味しそうに食べてる中、珍しくシュートがランダウを驚かせる事を言った。


「焼鳥に柔らかいパンとその原料にお金を払わないとな」


「ええ?!だってもう貰ってますよ!」


「あれは料理を思いついたら優先的に教えて貰う為に払ったのだ」


「あれっスね。2人共職人や発明家としては1流かもしんないスけど、商人には向いてないっスね」


金払いの良いシュートと、素直に貰えば良いものを遠慮するランダウを見てごちる。

タエコが、レジ前でやり取りするおばちゃんみてーでうざったいことこの上ねーですと突っ込む位に、上げるいらないを繰り返し行っている。


前回の反省を活かしてミスリルの誓い全員分に払うと言ったら今度は4人から反対された。

ただでさえ今回の依頼の達成報酬は店の利益から歩合が出るのに、なんにもしていない自分達は今度こそ貰えないと断言する。


「そ、それは違うと思います!」


この10日間、特に前へ出てくる事がなかったロバートが大声で叫ぶ。

その姿を見るのはマルケンやロバートも初めてであった。


「どの植物を使ったら燃えやすい、灰が風で飛び散りにくい、燃やしきった時に残るのが多い。その他色んなノウハウは凄かったです」


「そっスね。あれはダウ君が驚きながら褒めてたし、君達が試行錯誤した結果っスよね?」


気が付いたらヤマナはダウ君呼びとなっていた。


「ほら、商売の専門家もそう言ってる事だ。素直に受け取りなさい」


「ところでランダウ。シュートさんから聞いたんだけど、自分の料理はお金を活かして取れるほどだなんて自惚れてないって言ったらしーな?」


ヤンキーがメンチを切る感じで詰め寄るフローレンス。

一歩下がりながらもそうですと答えるとポカりと頭を叩かれた。


「この10日間何を見てたんだ!来てたお客さんはアタイの料理だけ褒めてたか?お前のもドロシーのも幸せそうに食べて喜んでただろうが!ちょっとは自惚れろ。大したもんだよ」


「そういうことだよ。最後に街を見て帰ろうか」


ベルズが最後に纏めたが、シュート達最大の狙いはここにあった。

何もモンスターを倒して稼ぐだけが冒険者ではないと。

倒したモンスターを料理する。野営とかで不便な物をどうにかする。色んな所に色んな可能性があるのだと教えたかった。

そうして最終的に料理ギルドへ来ればなおよしと。


こうして夕方にジャン達にお礼を言ってルンシバを後にした。

来る時に使った野営地に到着し、夕飯の準備は皆でしようとランダウが提案する。

それには料理しない組から不満の声が上がった。


「大丈夫です。市場で買ってきたこの2種類の小麦粉を混ぜます」


それは日本では強力粉と薄力粉と呼ばれる物であり、ここロウフリアでも名前は違えど存在している。

どれも小麦粉なので当然と言えば当然なのだが。


先に皆で2種類の小麦粉を体温より少し高めのお湯に混ぜて捏ねる。

いい感じになったら冷蔵庫は無いので鉄の箱と水魔法で温度を調節して1度放置しておく。


今度はキャベツと豚の挽肉とニラとニンニクで必要な食材は大体揃う。

ルンシバには行者ニンニクがあったのでそれもこっそり買っていた。

それをランダウの指示で細かくみじん切りにして混ぜ合わせて軽く胡椒をまぶした。

ここまでは何一つ難しいことはなく、出来上がりに多少の差はあれど問題なく進んでいく。


この料理最大の難関、ラー油と醤油の不在だ。

それは無いものとして諦めて、香辛料と焼鳥に使ったタレを合わせて味見する。

と、そこで。


「どうせなら辛いの作るのよ〜」

「あっ、バーバラに任せたら激辛になる!」

「おっと俺にもやらせるっスよ」

「ここはプロのアタイに任せな!」


最初は言われるがままの状態で作っていたが、やろうとしてることが分かり、自由にやり始めた。

こうしてタレ作りに夢中になってるのを微笑みながら次の作業へ移る。


冷やしておいた物を取り出して等間隔に切ってから平らに潰す。

そしてその中にみじん切りにした具を入れて包んで焼けば餃子の完成。


「これはもう本当に自由な料理です。小麦粉の種類で皮の固さ、具材だって自由だし、焼かなくても茹でようが揚げようが蒸そうが色んな出来上がりになります。そして何より、こうやって皆で作るのが醍醐味なんです」


「つまりこういうことかい?」


餃子の羽部分の波を芸術としか言えないような綺麗さをシュパパっと作ってみせるシュート。


「ちょっと私には向いてないのよ〜」


「ふふん♪つまりこうでもいいのかな?」


かなり形が偏ってるバーバラに、羽を1つにすることで崩さないようにするロザリンド。


(おお!ロザリーのは餃○の王将風)


『マスター、あのでやがります』


(タエコの分もちゃんも焼くって、俺の作ったのでいいんだよね?)


『そうでやがります』


(ちょっと自惚れても良いんだよね……)


「ねえ、俺の作ったの食べて欲しいんだけど、3人が作ったのくれない?」


「こんなボロボロなの無理なのよ〜」


「わ、私は良いわよ」


「ええ!僕のも本当に欲しいのかな?!」


そうやってイチャイチャしながら餃子を頬張ってると、ランダウの知らない単語が飛び出す。


「しっかし最後の最後でとんでもねーの出してきたな。やっぱりあれか。ランダウはシュタイン覚醒してるんだよな」


(なにそれ?)


「フローレンス、大丈夫か?」


「いや、いいんだ。あの役人達とランダウは違うの分かってるから。ギルドの変なグニャグニャな文字も簡単に読めんだろ?」


(普通に読めませんけど?)


シュタイン覚醒とは、ケオストラ第一皇子のシュタインが、急に今までにない知識を使って技術革命をしたことから、思いもよらない事を仕出かすことを人々はそう呼んだ。

それに呼応するかのように、そんな人が出てきてシュタインの元へと集まり、国家主体の組織とまでなる。


当然真似した偽物も現れるが、実際にやらせてみるとボロが出てくる。

しかし、いちいち取り合うのも面倒なので、シュタインがギルドに文字を書いて、正解した者だけが面会出来るシステムとなる。


ランダウの突飛なアイディアにベルズやシュートが取り合ったのもこの情報があったからこそ。

けれどシュタイン覚醒は、石鹸の改良や井戸のポンプに船の技術、製紙技術がメインだったので違うかもという思いもあった。

以前ランダウのことを末恐ろしいと感じたのもこのためである。


そして何よりカール達を死に追いやった政策をする奴と同じことをする少年に見えない。思いたくない。

そんな考えでランダウの存在を見てみるのと、表に出過ぎないように注力した。

勿論ランダウ本人を好ましく思ってるからこそだが。

春のパン祭りでランダウの名前を伏せたのもその一環である。


(タエコ、これってもしかして……)


『転生者としか思えねーです。しかも完全に記憶が戻ってやがり、その上マスターや私が読めない字と言うことはマスターの世界とは別の異世界人でやがります』


「ダウのはちょっと違いますよ。何ていうかダウだからみたいな?」


「ダウは突飛なことするけど強引じゃないのよ〜」


「アタイはどっちでと受け入れるさ。人の幸せな顔見て喜んでんだ。いいヤツに決まってる」


「うん!ダウがお人好しなのは僕が保証かな!」


ぐうぅぅ〜。

誰のとは言わないがいい匂いに釣られてお腹が鳴った。

そうして焼き上がった餃子を食べてるとバーバラが周りを見て1言。


「行きの半分しか馬車ないのよ〜」


「日程はそれぞれだからね。まだルンシバに居るのか、ラムドに戻ったのか、それとも更に違うとこへ行ったのか」


「まぁなんにせよ、盗賊とか出なくて良かったよ」


「そこはドーンと構えて、俺が倒してやるぜ!位に言ってくれたらカッコいいかな」


『ちなみにマスター。3台の馬車のうち2台が行きと同じ馬車でやがります』


フラグのような事を言ってしまったランダウであったが、ラムドに着くまでは襲われることもなく仕事を完了させた。


「それじゃあこれがイースト菌や天然酵母のことを書いてるメモです。間違ってることもあるので色々変えて試してください」


「ああ、アタイのが先に成功させたら、新しい料理とか思いついたら真っ先にアタイから教えてくれよな♪」


「ちょっと待つっスよ!それを完成させたらダウ君に新しいこと教えて貰えるって事なら俺も挑戦するっス!」


何故かランダウの思いつき買取権利に発生したイースト菌。

結局全員が挑戦することに。

また宜しくと挨拶をして、それぞれ目的の場所へと向う。


今回の依頼中、7級1人と協力して3匹のオークを倒した功績と、護衛本来のポイントでやっと9級まで上がった。

実は8級までもう少しといったところなのだが、帰りにモンスターが出なかったので仕方ない。


「でさ、やるんでしょダウは?」


「えっとなんのこと?」


ミスリルの誓いだけになった後、ドロシーの問い掛けにしらばっくれる訳ではなく、本当に分からないといった風で答えるランダウ。

3人はアクセサリーを指差し、街の名前を言った。


「モキンをどうにかしようとしてるでしょ?しかも私達に内緒で」


「毒をどうにかするってアクセサリー貰ったんだから付いてくのよ〜」


「危険だからとか言ったら余計に1人で行かせられないかな!」


「致死性の毒だよ?大丈夫?」


「勝算がないことをダウはやらないのよ〜」


「そもそもまだダウは1人でモキンの方向の門に行けないわよ?」


「それじゃあ必要な物を作るのと、作戦会議しよっか!」

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