平賀源内
片付けを済ませ、焚き火の後始末をしているのを見たミスリルの誓い以外のメンバーが不思議な顔をしている。
灰となった木材や植物をわざわざ袋に入れてしまっているのは奇妙だろう。
それはシュートがベルズから聞いた、焼くと虫が寄り付きにくくなると言ってた草の灰も集めていたのだから。
「これを活用するのはまだまだ先なので楽しみにしといてください」
「ダウが修行してる時位から集めてたのよ〜」
「料理は私だから、焼く前に集めるのは2人がしてくれてたの」
あっ、これはきっとヤバいやつだ。マルケンとシュートはすぐに理解した。
そんなこんなで昨日のピリピリした空気はなく、ルンシバの街まで後2時間。そんな時見張りをしていたランダウの隣へと座った。
「うしっ。景気づけに歌うぞ」
「昨日の言ってたやつですね!」
「あの……、馬が驚くからあまり大きな声は止めてくださいね?」
「アタイの歌声に馬も張り切って走るって!よしランダウ!アタイの後に続けぇ!」
その言葉にビクッとし、小学生の記憶が蘇る。
〜〜〜
「せんせぇ、関君がふざけてまぁす」
「はぁ?浩二はそんな奴じゃねぇし!真美だって体育の時NARUT○見たいな忍者走りしてんじゃんか!」
「ちょっと将司!その言い方はないでしょ!真美は運動苦手なだけなんだから」
「いーじゃん別に、関は合唱コンクールの本番口パクしてね」
「はぁ?音を楽しむから音楽だろ?そしたらお前と真美は運動会絶対に休めよな?」
「将司、太一。気持ちは嬉しいけど女子にそんな言い方したら」
「口パクと休むのとじゃ違うでしょ!」
「何がちげぇーんだよ!!」
〜〜〜
遠くを見つめたままぷるぷると震えるランダウに、フローレンスと御者のロバートは心配になり肩を叩いたりするが反応がない。
ただ、やめてみんな。俺が悪いんだと呟き始めた。
フローレンスとは逆の方に座っていたドロシーがギュッと手を握った所でやっと意識が戻った。
「あの、実は歌が……」
「気にすんな!モキンでも下手な人はいたし気にしねぇから。この歌は1人が歌ったら他の人がそれを復唱するから誰でも歌える。彼女も一緒に歌ってくれるよな」
「はい!任せてください♪」
「モキンの漁師一堂!行くぞぉ!♬大漁大漁♬」
「ほら、ダウも大漁大漁♬」
「た、大漁大漁……」
「声が小せえ!大漁大漁♬」
「大漁!大漁!」
「ハハッ!そんな感じだよ!飲んで飲まれて♬」
「飲んで飲まれて♬ほら」
「飲んで飲まれて!!」
こうして強制的に歌わされ、転生したからと言って下手さが治ってる訳じゃ無いのを確認させられ凹むランダウ。
だがなんだか友達と歌ってる時のように楽しい感じがしている。
そして歌が終わると笑いながらも悲しそうに目に涙を浮かべているフローレンスがいた。
その様子に気が付いたドロシーも戸惑うが、向こうから話してくれた。
「本っ当に下手だな、まるでパパみたいだ。よく言ってたぜ、この歌は眠って海に落ちたりしないための歌だから、自分の歌で笑って仕事をしてくれるなら下手で良かったってな。だからお前の歌を悪く言う奴がいたら教えろ、アタイがぶっ飛ばしてやる」
「ありがとうございます」
小学生振りに、2人の友達以外で人前で歌ったランダウは、晴れやかな気持ちとなった。
ルンシバの街へと着き、またギルドカードを門番に渡す。街へ入ったらマルケンとシュートは出店を出す手続き、残りは出店と屋台の組み立て作業だ。
ちょっと違うことをやっているランダウにヤマナとロバートが質問をしている。
「やりたいことはわかったけど、そんな看板とフライパンを平たくしたのは必要なのか?」
「看板はオマケですけど、この団扇は焼鳥に必須です」
「こっちはオッケーです」
「そう言えば大量のニリンソウはどうやって手に入れたのよ?」
「簡単な話しさ。駆け出し亭には私の部下をやり、ベルズに採取へ行かせたのさ」
そう答えたのは登録を済ませたシュートである。
ミスリルの誓いはそれを聞いて1つの事を思った。
(ベルズさんごめんなさい!!)×4
「心配しなくともアイツは冒険者としても活動していたことがあってね。5級から4級に上がる前に料理の道に戻ってきたのさ」
「そ、そんな人が初心者に混じってるのは……」
「なぁに、子供達にキチンと見分け方を教えて、駄目なことも説明すれば問題ないさ。依頼としてお金も発生するようにした」
シュートの狙いは多くのニリンソウを集めるだけではなかった。
今回の仕事でニリンソウを普及し需要を産み出させ、採取依頼を総合ギルドへと持ち込むのが増えれば子供達の収入が増え、ギルドにいいように使われるのが減るようにと彼なりの政策への反逆でもあった。
「ところで、味見役をさせて貰えると聞いて少なめにしたからお腹が減ってきたね」
マルケンも戻ってきた所でランダウの作戦が始まった。
【ドヨー丑の日】と書かれた看板を出店に立て焼鳥を焼き始める。
「おい!ランダウ!!これめっちゃ腕が疲れんだけど?!」
「フローレンスさん!良い感じです♪今代わりますから」
筋肉は普段しない動きに疲れやすい。団扇を使うことがない彼女は既に疲労が溜まっている。
ソロキャンプ等で慣れたランダウは周りに聞こえるように音を立てながら炭に火が付くのを確認した。
「準備完了です。焼鳥乗せてください。タレはどうですか?」
「まずは4種類。甘い辛い、濃い薄いの組合せだ」
網に焼鳥(豚串)が乗っかると団扇で仰がれた匂いはマルケンの鼻孔をくすぐり、涎が口の中に溜まる。
明らかに赤い部分があるのに食べようとするのを部下2人に止められた、それぞれのタレを塗った焼鳥を焼きながら団扇で仰ぐと通行人が足を止め売ってくれと言ってきた。
「明日ドヨー丑の日っスから宜しくっス!」
「えっ?買えないの?」
「すいません!明日ドヨー丑の日まで待って下さい」
「なんだよそれ……」
マニュアル通りの対応していた隙きにマルケンは網から焼鳥を奪い取る。
丁度いい焼き加減だっようでランダウもどうぞと勧めたが……。
「うん、美味しい!こっちも美味しい♪4つとも美味しいね」
「マルケン。お前は味見役失格だ。もう食わせん」
「えぇっ!なんでぇ?」
「擁護不可能っス」
出店の許可を貰いつつも、何も売らないという暴挙に出た。
周りの出店をやってる人達から迷惑がられ、通行人からは売れよと文句を言われる。
そんなのはどこ吹く風という具合で味付けに余念がない料理組と、周りの様子や感触をしっかりと探っている商売組。
「おい!売らないならせめてお前ら人数分パン渡すから俺にも食わせろ!」
「客は客でも商売敵だ。こういう時はどうするんだいランダウ君」
「勿論オッケーですね」
「よっしゃ!交渉成立♪」
それを見た周りの店主達も物々交換という原始的な商売を始めた。
口を揃えて美味しいと言い、人によってはうちの商品にはこの味付けが合うから明日隣でこれを売れと交渉する者まで現れた。
「マルケン。味見役はあの人と交代するか?」
「そんなぁ!いや、シュートさん、全部美味しいから全種類出しましょう。それを言いたかったんです」
「あっ、それいいですね。スープと唐揚げなんかと組み合わせたら違う発見もありそうですし」
「ところで、なんでオークの肉を焼いてるのに名前は焼鳥で、看板は牛なんだよぉ!」
周りの店主達に総ツッコミされるも秘密ですと受け流す。
そう簡単に商売敵には教えないのだ。
日も落ちて、宿へと入りマルケンが不服そうにランダウへ質問をする。
宣伝をしたいのはわかったけどあの匂いだけで十分じゃないなかと。
「そうですね、多分すっごい売れたと思います。けどここは待った方が良いんですきっと」
「そこが分かんないんスよねぇ。売れる時に売れ、今を逃したら今は2度と来ない。商売の鉄則っスよ」
「新しいことに挑戦しなくなったら下るだけって格言もあるからやってみるけど、期待と同じくらい不安があるね」
「ダウの言動は私達にも読めないですけど悪いようになったことはないですから」
「明日の為に休むのが1番なのよ〜」
そう言ってそれぞれの部屋へと入って行く面々。
ランダウはロバート達と同室の予定だったが、部屋が空いてなく、小さなひとり部屋に泊まることになったのでマジカルファームで出来ることを確認することに。




