面接?
「それじゃあ採用。今回の依頼はシュートさんとの合同依頼だから日程の擦り合わせに入るね。早ければ今日の昼に出発だけど大丈夫?」
「はい。私達は予定をいれてません」
「あれ?面接って挨拶のことだったかな?」
「建前もなにもあったものじゃないのよ〜」
4人が面を食らっているのも仕方がない。マルケンの店へと行き、奥に通された部屋に入るなりこのやり取りだ。
馬車で1日かかる隣町ルンシバで、ニリンソウを使った料理と、唐揚げ等を屋台で売りつつ、ラムドで安く仕入れた物をルンシバで高く売ったり、料理のレシピと材料をマルケンが売りさばくといった案件だ。
ラムドもルンシバも僻地であり、1日でそれなりに大きなお互いの街にたどり着ける、旅とも言えない距離での護衛はあくまでおまけである。
野盗が現れるのは稀であり、しっかりとしたルートを辿れば強いモンスターも出てこない。
そして流通法の関係で、街から離れる場合は誰であれ最低限自衛出来る武器を持つことが決まっている。
それを複数の商人がいる夜営地を使うのだから、人を雇うメリットなど、魔法袋の空きに商品を多く詰めること位なものだ。
しかもこの魔法袋には登録魔法というのがあり、登録した人以外は使うことが出来ないという仕組みになっている。
それを破るには大きく分けて3つのやり方がある。
1つは袋の破壊。中身が全て取り出されるが、破壊するには登録魔法を破るだけの力がいり、弱い登録魔法の袋の中身は大したのはない。というか中身全てを合わせても壊した袋が1番高価なんてのはザラ。
かと言って、大商人や貴族の魔法袋を破壊出来るような人達はそもそも僻地で野盗などしないだろう。
2つ目は譲渡だ。これは本人達の意思で行なえ、死の間際に仲間へと託す必要もあり、すぐに行える。
が、それを行うには接触する必要があり、至近距離で魔法を使われたり、懐刀で刺される恐れがある。
勿論人質を取ったり、実力に差があれば問題はない。
3つ目は登録魔法の書き換えだ。これを出来るならそもそも食いっぱぐれないが、有能な癖して正規に稼ぐより裏で稼ぐような奴は5万といる。
だが、1つ目と同じ理由で稼ぎたいならこんな場所にいる理由がない。
以上の理由により、僻地での野盗対策はモンスター対策と大差ないのだ。
勿論街道を外れたり、街より小さい町や村を通るのに遠出をしたらその限りではないが……。
魔法袋の広さはそれぞれ違っているが、最低でも3m四方の大きさは保証されている。
ちなみにランダウが使用する魔空庫の広さは、高さ2mほどで平面は1R位。
4人の中でぶっちぎりで狭い。1位はバーバラで高さ4mの5R。
しかも本人すらも気が付いてはいないが、バーバラとロザリンドは時間停止機能のおまけ付き。
ランダウとドロシーは時間の進みが10分の1位に遅くなっている。
「えっと、マルケンさん出てったけどこの場所で待ってろってことかな?」
「そうっぽいわね。部屋を出る時に掌をこっちに向けて待ってろみたいなことしてたから」
「ちなみにダウは本当に変なの用意してないのよ?」
「したいのはあったんだけど、時間とかなくてしてない」
「聞いといてよかったかな。ちなみにどんなの?」
「ほら、屋台って基本手掴みか、たまにマイフォークじゃん?」
地球でのフォークの歴史は古い。紀元前から三叉のフォークは使われていたが、14世紀ヨーロッパでは手掴みでステーキを食べていたなんて記述も見つかる程だ。
このロウフリアでは手掴みで食べる習慣はなく、主にスプーンとフォークで食べる文化であり、ケスオトラ以外では箸の文化はほぼ見られない。
当然屋外で食べる職業の人はマイフォークを持ってはいるが、街を歩いてる人が持ってることはないであろう。
「唐揚げって熱すぎるし、木のフォークを用意してたら経費が嵩むでしょ?だからこれ」
そう言って取り出したのは、日本ではお馴染みの爪楊枝だ。
これはマジカルファーム内のアイテムではなく、こちらで木材を買って解体用に使っているシルバーナイフで手作りしたものだ。
実際に作ってみせる。出た木屑を魔空庫に入れるのも忘れない。
「確かに私達はフォークを持ってるから気にしたことなかったわ」
「けどコレって作るの大変かな……」
「ふふふん私にお任せなのよ♪」
得意気な顔をしたバーバラが木材を要求し手に持つ。
そしてカッと目を見開くと床に大量の爪楊枝がばら撒かれた。
ただ初めてということや、本人が物作りが苦手という事もあり、ぱっと見で分かるくらいには不揃いではある。
「ダウに色々と教わってるとこういうのも出来るようになったのよ〜。苦手属性ない私ならではなのよ♪」
「確かに木属性って私やロザリー苦手だもん。得意の火だってバーバラより少し弱いし」
「苦手ってドロシーはD−じゃないか。僕は最低の1個上とか笑えないかな」
「確かに魔法なら大量に作れるね。移動中に俺も作ってみるよ」
「料理に関することが僕だけ出来ないのは悲しいかな……」
そうして床にあった大量の爪楊枝と、爪楊枝になれなかった木材を魔空庫に入れて(爪楊枝は1個こっそりゴミ箱共有に入れた)改めてマルケンが来るまで爪楊枝作りに勤しんだ。
『よくゴミ箱のこと覚えていやがりましたね』
(そりゃあね)
『ちなみに協力プレイが出来るようになりやがりました』
(あのオンラインの画面分割のやつ?開放されたって一体誰と出来るのさ……)
『当然私でやがります。マスターが店をやりながらも私が牧場を、ダンジョン行きながら店の経営を等できやがります』
(まじで?友達は誰もやってなかったし、ネットの知らない人とやるの怖かったから日本でもやったことないんだよね)
『マスターの初めてを貰いやがりました。マスターが寝てるときや仕事してるときも画面さえ出してくれれば勝手にやっときますので』
(いや、それは駄目でしょ……。弟にレベル上げさせる兄ちゃんみたいだし。というか他プレイヤー、マジカルファームではゲスト側はホスト側のアイテムを、売ったり買ったり出来ないようになってるって説明があった気が。あくまでも農場の手伝いってポジションだよ)
『私は、というか創造主は出来るように手を加えてくれやがりましたよ。変態なマスターはスキルレベルも何もない私を裸でダンジョンに放り込む鬼畜プレイして興奮しやがりますか?』
(タエコの中で俺の株が急降下してる!)
『そもそもマスターの好感度なんてよっぽどの事がない限り最初から下がりようがない場所スタートでやがります』
(ちょっ!それは酷くない?)
(『何しろこっちで最初に会話してプロポーズされて受けた立場でやがりますから。ずっと上がりっぱなしでやがりますよ』)
「おまたせ。シュートさんの方も準備出来てるってさ。だからお昼過ぎには出発しよう」
「あの、10日間も職場から離れるのにそんなすぐで大丈夫ですか?」
「そのくらいなら前もって準備していれば問題はないさ。昨日マルケンから聞いていたしね。そもそも1人に頼った組織は脆いものさ。2人くらい誰かが急にいなくなっても回るようにするのが上の努めでもある」
(おお。リスクマネジメントがしっかりしてる。って俺は社会に出たことない若造だけど)
『若造(総合年齢30歳)でやがりますね』
(それは言わないで……。10歳までは記憶がなかったからノーカンノーカン)
「で?この大量の枝は何?」
マルケンの疑問に答えるとため息をつかれた。ベルズやシュートから突拍子もないことを思いつくと聞いていたので、驚くのにはもう疲れたと投げやりな反応だ。
シュートはただただ感心している。今回の屋台はあくまでも喧伝目的で、普段は店で料理を出している者にとっては流用しても旨味がないからだ。
「これの太さを変えると焼き鳥って料理なんかにも」
「は・や・く・い・え!」
ランダウの肩を掴み、ガクガクと揺らしてどうにかして聞き出そうとするシュート。
事前に言ってほしいのはマルケンも同じだ。
何しろ売れるかもしれないのを逃してしまったのだから。
どうにか落ち着かせて調理法を聞くと難しくはない。
「2ついいかい?」
「はい」
「まずは塩じゃなきゃ駄目なのかだ。何年も前に、ちょっとした内紛があって、海の幸や塩が他の街からに頼ってしまって少し高価なのだ。漁を得意とする海エルフが周辺にいなくなったのも辛い」
関浩二時代は友人に素材族とからかわれる程に塩味が好きであった。
「それは全然大丈夫です。他の肉料理と同じでソースでも美味しいですし、味付け次第ではパンや米にも合いますよ」
(海エルフ?!何それ?エルフって森じゃないの?山とか川もいるのかな?)
「米はこの辺ではあまり見ないな。そして2つ目。なぜ豚の肉を使うのに焼き鳥という名前なんだい?」
ランダウ。いや、関浩二は北海道出身であった。
「あのー、そのー。それはインパクトですよ。焼いた鳥の肉って銘打っといて豚の肉とかなんじゃそりゃ!ってなりますよね?だからそのー、勿論鶏肉でもいいんですけどー、基本は豚ですね」
(室蘭に養豚場が一杯あったとか、串焼き全般が焼き鳥になったとかは言えないし)
「その説明の割にしどろもどろだね?」
「まあそんなことはいいさ。肉や調味料を用意すれば作れるのかが大事だ。どうかなランダウ君?」
(木炭はこっちにも普通に売ってた筈だし、マジカルファームに安価でいくらでもあるし、店が休みでも簡単に作れる、BBQセットや鉄の網なら素材を取り出して俺とバーバラでどうにか出来るだろ)
「多分いけます」
「それじゃあ追加の豚肉や調味料の買い出しをして、荷物をチェックしたら出発しよう。と、済まないがランダウ君。塩についてはこの依頼中は口に出さないでもらいたい」
「わかりました」




