相互作用
「なんで犬型モンスターを倒したら勝手に消えるのはいいとして、それどころかたまに肉や牙がその場に落ちるの?!」
「深く考えたら負けなのよ〜」
(タエコ!これってなんで?あまりにもゲーム過ぎない?)
(1つの世界に完全なる同一は許されておりやがりません。クローンだろうと一卵性の双子でも多少の差異は出やがのは知ってやがりますか?)
異世界から物を引っ張るだけならまだしも、存在している異世界と似た世界のゲームを顕現させたまま物質を引っ張ることにより、同一世界に同じ物が2つあるというバグがのような物が発生し、変質してしまっている。
研がなくても切れ味の落ちないシルバーナイフなんかもその原理である。
そのせいでゲーム的システムが残ったまま顕現しているのだ。
『まあ、世界のバランスや、マスターの理性によって世界を直接破壊せしめる変質はしやがりませんので安心しやがってください』
(うーん。半永久的に壊れない物ってだけでバランスがなぁ)
ただ壊れない限り現状維持をしているだけで折れたら直らないのだが、そのことはランダウは知らない。
そんなことを話しながらも魔物を召喚しては倒し続けるとさらなる驚きが待っていた。
「これって魔石やスライムの核を壊した時のような……」
「僕的にはあれよりも明らかに強くなってる実感があるかな!」
そう、レベルアップである。この世界ロウフリアではモンスターとは危険生物のこと。
対してマジカルファームで魔物とは魔界生物のことである。
魔物を倒すことにより、異界の力を取り込み戦う力が増幅される設定であった。
戦闘にもスキルレベルはあるが、武器を振るったり、魔法を使うのに必要なスタミナ消費が減るだけで、他のステータスは上がらない。
ちなみに1では畑に魔物が出現する場合、畑泥棒や害獣を足して2で割ったような存在でもあり、ダンジョンで襲って来るのと同一とは思えない物であった。
「そんなことより急に疲れてきたのよ〜」
「確かに、下手したら修行の時より疲労感がヤバいかも……」
『マジカルファームの力を取り込んでレベルアップという恩恵の代わりに、スタミナ消費というデメリットが増えたっぽいでやがります』
世の中良いこと尽くしとはいかない。マジカルファームの能力を得る代わりに、ゲーム内でスタミナ消費する行動が反映され普段よりも疲れやすくなる。
反復することによってスタミナも増えるし、消費も減るので長い目で見たらメリットであることには変わらない。
「取り敢えずジュースでも飲んで一息つこっか」
そう言って手渡したのは以前よりも回復力に補正を振ったフルーツジュースだ。
飲み切るとすぐに疲労感はとれ、上がった能力について話し合ってる。
「僕的には感覚とスピードが上がった気がするかな。あとはちょっとだけ魔力と魔力量も」
「私は魔力と魔力量しか上がってない気がするのよ〜」
「私なんて力がついたかなってくらいよ……」
「得意分野が上がったってことで良いんじゃないかな?」
そういうランダウは平均的と言えば聞こえは良いが、魔力量以外は微々たるものしか強くなっていない。
魔力そのものに至ってはほぼ横ばいで出力の強化はないのだ。
自分の武器を伸ばせるだけ3人はまだマシと言えるだろう。
こうして会話をした後はランダウが召喚した魔物を倒しながら再び実家へと歩き始めた。
経験値は4分割されているので、次へのレベルアップまでは思ったよりは時間がかかるのであった。
「あそこにいるのは義兄さんなのよ〜」
「そうね、でもなんだか家が物々しくなってない?」
「僕の記憶では塀とも言える柵なんてなかったかな」
ランダウの背中には冷たい汗が流れ始めた。
あれはきっと種のせいであることが直感で分かってしまったのだろう。
(あれって絶対周りから見られないようにするためだよね?ご近所さんからもそこそこ離れてるけどさ)
(大した土壌の手入れもせず、種を撒いたら水やるだけで5日で収穫出来る小麦、12日で収穫オリーブに、15日で生るわ、シーズンが終わるまで間引く必要もなく定期的に収穫出来るトウモロコシ辺りがこの世界で普通とか吐かすのなら違いやがる可能性が微レ存でやがります)
つまりはそういうことである。家族の生活を楽にするための行動は確実に善意であるし、一度軌道に乗れば収入が増えた上で楽にはなるだろう。
けれど少なくともランダウが修行していた間は、否。
成長が早すぎると家族が気が付いてから数日前までは怒涛の日々であったことは間違いがない。
何しろ、異常事態とも言えるこの様子を秘匿するために一所懸命だったからだ。
勿論トウモロコシ以外はもう一度植えなければ良かったのだが、そこは農家としてやらない訳にはいかなかった。
そして建築ギルドに頼って塀を作るわけにもいかず、材料を買ってきて手作りしたのだ。
そのお金は小麦等を売ったお金で賄えたどころか、少し余ったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
「ダウ!帰って来るのが遅いよ!!」
「やっと帰って来たか!」
リャーギンが4人を見つけて声を上げると他の家族も家からぞろぞろと出てきてくる。
その顔は決してランダウを心配している顔ではない。
やっと来たかと安心と抗議の表情をしていた。
「色々と聞きたいことはあるけどまずは家に入れ」
「あらあら、ダウったら随分と仲良くなったのね。そんな露出の多い格好までさせちゃって」
両親に促されリビングへと入り、溜まりに溜まった質問を家族はランダウへとぶつけた。
その中で彼女達との関係を聞き続けるフェイだけはにこやかであった。
「上手く説明は出来ないけど、条件を満たすと俺だけが使える魔法みたいなものなんだ。料理とかもなんかインスピレーションが湧いてくる感じ」
「ダウがそう言うなら信じるが、どれだけ凄いことかは理解してるんだな?」
「うん。他人の前では軽々しく使わないよ」
「けどダウは頭悪くないのに抜けてるからなぁ」
兄ビーグの素直な感想に、ああ。わかる。といった反応をする者達。
家族だけでなくミスリルの誓いも同じ反応をしているので、空気を変えるためにランダウは少し話題を変えた。
「えっとさ、折角小麦を栽培出来るようにもなったしさ。安く小麦粉が手に入らないかな?」
「流石に自家製粉は出来ないから、そこまで安くとはいかないわよ」
「ギルド職員に頼めば、値崩れを避けるために廃棄してた野菜と交換は出来るかもしれないが何に使うんだ?」
またヤバいものでも出すのかという視線を受けつつも、笑顔で答えた。
鰹節等有ることに越したことはないが、それは多少の調味料がなくても美味しくでき、様々な
調理法がある一大ジャンル。
「粉もの料理を作りたくってさ。お好み焼きやうどん。そしてたこパしたいし、粉ものじゃないけど餃子なんかもいいな〜」
何もコイツ分かってないな。そんな視線に気が付くことなく料理の説明をし始める。
その為にも鍛治ギルドに頼んで、たこ焼き用と他の料理用の鉄板を作ってもらいたい事を楽しげに話した所でドミトリがため息をついた。
「はぁ。何も分かっていないようだから頼んだよ」
「任せてください!」
「もしかしたらダウの知識は4次元かなにかに通じてるかもなのよ〜」
「僕的にはちょっとバーバラの方が何言ってるかわからないかな?」
突然放たれた一言は、ほぼ正解であろう真実をあっさりと言い当てた。
頭に疑問符が浮かび、説明を待っている皆に対してランダウは頭が真っ白になっている。
「前に教えて貰った魔空庫の説明で、私達が住んでる世界とは別の世界をイメージしたり、最近は色んなこと教えてもらってるのよ〜」
「ってことは、ダウは4次元の人なの?」
「じゃなくって、何かしらの方法で4次元か何かにアクセス出来るって考えた方がいいのよ〜。私の魔法で何か気づかないのよ?」
本人を置いてけぼりにした話は続いていく。ランダウに教えて貰った知識を応用すると、魔力の扱いと魔法の威力が上がったことを得意気に話している。
事実ふんわりとしたイメージで行使するよりも、魔力だけではなく、過程や結果、そして影響を考えて行うと魔法の威力は上がる。
現代知識を持ってして普通判定のDランクの魔力であるランダウの魔法は、使用する際にはDプラス位の威力はある。
『しっかりしやがってくださいマスター!折角だから全部4次元のせいにしやがるんですよ』
(そ、そうだな。じゃあ魔空庫使える3人はなんにもないのはってなんない?)
『知らねーですよそんなこと。なんか適当にでっち上げやがってください』
「卵が先か鶏が先かって話になるんだけど、確かに魔空庫を使うようになってからかな、不思議な感じがあったのは」
「じゃあ僕もそのうちダウみたいに頭が良くなるのかな?」
「私達はダウの4次元を借りてるって感じじゃない?」
「私もドロシーに賛成なのよ〜。あとその卵の話を聞かせて欲しいのよ?」
疑問をある程度解消出来たところでビーグがリャーギンに話しかけた。
「なんか弟が遠くに行ってしまった気がするね兄さん」
「もう立派に自立してるんだろ。それよりもタコとカツオなんて海の生き物いたっけ父さん?」
「聞いたことはないが、ダウが言ってる足がいっぱいある気持ち悪い魚の話は聞いたことあるな。もう港街とは言えない廃棄された街の話だが」
「ああ、1つは人が消えてなくなる街だっけ?」
「それともう1つあったのは、ケスオトラの皇太子殿下に反乱した街の人々との紛争でボロボロになったのよね」
国が港町を棄てなければいけない程の反乱とはなんだろうか。もしかしたら自分ならアイテム召喚でどうにか出来るかもとまで考えて、本来の目的を思い出した。
「それはそうとさ、すっごい便利な物用意してきたんだよ」
全てを4次元のせいに出来ると吹っ切れたランダウはお腹辺りに手をやり何かを弄る仕草をしながら2つのアイテムを取り出した。
「テケテテン。醸しダルとオイラ~」




