ほったらかし
修行を開始して25日が過ぎる。
毎日周りに人がいない場所を探してはモンスターを見つけて倒すの繰り返し。
危なげなくここらへんの相手なら複数相手でも倒せるようになり、4人の魔力も上がらなくなった。
「そろそろ私達の連携も別のモンスター相手で修行する必要あるのよ」
「だね。同じ相手ばかりだとパターン化しちゃうしメリハリつけないと」
「僕的にはそろそろ依頼とか受けたいかな」
「ここで色んなモンスターと戦えればいいんだけどなぁ」
ランダウがそう言うのも仕方がない。他のパーティーとバッティングして争ったり、あからさまにランダウじゃなく俺らとパーティー組もうぜと言ってくる奴等を避けるためでもあった。
そしてランダウは違うことも考えていた。最近ゲームの力に頼らないようにするためプレイ時間を短くしたり、修行後にバーバラへの勉強も見ていて、疲れて出来なかったりしてるので思いっきりゲームしたいなぁ、と。
それと3人にお礼がしたい。こんなに一所懸命教えてくれて嫌な顔1つせずに自分に対して時間を割いてくれたことに。
「修行のお礼をしたいんだけど」
「気にしなくていいのよ〜。私達の将来(家族設計)が関係してるんだから当たり前なのよ〜♪」
「あっ!僕的にはデートってしてみたいかな!実は憧れて」
「「抜け駆けはズルい」なのよ!」
(そろそろ俺も腹をくくろう。誰か1人でも他に好きな男が出来たら嫌だって思うくらいには好きになってる……)
「うん、しよっかデート。3人とも好きなんて言ったらダメ男かもしんないけど、俺皆のこと好きだから」
「やっとハッキリ言ってくれたわね」
「匂わすだけでハラハラしてたのよ」
「この年で3人娶る宣言は凄い甲斐性かな♪」
(あれ?意外と好感触?母さんとか独占欲強いし、貴族以外は一夫一婦が普通だよな……)
それぞれが浮足立った状態で宿に戻り部屋へと入る。
既に駆け出し亭ではなく、森の恵み亭という旅行者等も泊まる普通の宿屋だ。
ベッドに腰掛け明日のことに想いを馳せるランダウ。
(デートか。前世含めて経験がないんだよな……。プレゼント用意しないと。そうだ!ゲームのプレゼント用アイテムをっと、だめだ。もし変な力が働いて俺への好感度が上がったりしたら洗脳じゃないか)
折角開いたしゲームをしながら考えよう。
でも何故か画面は暗いままである。動けと念じても、久しぶりにコントローラーを出しても動かない。
とうとう力が使えなくなる日が来たかとがっくりと肩を落とした。
『そんなわけありやがりません』
「うわ!」
目の前に浮かぶ文字に驚き声をあげベッドに倒れ込む。
動かしていないのに勝手に文字は進んでいく。
『マスターの能力に洗脳なんて出来やがりません』
『物心ついて私を起動するまで5年もかけといて、最近は適当にプレイするわ女優先するわ疲れて寝こけるわ良いご身分でございやがりますね』
「なになに?超怖いんですけど!?」
ゲームに暴言吐かれるわ、身に覚えの無いことまで責められパニックになる。
どうやら動画を見せてくれるらしいのだが、かなり深いため息をつかれた。文字で。
画面には前世関浩二と、髭を蓄えたナイスミドルな男性とウインドウが見える。
「つまり俺は死んだんですか?」
「ああ。君は地球でいうマジカルファームの世界線に強い共鳴力があり、その暴走によって次元の狭間に引き裂かれて死んだ」
「そう……ですか」
『まるで牛裂きの刑みたいでやがりましたね』
「……」
「しかもその力を持ったまま次の人生も決まっている。このままではいつかマジカルファームの物が君を通じて無制限に世界に顕現してしまう。なので制限と制御の為の補助を付けさせて貰うよ」
「ありがとうございますですかね?」
「コチラの都合で制限を付けさせてもらうんだ。何かを言うなら私の方だ」
そしてこのナイスミドルは神で、ウインドウは人工知能(神工知能?)のような物だと説明された。世界を見て回って、能力と共に人工知能も一緒に成長させて欲しいと神に頼まれる。
その他、赤ちゃんで大学生の知識があるのは不便だろうと、成長したら前世の記憶が蘇ることや、マジカルファームの事を考えればいつでも出来る説明をされている動画を見続けた。
記憶が戻らなくてもマジカルファームの事を喋る位には好きだとか言っている場面を見て、暴言吐かれても仕方ないなと頬を指で掻くランダウ。
『ちなみにこの動画で起きてる事は思い出すことはねえですから』
あくまでも記憶があるのは前世であり、その間のことは失われた。次元に裂かれた痛みを忘れる為の配慮でもあるそうだ。
他にも分からない事があるのでランダウはどんどん質問をしていく。
マジカルファームの世界線とは何かを聞くと長々と説明され、ランダウの頭では処理出来ずに概要だけ教えてもらった。
その際に言われたのが、『人の頭で考えられる程度の事は宇宙かどっかの世界の片隅に存在しやがります。存続してるかは別ですが』とのことだ。
「でもこうやって物を出すのって良くない力じゃないの?」
『キチンと制御出来てれば問題ありやがりません。その為のゲームでもありやがりますが、それは神達がマスターの力に気付くのが遅れた謝罪だそうで自由に使いやがってください』
「神様から貰ったチートか。宜しくね、えーと……、名前は」
『そんなものありやしませんよ。付けてーならご髄にどうぞでやがります。それとマスターの世界では、初めから持ってる力に制限を付ける事をチート〈ズル〉と呼びやがりますか?』
(いや言わないけどさ、僕のせいで自由を奪われたようなもんだし、折角この世界を旅するんだから名前くらい付けたいな。妙ちくりんな話し方や、アルターエゴから取って、でも妙子は異世界っぽくないし)
画面が点滅してWarningの文字の演出がされ思考が1度止まる。
何事かと身構え凝視すると新たな文字が出た。
『アリーのこと好きと言いつつ現実に女囲って尚かつ私をいきなり女設定しやがるクソダサネーミングセンスのハーレムマスター様は他に素敵な名前を考えてやがりますか?』
「えっと……」
『別に私はそれで諦めてやがるので代替案を用意しやがらなくてもいいですから早くタエコとでも呼びやがれ下さい』
「タエコ。宜しくね」
『能力を使いこなす為にもしっかりゲームしやがって下さいマスター』
こうして事務的なメッセージ以外で初めて会話をした2人は明日のデートプランについて意見を言いながらゲームを楽しんだ。
タエコは直接ゲームには介入はしなくとも、自分だけでプレイするよりもやり甲斐もあり、のびのびと遊べた。
「あのさ、なんで早く話してくれなかったの?」
『ママの次に話す言葉はマジカルファーム4だよ。異世界でゲームなんかやったら寝食忘れてやっちゃうかも!とか言って期待させるだけさせやがって、記憶が戻るまでマジカルのまの字も言わず、いざ出来るとなったら次男にどやされるからって昼食優先しやがったのはどこのマスターだったか教えて貰っても宜しいですか?』
「ほったらかしてごめん……」
『まぁでもマスターの意識出来ねー速さで、魔核を壊せと文字を見せたり、夢の中でも文字を読ませてやがりましたよ』
「あれ?サブリミナルと睡眠学習って効果ないはずじゃ」
『うっせーでやがります!』
一方冒険者ギルドに貼られてほったらかしになっている依頼があった。
その依頼表の前には料理ギルドの2人と総合ギルドの受付嬢と商業ギルド1人とその場には似つかわしくない人達が立っている。
そして揉めていた。
「ふう。自信満々の策のように言ってた割に全然じゃないか」
「借金持ちに絡まれるのを嫌がって宿屋を変えちゃったしなぁ。あのニリンソウも手に入んなくなるし。毒草との見分け方を教えて貰っても取りに行く暇がないよ。他の子達に教えるのも怖いし」
「ニリンソウついては私がどうにかしよう」
「7級試験には私の元へ来ると思うけどいつになるんだか……」
「聞くところによるとシュートさんがお金をあげすぎたのでは?それで生活に余裕がね」
「正当な報酬だから仕方がない。過ぎたことだ」
周りは誰のことを言ってるかは気が付いている。
余所のギルド関係者が入り浸るのはよっぽどのことなのだ。
つまりあの少年は女以外でもいい思いするなんて!という一致団結した冒険者の連携により、朝一に換金へ来ることを黙っていた。
そして4人はこれから3日間はデートの予定があるのだが、それは意外と早く終わることとなる。




