想いの交錯
女子3人は面を食らった。何しろ彼の強さは知っているし、索敵能力やサバイバルの知識は十分以上にある。
まして自分達は借金を返すのもままならないのを助けて貰ったのだ。
そんな彼に上から何かをするなんて。そう考えた。
「俺には皆が持ってる強さが足りないんだ。このままじゃ(仲間として)俺は3人に釣り合わない!!だから胸を張って(仲間として)一緒にいれるようになりたい!!」
付き合いは長くないとはいえ、こんなにも必死なお願いを無視するのは悪い気がする。
それに気になることも出来た。それを確認してからでもいいんじゃないだろうかと3人は目配せしあった。
「それって私達との将来(結婚)を考えてってことでいいの?」
「勿論そのつもりだ!軽い気持ちで言ってないよ!」
「そうよね、重たい話よね」
ドロシーはそれで納得した。というか自分達の行動でとうとう彼女として認めてくれたと喜んだ。
それは他の2人もだ。ただそれを自分にも言ってほしくて問答は続く。
「その話(結婚)ってもう少し先(結婚出来る年齢になってから)じゃだめなのよ?」
「そうやってこれ(修行)を後回しにして、もしものことが(誰かが風邪とか引いて治るまで自分が足手まといになったりしたら)君達を大変な目に合わせたら俺は自分を許せない!」
「もしもの時(妊娠で動けない)とかそこまで考えてるとか気が早いのよ〜」
色々と聞きたいこともあったけど想像以上の答えが返ってきたので満足したバーバラ。
次はロザリンドが前に出る。
「その、僕的には2人と違ってスタイルとか悪いし、結構打算的なところもあるかな」
「そんなことないよ!(弓で後方支援する)スタイルはそれはそれで素晴らしいと思ってるし、2人と変わらず真っ直ぐで眩しいよ!」
「そこまで言われたら僕も応えるしかないかな!」
こうして2つの意味でしっかりと口説き落としたランダウは冒険者7級から入れる場所で修行することとなった。
戦い方や自分達の知ってることは教えるけど、それ以外では普段通りに接して欲しいとの約束をして再び歩き始めた。
「私達7級だし弟子制度はまだだもんねー」
「それ出来る時にはダウは7級上がってるのよ」
「僕的には足りないとこを補い合えばいいかな!」
「弟子制度って?」
小冊子にも書かれていなかった言葉に疑問を挟む。
5級ランク以上の人が青田買いをして色々と教えこむ代わりに、その道へと進むように約束する制度だ。
シュートがランダウに対してやろうとしたことでもある。
実際に富裕層の子供らパーティーはお抱えの者を使い弟子入りさせて初心者卒業もしている。
「ダウのおかげだけど、私達ってラムドの冒険者で、弟子入りとお金持ちの子供以外で、初めて7級まで上がったパーティーなんだ♪」
「皆の努力あってこそでしょ」
「人のことを言えないけど、総合ギルドにずっといるのは先輩達に才能無しと言われてるようなものなのよ〜……」
「僕的には最年長でありながらずっと燻ってるヒデ達が悲惨かな?」
「これでギルドポイントの分前は減るけど、私達と仕事するから総合ギルドに行くのは卒業試験だけだよ」
流石に7級3人にと10級1人は寄生してるとしか思われないのでそこは理解してる。
邪魔されず仕事出来るだけで十分だ。
そこまで考えたランダウは自分にある感情に戸惑っている。
(3人とも良い子達だよな。最初は年下過ぎると思ってたけどしっかりしてるし、俺のこと考えて色んなことしてくれてる。スモールウルフのスープあげただけなのに好意を持たれるのは不思議だけど、どこが好きなんてナルシスト丸出しなことは聞きたくないな……)
「着いたのよ〜」
「7級の常駐依頼を見よっか。危険な場所に行く場合は届け出を出すのが決まりなんだよ。そして総合ギルド組は借金を返すまで命の危険が高くなるから他の街にも行けなくなるの」
「届け出を出すのは戻ってこない時に家族とかが捜索救助を頼むためってことかな」
「なるほどね」
ガラの悪い先輩達に絡まれるのを予想したランダウだったけど、意外と温かい声をかけられたり、年下だからって守られんなよと肩をバシバシと叩かれた。
優しそうな人ばかりで安心したような、肩透かしを食らったような……。
なんて考えてるのが甘いことをランダウはその場で思い知った。
(この目は女の前だからって見栄を張ったりする男のアレだ。そして視線は特にバーバラの胸に行ってる。確かに子供らしかぬ破壊力だけど13歳だぞ!って中学生位の皆に惹かれてる俺も人のことを言えないか……)
「ねえ、早速行こっか」
ランダウからしたら別に自分の彼女って訳でもない。けれどなんか胸がムカムカしてこの場から足早に立ち去ろうとする。
手が2つしかないので手を掴んで引っ張る訳にはいかなかった。だから3人を纏めて押すように出口へと促す。
幼いながらも女でもある3人は自分達に向けられたねっとりとした視線に当然気がついている。
(ダウが早速独占欲爆発してるのよ〜♪)
(私めっちゃ大事にされてる!!)
(まさか僕が演劇とかでよくある、俺の女に手を出すな!をしてくれる男の子が現れるなんてこれは夢かな♪)
見せつけやがって……。と、微笑ましい両方の感情を向けられながら冒険者ギルドを後にした。
そして7級以上から入ることが出来て、他の街にも繋がっているトルーフ街道へとやってきた。
周りを見ると今までとは違って大人の冒険者ばかりで少し圧倒される。
バーバラの提案で、核を壊すのを他人に見られたくないので、探す効率より見つからなさ重視でとなった。
単眼鏡では個人を探す場合は知り合ってないと駄目だが、人って括りなら認識出来るので穴場を探すのは意外とスムーズに行える。
そして今自分に足りないのはテクニックだと思い、DEXが上がる物はあえて身に着けず修行に挑んだ。
「ほらよく見るのよ!どんなモンスターでも魔法含めては予備動作なく動くのなんていないのよ!魔法は魔力の流れを感じるのよ〜」
「ダメダメ!オークみたいな力自慢はちょっとだけでも当たればヤバいんだから気を付けて!」
「そろそろガッときそうかな!だからグワァーってやって反撃かな!」
ロザリンド以外のアドバイスは分かりやすく、どれだけ今までがなんとなく戦って来たのかを思い知らされた。
ここらへんで出現するグリーンスライムはその個体によって魔法の属性がそれぞれ違い、弱点以外だと効果が薄く、動きも素早くかなり強い。
その分核から吸収出来る魔力も多いのだが、ランダウは皆の限界がきてからと自分の分は後回しにした。
「オークやコボルトなんかの、動物と人間の複合型でも動物の特性なんかそのままのことが多いわ!」
「そこに狡猾さをもって魔法なんかも使ってくるからしっかりと見極めるのよ〜」
「僕的にはいつも目を凝らせばなんとなく弱点が見えてくるのをヒュッと射ってるかな!」
一方その頃シュートが経営兼料理長をしている店では楽しそうな会話が繰り広げられていた。
ちなみに高級レストランではなく、大衆食堂のような店である。
話しているメンバーは、隣町ルンシバへ行商を終え、そしてまた仕入れて戻ってきたマルケンと、総合ギルドの受付嬢エアトンとベルズの3人だ。
「ねっ?私の睨んだ通りでしょ♪あの子は将来大物になると思ったんだ。あの可愛い顔立ちとペコっと頭を下げた仕草にお姉さんキュンキュンしちゃった!」
「それはただエアトンさんの好みの問題なんじゃ……」
「やっぱり冒険者の道に進んだね、料理だけじゃなく商売の才能あるのにね。この唐揚げもあの子の発明品と聞いたんだけど」
「ランダウ君には複数のギルドを股にかける男になってもらえばいいんですよ。その方法も考えてあります」
「昔のお前みたいにな、ベルズ。料理人の道に戻ってきたからいいものを、いきなり冒険者になったのは当時驚いたぞ。可愛い弟子に裏切られたと思ったもんさ」
テーブルに頼んでいない料理が置かれ、話に加わる男性が1人増えた。
文句のような言葉と裏腹に顔は柔和な表情をしている。
当たり前のように席につき、料理を一口食べフォークの先をベルズへと向けた。
「確かに自分で倒した魔物を自分で調理しようなんて昔のお前みたいだ」
「シュートさん、今日はこのリールでって言うのに中々来ないから待ちくたびれましたよぉ。この唐揚げ絶品ですね」
「それはフローレンスに作らせた物だ。なかなかだろう?で、その方法とやらは料理ギルドも入ってるんだろ?」
「指名依頼ですよ」
「ランダウ君を私から取った女の子達は7級で、そもそも本人はまだ10級ですよ?だから指名依頼はどの道出来ないんじゃ」
「いつからあの子はエアトンさんの物になったの?確かに冒険者の指名依頼は5級からだっけ?」
「今は6級からです。例えば、女性3人と男性1人必要で、料理の腕もある程度必須なラムドへの護衛で、向こうで店の手伝いもしてもらう雑用を、的なのを7級設定で冒険者ギルドへと頼むのはほとんど指名依頼みたいなものじゃないですか?」
ランダウ達にだけ当てはまる条件を連ねて、料理ギルドと商業ギルド両方のランクを簡単に上げるように手筈を整える算段をし始める。
大体の冒険者は店の手伝いとかを下に見ているが、報酬が良ければ他のパーティーが協力して受けてしまう。
悪すぎるとランダウ達も受けないかもしれない。
そのさじ加減で頭を悩ませている。
「こういうのはどうだろうか、護衛の金額も相場より少なめにした上で、店の手伝いで売上によって報酬の上乗せだ」
「あの子は聡いですからね。ランクポイントと報酬を分かりづらく書いておけば本当は実入りのいい依頼だと理解できるはず」
こうしてランダウを弟子にしようとそれぞれの企みが動き始めた。




