水浴び
テンプレを出涸らして更に稀釈したような物で良ければ閲覧して下さい。
タイトル似た保険会社さんとは一切関わりもありませんし、登場することはありません。
1人の少年が暑い日差しの中、野菜を収穫と選別をしながら荷台へと運ぶ作業。
ちょっと疲れたな。そう呟いて袖で汗を拭いながらも太陽を睨むランダウ。
(これじゃ熱射病に……、ってなんだろうその名前?)
ランダウの脳内に知らない言葉が出て来て仕事の手が止まった。
けれど3日後は自分の誕生日である。貴族や家計に余裕がある家以外は、5年に1度盛大に祝うのが慣例である。
それ以外の誕生日はおめでとうの言葉だけ。
ここでサボって10歳の誕生日がショボくなるのは嫌なのでさっきの思いつきは無視して黙々と働いている。
「わっ!」
突如後ろから兄の声と共に頭から冷たい水がかけられ振り向こうとしたら頭痛に襲われる。
そして反射的に目を閉じたら、急に浮かんできたのは見たことない町並みに変な服装。意味の分からない鉄の塊。
(いや、俺はこの風景を知ってるぞ。札幌のアルシュビルが見える)
「今日この後飯食いに行かね?」
「わりぃ。今日カテキョのバイトあるわ」
「浩二は?」
「マジカルファーム4の発売したから買ってソッコー直帰して徹夜する」
「今どき現物派かよ。ってあれ面白いかぁ?」
「農場恋愛アトリエ経営シミュレーションハンタークラフトアクションRPGという唯一無二のジャンルを切り開いたパイオニアかつ最高峰のゲームだろ!」
「いや、どれも要素が中途半端だし完クリまで糞長えし、実績とか微妙なの多いしやり込み要素多過ぎじゃん?」
「オッパイマニアより太ももマニアの浩二らしくねえな」
「うっさいエセ関西人!だからダラダラと遊べるから良いんだよ!コスパ最強よ」
「に、に、に、2歳までは大阪にいたっちゅーねん」
「それって関西人に入るのか?たこ焼き作んの俺や浩二より下手っちぃしな」
「それにしてもお前って結構抜けてる割にやり込みゲーム好きだよな。自称エンジョイ勢」
「エンジョイ勢とやり込み勢は共存出来るんだよ。まあ確かに取り返しがつかないゲームは苦手だし。てかそれだとガチ勢がエンジョイしてないみたいだろ」
時間にして一瞬であったフラッシュバックから覚めたランダウは未だに事態を飲み込めずにいた。
(今のは俺と友達?日本?いや、この長閑な風景、この国はフィーネで、住んでる街はラムドで間違いない。10日で1週間、3週の30日で1ヶ月。そして12ヶ月の1年360日で、暖かめの気候だけど緩やかな四季もあるし、単位はSI規格。でも今の記憶は明らかに日本……。というかここは考えても地球とは違う。もしかして異世界転生?憑依した?)
5秒にも満たない時間で、日本で過ごした20年間分記憶と、ランダウとしての10年間が一気に蘇った。
そして10歳とは思えない事をたまに言う、年の離れた末っ子が頑張って働いてるのを労りながらも、からかうつもりで悪戯したのに反応がなく不安になる長兄リャーギン。
12歳も離れてると、弟よりは息子のような気さえしてくる。彼女募集中の身だけど。
リャーギンはもしかして怒ってるのでは?と不安になるのを頭を振り追い払った。
2つ下の、リャーギン的には可愛く無い方の弟ビーグと違って、ランダウは自分に懐いている。昨日だって何年か前に弟が急に思いついた5連並べという名のゲームを楽しく遊んでいたではないかと思い心を決める。
一応謝るか。そう決心した。何しろ、兄さんなんて嫌い!とか言われたら泣く自信が彼にはある。
リャーギンは口を開こうとしたが、ようやく振り向き呆けた顔をした弟に過ごし戸惑う。
「リャーギン兄さん?」
「そうだ。ダウの大好きなリャーギン兄さんだぞ?」
自分でも疑問系となってしまったが弟が怒ってる様子はなくほっと胸を撫で下ろした。
例年より暑く、仕事も一区切り付いたから汗を流して昼にしようと父からの伝言を伝える。
「うん!それじゃあ川で水浴びしてくるね」
ランダウは平静を装いながらも戸惑っていた。
自分はランダウなのか、それとも関浩二なのかということに。
それを悟られない為にも近くの川まで走っていった。
ちなみにリャーギンがかけた水は井戸水で汲んだものであり、5年ほど前から急に技術が発達し、ポンプ式の井戸が主流となっている。
それを使えば汗を流せるが、少しでも考える時間が欲しかったのだ。
(記憶が正しく大学生だとしたら兄さんは2つ上になるのか。けどランダウのも含めたら30歳だから年下?いや、でも。マジカルファーム4やりたかったなぁ)
水浴びしながら纏まらない考えをしていたら目の前に液晶ディスプレイのような物が出てきてタイトルロゴが出た後はアニメーションが流れる。
ランダウは戸惑いながらも胸が踊った。
まさしくこれはPVで見たマジカルファーム4のオープニング映像。
もしかして記憶は無いが、転生時にでも神様から貰ったチートなのだろうか?
でもコントローラーがないと出来ないし。
そこまで考えたら掌の中にはコントローラーが握られていた。
(マジですか!今すぐにでもやりたいけどご飯に遅れたらビーグ兄さんに嫌味を言われるかも。仕方ない、夜にでもやるか)
『……』
魔法で風を起こして水を飛ばし服を着て、そして急いで家に帰りリビングへと向かうと家族は既に揃っていて自分が最後であった。
「遅いぞダウ!腹が減って仕方がないんだ!」
「あら、ビーグったら。貴方もさっき来たばかりじゃない」
「よし、それじゃあ食べるか」
憎まれ口を叩いたのを諌める母フェイに、バツの悪そうな顔をする次男のビーグ。
その後は家族仲良く談笑しながら食べながらもランダウは困っていた。
それは食事が不味いことである。
否。決して不味くはない。ただ物足りないのだ。
日本での食事を思い出すとこちらの料理は質素としか言いようがない。
目の前のサラダにはマヨネーズもドレッシングもなく、ミネストローネと言えば聞こえはいいが、トマト本来の味が活きすぎたスープなのだから。
そして小麦粉を焼いただけのような固いパンは顎が疲れてしまう。ただ、この身体は日本人と違って唾液が沢山出るのか、食べること自体にはさほど苦労はない。
「3日後はとうとう10歳だな。高価な物は無理だが欲しいものはあるか?」
地球と違って色んなことが出来る魔法がある世界とは言え、こちらは野生動物の他にモンスターもいる。そして科学知識や医療はかなり未発達だ。
魔法があるせいでと言い換えても良いかもしれない。
必要は発明の母というが、自己責任の意味合いが日本よりもかなり高く、食料事情も困窮まではいかなくとも飢えた人達はかなり多い。
だからこそ大事な飯の種になる技術や知識が広まりにくく、各地で同じ困り事や失敗を繰り返しては進歩が遅くなる。
そんなロウフリアでは大人もだが、子供の死亡率が凄く高いので10歳になってから国から発行される身分証明書と共に贈り物をする。そういう規則だ。
「それじゃあ魔力測定してみたいです」
「おいおい、確かに俺や兄さんより魔力は強いみたいだけど、そこまで差がある訳じゃ無いんだぞ?」
どこからともなく現れるモンスター。基本人里近くにはあまり強いのはいない。ここらへんでよく出現するのは最弱といっても過言じゃないブルースライム。
農具でも倒せなくないが、消化液で駄目にするので魔法が一般的だ。
その為ある程度の素質は初めて魔法を使った時点で分かる。
そしてランダウに飛び抜けた魔法の才能はない。
「良いじゃないか。ビーグは厳しすぎるんだよ」
「兄さん達が甘やかすからだよ」
やいのやいの言いながらもビーグは嫌がらせで言っている訳ではない。
隠された魔法の才能が自分にあるかもしれない。という希望から転落して落ち込まないように予め高望みしないように諭してるのだ。
何しろかつての自分もそうだったから。
ビーグは国お抱えの宮廷魔法使いが小さい時の夢だった。
が、現実は残酷で宮廷魔法使いどころか、魔法専門の職業に就くことすら不可能と判断された。
決して裕福ではないが父ドミトリは文字の重要性を知っていて、息子達に文字の読み書きを教え、本を数冊買って読み聞かせていた。
それは教育として良いことではあったが、この1件だけは幼いビーグには仇となったのだ。
「うん。魔力の強さは生まれつきだもんね」
(ゲームで言うと、MPは増やせるけど魔力は固定なんだよな。MPを注ぎ込む程魔法の威力は増やせるけど時間もかかるし最大MPだってどこまで増やせるのか怪しいもんだ。「1垓だと!」とか「かつての英雄ですら測れた水晶が壊れた!?」とかあったりね。うふふ)
前世の記憶も蘇ったし何か秘められた力があるかもという期待も湧き上がりニヤつくランダウ。
ちなみに水浴びを終えてからステータスオープンを試したけど効果はなし。
だからせめて、魔力測定というそれっぽいのを折角だからしたかったのだ。
「ダウもそう言ってるんだしビーグもいいだろ?」
「別に駄目とはいってないけどさ」
父の言葉でこの話は終わり、食べ終わった人から食器を片付ける。
そして午後からの仕事も終わり、待ちに待った自由時間だ。
部屋は兄ビーグと同室なので、マジカルファームが他人から見えるかも分からないから家の外でゲームをすることに。玄関のドアを閉めてすぐ横に座り込んだ。
日が落ち始めて薄暗くなってきているがゲームウインドウはしっかりと発光している。
(そのうちこの光含めて他人からどう見えるか確かめないとなぁ)
ゲームを始める前にモードの設定が始まった。
名前はランダウで固定。キャラメイク固定。お金もこの国の単位ガロで固定。セーブは随時オートセーブ固定でリセット不可固定。オンライン機能は不可固定だけど協力プレイは可能。
(固定ばっかりだな。向こうでもそうなら炎上案件だぞ。オンライン機能は無理なのわかるけど協力プレイってこんな能力持ってるの他にもいるのか?それにお金は今までペニーだったのにどうしたんだろう。キャラが自分にそっくりなのも何故?)
違和感バリバリだが、どうすることも出来ない画面に止まってる程ランダウの期待は薄くない。
サクッと決定して、サウンドはステレオとモノラルとVRasmrがあったのでVRasmrを選択。
始めて自分で選んだもののこれの意味がよく分かっていないランダウ。
次の画面で一際目を引く項目設定があった。
操作方法だ。コントローラー、脳内、脳内+コントローラーの3つである。
(まじか?!脳内で操るとか超未来的じゃん)
意気揚々と脳内+コントローラーを選択すると、画面には『まだ選択出来ません。ストーリーを進めて下さい』の一文。
「なら用意すんな!!」
「ダウったら、危険だから遠くに行っちゃ駄目とは言ったけどそんな所に座ってどうしたの?」
理不尽な仕様に叫んだら母がドアを開け息子の奇行を心配する。
発声練習という謎の言い訳で誤魔化すもゲーム画面が見えていなさそうと判断して部屋へと戻った。
リャーギンは1人部屋を与えられていて、ランダウとビーグの2人だけである。
虚空を見つめて両手を小刻みに動かすのを想像したら変人にしか見えないと判断したランダウは魔法の練習をして疲れたので早めに寝るという建前でベットへと入った。
実際にゲームをしながらも、前世ではインベントリやアイテムボックスと言われるようなのを再現するために魔法の練習はしていた。
(こっちでの知識と日本での知識を併せ持つだけで十分チートだよな)
もしかしたらこの能力はいつか消えるかもしれない。
そうなる前に思いっきりゲームはしたいけど無理をしてでもやるのはポリシーに反する。
そう思いつつゲームを進めるランダウだった。
読んで頂きありがとうございます。
不定期で更新します。
誤字脱字、分かりにくい文章があると思われますので指摘して頂いたら幸いです。