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【第6話】ゴブリン(後編)

「しかし、どうするか……結界ってのは絶対に抜け出せないものなのか?」


 俺はナホに訊く。


「そうね、術者かそれを作り出してる魔道具を壊さないことには無理ね」


 そこまで言ってナホは思い出したように俺の顔を見た。


「そうだわ、そういうことだったのね!」


「何勝手に一人で納得してんだ、説明してくれ」


 俺の呼び掛けにも無視してナホは拳に黒い靄を纏い始めた。


「まあ、見てなさい!」


 そして、地面へ向けて出来うる限りの力を込めてパンチを放つ。

  地面が揺れ、拳を中心として川原の石が砕け散る。そこには大穴が出来ていた。深さは二メートル程でかなりの大きさだ。


「よし、これで後は待つだけね」


 ナホが満足気に言う。


 こうして、しばらく待つとボコッボコッと穴の側面が隆起し始めた。そして、何か生物が穴の側面からてできて穴の底へと落ちる。


「かかったわね」


 ナホは穴の中へ飛び込んだ。

 俺も急いで、穴の縁辺へ近づく。


 中を覗き込むと、ナホが何かの死体を俺へ向けて掲げた。おそらく、ナホが先程穴に落ちた生物を殺したのだろう。


 その生物はゴブリンのようだったが、何か違っていた。頭はナホに潰されていて分からなかったが、手が鉤爪のように変化していて、あれでは満足に道具を持ったり、食べ物を食べることすら難しいのではないだろうか。まるで、あくまで殺戮の為だけの生き物のような……。


「キメラ……旧世代の遺物……見る限り、数百年も前に戦争で使われていた()()よ。私も本でしか見たことなかったけど、まさか実在するとわね。倫理的観点からずっと国際的に使用が禁止されてるって聞いたわ。こんな世界でもそれぐらいの生物倫理観はあるのよ」


 ナホは死体を置いて、穴から出てくると土で丁寧に穴を埋める。


あいつ(あの魔物)には特級の魔道具が埋め込まれてた。周囲から魔力を奪って一定まで達するとその魔力で対魔結界を作るなんていうイカれたやつがね。流石の私も魔力を奪われて対魔結界のダブルコンボで墜落しちゃったってわけよ」


 穴を埋めながらナホの話を聞く。


「まあ、ずっと近くに感じてた魔力反応も消えたし、結界も消えたし、取り敢えずは一件落着よ」


 俺たちは穴の前で手を合わせた後、帰路についた。辺りはすっかり暗くなっている。

 「これなら空を飛んでもバレなさそうね」とナホは笑った。



§§§§§§



 夜の街はいつもと雰囲気が違う。

 

 昼間は確かに圧巻はしたが、云うなればヨーロッパの街並であり、太秦映画村に来た外国人のような感覚だったが、夜の街ともなればそれはそれは幻想的でまさに異世界の街だ。

 中世に街灯はなく、暗いはずの街並みが、大通りの露天に置かれている魔道具によって明るく照らされていた。昼間の露天は撤収してなく、客層が変わるのを見越しているのか、昼間とは違うものを売って残っているのだ。夜だと云うのにかなりの人が出歩いているからか、俺は日本の夏祭りのような印象を受けた。

 金魚すくいや綿あめなんてものがあってもいいなぁ、なんて思う。


 とある露天の前にユーリとおさげの少女が並んで見えた。二人はこちらに気づくとユーリだけが手を振った。


「お二人さーん、デートですかー?」


 ユーリは俺たちに向かって叫ぶ。


 当然、俺たちは無視した。


「ちょっと、待って下さいよ!無視するなんて酷くないですか!?」


 ユーリはついさっき買ったであろう焼き鳥を両手にもったまま、走ってきた。


「ごめんなさい、呼んでたことに気付かなかったものだから……」


 ナホは真顔で言った。


「そうですか、まあいいですよ。用事も別にないですしね。お二人はクエストの帰りですか?」


 「はい」と俺が答える。


「そうですか、それはお疲れ様です。……ローザさんが少し怪我をされてるようですが、そんなに難しいクエストだったんですか?」


 表面上、ナホの怪我は見えないはずなのだが、ユーリは鋭く問う。


 俺が答えようとすると、ナホが割り込んで話した。


「いや、ただコイツを助けてたら崖から落ちただけよ。全く、コイツのポンコツぶりには心底うんざりだわ」


 俺に何も言うなと目線を送る。


「それは災難でしたね。あ、焼き鳥一本いります?」


 焼き鳥を食べながらユーリが言う。勿論、焼き鳥は丁寧にお断りした。


 そこへおさげ髪の少女がトコトコ歩いてきた。彼女は両手に二つずつ焼き鳥を持っている。


「貴女、また会ったわね。ローザさん、だったかしら?」


 まるで興味がなさそうに言う。それに、俺への挨拶はなしだ。


「やっぱりあなたも近衛師団(教会の犬)だったのね。私の血を勝手に取るなんて誰に許可取ってるのかしら?」


 怒り心頭でナホは少女を睨みつける。


「悪かったわね。少し強そうだったから念の為ね。近衛師団の捜査のための血の強制搾取は法典で認められたるはずよ」


()()強そうですって?」


 怒るところそこじゃないだろ!と思いながら二人の争いを見守る。


「ええ、()()よ。試しにやってみる?殺したらごめんなさいね」


 煽る少女。


「あぁ!?やってやろうじゃねえか!!」


 対して沸点の低いナホ。こいつ、黒髪ショートで見た目はクールっぽいのにやっぱり性格は変わってない。


 慌てて、ナホを止める。


 ユーリも少女を宥めた。


「まあ、いいわ。いずれ、この小生意気なクソガキとは戦う気がするしね」


「ええ、この貧乳女とはいずれ戦いそうだわ」


 まだ、バチバチやり合ってる気がするがなんとか二人とも収まったようだ。


「それで、この子の名前はなんなんです?ユーリさん?」


 話題を変えるべく、俺はユーリに尋ねる。


「お、僕の名前は知ってて下さったんですね。……それで、彼女の名前ですか。直接訊いてみてはどうですか?」


「いえ、それが彼女、俺と話してくれなくて」


 敢えて、ユーリの名前をナホから聞いたということは言わずに答える。それを言うと、この人、「知名度なかった……(泣)」とか言って落ち込みそうだし。


「ああ、そうですね。彼女、もとい、近衛師団二番隊隊長リゼ・タイラーは自分より弱い人と話したがらないんですよねぇ。まあ、そこがチャームポイントでもあるんですが」


「えぇ!?その歳で二番隊隊長!?いや、まあいいわ。それは置いといて、二番隊隊長がなんで一番隊筆頭のあなたといるわけ!?」


 ナホが叫んだ。


「言ったじゃないですか。『アイギス』の処分ですよ。実はリゼさんは異例の出世スピードでしてね。それを疎む連中もいるわけです。そいつらを黙らすためにも功績がいるんですよ。で、僕はそのお目付け役です」


「あいつら、S級の悪魔をいくら殺しても、納得しないのよねぇ。だから、今度はSS級ってわけ」


 リゼの手の焼き鳥はいつの間にか串だけになっていた。


「それじゃあ、僕達はこのへんで」


 そう言って二人と別れた。結局、リゼさんとは一言も話せなかったな。


「何か、意外といい人そうな人達だね。ナ──ローザさんとも仲良くなってたし」


 少し歩いた後、俺は笑顔でナホに言った。


「そうね。そう見えてたなら幸いだわ」


 しかし、返答するナホは神妙な面持ちだ。


「どうかした?」


 ナホに尋ねる。


「いい?シュウ君、一つだけ言っておくわ。奴らとあまり仲良くならない方がいいわよ。殺り合うとき辛くなるわ」


「殺り合うなんて物騒な」


 俺はナホの方をみるが、その顔と言葉はやはり真剣そのものだ。


「よく聞きなさい。貴方を危険に晒したくはなかったし、本当は言うつもりもなかったけど、これ以上奴らに感情移入してほしくないから、言うわね。……『アイギス』っていうのは店長のことよ」


「なっ!?」


 驚いて俺は立ち止まる。ナホも立ち止まって、俺の顔を正面から見た。


「奴らは悪魔のことを人だとか、一ミクロンも思ってないわ。だから、悪魔を殺すことは『処分』だし、ああやって、悪魔を殺したことを自慢するの。悪魔だって、自我のある人間なのに……」


 ミホの目には少しの涙が浮かんでいた。


「ごめんなさいね、感傷的になってしまって」


 俺はううんと首を振る。


「兎に角、店長を守るためには奴らを殺るしかない。狩るか狩られるか。私たちと奴らはそういう宿命なのよ。残念ながらね」


 ナホは涙を拭った。そして、ふぅ、と一呼吸吐く。


「よし、湿っぽい話はやめ!奴らがここまで辿り着くのにまだ時間はあるだろうし、まずはギルドに報告よ!ギルドまでダッシュ!」


 ナホは駆け出した。


 だが、流石の俺にも分かっている。それがから元気だと。ナホとて、彼らと殺し合うのが、仲良く話していたあの二人と殺し合うのが辛くないはずはないと。

今回分かったこと

①魔物を改造する技術がある

②おさげ髪の少女は近衛師団二番隊隊長リゼ・タイラー

③悪魔と近衛師団とは相容れない存在  以上

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