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【第5話】ゴブリン(前編)

少し残酷なシーンがあります。お気をつけ下さい。

「ふぅ、よく食べたわ」


 店の前でミホは満足そうに叫んだ。ちなみに俺はゲロ吐きそうだ。


「どうしたの?調子悪そうだけど?」


 ミホは心配そうに俺の顔を覗き込む。


「いや、大丈夫だ。ただ、喉がガスバーナーで炙られたみたいに痛いだけで……ゴホッゴホッ」


 俺たちが出てきた店の看板には「超爆辛」と書かれている。どうやら、これが店名のようだ。

 ……うん、店名に嘘偽りは一切なかった。


「それじゃあ、行きましょうか、ゴブリン討伐へ」


 ナホは元気いっぱいに言う。が、少し待って欲しい、喉と胃がめちゃくちゃ痛い。


 結局、約1時間の休息の後出発した。



§§§§§§



 出発した後は意外な程スムーズにことが運んだ。特に誰かに妨害されたり、変なトラブルがあったりといったこともなく、城門を抜ける。昨日、俺が入ってきた城門だ。

 門を抜ける時、門番は終始ペコペコしていた。やっばり、Sランク冒険者っていうのは凄いのだなと改めて思う。

 

 ゴブリンの生息地は城門を抜けて西側に少し歩いた森の中だった。ナホ曰く、そこまで深い森ではないらしく、E〜C相当の比較的弱い魔物が生息しているとのことだった。

 正直言うと、このとき俺はワクワクしていた。なんたって、魔物なんて云う想像の産物を初めて見るからだ。

 実物の悪魔は文字通り恐怖の塊でしかなかったが、魔物はどうなのだろうか。


「いたわ、アイツよ」


 ナホが指さす先にそいつはいた。

 ゴブリン。醜悪な外見に緑色の肌を持つ魔物だ。布切れのような服を身に付けて、右手に石でできた斧のようなものを持っていることから、一応知性はあるのだろうか。

 実物は想像していたよりも、何かヌメヌメしてるような気がして気持ち悪かった。


「それじゃあ、パパッとやっつけちゃいなさい。私はここで見てるから」


 そう言うとナホは座り込む。おい、一緒に戦ってくれよ!その鎧は飾りかよ!


 俺は腰に差し出した鞘から剣を取り出した。実物の剣はかなり重い。どのくらい重いかと云うと、まず剣の重さを思い浮かべて欲しい。その想像の十倍が実際の重さだ。

 冗談抜きでそのぐらい重いので、何度もナホに持って貰おうと思ったが、何とか男の意地で一人で持ってきたのだ。


 ナホは鎧を着た上で剣まで提げているから、おそらくもっと重いと思う。それをあの小さな体で支えているのだから、本当に尊敬に値する。


「あ、剣なんか使わないわよ?」


 俺が思案を巡らせていると突然ナホから声がかかった。

 

 予想外の言葉に「へ!?」と変な声が出る。


「当たり前でしょ。それは飾りよ。私たち悪魔なんだから、素手よ、素手。私と店長の戦い見てなかったの?」


 確かに言われてみれば、あの時二人は武器の類いは一切使っていなかった。だけど、あれは喧嘩だったからじゃないのか?


「ほら、こうよ。見てなさい」


 ナホは立ち上がり、おもむろにゴブリンに近づいた。


 ゴブリンは目玉をギョロギョロさせて、ナホの方を見るが、すぐに力の差を悟ったのか、逃げに転じる。


 しかし、ナホとてそうはさせない。手に黒い靄を纏うと、ゴブリンをすぐに捕まえて俺の方へ引きづって来る。

 ゴブリンも必死の抵抗とばかりに手に持った斧でナホに切りかかっているがナホに傷一つついていなかった。


「こいつらはここ潰せば動かなくなるわよ」


 そう言って、俺の目の前で惜しげも無く、ゴブリンの頭部を殴り、潰す。

 「ピギャッ」と断末魔の悲鳴を上げて、ゴブリンの頭部は爆散した。


 ピチャッとゴブリンの血が辺りに飛び散る。


 ナホがゴブリンの衣服から手を離すと、ゴブリンの死体が地面に転がった。


「これで、後4体ね。後はアンタがやりなさいよ?」


 ゴブリンをテキパキと解体しながらナホは俺に言った。


 生き物を惨殺するという非情な状況だが、不思議と俺はそこまで嫌悪感や恐怖を感じなかった。

 これが俺が「悪魔」になった影響なのか、それとも元々サイコパス的な気質を持っていたのかは分からない。ただ、ナホがゴブリンを殺した瞬間も素材回収の為に腸を抉り出している時も、特に何も感じなかったのだ。

 何か自分が自分で無くなるような気がしてそういう意味では恐ろしかった。


 俺もナホにやり方を少し教わりながら解体した後、残りのゴブリンを見つけるために出発した。

 しかし、大きな川を渡り、岩場を越え、道無き道をかなり歩くが一向にゴブリンどころか魔物一匹でてこない。機嫌を悪くしたのか、ナホも殆ど喋らなくなっていた。

 ゲームでは数歩あるけばモンスターが出てくるのに、やはり現実はそう上手くいかないものなのだろうか。


 夕暮れまであと一刻程になったとき、ゴブリンを倒してからというもの無口になっていたナホが口を開いた。


「おかしいわね……。魔物の気配はあるのに、姿が一切見えないわ」


 神妙な顔つきでナホが言う。


「気配はある?ってことは一応はいるってことなの?」


 俺の質問にナホは首を傾げる。


「分からないわ。こんなこと初めてだもの。私の魔力感知がバグったか……兎に角、何かのっぴきならない自体が起きてることは確かね」


 そう言って俺の手を引いた。


「帰るわよ。この依頼はキャンセルだわ。大規模に調査隊を派遣しないと」


 ナホと俺は来た道を引き返す。


「何か嫌な予感がするのは俺だけか?」


 小走りで来た道を帰りながら俺は言った。


「あら、奇遇ね。私もよ」


 ナホも苦笑いを浮かべる。


 思えば、ここ二日間、何かがスムーズに行ったことなど無かったのだ。それなのに、この森までは全くといっていいほど、スムーズに来てしまった。最初から怪しむべきだったのではないかと心の中の俺が叫ぶ。


「止まって!」


 ナホが叫んだ。目の前には行きに通った川が流れている。そこそこ大きな川で川幅は二十メートル程だろうか。


「どうかしたの?」


「この川に毒が流されてるわ。しかも、悪魔に特に効く最上級の聖水よ。こんな量の聖水、一体どこから……」


 定番の回復アイテムである、聖水が毒なんて、なんか悲しい気分になる。

 だが、そうは言っても今、俺は悪魔の身だし、川が渡れないとあってはどうしようもない。

 木を切ってボートでも作るか?と考える。


「まあ、このぐらいの川なら大丈夫よ。あまり使いたく無かったけど、私の背中に捕まりなさい!」


 自信満々のナホに促され、俺はナホの背中にしがみつく。そして、身長175cmの男が身長151cmの女性に背負われるという奇妙な図が出来上がった。


 俺が体を掴んだのを確認すると、ナホは体から黒い靄を放出する。

 そして、その靄で角、翼、尻尾をを構成していく。


「それじゃ、飛ぶわよ」


 ナホの言葉とともに、俺の体はフワリと持ち上がる。しがみつくだけでは、落ちてしまうと思うかもしれないが、そこはちゃんと考えられていて、ナホの尻尾によってガッチリとホールドされているため、その心配はなさそうだった。

 また、ナホが言うには翼は()()()だそうで、羽ばたいたりせずに、まるで空中を並行移動するかのように飛ぶため、かなり快適なフライトだ。

 そのまま、地上から10メートル程の高さで川を渡っていく。


「やばっ!」


 川の真ん中辺りでナホが叫んだ。


 その声を皮切りにナホの角、尻尾、そして、翼が消滅していく。

 そして当然ながら、俺たちは二人して落下していく。


 時間にしては二秒にも満たない微小時間の中、ナホは俺を掴み、川岸へと投げる。

 俺は川原の地面と激突するが、不思議と無傷だった。ナホはそのまま川へと落下する。


 ドボンっと云う音とともにナホが川に落ちるのが見えた。

 すぐさま助け出そうと、俺は川へと近寄る。


「大丈夫よ。危ないから近寄らないで」


 川の中からナホの顔が覗いた。

 身体中が火傷のように赤く爛れていて見ているだけで痛々しい。


 川から上がってきたナホに俺は駆け寄った。


「大丈夫……なわけないよな。本当にごめん、俺が何も出来なかった」


 ナホの鎧を脱がせ、持っていたの飲み水で体を洗い流しながら謝罪する。

 ナホが人間ではなく悪魔なため、火傷のような全身の傷は殆ど治ってはいるが、それでもまだ痛そうだ。


「いいのよ。私の判断ミスだわ。まさか、もう結界まで張られているとわね」


 ナホは俺を気遣ってか、ニコリと笑みを浮かべて云うが、俺の心は罪悪感で沈んだままだ。


「そんなに落ち込まないでよ。貴方は無事だったんだから」


「でも……」


「『でも……』じゃないわよ。ほら、私はこんなに元気よ!」


 すっかり傷が癒えたナホは腕をぐるぐる回して見せる。しかし、少しキレがなくやはり本調子ではなさそうだ。


「そうだな!俺が落ち込んでてもダメだな!」


 精一杯元気に振る舞うナホを見て、流石の俺もこれではダメだと思い、明るく振る舞う。


「そうよ、貴方は元気でいる方が貴方らしいわ」


 ナホも微笑む。

 俺は、うん、と大きく頷いた。

今回分かったこと+内緒話

①ナホは辛いものが好き

②「超爆辛」の本店は王都にあるらしい

③ゴブリンはヌメヌメだ

④悪魔に聖水は毒  以上

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