【第4話】ニーナ
色々あったが、やっと俺たちは冒険者ギルドへとたどり着いた。
街の中でも異様にデカい建物で存在感が凄い。ちっちゃな要塞のような出で立ちだ。
ドアを開けて中に入るとイメージ通りの場所だった。
奥には受付が並び、3人の女性が忙しく働いている一方で、入口から受付までの間には丸机が無造作に幾つか置かれてあり、ガタイのいい強面の方たちが座っている。
俺はその人達とは出来るだけ目を合わせないようにしながら奥へと進んだ。
後ろからミホと男たちとの殴り合いの音が聞こえてくるが、キニシナイ、キニシナイ。
「こんにちは、新規冒険者の登録ですか?」
後ろで大喧嘩が勃発しているのに受付嬢は冷静に言う。こんなことは日常茶飯事なのだろうか。
「はい、そうです。登録です」
俺がそう答えると、受付嬢はゴソゴソと古めかしい石版を机の下から取り出した。
「では、ここの上に手を置いて下さい。……どちらの手でも構いませんので」
どちらの手を置こうかアタフタする俺に優しくそう言う。流石プロ。
俺は右手を石版の上に置く。
「はい、これで登録は完了です。こちらをどうぞ」
思った以上に早く終わった登録に拍子抜けしつつも、俺は彼女から銅のプレートをもらった。
「そちらが身分証の代わりになります。無くされますと、再発行に金貨1枚、罰金として金貨1枚かかりますのでご注意下さい」
金貨1枚あたりは約十二万円だからかなり高いなと思った。
「身分証ですから、簡単に無くされて悪用されると困りますので敢えて法外な値段にしているんですよ」
俺の考えを読んだような言葉に思わずドキリとする。
受付嬢の顔を見上げると、俺を見てニコリと微笑んだ。営業スマイル恐るべし。
「あらあら、ニーナ、ナンパはやめなさい?」
男たちを血祭りにしたナホが後ろから歩いてきて言った。
男たちはナホに向かってずっと土下座している。一体何したんだ?
「ふふふ、そうね、貴女みたいなお子様にナンパは刺激的過ぎるますよね。ごめんなさい?」
受付嬢のニーナは先程の営業スマイルは何処へやら、攻撃的な目でナホを見る。
「お子様?あなたの目は腐ってるようね。こんな美少女のどこがお子様だって云うの?」
ナホが胸を張って言う。
「勿論、その身長と胸よ?その体でお子様じゃないのなら、さぞかし可愛そうね」
「なっ、胸と身長のことを……私の一番気にしてることなのに!なら言わせてもらうわ。あなたが彼氏と破局したことをね!」
ドーンと言い放つナホにニーナは狼狽えた。
「貴女、それは言わない約束だったでしょう!せっかく秘密にしてたのに!」
「そっちが先に攻撃して来たのがいけないんでしょう!」
「なによ!」
「「うぅーー!」」と睨み合う二人。群がる野次馬。そんな時、パンパンと手を叩く音がギルド中に響いた。
皆の視線がそちらに集まる。
「はい、やめだ、やめ、二人とも。喧嘩は外でやってくれ。ワシの部屋まで声が響いてぞ」
赤い軍服を身に纏った、眼帯の男は二階から階段を降りながら言った。
その声を聞いて、野次馬も散り、またギルド内に喧騒が戻る。
「ギルド長、申し訳ありません、この女がうるさくしてしまって」
先程の乱れっぷりは何処へやら。ニーナはギルド長と呼ばれた男にペコペコ頭を下げる。
「この人はいいのか?赤い軍服着てるけど」
俺は小声でナホに尋ねる。
「ええ、この人は完全に無害よ。元近衛師団二番隊隊長だけど今は左遷されて五番隊(笑)隊長兼この街のギルド長。驚異でも何でもないわ」
そう言い放つナホにギルド長は笑って返す。
「辛辣だな、ローザよ。五番隊は強いぜ。なんせ、ワシ一人だけだからな!ガッハッハッ!」
営業スマイルを浮かべるニーナ。
ナホは「この人の持ちネタだから気にしないであげて」と冷ややかに言った。
「そして、こちらが例の少年か。うむ、なかなかに……弱そうだな。ガッハッハッ!」
俺の方をみて、ギルド長はまた笑う。皆、やれやれと云った顔をする。
「これから、少年は初クエストか。どれ、ワシが選んできてやろう」
ギルド長はドスドスとクエストが張り出されている掲示板に近づくと、無造作に一枚の紙を剥がした。
「これなんてどうだ?ゴブリン討伐。C級依頼だ。お前さんにはちと早いが、ローザがついていくなら大丈夫だろう」
「ちょっとギルド長。流石に初仕事でゴブリン討伐は早すぎますよ!」
ニーナの抗議にギルド長ウインクして返す。
「いいや、少年には早く強くなってもらう必要がある。このぐらいがちょうどいいだろう」
「ですが……」
「ガタガタうるさいわね。私がいるから大丈夫だっつーの。ゴブリン如きデコピンよ」
ナホの言葉に俺も追従する。
「そうですよ。安心してください。これでも、戦闘は慣れたもんです」
俺はシュッシュっとその場でシャドーボクシングをして見せた。
まあ、勿論、戦闘経験などない。ゲームの中の話だ。
「そうですか……それでは頑張って下さいね」
ニーナは不安そうな様子だが、何とか俺を送り出す決心をしたようだ。
「それじゃあ、昼ご飯を食べてゴブリン狩りに出発よ!」
そんな掛け声と共に勢いよくギルドの入口から外に出る。
後ろから「扉を壊すなよー」というギルド長の声が聞こえる。
「私お気に入りの店があるのよ。ついて来なさい!」
ナホに手を引かれて、俺は歩き出した。
俺の頭の中にはナホの好きなものと云ったらあれだろうなぁという嫌な予感がしていた。
§§§§§§
二人を見送ると、ニーナはギルド長の方へ向き直る。
「ギルド長、さっきの少年、半し──」
ニーナがそこまで言葉を発すると、ギルド長は慌てて彼女の口を抑えた。
そして、指でギルドの建物の裏へ来るよう指示をする。
「ニーナ、一般人には能力を使うなと言っただろう?それと、ギルド内では不用意な発言はするな」
ギルドの建物裏でギルド長は真剣な顔で言った。
「すみません、ローザさんのお連れの方と聞いたのでつい……。それに、ギルド内だとつい気が緩んでしまって……」
それを聞いてギルド長は「いいか、ニーナ、これは機密情報だ。誰にも言うな」と前置きした上で話し始めた。
「実はこの街に凄腕の近衛騎士が二人来ている。一人はお前も知ってると思うが『血染め』のユーリ・エドバス。そして、もう1人は一番隊隊長のトウヤ並の天才だといわれている少女だ」
「トウヤってあの伝説の!?一番隊隊長だったんですか!?」
ニーナは驚いて大声を上げた。
「おい、余り声をあげるな」
「ギルド長、サイン貰ってきてもらってもいいですか?」
急に冷静な口調でニーナは言う。
「サインってお前……。何で悪魔のお前が敵方の大将のサインを欲しがるんだよ……」
「そりゃあ、トウヤ・ニカイドウは伝説の国民的英雄ですから!魔王を一人討伐、一人撃退。倒したSS級悪魔の数は数十を超えるとか。伝説に糸目がありませんよ!はぁ、殺されてみたいわぁ」
ニーナの発言に若干引きつつ、ギルド長は言葉を発する。
「兎に角、お前は暫く大人しくしてろ。発作が出たら、俺が相手してやるから」
ニーナは「はい、分かりました」と返事をして職務に戻る。
「あいつ、ホントに分かってるんだろうな……」
ギルド長はぼやいた。
今回分かったこと
①眼帯の男はギルド長
②ギルドの受付嬢ニーナはミホと仲が悪い
③ニーナは悪魔でちょっと個性的
④近衛師団一番隊隊長トウヤは伝説の人 以上