ボウモア 3/3
親衛隊の人牢獄に入れられ寝てたところ、外の騒がしさで目が覚める。結構長く寝たつもりだったけど,
牢屋の小窓は薄暗くなっている程度で、それ程時間がたっていなさそうだった。もしくは一週回っているのかもしれないけど…そんなことをぼんやりとした頭で考えていると次第に頭が冴えていき目を覚ました元凶である騒がしさが気になってくる。
「どうしたんだろう?凶悪犯でも捕まったのかな?」
ふと寂しいを紛らわすために呟いて気付く、ここにベットが二つあることを…もし仮に凶悪犯でも捕まったのならば恐らくはこの牢屋に入れられる可能性が高い…凶悪犯と一緒の牢なんてどうすれば良い…どうしよう犯罪自慢されたら…。
………無理無理、凶悪犯と会話なんて出来るか!いや勝手に想像してるの私だけど…だけど凶悪犯でも来たらどうしよう…下の階は以前騒がしい、ここは2階なのだけど、下で揉めているのか怒声が聞こえてくる。
「ですから!ここに彼女が居るのはわかっているんです!!鍵を渡して下さい」
「いえ、しかし………様でも鍵を渡すのは…」
何だ?もしかして、貴族の方でも捕まって親族でも来てるのかな?
昔働いていた時に、貴族のお坊ちゃまがお店で暴れ回って、衛兵さんに取り押さえられた事あったなぁ、あの時は後片付けが本当に大変だったけど…その後こんな感じだったのかな…。
「ス……様、鍵を見つけました!あと彼女は2階に居るようです」
「ありがとう!リリア!!」
「あぁ、ちょっと駄目ですって!いくら……フ様でもそれは!!」
「…テフ様ここは私が話をつけますどうか先にお進み下さい、すみません衛兵どのお名前はアランさんですよね…」
「えっ…どうして私の名前を…いえ!それよりも…」
「ふむ…勤務態度は真面目そうですが…先日ご家族の方に人が足りずに夜勤になったと偽って、何やらお仲間といかがわしいお店に入られたとか…」
「………あのっ…どうして…それを…」
「あの日は、奥様との結婚記念日だったらしいですね、完全に忘れていたみたいで…後で慌てて花束を買ってプレゼントしたとか…」
「奥様はいつもお仕事大変なのに、プレゼントだなんてと喜んだそうでは無いですか」
「………いや、その…」
「ちゃんと奥様へのフォローも忘れないとは流石ですねぇ~ですが、うっかりこの事がバレればどうなるのでしょうか?」
「それは!!」
「仕方ありませんよね、殿方ですもの子供も出来、段々と行為回数も減ってきては溜まりますものねぇ、勿論私も幸せな家庭を壊すような事はするつもりはございませんよ。今の所は…」
「………」
「お茶にしませんか、声を張り上げ喉も渇きましたよね?給湯室お借りしたいのですが案内願いますか?」
「どうぞ…こちらになります」
「ふふふっ、ありがとうございます」
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何だか急に静かになったと思ったら人の声が廊下から響く。
「アリスー!アリスー!居たら返事してーっ!! 」
夢を見ているそう思った、だってあり得ない彼女の声が私を呼ぶなんて絶対にあり得ない…だって私は彼女を侮辱した罪で囚われているのに…でも何で…。
「アリスー!アリスー!」
その声はドンドン鮮明に聞こえるのだろう…。
「ここ?…違う居ない!」
止めてわかっている、彼女が来た瞬間、夢が覚めることぐらい…だからもう少しだけでもこの夢を味わせて!!
それか、侮辱罪を直接罰しにでも来たのかも…でも正直それでも構わない…このまま彼女に嫌悪され生き続ける位なら、いっそ彼女の手でこの人生を締めくくる方が余程幸せかもしれない…。
「居た!アリス!!」
「ステフ…その…久しぶりね…良いわ、覚悟は出来てるの!この首刎ねるなり、絞めるなり好きすれば!出来れば絞めて!!」
彼女の手の感触を感じながら死ねるなら、思い残す事も無い。目を瞑り、顔を上げ無防備な首を晒す…カチャンっと鍵を開ける音がし、彼女が牢の中に入ってくる…そして………ゴツンと強烈な痛みが眉間を襲い思わず尻餅をついてしまう、一瞬何が起きたか理解出来ず涙目になる。
「何を訳のわからない事言ってるの、アリス?そんなことより、ほら行きましょう…しかし、デコピン少し強くし過ぎたわね…」
「えっ…ちょ、ちょっと待ってよ…貴女私を処刑しに来たのじょないの?」
「そんな訳無いでしょ!何で私が貴女を処刑しなければいけないのよ!!」
「いやだって私、貴女を侮辱した罪で捕まったのよ!」
「あー…そう言えばそうだった…違うの…それは勘違いと言うか何というか…とにかく私は貴女に侮辱されたなんて思っていない!」
「でも私、意見箱に入れた手紙は…」
「あんなの侮辱でも何でも無い、私は貴女に言われて仕方ないのはわかってる…謝らないといけないのは私の方!!」
「そんなこと無い!!だってそれこそ仕方の無いこと、貴女だって私にちゃんと自分の立場を教えてくれた…いずれ別れが来ることも理解していた、それが少し早かっただけ…それなのに私は貴女を嘘つき呼ばわりしてしまった…謝るのは私の方よ!!」
「いいえ私が…!!」
「違う私が…!!」
「ステフ様!!」
「ごめんなさい、リリア少し後にって…違う!この声は…!」
「ステフ様………何故、何故その罪人の牢に居るのです…」
そこには、私を捕まえた騎士が立っていた、私の家に来た時とは違い凛々しい顔は無く、まるで有るはずが無い物を見ているようだった。
「マリア違うの!そもそも彼女は、私を侮辱してなんかいなくて…と言うか何故居るの?」
「牢獄の方で何やら騒ぎが合ったとの事でしたので…それより、その女はストーカー紛いの手紙を書いているのですよ、何故庇うのです?」
「いやっ…そのだから…何というか…彼女は私のその………彼女は私の彼女なの!!」
私をぎゅっと引き寄せ、強く訴える。握るその手は、痛いくらい力が入っていた。私もそれに答える様に彼女の手を強く握りしめ、騎士の方を向く。
「………はい?彼女…?」
彼女は大分ぽかんとして、何を言ってるのか理解できていなさそうだった…が、その後何かを理解した様で頷き、そして…その腰に着けてある剣を引き抜いた。
「なるほど、貴様…ステフ様を侮辱するだけでは無く、魅了の呪いを掛けたな、絶対に許せん…大人しく牢に入っていれば一月ほどで出られたであろうに、この場で私が極刑を下してやる!!」
剣を振り下ろされたが、ステフと共に間一髪で交わすが次の攻撃態勢に既に入っていた。
「貴女、騎士なのでしょう!、このままだとステフまで一緒に切れちゃうわよ!!」
「ふっ…安心しろ、これでも剣の腕はこの国一を自負する身だ、その様なヘマはせん」
剣を高く上げ、真っ直ぐ私を見据える。もう駄目だと目を瞑りステフにごめんなさいと謝り、そして………そして?。
目を開けると騎士とよく似た顔の眼鏡の女性がその剣を、取り上げていた。
「いい加減にして下さい、この馬鹿!!」
「リリス!何故邪魔をする!?しかも馬鹿って!!ゴフッ…」
「邪魔をしているのは、貴女です!」
騎士の人はどうやら気絶させられたみたいで眼鏡の女性に担がれていた。
「大変失礼いたしました、ステフ様、アリス様…少々下でお茶をしてましたら、まさか姉が来るとは思っていませんでして」
「あはは…何はともかく助かったよ、リリア」
「姉には後でキツくお灸を据えます、ですのでどうか、寛大な処置の程を…」
「大丈夫、マリアは私を思っての行動だもの、結構嬉しかったよ」
「ステフ様…ありがとうございます」
「私は酷い目に遭ったけどね… 」
「その…アリス様には正直…何とお詫びをして良いのか…」
「あ~大丈夫、お陰でステフとも再会出来たし、結果良かったかなって」
「ありがとうございます…近い内に姉とお詫びに向かいますので…どうか…」
「ほ、本当に大丈夫だってば!」
「ふふふ、じゃあ帰ろうか」
「そうだね…色々有り過ぎて疲れたわ…」
「ステフ様、よろしいのですか?」(ボソッ)
「えっ?何、リリア」
「このまま、彼女を帰らせてもよろしいのですか?」
「えっと、それはどう言う意味かな」
「それは勿論、アリス様を城に招待するのですよ」
「でも、アリスも急に城に来て言われても困るんじゃ…」
「ステフ様!ここはグッと押して行かなければ!」
「そんなこと言われても、なんて言って誘ったら良いか…」
「考えてはいけません!こういう時は勢いですよ!!」
「い、勢いって」
「そうやって躊躇って、前回失敗したのです、また同じ失敗を繰り返すのですか?」
「それは…」
「焦れったいですね!こうなれば私が言ってきます!」
「待って!行くわ、行くわよ!だからリリアは、そこで待ってて!!」
「ふふふっ、頑張って下さい、ステフ様」
「ね、ねぇアリス、この後何だけど…」
「ん、この後?もしかしてこの件での事かな?ここに連れて行かれるまでに、色んな人に見られたっぽいし」
「あっいや、、それはこっちで明日ちゃんと国民に報告するんだけど…」
「あっ…そうか…ステフもう城に戻るんだよね…また、会えなくなるね…て言うかステフだなんて、ちゃんと様を付けないと駄目だよね、私ったら」
「それは…」
「マスターにも言われたんだ、貴女はもう私の知っている姫様じゃなくて、この国の女王陛下なんだもの、私みたいな一般人とはもう違うんだもんね…ステフ様、本日は私めのせいでこのような騒ぎを起こしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「やめてっ!!」
「………っ!」
「やめてよ、ステフ様なんて呼ばないで…いつもみたいに呼んでよ…」
静けさの中に彼女の叫びが木霊する、両目に一杯の涙を浮かべて。
「ステフ…」
私は何て声を掛けたら良いのかわからず、彼女の名前を口にした。瞬間、彼女が私に目掛けて飛び込んで来た、5年前から変わらない香りを纏ったまま。
「私ね、嬉しかったの貴女から手紙が来て、それこそ心臓が爆発しちゃうくらい…まだ、私の事を覚えていてくれたんだって…本当はね、貴女に会いたくて、それでマリアに貴女が何所に住んでいるのかを調べてもらって、こっそりと会いに行く予定だったの、まさかそれがこんな事になるなんて思わなかったけど…でも、貴女に会えた!もう会う事なんて無いと思っていた貴女に、こうやってちゃんと会えた、今貴女に触れられている…それだけで良いと思ったのに私、女王になって我が侭になったみたい…もう貴女を離したくないの…離れたくない…ねぇアリス、私と一緒に来て、私の側から離れないで!お願い!!」
まるで塞き止めていた湖の水が溢れるような勢いで放たれた言葉の濁流に、私は飲まれ溺れる様な感覚に襲われた、息が出来ない…何を言えば良い?紡ぐ言葉が見つからない…不意にあの日、彼女と別れた時を思い出す、ああそうか…五年前きっと彼女もこんな感じだったんだなと理解する、ステフも私の罵倒をただ黙って聞いていた。でも、違う今みたいに息が出来なくて、何か言いたいのにその言葉が濁流に飲まれ探せなかったんだ。
「………」
私は沈黙したまま、彼女を強く抱きしめる。本当は言葉が見つからない、なんて嘘…本当はわかってる…ただ一言、時間に表せば一秒と掛からないその言葉を発せれば済む…頭では理解いる、けれど感情がそれを遮ろうとする。もう少しで五年前をやり直せるのに、また同じ過ちを繰り返そうとしている、どうして?昔と今では立場が違うから、過去の私が否定した理由を今度は自分が言い出す、自問自答、思考がぐちゃぐちゃになりもう訳がわからない…彼女を受け入れる…拒絶す…んんっ!?。
「ぷはっ!もう、待てない!んっ…」
彼女の突然のキスに驚き、ただでさえぐちゃぐちゃ思考が更に乱れる、けれど五年ぶり感じる彼女の舌の動きに私の思考は為す術なく溶かされていった。
「んはぁ…言ったよね、私我が儘なったの一緒に来てなんて甘かったわ、貴女を城に連れて行く、良いわね!」
「ちょ、ちょっといきなり過ぎない!」
「いきなりじゃないわ、五年待ったもの、もう十分でしょ!確かに五年前の私には何の力も無かったけど今は違うわ、国王としてこれまで頑張ってきたもの、我が儘の一つくらい言ってもいいでしょ!だからアリス、国王からの勅命よ…これから私と一生を共に歩んでちょうだい」
「…はぁ、もう雰囲気とか色々ぶち壊しだね…でも、国王の勅命なら断れないよね…わかりました、このアリス、ステフ様と一生を共に歩んで行くことを誓います」
「あっ、それと私に対する態度はこれまでと変えないこと!ステフ様ってもう二度と呼ばないで!」
「もう、我が儘だなぁ…」
「ふふふっ、貴女にだけよ、アリス」
「はいはい、ふふふっ」
「さて、今度こそ城に戻るわよ!」
「その前に一度、荷物取りに行きたいんだけど…」
「明日にしましょうよ!今日は早く戻って久しぶりに一緒にお風呂入ったり、同じベット寝たいんだから!」
「えー…これから一生共に居るんだから、別にいいじゃん」
「駄目よ、人生あっという間なんだから!既に五年も無駄にしたんだから、少しでも取り戻さなきゃ!」
「お言葉ですが、ステフ様」
「ん?何、リリア?」
「私としても今日の方が良いかと、明日はその今日の件や、アリス様の事を国民に説明しなければなりませんので」
「むぅ、そっか…そう言われると今日が良いか」
「はい、それが良いかと、アリス様も荷物は貴重品のみで大丈夫ですよ、城には衣類を含め大抵の物は有りますし、部屋の引き取り等は、後日私共で進めておきますので」
「そうなの?でもそこまでお世話して貰うのも何だか悪い気もするけど…」
「ご安心下さい、ステフ様と一生を共にするということは、それは即ちステフ様の伴侶となりますので、私共がお仕えするには十分な理由です」
「あはは、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
「はい、お任せ下さい、アリス様」
「こちらこそよろしくね、えっと…」
「リリアです、この伸びている無礼者のは姉のマリアです、共にお願いいたします」
「あーマリアが起きたら、もう一度ちゃんと説明しないとね」
「そうだね、また斬りかかられて堪らないしね」
「姉には私の方からも一度説明しておきます…それでは一度、馬を取りに行きますので十分程、お待ち下さい…それと、イチャつくのは城に戻ってからでお願いいたしますね」
「大丈夫よ!」
「ふふふっ、失礼いたしました」
「全くもう…アリス、改めてこれかもよろしくね…多分、明日からとても忙しくなると思うわ…その…本当に良かったの?」
「ちょっと!今更、弱気にならないでよ!でも、正直不安が無いと言ったら嘘だけど…貴女の居ない、これからに比べたらずっとマシよ、だからステフ、こちらこそよろしくね、んっ…」
「んっ…」
失った五年間はもう取り戻せない…だから、後で思い返した時に、“たった”五年だけ離れていたと思えるような、日々をこれから過ごそう…このキスに誓って。
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結果、こうなるなら酒に飲まれるのも有りかもね。