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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
72/201

本当の0(ゼロ)?。って、なに…?

「ねえパパ。0(ゼロ)って、<無い>って意味だよね。でもそこから更に数を引いてマイナスになるっておかしくない?」


僕の膝でゲームをしてた美智果が不意にそんなことを言い出した。


ああ、美智果もその疑問にぶち当たったのか。


思えば僕も全く同じ疑問を感じたことがあった。僕の時は誰にも訊かずに納得できないまま大人になったけど、訊いてくれたのなら答えないとね。


「う~ん。何て言うか説明が難しいんだけど、マイナスっていう考えの時の0(ゼロ)ってて本当の0(ゼロ)じゃないんだよな」


「本当の0(ゼロ)? って、なに…?」


「たとえば、気温の<零度>ってあるだろ? 零度より気温が低くなるとマイナス何℃になるってやつ」


「うん。あるね」


「だけどあの場合の0(ゼロ)って、本当の0(ゼロ)じゃなくて、<水が凍る温度を摂氏零度とする>っていう意味だから、<無い>っていう意味じゃなくてあくまで<基準点>でしかないんだ。だからその基準点より下になったらマイナスになるっていうだけのことだよ」


「…あ、何となく分かる…かも」


「だろ?。ちなみに絶対零度って呼ばれる摂氏マイナス273.15は、ケルビンっていう温度の単位では0(ゼロ)で、これは本当に<温度が無い>っていう意味での0(ゼロ)なんだ。だからケルビンではマイナスがない。温度が無い状態より低い温度は有り得ないからね」


「…ちょっと難しい」


「そっか。これは余談だったか。まあいいや。これについてはいずれまた勉強するだろうから置いといて、算数とかに出てくるマイナスにおける0(ゼロ)っていうのは、<0(ゼロ)(仮)>っていうことで取り敢えずいいと思うよ」


「分かった。気温の0(ゼロ)より上か下かってことでいいんだね?」


「学者とかの専門家の人に言わせたら違うのかもしれないけど、僕達が日常で使う分にはそういう認識でいいんじゃないかな。


じゃあ、美智果、たとえば100を0(ゼロ)(仮)とした場合の、98はマイナス何になる?」


「…マイナス2……?」


「その通り。ちゃんと分かってるみたいだね」


「ありがと、パパ」


「どういたしまして」


僕はこの答を得るまで十何年もかかったけど、それは周囲の大人を信用できなくて訊いても無駄だと思ってたからだ。だけど美智果はそれをこうやって僕に訊いてくれた。それを訊いても無駄だって思われてないってことだって感じる。僕はそれが嬉しい。この子にとって自分がそれを訊くに値する大人に見えてるってことだと思うから。


「美智果は可愛いなあ」


「もう、パパ、邪魔。ゲームできないよ」


思わず抱き締めたらそう言われたけど、このやり取りさえも楽しかったのだった。



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