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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
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僕にとっては決して無駄な手間じゃなかったんだよな

僕はずっと、美智果の<話>や<言葉>に耳を傾けるようにしてきた。


でも、美智果の言いなりになってきたかって言ったら、全然そんなことないと思う。たぶん、半分も聞き入れてないんじゃないかな。


だって、聞き入れられない内容だったから。


『犬を飼いたい』とか『猫を飼いたい』とか、『ごはんじゃなくてお菓子を食べたい』とか、持ち合わせがない時に『このおもちゃほしい』とかね。


僕は美智果のことが大好きだしできることならその通りにしてあげたいって思う。だけど僕だって全知全能の神様じゃないんだからできないこともあるのは事実なんだ。


犬猫を飼ってあげられないのは、美智果にアレルギーがあるからっていうのもある。この子はまだ小さかった頃に小児喘息って診断されたことがある。そしてそれは、この子のアレルギー体質からくるものだった。


この子がまだ小さかった頃に住んでた家の近所に猫を飼ってる人がいて、その猫がよくうちに遊びに来てたから、美智果はそれを触ったりしてた。するとある日、酷く咳き込んだことがあって、それで病院に連れて行ったら小児喘息とアレルギー体質が分かったんだ。


犬上皮、猫上皮、それから当然のようにダニに対しても反応があったし、スギとヒノキにも反応があった。だからうちでは犬も猫も飼えない。


そのことは、美智果自身が猫に触ったことで喘息発作を起こして苦しんだっていうのを本人も覚えてるから、理解してもらうのはそんなに難しいことじゃなかった。


『え~…? ヒドイよ……』


って泣きそうになる美智果を抱き締めて、


『ホントだな…ヒドイな……』


って僕も悲しんでる様子を見せたこともある。思えばこれも、美智果にとってはこの世の中には理不尽や不条理が一杯だっていう現実を思い知る事例の一つだったんじゃないかな。


この時、『ヒドイ』って言いたい美智果の言葉に僕が耳を傾けたことで、この子自身が『でも咳が止まらなくなって苦しくなるのも嫌だし』って結論を自分で出す気持ちの余裕が生まれたんだって思ってる。


ここで僕が、美智果の言葉に耳を傾ける姿勢を見せずに『仕方ないだろ』だけで済ましてたら、今頃きっと、この子は僕に対して『何を言っても無駄』って思ってしまってたんだろうなって気がするんだ。


確かに、美智果の言葉に耳を傾けようと傾けまいとこの子の小児喘息は治らないしアレルギーだって治る訳じゃない。言葉に耳を傾けるのは時間の無駄って言ってしまったら確かにそうかもしれない。


だけど、僕が敢えてその手間をかけたからこそ『この人には何を言っても無駄』って思われずに済んでるのも事実だから、僕にとっては決して無駄な手間じゃなかったんだよな。



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