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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
56/201

美智果にとっては僕に聞かせたい話だったからだよ

夏休みが終わって、学校はすぐに通常授業に戻ってた。僕が小学校に通ってた頃は八月いっぱいまで夏休みがあって、しかも三~四日は短縮授業だったような気がする。だけど、美智果の学校はそうじゃなかった。始業式のその日だけが短縮で、その次の日からは通常授業だ。


ゆとり教育の見直しとかそういうのが影響してるのかなと思ったりもしたけど、だったら僕が通ってた頃レベルまで戻るのが当然で、それ以上増やすのは変だよなあ。どういうことなのかいまいちよく分からないけど、美智果がそれで文句を言ってる訳じゃないから気にしても仕方ないか。


ずっと一緒にいると仕事に集中出来なくて少し困ってたりもしたものの、いないとなると何だか寂しい気もして、我ながら勝手だなあと思ったりする。


「ただいま~」


四時頃、いつも通りに元気に声を上げながら美智果が帰ってきた。僕と美智果はこうやって、いつもお互いに声を掛け合う。世の中には殆ど口もきかない親子もいるっていうけど、僕にはそれが信じられなかった。子供が口をきいてくれなくなるなんて、一体、どんな接し方をしてきたんだろうって思う。


どうしてそんなことになってしまったのか、自分が口もききたくない相手というのを想像してみたら分かるんじゃないかなって気がする。


子供に口もききたくないと思わせるような接し方をしてきたのは、親の方の筈なんだ。僕も母とは殆ど口もきかなかった時期がある。物心ついた頃から結婚するまでずっとかな。


何故? 母とは話をしても無駄だと思ってたからかも。


母は決して話の分からない人じゃなかったっていうのは、僕が大人になって結婚してそれなりに言葉を選んで母をやり込めることができる言葉を選んでマウンティングできるようになってから分かったことだった。それまでは何を言っても僕の話なんてまともに聞いてもくれなかったっていうのがあったんだろう。


僕が美智果の言葉に耳を傾けるようにしてたのは、そんな母の失敗から学んだからなんだ。


僕だって、話を聞く姿勢を見せない相手に話し掛けようとか思わない。だからまず、話を聞く姿勢を見せるようにしたんだ。


もちろん美智果の話がいつだって僕にとって都合のいいものばかりだった訳じゃない。思い返してみるに八割方は僕にとってはどうでもいい内容か、僕に対する不平不満だった気がする。でもそれを敢えて聞くようにしてたから、僕は美智果にとって<話をしても無駄な相手>じゃないってことになったんだと思ってるんだ。


どうしてそんな面倒臭いことしないといけないかって?


たとえ僕にとってはどうでもいい内容でも、美智果にとっては僕に聞かせたい話だったからだよ。



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