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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
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パパ。ママのことだいじにしようね

今日は、お盆ということで妻の墓参りに行く。あれから六年。世間的には東日本大震災の年という認識が殆どだと思う。それだけでも十分にこの世には不条理と理不尽が常につきまとうっていうことを改めて教えられたなんじゃないかな。


でも僕と美智果にとっては、さらに強くそれを思い知らされた年でもある。本当ならゲーム好きだった母親と一緒になってゲームを楽しんでた筈のこの子から、そんな時間を永遠に奪った神だか仏だかがいるのなら、僕はそいつらに復讐してやりたいとさえ思う。でもそれは決して叶えられないんだよな。


だから僕はそれに囚われることはしないでおこうと思う。美智果の父親である僕がそんなじゃ、この子がそれこそ救われないから。


僕にとってもかけがえのない大切な人が奪われたんだからもちろん業腹どころの騒ぎじゃない。誰彼構わず当たり散らして滅茶苦茶にしてやりたいって思ったことも実際ある。美智果が学校でいない間に、思わず食器に八つ当たりして壊してしまったこともある。それは、僕の茶碗だった。妻を守ってあげられなかったダメな男である僕自身が何より許せなかった。


でも、火葬の後で小さな箱に収まった母親を見た美智果が言ったんだ。


「パパ。ママのことだいじにしようね」


それがどういう意味なのか、今でもよく分からない。何しろそれを言った美智果自身がその言葉を覚えてないんだ。その時、あの子がどう思ってどういう意味でそれを言ったのか……


だけど僕は、それを言葉の通りに受け取ることにした。妻のことを今でも大事にする。自棄を起こして誰かに八つ当たりして何もかも無茶苦茶にしたりしたら、間違いなく妻は怒るし悲しむ。それは、彼女のことを大事にしてることにならないと思う。彼女のことを大事にするからこそ、僕はバカな真似はしない。そして、彼女が残してくれた美智果のことを大事にする。美智果を苦しめたり悲しませたりしない。


僕にとってはそれが、美智果の言った『パパ。ママのことだいじにしようね』という言葉への答えだ。


大切な人を喪ったら冷静でいられるわけがない。平穏な暮らしなんてできるわけがない。そう言う人は多いかも知れないけど、それでも僕は美智果との平穏で穏やかな暮らしを守ることこそが、妻を大事にすることだと思ってる。彼女が大切にしたいと思っていたものを僕も大切にするんだ。


「ママ、そっちでも楽しくやってますか?」


掃除の後、美智果がお墓に水を掛けながらそう言った。この子にとっては母親は、遠くに離れてしまったけど、会うことはできないけど、それでもお互いに楽しく暮らすことができるところにちゃんといるってことになってるんだ。


だから僕は、その通りにするんだよ。



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