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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
3/201

やだ~、メンドクサイも~ん

妻が亡くなったばかりの頃の美智果は、家でも学校でも、表面上は普段通りにしてるし泣いたりもしないんだけど、どこかそれを現実として受け止めきれてない感じで、母親はまだ病院に入院してて家にいないだけって感じの振る舞いをしてた。


なにしろ、葬式の時でさえ泣かなかったから。


だから僕は、在宅仕事になってしまったことをむしろありがたく思ってたんだ。この子の傍にずっと寄り添うことができるということで。いつも顔を見て、目を見て、様子がおかしかったりしないか確認するようにしていた。


そうして僕が気付いた変化は二つ。お風呂に一人で入れなくなったことと、収まりかけてたおねしょがぶり返したこと。それは今でも続いてる。だけどそれはむしろ、その程度で済んでることでありがたいと思ってた。この子が母親の振る舞いを丸ごと真似るのも、この子にとってそれが必要なことなんだと思えば無理にやめさせる必要も感じなかった。


今はまだ、この子が母親が亡くなったことを受け止められるようになるまでの時間なんだと思ってる。それが十年でも二十年でも構わない。


ただ、以前は『死』を連想させる言葉とか状況を見聞きすると途端に無表情になったりしてたのが、最近ではすっかり平気になったのは感じてた。ゲームをしながら『〇ね~、〇せ~!』と自分で口にできるくらいになったもんな。


でも、お風呂に一人で入れないとか、おねしょが治らないとか、心の深いところではまだまだなんだろうなっていうのは感じてる。


それを甘いとか甘やかしてるとかいう意見もあるとは思うけど、美智果は僕の娘だし身近でこの子を見てるのは僕だから気にしない。この子が朗らかでいられてることが、僕のやり方が間違ってない何よりの証拠だ。責任を負わない他人の言葉に惑わされたりしない。


僕は料理とかは得意じゃないから、夕食のおかずはいつも近所のスーパーのお惣菜だった。美智果もそれで文句は言わない。


『文句があるなら自分で作るように』


と言ったら、


『やだ~、メンドクサイも~ん』


だって。


実は美智果も手作りハンバーグぐらいは作れるんだけど、まあ、僕に甘えたいんだろうなって分かってる。それにたま~に自分でハンバーグを作ったりしてるし。


とまあ、どこまでも女子力のないこの子だけど、今の時代、別に結婚に拘る必要もないし、別にいいかと思ってる。それに、掃除も洗濯も、母親が生きてた頃に一緒にやったりしてたから本当はできるんだ。自分でやらなきゃいけなくなったらね。


妻が亡くなったことで思い知らされた。人間はいつ死ぬか分からない。だから美智果は、甘えられるうちは甘えたいんだ。僕がここにいることを確かめる為に。



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