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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
21/201

僕は、<美智果オタク>なんだと思う

母親を亡くしたばかりの頃の美智果は、まだその意味を充分に理解してなかったと思う。まだ六歳だったから当然と言えば当然なんだろうけど。


でも時間が経つにつれてその意味が理解できてきたのか、様子がおかしくなってきた時期があった。その一番が、<死>を連想させる言葉や状況を目にすると青い顔をして固まるようになったこと。それが一年生や二年生の頃かな。


この時期は特に気を遣ったと思う。テレビも見なかったしゲームの類も殆どしなかった。


だけどその一方で、学校に対しては、


『死を連想させる言葉とかに反応すると思いますけど、だからと言って腫れ物に触るような扱いはしないであげてください』


と申し送っておいた。学校の場合は、美智果一人ばかり気を遣ってるわけにはいかないからね。むしろ、そういうのが特別扱いとか依怙贔屓だと他の子に思われてしまったら余計な軋轢を生むかもしれなかったから。


ただ、もし学校で何か様子がおかしいところがあったら連絡してもらうようには言っておいた。そういう細かいところのフォローは親である僕の役目だと思ってたから。何十人もの生徒のうちの一人でしかない美智果のことを担任の先生が細かく見ることは現実的じゃないと思う。


幸い、この子が通ってる学校は、担任と副担任が常に教室にいて目を配ってくれるし、特に注意が必要な生徒がいたら学年主任の先生がフォローしてくれる学校だから、それでもう学校側の対応としては十分だと僕も思ってた。実際に、クラスの子がストレートに『おかあさん、しんじゃったの?』みたいなことを聞いてきて硬直した時には、学年主任の先生がすかさずフォローしてくれたってこともあった。


でもそういうことも含めてこの子の気持ちのすべてを受け止めるのはやっぱり親である僕の役目だと思う。この子の顔を見て、目を見て、言葉を聞いて、仕草を見て、この子が何を訴えたいのか、何を表したいのかを読み解くのは、それこそ赤ん坊の頃から泣き声と表情で、おむつが汚れてるのかお腹がすいてるのか何か怖いことがあったのかを察してきた僕でしかできないことだと思う。


だから僕は、美智果が僕に構ってほしそうな様子を見せた時には無視しないようにしてきたんだ。抱き締めてほしい時には抱き締めて、膝に座りたい時には膝に座らせて、話したいことがある時にはそれに耳を傾けて。


きっと僕は、<美智果オタク>なんだと思う。美智果のことを見て感じて考えて理解することが楽しくて仕方ないんだ。


世界がこの子のことを理解してくれなくても、僕はこの子を理解する。


『子育てなんて自分の時間を奪われるだけだ』って?


自分が好きなことにすべてを傾注するのがオタクの本懐ってもんだろ?


僕は今、最高に幸せだよ。



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