髪の毛ぐらい自分で梳いたらどうよ~
「美智果~、美智果も一応は女の子なんだから髪の毛ぐらい自分で梳いたらどうよ~」
朝、僕の膝でゲームをしながらトーストをかじってる美智果の髪の毛をブラシで梳きながら、僕はそう言った。
「え~? メンドくさ~い」
と、いつもの返事。そう、この子は思春期の女の子にありがちな<おしゃれへの目覚め>っていうのが、兆候さえなかった。一応、服装にはこだわりがあるらしいけど、それも<動きやすい><気を遣わなくていい><シンプル>っていう、およそ女の子らしくないこだわりだった。
友達の真理恵ちゃんとかからは、
『スカートとかも穿いてみたらいいのに。みっちゃんカワイイと思うよ』
とは言われてたりもするらしい。でもやっぱり『そういうの興味な~い』で聞き流してしまうんだ。
好美ちゃんと真理恵ちゃんはそういうこの子と気が合って受け入れてくれるから、そんな風にはっきり言える間柄だった。そうやってはっきり言っても変にムキになったりしない相手が付き合いやすいみたいだ。その辺りも、僕や妻に似てるんだろうな。
僕と妻も、かなり遠慮なく言いたいことを言い合ってる関係だった。妻は僕のことを『おっさん』と呼ぶ。三歳しか違わないのにね。だけど僕はそれを気にしたことがない。遠慮なくそう言ってくれる彼女が好きだった。
いわゆる女性らしさなんて微塵もなかったけど、付き合いだした頃は僕の前で居眠りをしてよだれを垂らしてたのに気付いて真っ赤になって『見た!?』とか訊いてきたリと可愛いところもあるんだよ。でもそういう『可愛いところ』を好きになったんじゃないんだよな。それ以外の、負けん気が強くて色気がなくて気取らなくて、女性なのに豪放磊落って言葉が似合う彼女のことが好きなんだ。今でもね。
美智果は、妻のそういう部分を多く受け継いでると思う。もっとも、妻と全く同じかって言ったらそれもまた違うかな。男性アイドルが好きで、美智果が『アイドルに興味ない』ってはっきり言ったらそれ以来きつく当たるようになったっていう同級生のリンちゃんみたいなの相手でも、妻は、
『あなたがアイドル好きでも私は興味ないの。そんなの人それぞれでしょ!?』
とまで真っ向から言うタイプだった。たとえ相手とケンカになっても。
だから、他人との諍いを避けようとするのは僕に似たのかもしれない。僕はどちらかというと言い返すんじゃなく静かに距離を取るタイプだった。そういうのと関わるのが面倒だって思ってしまうから。おかげで小学校の頃とかは孤立気味だったりもしたけどね。
こういう部分が似てしまうあたり、親子なんだなあって思ってしまうのだった。