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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
10/201

私はママが一番好き。パパは二番目

僕と美智果にとっては、彼女はまだ生きている。比喩じゃなく、二人の中に確かに彼女がいるんだ。今でも姿ははっきり思い出せるし、こっちが言ったことにどう応えるかも分かってしまう。


よく、亡くなった人のことを『心の中で生きてる』って僕も聞いてたけど、それの意味が今ならはっきり分かる。確かに僕と美智果の中で彼女は生きてるんだ。だから僕と美智果が彼女のことを忘れてしまわない限り、姿は見えなくても彼女は生きてる。それが、僕や美智果の支えになってる。


他人がそれを『気持ち悪い』とか『未練がましい』とか言っても関係ない。これは僕たち家族のことなんだから、他人にあれこれ言わせない。


「ママ、今日は学校でね~」


リビングで美智果がドールに向かってそう話しかけていても、それは僕にとっては当然の光景だった。この子は人形に話し掛けてるんじゃない。この子にしか見えない母親に話し掛けているんだ。しかも、それが自分にしか見えないものだって分かった上で。


僕は美智果と同じことはしない。僕の場合はただ、妻のことを毎日思い出すだけだ。どんな表情で、どんな話をして、どんな仕草をしてっていう形で。僕には僕の、美智果には美智果の付き合い方があるんだ。亡くなった人とのね。


それを見付けた僕たちはとても幸せなんだと思う。彼女の存在そのものが僕たちの一部になったんだから。


だから僕たちは毎日楽しく過ごせてる。二人してパンツ一丁で、そんな恰好の娘を膝に抱いててもそこにあるのは安らぎしかない。僕の妻は、美智果の母親は、いつだって一緒にいるんだ。僕たちは今でも三人家族だ。実体があるとかないとかそんなのも関係ないね。


「パパ、ママのこと、好き?」


美智果にそう訊かれたら僕は躊躇わずに応える。


「もちろん好きだよ、愛してる。世界で一番愛してる」


「じゃあ、二番は?」


「もちろん美智果だよ」


「そっか、私と同じだ。私はママが一番好き。パパは二番目」


エヘヘって感じで美智果が悪戯っぽく笑いながらそう言う。でもそれでいい。それがいいんだ。一番はママで、僕にとっての二番目は美智果、美智果にとっての二番目は僕。それは実質、お互いが一番だということだから。


「美智果~、可愛いなあ」


膝に座ったこの子を背後からぎゅ~って抱き締めると、


「もう、パパ、ゲームできないよ、邪魔!」


って言いながら美智果が僕に体を預けてくる。素肌で触れてるからぬくもりも鼓動もダイレクトに伝わってくる。美智果が生きてる実感が僕に伝わり、僕が生きてる実感が美智果に伝わる。


僕たちにはそれで十分なのだった。



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