9 拳を振るった結果に躊躇はしない
「オォリャァアッ!」
光の繭を破り飛び出すオルフェイン。
倒れた姿からそのまま、脚後ろからのエネルギー噴射の勢いで突き出したその膝が、トカゲ人間に突き刺さる。
その一撃にトカゲ人間はうめき声が上げ、「へ」の字になって宙に浮く。
天井に背中からぶつかるその真下。オルフェインはエネルギー噴射も駆使して後ろ回りに回転、片膝立ちに着地する。そして落ちてきたトカゲ人間を、突き上げた拳で迎える。
その拳は地球人でいうみぞおちに深々と突き刺さる。
「ぐぐぅえ!?」
自身の重みをも加えたその一打に、トカゲ人間は大きく開いた口から絞り出すような声を上げて動かなくなる。
無力化した敵の姿に、オルフェインは安堵の息をつく。
片手に抱えた形になっていたトカゲ人間を床に落とすと、保奈たちを閉じ込める透け板の檻に手を触れる。
そして鋭い吐息を一つ。すると押し当てた掌を中心に透明な檻が砕ける。
しかしその粉砕は破片を散らすようなものではない。オルフェインの触れた透明な檻は、その場で砂に変わったのだ。
地球人態では殴ろうが蹴ろうがまるでびくともしなかったものが、ただ触れただけで粉微塵になってしまうものか?
もちろんオルフェインは檻にただ触れただけではない。
ほんの一瞬、その身に蓄えた莫大なエネルギーを超振動。その波を掌から直に流して、一枚板を形作る物質の結びつきを壊したのだ。
だがそんな技を放ったオルフェインの掌には裂け目が生まれ、光が漏れ出ている。
強力で広い可能性も秘めた技ではあるが、いまだ未完成で負荷が大きい。乱発はできない。
「これで捕まった人たちを運び出せますよ」
「あ、ありがとうございます!」
裂けた手から目を離しての呼びかけに、かがみは慌ててうなづいて空いた穴から牢獄へ。
合わせてオルフェインがトカゲ人間の拘束にかかろうとしたところで、不意に封鎖した扉から轟音が響く。
「なに!?」
驚き声を上げるかがみをよそに、オルフェインは音を立てて揺れた扉へと急ぐ。
そんなオルフェインの目と鼻の先で、異星人をかんぬきとした扉が吹き飛ぶ。
オルフェインはとっさに足を突き出し、摩擦とエネルギー噴射とでブレーキ。爆風と共に叩きつけられるものから、左腕を盾に顔を庇う。
叩きつけてくる物が体の両脇を通り過ぎるや、オルフェインは腕をふり払って視界を開ける。
しかし開けた視界に飛び込んできたのは、こじ開けられた出入口から突き出した無数の銃口であった。
それにかすれた音と共に息を吸いながら、オルフェインは開いたガードを二重にして戻す。
同時にオルフェインの肉体に弾丸の雨が真正面からたたきつける。
つるりとした銀色の皮膚にビームがぶつかっては弾け散る。
一発一発はともかく、防御の上からとは言えラッシュを叩き込まれ続けるのは厳しいものがある。
しかしオルフェインはここから一歩も動くことは出来ない。
言うまでもないが、オルフェインの後ろには負傷者と捕らわれた人々がいる。それらのためにもこの場で壁となって敵をふさぎ続ける必要がある。
「こらえていて! すぐに捕まった子たちを逃がして助けに来るから!」
傷ついた腕に足を引っ張られながらも、かがみはこの場で必要な行動を起こす。
「へッ……でも、連中を壊滅させちまったってかまわないっすよね?」
オルフェインはそんな強がりをかがみに返して、腕を交差したまま踏み込む。
ビーム弾の雨に真っ向から突っ込みながら、交差した腕にエネルギーをスパーク。みなぎったエネルギーで弾丸を迎え撃つ障壁とする。
そのまま衝角を兼ねた防壁を構えて、銃を突き出した出入口へ飛び込む。
バリア付きの突進は、出入口にかたまって銃を構えていた異星人たちをストライク。彼らを車が飛び飛びに並ぶ格納庫めいた空間へボーリングピンめいて跳ね飛ばす。
しかしオルフェインはボーリングボールではない。すぐさまのバックステップで吹き飛ばされた扉の前にまで戻る。同時に、吹き飛ぶ仲間を掻い潜って突破を果たそうとした半魚人二人を殴り飛ばし、身構える。
爆発でかんぬきもろともに吹き飛ばされた扉の代わりに、オルフェインが敵の侵入を防ぎ続けなければならないのだ。
そう。オルフェインが扉のつかえとした犯罪異星人たちと一緒に、無くなってしまったのだから。
物の様に利用したのは確かにオルフェインだ。しかしいくら犯罪組織とはいえ、まさか仲間を何の躊躇もなく爆薬で吹き飛ばすとは思ってもいなかった。
壁向こうの生体反応を探ることと、その個別認識をする手段はもっていたはず。
加えてここは牢獄であるのだから、警戒すべき出入口の監視映像もあっただろう。
仲間でも容赦なく捨て石にする敵のやり口。それ以上に自分の認識の甘さに対して、オルフェインははらわたの煮えるような思いを抱く。
武器を手に殺到するものたちを迎え撃ちながら、怒りに青い双眸は燃え、敵を打つ拳には軋むほどに力がこもる。
「かかってこいよやあッ!!」
全員まとめて殴り飛ばしてやる。そう言わんばかりにオルフェインは吼える。
それに「ならば」と応じるように大小のミサイルが殺到。
四方から迫るそれらを全て通さず受け止めようと、オルフェインは大の字に体を広げる。
逃げるつもりの無いオルフェインの望み通りにミサイルは全弾命中。
全身を爆発と破片が何度も叩き続ける。その衝撃にオルフェインは歯を食い縛るも、彼の強靭な肉体が破れる程ではない。
そうしてミサイルとそれに混じってのビーム弾を耐えてしのぎ、オルフェインはすわ反撃と拳を構える。
しかし爆発の煙も晴れきらぬそこへ、何者かがぶちかます。
対するオルフェインはうめきつつも、その硬く重い体当たりを受け止めきってみせる。しかし同時に、押し付けられるあまりにも硬質な感触に内心で首を捻る。
いくら厚い装甲をまとっているとて、その奥から押し上げる肉の、生身の弾力というものはある。しかし今オルフェインにのし掛かる重みにはそれを感じないのだ。
しかし視界が晴れてくるに合わせて、その疑問も晴れることになる。
ツルリとした曲直様々な面で形作られたボディ。
内側からエンジンのうなり声を響かせるそれは紛れもない鋼の塊である。
「コノAF87を受け止めるとは、ナントいうパワーか!?」
「機械人類か!?」
驚きの響きを帯びた電子的な声を聞いて、オルフェインは自分が何者を受け止めたのかを理解する。
AF87と訳された名を自称する機械人類は、戦闘ヘリじみた鋼鉄のボディをさらに押し付けながら、内蔵した作業腕を展開。いくつもの腕でオルフェインの体を掴んで固定する。
重量と腕とでの拘束を振りほどこうと、オルフェインは身をよじり、向けられたレンズを燃える眼差しで睨む。
するとオルフェインの眼光を受けるレンズの下が、口のように開く。
そこから現れたのは銃口。それも準備万端、今にも発射しようとエネルギー光を溢れさせたものだ。
対してオルフェインは、その銃口に自分から頭を突っ込む。
それはまるでかぶりつこうとする熊の口に、観念して自ら命を差し出したような形に見える。
だが違う。
機械人類の開いた口は捕食者のそれではないし、オルフェインも断じて潔く首を差し出したのでもない。
エネルギー砲をぶち壊すため。そのために頭突きを叩き込んだのだ。
オルフェインの頭突きで歪んだ口吻型ビーム砲は、溜め込んでいたエネルギーが暴発。眼のような照準器もろともに爆散する。
頭部のようであったが、ただのガンユニットだったのだろう。ダメージにでたらめな電子音を撒き散らしながらも、停止する様子はない。
しかしこの隙は大きい。オルフェインは間髪入れずに圧力の緩んだ機体を押し返す。
「おぉりゃああああああッ!!」
密着状態から作り出した隙間。それをすぐさま埋めて拳を叩き込む。
分厚い正面装甲を、拳が真っ向から貫き徹す。
この連撃にオルフェインを掴まえていた腕も折れて、風穴の開いた鋼のボディが後ろ飛びに宙を舞う。
AF87は、そのまま荷台つきの車に突っ込み爆散。車を巻き込んで炎を上げる。
「やり過ぎちまった! これだから脳みそがどこか分かりにくいヤツはやりにくい!」
明らかに死亡してしまった機械人の上げる炎に、オルフェインは歯軋りする。
肉体構造がかけ離れた者を相手取るのは、程近い相手との場合に対して、意識を奪って無力化する難易度は跳ね上がる。
望まぬ殺生を犯してしまったオルフェインではあるが、しかし戦うことに躊躇はしない。
オルフェインの後ろには守るべき相手がいるのだ。命に優劣をつけるつもりは無い。無いがそれでみすみす背負った命を奪われるのを見過ごすのは許せることではない。
力及ばず奪ってしまった、救えなかった命は罪と背負い、隣人の命と心を命を賭して守る。それがオルフェインが自身に課した有り様である。
『オルフェイン、聞こえてる? 捕まっていた人達の救助はできたわ。今から援護に向かうから、それまで持ちこたえて!』
そうして再び腰を落として、壁となる構えを取ろうとしたオルフェインへ、かがみから救出成功の報せが入る。
「なら、もう遠慮はいらんってわけですな!」
この朗報に、オルフェインは壁であることを止めて、床を砕かんばかりに踏み込む。




