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30 譲れないものがある? なら守ればいい

 戦いから数日。

 晃司は自宅としている嘉徳荘の一室で、客を迎えていた。

 ティーバッグのものであるが、出したお茶は三人前。自分と、訪ねてきたかがみ。そして長い赤毛をポニーテールにまとめた、キメラの少女の分だ。

「それで、どうしたんすか? この子をウチに連れてきたりして?」

 ちょこんと座布団に座って、興味津々といった様子で部屋を見回すキメラの少女。そんな彼女を横目に、晃司はかがみに本題を促す。

「……単刀直入に言わせてもらいますと、彼女を晃司さんに預かってもらいたいんです」

 女の子と同居してください。

 半ば予想はしていたが、それが現実になったことに、晃司は思わず頭を抱えて天井をあおぐ。

「……なんでそうなったんすか?」

 さすがに二つ返事で了解できる話ではない。晃司は押しきられてしまいそうな予感はあるものの、それでもせめてもの抵抗として、理由を尋ねる。

 あの戦いで犯罪組織から保護されたリュミナキメラは、親元に帰される予定だと晃司は聞いていた。

 悪事に加担させられてはいたものの、赤子の内に拉致され、騙されていたことから責任は問わず、母星の両親の元へ送り届けるのだと。

 晃司にしてみれば、話が違うだろうと言いたくもなる。

 そんな晃司の疑問に、かがみはもっともだと、申し訳なさそうにうなづく。

「それがですね。この子のご両親を特定するのに、少し時間がかかりそうでして……」

 赤子の内にさらわれたリュミナキメラは本来の家族の記憶がない。本人から両親につながる手がかりが引き出ないのだ。そのため、過去の失踪事件の記録や遺伝情報を頼りに、しらみ潰しに捜査しているところなのだという。

「種族が、出身の星が特定できているのが、せめてもの幸いですね」

 そうは言うが、星一個の行方不明者リストの洗い出しである。時期も定まっているにしても生半かな情報量ではない。

 砂漠に落とした針一本ほどではないにしろ、手間も時間もかかることだろう。

「それは分かりましたけど、それでどうして俺にって話になるんすか?」

「はいはーい! それはボクがお兄さんがいいって言ったからでーす!」

 それまで話に入らず部屋の観察をしていたキメラの少女が、ここで元気よく手を上げて飛び込んでくる。

「調査が終わるまで、私が預かろうかとも言ったんですけれど、それなら晃司さんのところが良いと……」

「……支部長はなんて?」

「いいじゃないか、と。本人が希望してるなら滞在先くらい聞いてやればいい。とのことです」

 ため息混じりに語るかがみの言葉から、面倒くさそうに丸投げしてくれている支部長の様子を想像して、晃司もまた深々とため息をつく。

「ダメ、かな? お兄さんならって、思ったけど、ボク、甘えすぎかな? 迷惑だったかな?」

 これまでの様子から見て、晃司は明らかに乗り気ではない。

 そんな態度を不安に思ってか、キメラの少女はおずおずと晃司の様子を上目づかいにうかがう。

「いや、そんなことは無い。そういうことじゃなくてだな……分かった! もうわかったからそんな目で見ないでくれ頼むから!?」

 迫るうるんだ上目づかい。縋りつくようなそれに、晃司は耐えかねて降参だと両手を上げる。

「えへへ、やったぁ! じゃあこれからよろしくね、お兄さん!」

「……ったく、現金なもんだな」

 了承するやいなや、不安に目を潤ませていたのから一変、輝く笑顔を浮かべて抱きつく少女。それを晃司は苦笑交じりに受け入れる。

「そうしてると、本当の兄妹のようですね」

「えへへ。そう?」

「ソイツは、責任重大っすね」

 和みながらのかがみの言葉に、少女は嬉しげに首を傾げて、晃司は苦笑いに少女を受け入れたまま肩をすくめる。

「……となると、これからどう転ぶかはともかく、ちゃんとした地球での名前がいるっすよね? まさか希芽羅(きめら)なんて呼ぶわけにもいかんですし」

「ええ。そのとおりですね」

 晃司の提案に、かがみは却下すべき例も含めて賛成する。

 ただその一方で、名付けをされる当人は大きな目をぱちくりとさせて、首を別の方向に傾ける。

 なぜ希芽羅でいけないのか。そのマズさを突っついた冗談がまるで通じていないその様子に、晃司は心配になる。だがしかし、いま重要なのは、彼女にきちんとした名前をつけることである。晃司は頭を振って、浮かんだ不安をひとまず心の棚へよける。

「なにか、こういうのがいいっていうの、ありますか?」

「えっとね、うんとね……わかんないや!」

 しばらく思案してみせた後の、元気いっぱいのその返事に、かがみと晃司は揃って背骨をへにゃりとさせる。

「……じゃあ、晃司さんはなにか案はありますか?」

「俺ぇ? 俺のでいいんすかね?」

「いいよ。ボクはわかんないし、お兄さんが決めてよ」

 そこからパスされた命名権に晃司は戸惑う。だが名前をつけられる当人から受け入れ後押しされては、辞退もできない。

 晃司は言い出しっぺだからとうなづき引き受けると、少女の顔を正面にじっと見る。

 明るい赤毛の髪に、溌剌とした光を湛えた大ぶりな眼。ワクワクと晃司の言葉を待つその顔は、どこか遊び相手が動き出すのを待つ子猫を思わせる。

「……じゃあ明梨、で、どうだ? どう、すかね?」

 そうしてキメラの少女と見つめ合って思い浮かんだ名前を晃司は口に出す。

「あかり……明梨! うん、今日からボクは黒部明梨!」

「いい名前だと思いますよ。それで登録しておきますね」

 自信無さげな晃司であったが、二人から好意的に受け入れられて、ホッと胸を撫で下ろす。

 そこでふと玄関から鍵の回る音が響く。

 この部屋を抵抗なく開けられる鍵を持っている者は限られている。

 今現在借りている晃司と、大家である安田さんの家の誰かだけだ。

「晃司、ケガの具合は、ど……う?」

 スムーズに鍵を開けて入ってきた保奈は、借り主以外に部屋を埋めている人物たちを見て固まる。

「よ、よう保奈。もうほとんど治りかけだって言っただろ?」

 時間が止まってしまったかのように固まった保奈に、晃司は聞かれたことに答えるので精一杯であった。

「こんにちは! ボク、今日からお兄さんの妹になった黒部明梨!」

 しかし明梨は強ばり固まった空気など全然わからんとばかりに、ただ朗らかに貰ったばかりの名前で自己紹介。

「え、あ、はい。こんにちは……って妹!? 今日から!? どういうこと!?」

 普通にあいさつを返しそうになった保奈は、しかし聞き捨てならない単語を拾って説明を求める。

「え? どういうことって、ボクは今日からお兄さんの妹になったんだよ?」

「ええっとですね。この子は晃司さんの遠い親戚でして……」

「晃司さん!? 急に名前呼びになるだなんてどういうことですか!?」

 そうしてにわかににぎやかになった部屋に、晃司は思わず笑みをこぼす。

 自分の守ったもの。それらが確かにここにあると実感した満足の笑みだ。

「ちょっと晃司! 笑ってないで私にも納得いくように説明してよぉ!?」

 そんな保奈の叫びもまた、晃司にとっては何者にも譲れない、騒がしくも温かな日々の一部なのであった。

拙作にお付き合いくださりありがとうございました。

文庫本一冊くらいのボリュームで、区切りまで一括公開と言う形で試してみましたが、いかがだったでしょうか。楽しんでいただけましたら何よりです。

手応えを感じて、それでモチベーションが得られれば続きも、という考えはあります。もしもそうなれば、その時は同一シリーズの別連載と言う形で立ち上げることになります。現段階では皮算用ですが。

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